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ネコ・ログ #21 [c a t a l o g]

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  • 病気(ガン)のうえに飼主(独身、1人暮し)が仕事で2、3日の出張の間あずけられていた小柄な一声も鳴かない猫のことを思い出す。トラーを連れて病院に行く途中、四つ角を目白通りの方向から走って来た自転車が、前の車輪の上に取り付けたカゴにペット用キャリーバッグを載せているのを見たのだが、バッグからは、物凄く大きな、しかし甘い声で「ニャウオーン、ニャウオーン」と歌うように鳴く猫の声が聞こえつづけていて、その鳴き方は一声耳にしただけで、あの小柄な病気の猫が3日会えなかった「おとうさん」と一緒に家に帰るのを喜んであげている喜びの雄叫びだということが、切ない痛さで胸に突き刺さるようにわかるのだった。/ 咽喉を鳴らさないトラーは表現力に富んだ多種多様な鳴き方で、自分の意志を伝えるのがとても巧みだったのだけれど、あの「おとうさん」と一緒に自転車で家に戻る猫(その後、数ヶ月で死んだ)のあげた喜びの歌としての雄叫びは、喜びに満ちていたとは言えまさしく哀切な「白鳥の歌」というものだったのではないだろうか。そうでなければ、猫があんな高い甘い鳴き声を出すものではない。
    金井 美恵子 「トラーの秘密」


  • ♯181│ナギ│ノラ猫 ── 大きな目と長いしっぽ?
    マンションの玄関前に数匹のネコたちがいた。住人らしき若い女性の周りで遊んでいる。初めて出会ったネコは警戒心を解かない。直線的に逃げてしまうネコは見込みがないけれど、弧を描くように遠巻きに移動するネコとは親密になれるチャンスがある。お腹を見せてゴロニャンするネコ、差し出した指の匂いを嗅ごうとするネコ、毛並みに優しく触れると人懐っこく躰をスリスリして来るネコ‥‥1匹のネコと仲良くなった。片平なぎさみたいに大きなコッパー色の目。尻尾は長かったような気もする。「サバ・シリーズ」の第6作目「大きな耳と長いしっぽ」(1992)で、大島弓子(作者)は長い休暇をとる。小学生時代の友人(の親戚だった!)からの年賀状、25時間人間(夜型人間)、湾岸戦争、仕事依頼の手紙‥‥。サバと暮らしている作者は公園に捨てられた3羽のニワトリたちの身を案じたりはするものの、「グーグーだって猫である」のように子ネコを保護したりはしない‥‥。マンションの女性がスーパーで買って来た竹輪を振る舞う。

    ♯182│シコ│ノラ猫 ── 2匹の関係(共存)
    下顎の部分が黒髭のように見える白黒ネコちゃん。子ネコのイメージが薄れ、貫禄さえ感じられます。ツートン・カラーにピンク色の鼻(マズル)とエメラルド色の目のコントラストも美しい。背後にセブン-イレブン、左にI袋水天宮の社の一部が見える。駅前公園には数多くのネコたちが棲息しているので、被写体以外のネコが偶然に映り込んでしまうことも少なくない(パルの写真のように)。シコちゃんはカメラを無視しているのに、左端のパルちゃんがカメラ目線というところも可笑しい。人間がネコを見ている以上に、ネコは人間たちを注意深く観察していることが良く分かる。公園にネコの姿が見えない時も、物蔭や植え込みの中から人間たちの行動を密かに窺っているのかもしれない。テリトリーを侵犯して来るネコを激しく威嚇したり、子ネコを苛めるネコもいるらしいけれど、シコとパルの2匹の関係に限らず、公園のネコたちは概ね「共存」しているようです。

    ♯183│アズ│飼い猫 ── スローなシャッターにしてくれ
    JRH十条駅の西口と東口には大きな段差がある。H十条銀座商店街から駅へ向かうと改札までエレヴェータやエスカレータに乗って昇ることになるし、N十条方面へ抜け出ようとすると、さらに階段を昇らなければならない。階段の中途に1匹のネコが鎮座していた。既に陽も落ちて周辺は薄暗い。いつもならフラッシュ撮影するところを今回はスロー・シャッターに挑戦してみた。ネコを撮っているコンパクト・デジカメ(Cyber-shot)はシャッター・スピードが1/30秒以下になると自動的に手ブレ・マークがモニタ画面上に表示される。フラッシュ発光しないと殆どピンボケ写真になってしまうけれど、稀にピントが合って鮮明に写ることもある。「夜景モード」(1/8秒)で撮った暗くてノイズの多い画像をiPhotoで自動補正したら、見違えるような写真になった。フラッシュ撮影の難点は「赤目」になったり「白とび」したり‥‥映り過ぎて不自然に写真になってしまうこと。暗い場所でのスロー・シャッター撮影はネコちゃんの「黒目」も大きいので可愛く撮れるのだ。

