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フー・フー・フープ(2 0 0 9) [r e w i n d]



  • ◎ LABIATA(Ladob / Casa9)Lenine
  • レニーニ兄貴の6年振りの新録アルバムは2ギター、ドラムス、ベースのシンプルなバンド編成を軸に、強靭で引き締まった演奏を聴かせる。弦楽5重奏を加えた変則7拍子ファンクの〈Martelo Bigorna〉、故Chico Scienceとの共作曲〈Samba E Leveza〉ではKassinのシンセが蠢く。Lula Queirogaと共作したサンバ・ロック〈A Mancha〉、Pedro Luis & Pareiz(PLAP)と共演した〈E Fogo〉‥‥。哀愁のカッパ男ことArnaldo Antunesとのコラボ2曲、サビでレゲエ調になるヘヴィ・ファンクの〈O Ceu E Muito〉と、ヘヴィ・ロックの〈Excesso Exceto〉は超強力。Lenineの「人脈」というよりは、「盟友」とでも呼ぶべき堅い絆で結ばれた渾身作ですね。暗鬱な世界を覆った不穏な黒雲を切り裂く蒼白い稲妻のような美しさがある。パーカッシヴなギターと野性味溢れるヴォイスがカッコ良い。ジェルケースのブラジル盤。デジパック仕様のEU盤とは音質が異なるという噂があります。

  • ◎ MERRIWEATHER POST PAVILION*(Domino)Animal Collective
  • アニコレこと、Animal Collectiveの8thアルバム・タイトルになっている「Merriweather Post Pavilion」は米メリーランド州コロンビアにある野外コンサート会場(音響効果に優れている)の名称だが、そこでライヴ録音されたというわけではない。サイケデリックな「ウォール・オヴ・サウンド」。多幸感溢れる祝祭的なコーラス&ハーモニーの奔流に包まれる。音楽で作られたファンタスティックな桃源郷。《Sung Tongs》(Fat Cat 2004)や《Feels》 (2005)の中に潜んでいた日常空間に空いた暗黒の裂け目、夜店の暗闇や神社境内の森にある異世界への入口は、魔法で跡形もなく綺麗に修繕・封印されている。Panda Bearのソロ・アルバム《Person Pitch》(Paw Tracks 2007)との違いは、リズム面での実験だろうか。葉っぱのカヴァ・アートは知覚心理学者・北岡明佳の「錯視作品」に基づいているという。タイトルとアートで聴き手を欺く「錯視アルバム」。英米の各音楽メディアで年間ベスト・アルバム第1位に輝く、2009年を代表するアルバムである。

  • ◎ BITTE ORCA*(Domino)Dirty Projectors
  • Dave Longstrethのソロ・プロジェクトから始まり、6人組となった男女混成バンドの5thアルバム。Dirty Projectorsの奇妙な音楽を文章で解説するのは難しい。不協和音が混じったような女声コーラスに魅惑される〈Cannibal Resource〉、アフロっぽいギターの音色とリズムの揺らぎに眩惑される〈Temecula Sunrise〉、Amber Coffmanのヴォイスに魅了される〈Stillness Is The Move〉、メロディやリズムの複雑な構成に翻弄される〈Useful Chamber〉‥‥。明るく澄んだギターの人懐っこい音色が架空のアフリカ音楽へ聴き手を誘う。インディ・ロックの骨組みとアヴァン・ポップの肉体にワールド・ミュージックの血液を注入したような、今まで誰も聴いたことがないハイブリッド音楽。もしStereolabがNYブルックリンで結成されていたら、こんな音楽を演っていたかもしれない。〈Stillness Is The Move〉のアカペラ・ヴァージョンやリミックスなど5曲入りのEPが付いた限定2CD

