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大島さん家のニャンコたち [c o m i c]



  • 写真のグーグーとマンガのグーグーとでは、ずいぶん異なっておりますが、自分では似ていると思い込んでいます。ビーなんかはマンガだと無地の猫ですが、実際は三毛猫です。クロは写真とマンガでそんなに違いはありません。ただし黒猫の写真は難しくて、撮っても判別できない姿になってしまうことが多いです。タマもずいぶん省略して描いております。そもそも猫のスナップにセリフをつけ始めたのはかれこれ十年前、ビーを拾った頃からでした。ビーが新聞のチラシの上にすわって下を見ている写真に、「お!この猫缶安い!」というセリフをつけたのが始りだと記憶しています(その写真はどこかに紛失してしまいました)。たあいないセリフをつけては自分ひとりでたのしんでいたのですが、このたび天野さん、江藤さんのご協力を得て本になりました。現在(2007年5月)では我家の猫は全部で9匹になりました。このところ棚の上に上げたままになっているカメラをとって、またいろんな猫の表情を撮っていきたいなと思っています。
    大島 弓子 『オオシマさんちのもうひとつの猫日記』


  • 「綿の国星」(1978-87)を描いていた当時、大島弓子はネコを飼っていなかったという。「サバ・シリーズ」(1988-92)は飼い猫のサバと飼主の私生活を綴ったエッセイ風のマンガだが、作者はユーミン・キャラ(「逆さ食パン」「縦じわ・ベートーベン」「ゲジゲジ眉毛」などと揶揄される自画像で、「ユーミン」というアンドロイド少女を主人公にしたギャグ・マンガもある)、サバはリアルなネコではなく、須和野チビ猫のように擬人化した長身の女性として描かれる。ユーミンの2倍くらい身長の高いロング・ドレスを着たサバ(青年のように見える)は飼い猫ではなく保護者のように見えなくもない。ノン・フィクションなのにファンタジーが介在しているために、身辺雑記風の私生活に想像やシュールな描写が混在する複雑なマンガになっている。チビ猫との違いは常にユーミン(作者)の視点で描かれていることで、サバの内面が描かれることはない。飼主はネコの鳴き声や挙動、体調、毛並み、外見(怪我していないか?)‥‥などからサバの気持を推察することになる。

    「月の大通り」(1988)はマンションのベランダ近くの木に飛んで来る鷺(サギ)の話から始まる。フィクションではなく「私生活の猫のおななし」なので、「詐欺」ではないかと戸惑う読者への布石なのだ。さらに「サバとの同棲生活」の前段に3匹の黒ネコのエピソードが語られる。ある日、台所の窓から飛び込んで来てユーミンに抱きつき、ニャアニャア鳴くのでニボシをあげて、膝の上で2時間眠って行ったネコ。半年後、ベランダの外のヒメジョオンの花の蔭に隠れていた黒ネコは毎日、夕方家に来て眠り、翌朝帰って行くようになる。「くろ」と名付けられた通いネコは鳩を狩って来てユーミンを驚かせたりする。1年後、帰宅すると窓の外で待っていた黒ネコ‥‥3匹のネコとの不思議な出会いがあった後で、サバとの同居生活が始まることになる。サバは公園のカラスたちに狙われるほど美しい緑の目を持った雌ネコ(ペルシャ×シャム×日本猫の雑種)。「うんち」「お腹すいた」「ごはん」「雨」「いたいいたい」「つめつめ」「外」‥‥などの言葉を覚える。家出したり、ケンカ(怪我)したり‥‥ベッドで眠っている飼主の手に降れて起こす「目ざまし時計ネコ」。ネコの顔を下から見ると笑っているように見えるという作者ならではの発見もあります。