    ♯184│フリオ│ノラ猫 ── マンションの屋上が好き
    8階建てマンションの屋上が大好きなネコちゃん。桜の木に昇ったのは良いけれど、自力で降りられなくなってミャーミャー鳴いていたネコみたいに、屋上から階段を降りて来られずに鳴いているので住人から苦情が出るのだろうか。広い車道に面した商店通りの小さな公園(空地)にいるフリオちゃんは美しいトラ縞模様のネコで人懐っこい。毎朝晩2回ゴハンを運んで来るオバさんがいるので、食事には恵まれている。キャット・フードの上のトッピング(チーズ)だけを食べる美食家でもある。ベンチに坐ってオバさんと話をしていた男性が「お嬢さんの髪は脱色して染めているの?」と訊く。オバさんも「自分で切って(染めて、巻いて)いる」と言う。この公園にはフリオの他にも3〜4匹のネコが棲んでいるけれど、皆さん警戒心が強く用心深い。忍び足で近寄ろうとしても、すぐに背後の叢の中へ姿を隠してしまうので、なかなか写真に撮れない。ネコオバさんの話によると、左右オッド・アイの子ネコもいるそうですが‥‥。

    ♯185│イチゴ│飼い猫 ── いつものイチゴちゃん
    「ネコ・ログ」の常連イチゴちゃん。この写真は昨年(2010)の猛暑の夏、民家の車庫で涼んでいるところを撮らせてもらいました。日蔭のコンクリートは冷んやりしていて気持良さそう。隣家のチビネコに苛められては逃げ回っていたけれど、天敵はエアコンの効いた室内にいるらしく最近は姿を見かけません。チビの老飼主によると、大人しそうに見えるイチゴちゃんは、その前に飼われていたネコを追い出して後釜に居坐ったというのだから、「ネコの世界」も人間社会と同じく複雑模様です。イチゴちゃんに、そんな深謀遠慮な過去があったなんて「シンジラレネーション !?」(© 大島弓子)。写真を撮っていた時、たまたま通りかかった女性が「あなたの飼いネコなの?」「面白い顔ね」などと言いながら、イッちゃんの顔面をマッサージするように手荒く撫で回して行っても全く嫌がる素振りも見せずにキョトンとした顔をしていました。

    ♯186│クリ│飼い猫 ── 塀の上で
    逆光仮面なので黒ネコのように見えるけれど、実際の毛色は上品なチャコール・グレー。ネコの敏捷性には目を瞠ることが少なくない。クリちゃんも民家の塀の真下から助走なしに垂直に跳び乗る。余りにも見事なジャンプに感銘して、ネコに魅せられた女性パフォーマーの回文(ストーリ)を作ったこともあるくらい。子供時代を思い返してみれば、誰でも1度や2度は塀の上に昇ったり、細い露地(キャット・ウォーク)に入り込んで仲間と遊んだことがあるはず。一体いつ頃から向こう見ずな冒険心や興味津々たる好奇心を失ってしまったのか?‥‥月光仮面のオジさんが白装束の怪しい変質者に見えたり、寺山修司が不審者として警察に通報された頃から、日本社会が変わって行ったんでしょうね。路上パフォーマー(大道芸人)に東京都認定の許可証を発行すること自体、本末転倒している(再開されたアキバのホコ天で、ビラを撒くな、立ち止まるな、写真を撮るな!‥‥という警官の捕り締まりにも呆れちゃった)。「塀までひとっとび」や「塀の上で」はネコをモチーフに作られた曲なのかもしれません。

    ♯187│ジノ│ノラ猫 ── 私も「髭の女」なのよ
    「スロー・シャッターに挑戦2」‥‥手ブレ・マークが表示されてもカメラを固定すれば、ネコのヒゲの1本1本が鮮明なピントの合った写真が撮れる。シャッターが落ちる間、被写体が動かずに静止しているという条件つきで‥‥。ジノの写真は1/8のシャッタ・スピードで撮っている。もちろんコンパクト・デジカメの限界も肌身に感じているので、そろそろ一眼レフに買い換えようかなと思案しているのだが、黒くてデカくて(Big Black)重い望遠レンズを装着したカメラを持ち歩くことには抵抗感がある。一眼レフならば遠くからズームで、近づくと逃げられちゃう用心深いネコも狙えるし、薄暗くなってもフラッシュを使用しないで撮れるという。趣味でネコを撮っているという某家電量販店の店員に、コンパクト・デジカメで「これだけの写真が撮れるなら一眼レフで、これ以上良い写真が撮れないわけがない」と断言されてしまった。小学生の「テツ」(鉄道マニア)がお年玉を貯めて黒い一眼レフを買う時代。購入するのなら、小さくて軽いミラーレス・タイプかしら。北川景子か宮崎あおいで悩みます‥‥。