  • ◎ HU HU HU*(Sony Music)Natalia Lafourcade
  • 《メキシコからこにゃにゃちわ》(Epic 2003)という変タイトルの日本盤が話題になったNatalia Lafourcadeちゃんの2ndソロ・アルバム。デビュー・アルバムをリリースした時は18歳(録音時は17歳!)だったという早熟少女。作詞・作曲、ピアノやギターなども弾きこなす女性SSWなのだ。垢抜けない少女アイドル風の容姿に騙されないようにね。バンド名義のアルバム《Casa》(2005)はラテン・グラミー賞(最優秀グループ・ロック・アルバム部門)に輝くものの、彼女はバンドから離脱。6年振りのソロ・アルバムではヒップホップ色の濃いラテン・ポップスから、音響派〜エレクトロニカへ変身?‥‥トラのコスプレ・カヴァもポップ&シュールで、アイドルおたくやラテン音楽愛好家だけでなく、ポスト・ロックを聴いている若者たちにもアピールしそう。同じスペイン語圏のJuana Molinaなどの影響もあるのかもしれない。折しも2010年は寅年。2月にはデモ2曲を追加収録した「国内盤」もリリースされるそうです。頑張れナタリアちゃん、ガォー、ガォー、ガォー!

  • ◎ AFTER ROBOTS*(Secretly Canadian)Blk Jks
  • Blk Jks(Black Jacks)は南アフリカ、ヨハネスブルグ出身の4人組。NYブルックリン発のDirty Projectorsが「擬似アフリカ音楽」を標榜しているのに相対峙するように、Blk Jksはニュー・ウェイヴ以降のロックを演っている。2つのバンドは音楽地図にある大西洋上で擦れ違っているのかもしれない。覆面で顔を隠した強面アルバム・カヴァは白人たちの植民地主義に武装蜂起したゲリラ戦士みたいで取っ着き難いけれど、「めかくしプレイ」をしたら、誰もアフリカのバンドだとは思わないでしょう。ポリリズム、ハチロク、ワルツ、レゲエ、生ギター弾き語りなど‥‥ストレートな8ビートは演奏しないと宣言しているようなデビュー・アルバムである。自由奔放に暴れ回るギター。プログレっぽい展開もある。Lindani Butheleziのヴォイスは自己陶酔型耽美系の正統派スタイルで、レーベル・メイトのAntonyを想わせるところもなくはない。構造は複雑だが、とても洗練されている。

  • ◎ ESPERS III(Drag City)Espers
  • Espersの3rdアルバムは前作に引き続いてGreg Weeksの録音、Brooke Sietinsonsのデザインによるものだが、外面的な大きな相違は今までの花や木を図案化したイラストから一転して、ザヴィエル・シパーニ(Xavier Schipani)という女性画家(25歳)のドローイングを「アルバム・カヴァ」に使っていること。モザイク風の細密画には中南米の古代遺跡から出土した土偶、フェンシングの防具マスクや剣道の面、プロレスの覆面を被った宇宙人みたいな人物が描かれている。シュルレアリスティックなアルバム・カヴァに呼応するように、カルテット編成となったEspersの音楽も変化を遂げた。Meg Bairdが歌う変則6拍子の〈I Can't See Clear〉、デュエット曲の〈The Road Of Golden Dust〉や〈Caroline〉。ドラムとベースによるビート強化、緻密で構築的なサウンド‥‥ここまでロック色に彩られると、アシッド・フォークというよりもサイケ・ロックと呼んだ方が相応しいかもしれない。200Q年の空に浮かぶ2つの月を想わせる〈Another Moon Song〉という曲もあります。

