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ネコ・ログ #30 [c a t a l o g]

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  • おお猫よ、とわたしは言う。あるいは嘆息する。かわいぃぃい猫! きれいぃぃな猫! すばらしい猫! 繻子のような猫! ふわふわのフクロウのような猫、蛾のようなやわらかな足をした猫、燦然と輝く猫、この世のものとも思われぬ猫! 猫、猫、猫、猫。/ 彼女ははじめのうちわたしを無視する。それから、やおらその絹のごとく尊大な頭をめぐらし、ひとつひとつのほめ言葉ごとに、そのつどべつべつにまなこを半眼にとじてみせる。それからわたしが言いおわると、わざとらしく、気どってあくびをする──アイスクリーム・ピンクをした口のなかと、巻いたピンクの舌をちろりと見せて。/ でなければ、落ち着きはらって、じっとうずくまり、目でわたしを魅了する。わたしはその目に見いる。繊細な黒いアイラアインにふちどられ、そのまわりをさらにクリーム色の線がふちどっている巴旦杏型の目。それぞれの目の下には、一刷毛さっとはいたような黒いかげ。碧い、碧い目。だが日陰では、黒っぽい煙ったような金色──黒目の猫。それが光のもとでは緑色に、澄んだ、冷たいエメラルド色になる。そして透明な眼球の奥に、翅脈のはいったきらめく蝶の翅の切片。宝石のような翅──翅の精髄。
    ドリス・レッシング 『なんといったって猫』


  • ♯262│ゴン│飼い猫 ── 後期高齢ネコなのよ
    路地でゴンちゃんを撮っているとクルマが入って来た。足許の覚束ないネコを道端に寄せようと右往左往していると、運転していた老人が家のネコだと言う。自宅の前に駐車して出て来た飼主曰く、18歳の後期高齢ネコ‥‥前肢が不自由なのは怪我ではなく、加齢によるものらしい。最初に出会った頃のように近寄って来て足に頭突きをしたりはしないけれど、毛並みを撫でて逃げ出したりはしない。ビャービャーという特徴的な鳴き声も健在である。しかし、老ネコだからなのか、なかなかシャープな写真が撮れない。夕暮れ時の老ネコ写真はミラーレス一眼でも難しいのだろうか。たまたま居合わせたネコ好きの女性は至近距離からゴンちゃんを接写していた。日も暮れて暗いのに良く撮れるなぁと思ったら、ニコンの明るいレンズ(F1.5)だった。最新のコンデジ機種は高性能なのだ。NEXのハイクオリティ・ズーム(Eマウント)は一体いつ出るのでしょうか。

    ♯263│バニー│飼い猫? ── 中国拳法ネコなのだ
    中国拳法道場の玄関付近で見かけることの多いバニーちゃん。ゴロニャンするのが好きで良く寝転がっているけれど、近づくと身を翻して何事もなかったように逃げ去ってしまう。ネコがゴロニャンするのは、お腹を撫でて欲しいからではなかったのか。親愛の情の表われではなかったのか。男を誘惑しては逃げ去る魔性の女に似ていなくもない。故トミーさんやサビくんと同じ地域に暮らしているが、お互いに棲み分けは出来ているらしく一緒に馴れ合うことはない(トミーとサビの仲も良好とは思えなかったけれど)。バニーちゃんは1人で行動するのを好む1匹狼ならぬ「1匹猫」なのかもしれない。この写真を撮影した時は珍しくゴロニャンしないで真正面からカメラを見つめている。首輪をしているので、中国拳法教室の看板ネコということにしておこう。

    ♯264│パル│ノラ猫 ── エルと良く似ているけれど‥‥
    同じような顔立ち、柄模様のエルと良く似ているので2匹は兄弟姉妹かもしれない。長毛種のロンちゃんと一緒にいることも少なくないけれど、それほど2匹の仲は良くなさそうだ。パルのピンクの鼻筋が少し赤らんでいる。先日、遠くから来るネコ婆さんの姿を見つけるや否や2匹は駆け寄って行く。遊歩道のベンチの下にネコ婆さんがキャットフードや鳥のササミを置く(ロンはササミしか食べない)。ゴハンを食べるパルの両耳の後ろが赤剥けしていて痛々しい。この季節、ベンチの奥の植え込みで大量発生しているヤブ蚊は人間だけでなくネコをも襲う。写真を撮っている間も蚊に刺されてしまうので、夏でも長袖を着用する。躰中が美しい毛並みで守られているネコは「耳なし芳一」のように耳が狙われる。痒いのはネコもヒトも同じらしく、耳の後ろをバリバリと爪で掻いてしまう。ヤブ蚊の攻撃は執拗で、ゴハンをあげているネコ婆さんでさえ刺されてしまうのだ。