    「アンブラッセ」(1989)の導入部では、10年以上前に女性の読者から1日だけ借り受けた白黒子猫のエピソードが語られる。アパート住まいからマンションへ転居したのを機に、作者はサバと暮らすようになる。子猫時代は可愛かったけれど、成猫となったサバは「綿ぼこり」のような稀薄な存在に‥‥ネコとの同居生活が何事もなく平穏無事で順風満帆ならば強いてマンガに描くこともない(業界では「マンネリズム」と呼ぶ)。1988年夏、42℃の高熱を発したサバは大嫌いな動物病院へ行く。病名はウイルス性感染症だった。サバの病気で〆切りに遅れた原稿を書き上げる。「修羅場」を潜り抜けたユーミンはマーケットM屋やH横丁の市場へ買い出しに、象のハナコさん(セーラー服を着た肥った女子校生の後姿として描かれる)のいる動物園や植物園や鳥園へ行く。食事と入浴、サバとの「オペラ・コーラス」‥‥マンションのベランダの外壁から落ちそうになって悲鳴を上げるサバ、恋するノラ猫(天敵)と庇護すべき子猫(ユーミン)と自分(サバ)の三角関係が理解出来ずにハナコさんのように後ろを向いたままブラックホールへ入り込んでしまったサバ。くよくよ悩んで免疫力の落ちた飼主も風邪でダウンしてしまう。

    「グレーの森」「見渡す限り深いグリーンの透明な大地」で、翼の生えたジョガーと擦れ違うユーミン。サバの目の上(森が睫で大地が眼玉)にいたという風邪の末期に見たシュールな夢。「目ざまし時計ネコ」がベッドで寝ている飼主を起こす。風邪から恢復したユーミンはジョギングする人間たちの中に混じって、1羽のキジ鳩が道路を歩いて行く光景を目撃する。「すると私の脳みそは未来の鳩の歩行とサバの眼球の色とを合成し、“涼しく広大で清らか” という抽象概念をシュミレーションして私の治癒能力に働きかけ、風邪をいっきに脱出したわけ」‥‥と自ら夢分析する。コタツ板の上で行き倒れている冬バエ(スーツを着た黒サングラスの痩せ細った男として描かれる)を見つけて、コップの中に入っている末期の水を与えたユーミンは村上鬼城の俳句を想い出す──「冬蜂の死にどころなく歩きけり」。3日後の雨の日、「木が水をうまそうにのむ瞬間だ」という句を捻った彼女は岩波国語辞典を引く──「感情=快・不快を主とする意識のもっとも主観的な側面」。なぜかタイトルは「アンブラッセ」(フランス語で「抱擁・接吻」という意味)である。

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    『グーグーだって猫である』(角川書店 2000)は「ヤングロゼ」(1996-97)に1年余り掲載された後、月刊PR誌「本の旅人」(1997-)に移り、今も連載中のネコ・エッセイ風マンガ(4頁)である。「サバ・シリーズ」と同じく作者と飼いネコたちとの日常生活を綴ったノンフィクションものだが、チビ猫やサバのように擬人化されることなく、リアルなネコ(たとえば、内田善美の作品に登場するような写実的なネコではなく、ギャグ・マンガ風に簡略化されたネコ)として描かれている。最初こそユーミン風のキャラだった大島弓子も、2000年以降は単行本の表紙イラストにあるようなメガネ(老眼鏡?)と白菜ヘアのムーミンを想わせるオバさんキャラに変更された。13年と5ヵ月と1日‥‥一緒に暮らした「サバの死」。ペット・ロスの喪失感と「罪の意識」に嘖まれていた大島弓子は散歩コースの最後に立ち寄ったペットショップで1匹の子ネコと出会う。ケージの隅の方でウトウトしていた小さな元気のないアメリカン・ショートヘア、左右の脇腹にナルト巻きみたいなグルグル模様のある雄ネコはグーグと名付けられて大島さん家の飼いネコとなる。

    お腹の模様がヘソ踊りの顔のように見えるだけでなく、その下に真っ白なテリア犬のような顔があるグーグーに買い手が現われるという夢の「猫買い」。乳歯が抜けずに永久歯が生えた「ダブル歯ならび」。フミフミと腰ふり、スプレー行為と「去勢手術」。飼主の肩に飛び乗ったり、黒ネコ(♀)から求愛されたり、ベッドの中で作者と一緒に眠ったり‥‥「2度目の猫」であるグーグーとの暮らしで癒される毎日。「ある日突然に」大島弓子は公園で鳴いていた1匹の子ネコを拾う。右前肢を骨折していた痩せっぽちの縞三毛は「ミツバチみたいな色模様」から「ビー」という名前になる(作者はサバと上手くコミュニケーション出来なかったという「罪の意識」から、捨てネコを保護するようになったのではないか)。グーグーとビーの2匹は仲良くなって、飼主にとっても至福の日々が続くと思われた‥‥ところが、体調を崩した大島弓子は子宮筋腫と卵巣腫瘍と診断されて手術を受けることになる。遺言書を書き、近くに住むNさんにグーグーとビーの世話を頼んで、大島弓子は年末に入院するのだった。