  • ◎ BAIONARENA(Because)Manu Chao
  • 仏バイヨンヌ地方のアリーナ公演(Bayonne 2008/07/30)を完全収録したライヴ・アルバム。スタジオ盤の《La Radiolina》(2007)は一本調子で平板な感じもしたが、Manu Chaoの神髄はライヴ・パフォーマンスにありですね。Mano Negraのライヴと同じく曲間なしに息を吐く暇もなく演奏される怒濤のステージ。レゲエ、パンク、クンビアなど、リズムも多彩でジャマイカやスペインの国旗のようにカラフル。大聴衆とのコール&レスポンスも否が応にも盛り上がる(10曲目(CD1)の〈El Viento〉で号泣しました)。まるでBob MarleyやJoe Strummerの霊が天国から降りて来たような圧倒的なパフォーマンス。全33曲、2時間以上のステージを2CDに真空パック。コンサートの映像、ツアー・ドキュメンタリー(30分)、PV6曲などを収録したDVDを同梱。さらに縦長タイプの仏「限定盤」にはブックレット(18頁)と特大ポスターが付いている。

  • ◎ LAS COSAS DEL MUNDO / DE TODOS LOS DIAS(Asterisco)Ezequiel Borra
  • Ezequiel Borraはアルゼンチン音響派のマルチ・ミュージシャン。CD2枚組でリリースされた2ndアルバムもデビュー作《El Placard》(2005)と同様に、凝ったパッケージで愉しませてくれる。見開き4面紙ジャケの表・裏がリヴァーシブル仕様になっていて、別々のアルバム・タイトルが付いている。つまり2枚組ではなく、2枚のアルバムをコンパイルした体裁になっているのだ。棚の上にペンギンがいる氷雪の部屋の床に穴を空けて釣りをしているEzequielと、ギター、キーボード、ハープ、ドラム・キット、アンプ、スピーカー、ミキサー(MTR)などで埋まった宅録部屋。CDが収納されている折り返しカヴァには、雪も氷も溶けて誰もいないカラッポの部屋と、楽器類の代わりにライオンのいるジャングルと化した夜の部屋でウクレレを弾くEzequiel‥‥CD1枚に収まる演奏時間(全23曲、約77分)なのに敢えて2枚に分けた理由が、ここにある。2枚に大きな違いはないけれど、Alejandro FranovやSebastian Escofetがゲスト参加した1枚目の方がエレクトロニカ色が濃いかな。

  • ◎ TRAPPED ANIMAL*(Sweet Nothing)The Slits
  • あの衝撃の泥んこヌードから30年!‥‥Dennis Bovell(Matumbi)がプロデュースした《Cut》(Island 1979)は30周年記念のデラックス・エディション(2CD)として復刻されたばかりだが、2009年にThe Slitsのニュー・アルバムが聴けるとは思ってもみなかった。Ari Upを中心に再結成された女5人組の3rdアルバムは、前半こそヒップホップ〜ラップ調のエレクトロ・ポップに拍子抜けするけれど、姦しいスカ・ナンバーの〈Peer Pressure〉やレゲエ〜ダブの〈Partner From Hell〉、〈Babylon〉以降の後半になると本領を発揮する。Adrian Sherwoodのミックスも冴え渡り、ズブズブとダブの底なし沼に嵌って行く。一番意表を衝かれたのは、日本語で歌っている〈Be It〉(恐らく日本人女性のヴォーカルだと思う)。さらに驚くべきことに、〈Had A Day〉の中では〈荒城の月〉が歌われているのだ。しかも少しも異和感の感じられないところが不思議‥‥30年の捩れた時空を超えて日本に漂着してしまったような気分かしら。シークレット・トラックとして15曲目に〈Reggae Gypsy〉のダブ・ヴァージョンが収録されている。