    ♯265│サクラ│ノラ猫 ── さくらキャット 2013
    カラフルな花を背にしてカメラを見つめる宮城・田代島の子ネコ。写真集『ネコと歩けば』(辰巳出版 2013)を見て思うことは背景の重要さである。日本内外を問わず、ネコたちの姿形は殆ど変わらないが、その背景は各国や地域で全く異なる。ギリシャ、イタリア、トルコ、モロッコ‥‥青い空や白い家、石畳の街角、砂漠など、その国や地方に行かなければ撮れない固有の風景がある。日本国内でも田代島の漁港、北海道の牧場、湘南から望む富士山など、背景が変わるだけで前景のネコたちも和風の佇まいを見せる。ところがネコは人間のようにカメラに撮られることにも、そのロケーションにも頓着しない。満開の桜をバックに撮ろうと思っても、なかなかネコは期待に応えてくれないのだ。それでも何とか桜を背負ったネコ写真を撮れた。澄み切った青空ならば更に良かったが、都会では真っ青な空に映える桜を撮る機会には恵まれない。

    ♯266│アヤ│地域猫 ── 耳先カット・キャット
    アヤちゃんの左耳は切りすぎではないかと危ぶまれるほどにカットされている。ノラネコの「耳先カット」は不妊・去勢手術済みの印として都会では認知されている。これ以上、地域ネコが増えないようにという動物ヴォランティアや自治体などによる処置なのだが、「耳先カット」されたネコたちばかりを目にしていると、近い将来には街中からノラネコたちの姿が消える日が訪れるのではないかと危惧してしまう。「耳先カット」と呼べば聞こえは良いけれど、動物の本能の1つである子孫を1匹も残せずに残せずに死んで行くネコたちを不憫に思わずにはいられない。「耳先カット」すべき対象は平気で自分たちの子供を虐待死させてしまう人間の親の方ではないか(性交しても子供が産まれないので、虐待することも出来ない)。ネコを虐待している人間の耳も切り落とした方が良いかもしれない。世話していた婆さんが引っ越してしまったので、今は向かいの家の住人がアヤちゃんを授かっている。

    ♯267│ユミ│飼い猫 ── 上目使いで挨拶する
    子ネコの成長は早い。S神井川沿いの駐車場付近に暮らしているネコたち‥‥可愛い子ネコだと思っていたユミちゃんも美しい成ネコになった。それでも警戒心だけは子ネコ時代と変わらず、不用意に近づくと駐車中のクルマの下に隠れてしまうので撮影チャンスは少ない。この写真を撮った場所はゴハンをあげている民家と駐車場の間にある狭い隙間で、右側の駐車場とは金網で仕切られている。ちょっと追いつめた感じになってしまったかもしれない。これ以上接近すると逃げられてしまうギリギリの距離から撮った。ミラーレスの標準ズーム(NEX-5N)では、ここまでしかでは寄れないけれど、長くて重い望遠レンズで遠くから盗撮するつもりはない。ネコと仲良くなって、お互いに信頼関係を築いてから撮りたいと思っているから。ユミちゃんとの間合いは縮まるかしら?