    『グーグーだって猫である 2』(2002)は「1997年12月、卵巣腫瘍の手術をした。12月だったので人生そのものの大晦日といった感じになってしまった。何から手をつけて良いか分からない程の忙しさで約3週間が過ぎた。その間のスリルとサスペンス(?)を描きました」という「人生の大晦日」(16頁)から始まる。5時間の手術に成功した大島弓子は年末に退院して新年を迎える。月1度10日間ほどの化学療法入院(抗ガン剤投与など)も1998年7月に終了して、その後再発もなく現在に至る。退院した翌日の夜、作者とアシスタントのNさんは公園の繁みで鳴いていた子ネコを保護する。グレーと茶色の混じった長毛種ミックスは「クロ」と名付けられて大島家の3匹目の飼いネコとなる。そして、2000年1月に全身疥鮮を患っていた子ネコをホームレスの青年から譲り受ける。3ヵ月前、青年に拾われたというタマは動物診療所の獣医にも嫌われ、体調不良に陥った大島弓子は仕事場(私設隔離病棟)での疥鮮治療にも行き詰り、ペットショップでグーグーを買った時のチラシに載っていた杉杉犬猫病院(仮名)へタマを連れて行く。

    疥鮮治療の2回目の注射の後、仕事場から自宅マンションへ連れて行ったタマをグーグー、ビー、クロの3匹が出迎える「タマデビュー」。タマが3匹の先住ネコにキスすると、グーグーは戸惑い、ビーとクロは「シャーッ」と威嚇して逃げ去った。動揺しているタマにグーグーが近づいて、瘡蓋だらけの頭をペロペロと舐める。「やっぱりグーグーはグーグーだった。どんな猫にもやさしい」と飼主が泣き崩れる一視同仁のネコだったのだ。猫エイズウイルス感染の有無を調べる「血液検査」をタマだけでなく、グーグーたちも受ける。タマの発情期と避妊手術‥‥。2007年7月、大島弓子とNさんは公園に捨てられていた5匹の子ネコたちを救出する。ちょう吉(尾の長い黒猫)、たん吉(尾の短い黒猫)、グレース(グレー猫)、白雪姫(白猫)、タビ(白ソックスの黒猫)の里親探しに奔走する(グレースと白雪姫の里親は萩尾望都だった)。そして、大島弓子は仕事場のマンションを売りに出して、郊外の建売り住宅に引っ越すことになる。もちろんグーグー、ビー、クロ、タマちゃんの4匹を連れて‥‥『グーグーだって猫である 3』(2007)のラストに収録されている、目は見えないけれど勘の鋭いタマと作者が散歩する「いっしょに歩く猫」は涙なくしては読めない。

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    『オオシマさんちのもうひとつの猫日記』(飛鳥新社 2007)は実写版「グーグーだって猫である」という感じ。飼いネコのスナップ写真にセリフ(フキダシ)を付けて1人で愉しんでいた「私家版アルバム」が単行本としてヴァージョン・アップ。大島さんが撮った写真とセリフは愛猫の写真と文章で構成された「猫ブログ」の域を出るものではないし、評判も余り芳しくない(値段の割には中身が薄い?)ようですが、大島家のリアル・ネコたちの姿を見られるだけでも「猫たわけ」な愛読者にとっては貴重なのではないかしら。「実写版」に登場するネコたちは、グーグー(アメショー♂)、ビー(日本猫♀)、クロ(長毛種ミックス♀)、タマ(ミックス三毛♀)、たん吉(ミックス♂)‥‥の5匹。2007年7月に公園で拾った5匹の子ネコの中で、一番最後に里親に貰われて行った黒猫たん吉を除く4匹は大島家のオールスターズである。グーグーはエメラルド色の目が神秘的な白黒タビー、ビーは涼しい黄色い目をした美形ミケ、クロはタヌキみたいな太くて長い尻尾の黒ネコ、タマは細身のミケ(顔以外は白い)で気品さえ漂う。大島さんの「猫日記」(2001~2005の16日分)と「あとがきマンガ」(2頁)も併録されています。