    ♯188│サビ│飼い猫 ── サビくんが行く
    サビくんとトミーちゃんの仲が悪いことは以前にも書いたことがあるけれど、2匹は温厚な性格のサビに対して、気の強いトミーが威嚇攻撃するという「女性上位」の関係にある。その性格に反して、躰はサビの方が大きく、トミーは小さい。サビの図体がデカいのは恐らくトミー家だけでなく、他所の家でも要領良くゴハンを食べているからではないか。数軒の家へ毎日通っている間に、固太りの肥満ネコに大変身してしまったのではないか?‥‥人気のない駐車場でニャオ?ンと呼ぶと、どこからともなくサビとトミーが現われる。腰を落として蹲るとサビは膝の上に乗ろうとし、トミーは膝に爪を立てて挨拶する。サビの躰を撫でていると、トミーの鋭い視線を背中に感じることもある。殺気を感じて振り返ると、トミーが物凄い形相で睨んでいたりして‥‥(女の嫉妬心って怖いにゃん)。最近、トミー嬢の態度が妙にヨソヨソしいような気もするけれど‥‥。

    ♯189│サキ│飼い猫? ── 境内の駐車場にて
    八幡神社の境内は一部が駐車場になっている。その方端の植え込みの前で1匹のネコが日向ぼっこをしていた。ネコとの距離感を慎重に保ちながら、これ以上近づくと逃げられるという地点から撮った。まだ寒い冬の午後、左から暖かな陽射しが当たって麗らかな感じ。可愛いネコに出会えて、良い写真が撮れた日は気分も爽やか。ネコに出会った時は必ず「こんにちは」と挨拶することにしている。写真を撮らしてくれて「ありがとう」。別れ際には「バイバイ、またね」‥‥ネコ写真は難しい。動物写真家の岩合光昭さんも『ねこ』(Crevis 2010)の「あとがき」で、《ネコの写真はもう40年撮っています。長年に渡るネコとの付き合いですが、免許皆伝の領域にはほど遠いような気持ちです。ま、年期だけは負けないかもしれませんが。それはネコの気持がわかるまでという信念をもちながらカメラを構えているからかもしれません。ネコがまあいいでしょう仲間として認めましょう、といってくれるまで修行を積まなければなりません。ネコの写真はとても難しいというのが現在までの心境です》‥‥と書いています。

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    各記事のトップを飾ってくれたネコちゃん(9匹)のプロフィールを紹介する「ネコ・カタログ」の第21集です。サムネイルをクリックすると掲載したネコ写真に、右下にあるナンバー表の数字をクリックすると該当紹介文にジャンプ、#ネコ・タイトルをクリックするとトップに戻ります。ノラ猫や地域猫、飼い猫を差別しない方針で、これまでに延べ190匹以上のネコちゃんを紹介して来ましたが、こんなにも多くのネコたちが棲息していることに驚かされます。第21集には常連ネコのイチゴちゃんやサビくんの他、シコ、フリオ、ジノが再登場。近所のネコたちに3・11の「地震、大丈夫だった?」‥‥と訊いてみる。東日本大地震後、全く情報のない宮城県・田代島(猫島)の住民やネコたちの安否が気懸かりです。島のネコたちは地震を予知しなかったのか、猫神社は津波の被害を間逃れたのか?‥‥大地震や大津波から逃れた被災地の人々はマスコミに発言する機会が与えられているけれど、亡くなってしまった人や動物は言葉を発せない。被災者たちの言葉だけではなく、死んでしまった人間やペットたちの「声なき声」も聴くべきではないかしら。

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    • 「猫の1年」は人間の3〜4年に相当するという
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    猫の一年

    猫の一年

    • 著者:金井 美恵子
    • 出版社:文藝春秋
    • 発売日:2011/01/14
    • メディア:単行本
    • 目次:「ことサッカーに関して、男は正直であらねばならない」? /「ことサッカーに関して、男は正直であらねばならない」? 2 /「引退」と「ロマンティシズム」/ ドッグイヤー、あるいは、/ 眠っている猫をおこす / 再び、の前に / 最後の1年、最初の1年 / 今日も元気だ。(?)タバコがうまい / 眼先のこと ふたたび、タバコ / トラーの秘密 / トラーの...

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