    ♯268│エミ│飼い猫 ── 僕の隠れ家
    ゴハンを貰っている民家の玄関横に隠れているエミちゃんは良く似た顔立ちと柄模様のユミちゃんとは兄弟姉妹の関係にあるのかもしれない。植木の陰に身を隠しているので、通りがかりの人は誰もネコが隠れているとは思わないだろう。人間にネコは見つけられないが、ネコは通行人たちを注意深く観察している。たまたま逃げ込んだ姿を目撃した人にしか分からない隠れ家である。ユミちゃんと姿形だけでなく性格も似ているエミちゃんも駐車しているクルマの下に隠れてしまうことが少なくないけれど、ここが隠れ家だとネコも心得ているらしく、覗き込んでカメラを向けても慌てて逃げ出したりはしない。もう少し頻繁に訪れていれば、ネコたちも顔や声を憶えてくれるかしら。危険な外敵ではなく、友好的な味方だと看做してくれるかしら。少なくともネコたちと仲良くなる余地は残っていると思いたい。

    ♯269│サイコ│ノラ猫 ── ボス・ネコ現わる!
    「私有地につき関係者以外立ち入り禁止」という立て看板のある私道は可動式の黒い鉄柵で閉ざされていることもあるが、近隣住人の駐車場として使われているのか、鉄門が無防備に開いたままの時もある。その門柱の辺りに数匹にネコたちが屯していた。どうやら夕暮れ時にゴハンを運んで来るネコおばさんを待っているらしい。写真を撮っていると近所の住人らしき男が「ネコにエサをやる人がいるので、警備員が怒っている」と言い寄って来るが、閑散とした私有地に人のいる気配は全くない。ネコを追って奥へ入れないので撮影には適さない場所だが、運良く門柱の横にいる精悍な眼差しのネコを撮ることが出来た。ボス・ネコは小心者のネコとは違って、尻尾を巻いて逃げ去ったりはしない。現在(2013)は私道を挟んだ左右の敷地が工事中のフェンスで覆われてしまい、ネコたちの姿も見かけなくなった。騒音や作業員たちを避けて私有地の向こうへ行ってしまったのだろうか。

    ♯270│ダイ│ノラ猫 ── I袋水天宮のネコ 2
    I袋駅前公園を訪れた人たちの多くはネコたちの体躯と毛並みの良さに驚く。とてもノラネコとは思えないらしい。I袋へ行った際には公園にも立ち寄ることにしているので、顔馴染みにネコたちは挨拶しに来るようになった。水天宮神社の前にネコの姿がない時もあるけれど、暫くして埼京線沿いの植え込みの中から1匹現われると、どこからともなく後続のネコたちも次第に姿を現わす。ちょうど夕食事時なのかもしれない。公園にネコたちが出て来ると、今まで殺風景だった場所が一変する。一瞬にして和やかな寛ぎの場へと変貌するのだ。通りがかった人が足を止めてネコたちに見入る。ケータイやコンデジ、一眼カメラで撮ったりする(iPadで撮っている外国人さえいる)。水天宮神社の前で始まった「ネコ撮影会」に心和む。いつまでも、この平和な時間が続きますように‥‥。

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    各記事のトップを飾ってくれたネコちゃん(9匹)のプロフィールを紹介する「ネコ・カタログ」の第30集です。サムネイルをクリックすると掲載したネコ写真に、右下のナンバー表の数字をクリックすると該当紹介文にジャンプ、♯ネコ・タイトルをクリックするとトップに戻ります。ノラ猫や地域猫、飼い猫を差別しない方針で、これまでに延べ270匹以上のネコちゃんを紹介して来ましたが、こんなにも多くのネコたちが棲息していることに驚かされます。30集の新顔ネコはアヤとサイコ。常連ネコのゴンちゃんも元気です。『なんといったって猫』(晶文社 1987)はノーベル文学賞作家ドリス・レッシングのネコ・エッセイ。彼女のネコに対する観察と描写は意地悪いと思えるほどだが、腸炎に罹って重態になった黒猫を献身的に看護する姿は慈愛に満ちているし、灰色猫の目の奥に美しい蝶の翅脈を見出す視線は透徹している。2匹の飼いネコ、灰色猫と黒猫に特定の名前は付いていない。

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    • 記事タイトルの右に一覧リストのリンク・ボタン(黒猫アイコン)を付けました^^

    • オリジナル写真の横縦比は3:2ですが、サムネイルは4:3にリサイズしています
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    なんといったって猫

    なんといったって猫

    • 著者:ドリス・レッシング(Doris Lessing)/ 深町 眞理子(訳)
    • 出版社:晶文社
    • 発売日:1987/06/01
    • メディア:単行本

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