    『ちびねこ絵本』(白泉社 2010)はタイトルが示す通り、須和野チビ猫を主役にした絵本で、オールカラー全71編のショート・ストーリ(4頁)が文庫版サイズに凝縮されている。パステル・カラーの淡い色合いに、緑の目と白いドレスのチビ猫が映える。サバやグーグーは大島弓子(作者)の1人称視点で描かれていたが、「絵本」は「ちびねこ」という主語で始まる3人称視点(文章は平仮名とカタカナだけで書かれている)。飼主のおかあさんやおとうさんは登場するのに、何故か須和野時夫の姿がない。もしかしたら「ちびねこ」の話者(語り手)は黒子に徹した時夫なのかもしれない。子ネコは1年で成猫になるけれど、チビ猫は成長しないどころか逆に耳が大きくなって幼い印象になって行く。浪人中の時夫は大学に入学出来たのか、ひっつめみつあみ(恋人)との仲は一体どうなったのか?‥‥大島弓子の作品の中のヒロインのような美しい娘ネコに成長したチビ猫の「恋愛ストーリ」を読みたかった気もするけれど、無理な注文‥‥叶わぬ恋なのかしら。

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    • 大島さん家のネコたちは9匹(2007年5月)、13匹(2008年5月)‥‥と増殖中
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    秋日子かく語りき ── 大島弓子が選んだ大島弓子選集 6

    秋日子かく語りき ── 大島弓子が選んだ大島弓子選集 6

    • 著者:大島 弓子
    • 出版社:メディアファクトリー
    • 発売日:2009/03/23
    • メディア:コミック
    • 収録作品:秋日子かく語りき / つるばらつるばら / 夏の夜の獏 / 月の大通り / ダイエット / アンブラッセ / 毎日が夏休み


    グーグーだって猫である

    グーグーだって猫である

    • 著者:大島 弓子
    • 出版社:角川書店
    • 発売日:2000/07/30
    • メディア:コミック
    • 収録作品:モノのきもち / サバの死 / 散歩コースで / 異国で生きる猫 / ベランダデビュー / 猫買い / 猫の名前 / ダブル歯ならび / ねこの模様はむずかしい / 去勢手術 / ウンチハイ / 肩のりは楽し怖し / 初恋 / いっしょに寝る猫 / セラピスト / 2度目の猫 / ある日突然に / 子猫は謎だらけ / 「ノア洪水以前」という名前 / フェイクバード / 至福の時間 / 最初はグー


    オオシマさんちのもうひとつの猫日記

    オオシマさんちのもうひとつの猫日記

    • 著者:大島 弓子
    • 出版社:飛鳥新社
    • 発売日:2007/10/31
    • メディア:単行本
    • 目次:オオシマさんちの猫たち / ビーの気持・タマの気持 / いちばんすきなのは? / いちばんすきなのは?その2 / カリカリもいいけど / こぶしをきかせてます / 視線 / おいしい新芽 / お気に入りのイス / たん吉・はじめてのにおい / バレたとき / 春眠 / 人生とは / UFO / クロの悪夢 / 全部タマのしわざ / プレゼントあれこれ / あんただれ / はやりあそび


    ちびねこ絵本

    ちびねこ絵本

    • 著者:大島 弓子
    • 出版社:白泉社
    • 発売日:2010/11/21
    • メディア:文庫
    • 目次:ゴージャスなみず / よそのいえのフライ / でんきコードのまくら / ゆめとげんじつ / のみのはりとちゅうしゃのはり / こわかったきのうえ / おとうさんのにおい / あしうらインタビュー / かわいいまど / すきなおと / あたたかいところはどこ / よちのうりょく / たからもの / ワープ / どうくつ / きょうそう / しらないまち / たちなおり / おまけ / わからな...

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    コメント 2

    トミー。

    こんばんわ。
    「ちびねこ絵本」知りませんでした。ちょっと見てみたい。
    後は知ってましたが、読んでない本もある。コミックスは大体読んでいるかな。大島さんの本は手に入れたら、必ず私には永久保存版になります。

    by トミー。 (2011-04-14 21:07) 

    sknys

    トミー。さん、コメントありがとう。
    『ちびねこ絵本』は文庫本にしては高価ですが、
    オールカラーでズッシリと重い。
    おかあさん、おとうさん、のらねこ、キアヌちゃんも登場します^^;
    「永久保存版」にしてあげてね。
    by sknys (2011-04-15 00:44) 

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