  • ◎ HUNTING MY DRESS(Last Laugh)Jesca Hoop
  • 黒地に浮かび上がるJesca Hoopの横顔‥‥紙ジャケを見開くと、紫色のチューリップが敷き詰められたインナー・スリーヴのスリットに同じデザイン(紫チューリップ)をプリントしたCDが挿まれている。デビュー・アルバムの《Kismet》(Red Ink 2007)がSony傘下のメジャー・レーベルだったのに、2ndアルバムがUKインディーズからリリースされたのは、彼女が米カリフォルニアから英マンチェスターへ活動の拠点を移したことと関係があるのだろうか。アカペラ多重唱から始まる〈Whispering Light〉、ハチロク・ポリリズムの〈The Kingdom〉、Guy Harvey (Elbow)とデュエットした〈Murder Of Birds〉、クレイジーな〈Tulip〉‥‥。全9曲40分弱のアルバムにも拘わらず、彼女のギターを基にした音数の少ない演奏と変幻自在のヴォイスに耳を傾けていると、デビュー作が装飾過剰のデコレーション・ケーキみたいに見えて来る。パーティ用の豪華な衣裳を脱ぎ捨てたことで、逆に素顔の可愛らしさと肢体の小悪魔性が際立つことになった。見開き紙ジャケのスリットにはCDと一緒に1枚のステッカーが挿まれている。トナカイの角が頭に生えたJescaのイラスト‥‥彼女の衣裳は「鹿皮」なのかしら?

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    売り上げ低下と長引く不況の煽りで在庫点数を控えているのか、それとも安いレートのCDしか輸入しないのか、洋楽アルバムを店頭で入手することが年々難しくなっている。国内盤の発売が決まっている新譜は敢えて輸入しない方針なのかもしれないが、その多くが1〜2年余りで「廃盤」化してしまう国内盤の存在意義は限りなく薄い。たとえば、Lenineのブラジル盤、Manu Chaoの仏限定盤、Natalia Lafourcadeのアルゼンチン盤、Jesca HoopのUK盤が大手輸入CDショップの店頭に並んでいるのを殆ど見たことがない。オンラインで購入すれば良いじゃないかという意見もあるけれど、ネット検索から得た情報だけからではアルバムの詳細‥‥国内、UK、EU、US盤(ジャケット、曲数、曲目)、パッケージ仕様(ジェルケース、デジパック、紙ジャケ)、限定盤(ボーナス・トラック、2CD、DVD付き)の違いまでは詳しく分からない。まぁ、店頭で実物を手に取っても、開封してみないと内容が良く分からないアルバムも少なくないが‥‥。その一方で、売れ残った旧譜の「価格崩壊」も始まっている(新年恒例のクリアランス・セール(タワレコ渋谷 B1)は凄い混雑だった)。

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    • ◎ 輸入盤のリリース順(国内盤が出ているアルバムには *マークを付けました)

    • 個人的な年間ベスト・アルバム10枚を1年ずつ遡って行く〔rewind〕シリーズです

    • 《Espers III》は〈音速戦隊エスパーズ〉から転載しました^^
                       *


    Hunting My Dress

    Hunting My Dress

    • Artist: Jesca Hoop
    • Label: Last Laugh
    • Date: 2010/02/01
    • Media: Audio CD
    • Songs: Whispering Light / The Kingdom / Feast Of The Heart / Angel Mom / Four Dreams / Murder Of Birds / Bed Across The Sea / Tulip / Hunting My Dress



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    トミー。(猫とマンガとゴルフ~の管理人)

     こちらでは今年初めて。遅くなりましたが、今年もよろしくお願い申し上げます。    m(_ _)m

     1日違いで同じ場所にいたとは…。いつもロム専ですみません。今年はもう少しご縁があるのかな。
    by トミー。(猫とマンガとゴルフ~の管理人) (2010-01-13 13:02) 

    sknys

    トミー。さん、コメントありがとう。
    東京メトロ飯田橋駅の乗り換えには30分間の猶予がある。
    オレンジ色の自動改札を出て時間内に戻って来れば、
    片道料金を節約出来るわけです。

    神楽坂を全力疾走(全力坂)して、「○十番」や「○洋レコード」へ
    ‥‥「ペコちゃん焼」を買う時間の余裕はありません^^;
    寅年もよろしく、お願いします。
    by sknys (2010-01-13 20:44) 

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