SSブログ

ランプトンは語る [a r t]



  • こんにちは。
    20歳の時に漫画家としてデビューして、
    山あり谷あり森あり暗中模索を続けつつ、
    なんとか仕事をやってくることができました。
    気づいたら、40年たっていました。
    長いような。あっという間のような。
    たくさんの人に、助けられてきたなあと、改めて思います。

    今回、原画の展示をすることになりました。
    少し恥ずかしいですが。舞台裏をお見せするようで。
    でも、40年目だからいいかなと思って。
    もう、恥ずかしい年じゃないだろうと。

    私も、ほかの作家の方々の原画の展示会を見るのが好きで、
    行く時は、わくわくしますので、
    皆様にも、わくわくと楽しんでいただけたらと思います。
    楽しんでいただけたでしょうか?
    今後も、よろしく、お願いします。

                               萩尾 望都 「原画展によせて」

  • 「萩尾望都作品集」(第II期・全17巻)が毎月配本されていた頃、池袋PARCOの三省堂書店に行くと、コミック・コーナーの平積み台の周辺が花が咲いたように華やいでいた。ブクロには珍しい着飾ってオシャレした少女たちが「萩尾望都作品集」を手にしている。こんなに若い読者に支持されているのならば、萩尾望都も安泰だ‥‥と、モーさまが描く物語の中から抜け出して来たようなカラフルな子供たちを前にして、眩しいような照れくさいような気分になったことを想い出す。あれから25年‥‥「萩尾望都原画展」(池袋西武本店・別館2階=西武ギャラリー)の入口に飾られている花々、夢枕獏や庵野秀明&安野モヨコなどからの贈られた花が甘く薫る。25年前の少女たちの姿を探したけれど、ギャラリー内は元少女だったオバさんや元少年だったオジさんばかりで、若い色香に欠けるのだった。少女たちは「原画」の中で色褪せることなく、瑞々しく息づいている。

    萩尾望都作品一覧、CLAMPから先生へ贈られた花、パーフェクトセレクション(2007-08)の販促用ポップ、 萩尾望都からのメッセージ「原画展によせて」に続いて、原画が年代順に展示されている。「ビアンカ」(1970)の扉画。妖精のような少女ビアンカが森で踊るシーンの原稿の左に、習作カット8点が添えられている。《「ビアンカ」は上京前の作で、九州の家で描いた。そのとき、森で少女が踊る大きなコマの、少女の顔が描けなくて、10枚同じ構図を描いて描けず、あげくは描いた絵ぜんぶ畳に並べて、しょうがないので1枚選んだ。森で踊るビアンカの図はあの絵のほかにだから9枚あり、みな表情がちがう》と、作者が述懐したボツ原稿を見ることが出来るのだ。「小夜の縫う浴衣」「秋の旅」(1971)の扉画や原稿。「とってもしあわせモトちゃん」の番外編「ジョニーとウォーカーくんのバラものがたり」(2色カラー8頁 1972)には、バンパネラ2世(ジュニア)のエロガー・ポーチネロ君が登場しています。

    「11人いる!」(1975)の2色カラー原稿8頁や「百億の昼と千億の夜」(1977)の表紙画、原稿14頁。イメージ・アルバムのジャケ画は赤と青のコントラストが色鮮やか。萩尾望都はマンガだけでなく、『月夜のバイオリン』や『少年よ』など、絵本やイラスト集も描いている。両脚を開いて野辺に坐る俯き加減の少女の青いドレス、白い帽子、白いエプロンの上の赤い野イチゴのイラストは「ストロベリーフィールズ」(1976)の表紙画。カラー扉画や2色画は単行本や新書、文庫に単色で収録されると逆に見難くなってしまうけれど、雑誌掲載時のカラー&2色頁(印刷)とも全く別次元の「アート」ですね(「萩尾望都作品集 第II期」と「パーフェクトセレクション」は雑誌掲載時のカラーページを再現している)。美術展で観賞する「絵画」と「画集」の違いと同じことなんですが。「原画」を観る機会が殆どないので、コミック=印刷された複製品という先入観に囚われているわけです。薔薇の花や金髪などのパステルカラーと、阿修羅王やレッド・星の原色の対比に圧倒される。

    長編作品の連載第1回目はカラー扉画や2色カラー頁になることが多いので、原画を展示するのに好都合ということもあるが、切り貼りのない美しい原稿、少ないホワイト修正、筆圧が弱いという繊細なペン・タッチ‥‥マンガ原稿は雑誌サイズ(B5判)よりも1回り大きい(1.2倍)こともあって、雑誌や単行本、文庫で読むのとは迫力が違う。「ゴールデン・ライラック」(1978)の見開き扉画とカラー&2色原稿。「スター・レッド」の少コミ表紙画とカラー&2色9頁。「銀の三角」(1980)の単行本口絵と扉画。本を開いた少年とスカートを開いて踊る少女のカラー・イラスト「カーテンコールのレッスン」(1990)。頭の上に大きな黄色い花を載せた少女「デイジー」(1983)。書き下ろしイラスト集「狩人は眠らない ── 幻境にて」(1984)から、青縞インパルの群れと中近東風のアヘン吸引画の2点。「AーA'」(1981)、「X+Y」(1984)、「4/4カトルカース」(1983)のカラー扉画。原稿の保存状態が良かったのだろうか?‥‥30年も前に描かれたカラー原画なのにも拘わらず全く色褪せていない。

                        *

    原画展で気をつけなければならない点は、作品の「フキダシ」を読んでしまうこと。「ストーリ」は後から単行本や文庫で何度も読み返せる。観賞者は一期一会の「絵」だけを見るべきなのだ。それでも、ついネームを読んでしまうのは、全ページ展示している作品が何点かあるから‥‥。「半神」(1984)は全16頁の短篇ながら、読後の印象は繋がった2人の少女たちのように長く尾を引く(特別展示されている恋月姫のビスクドール ── 肩と腰部が癒着した金髪少女の「結合双子人形」は『暗黒館の殺人』の登場キャラを想わせなくもない)。「柳の木」(2007)は柳の木の下で傘を差して佇む女性が1人の男の半生を見守るという短篇で、1頁に2コマの構図(定点観測)は人物がアップになることはあっても視点は揺るがない。台詞(ネーム)のないコマ構成によって年月が流れ、ラストで中年となった男が女性に話しかけると静寂が破られて、2人関係が明かされる。「柳の木」は故・岡田史子に捧げた追悼作品として読めるところが奥深い。なぜなら、岡田史子に「柳の木の下で」という作品があるから。

    「湖畔にて」(1976)はパーフェクトセレクション『トーマの心臓 II』の別冊として同梱されるまでは単行本、作品集未収録のレア作品だった。「エーリク14と半分の夏」という副題からも分かるように、「トーマの心臓」の後日譚がエーリクの視点で絵本や絵日記風(フキダシのないナレーション)に点描される。ボーデンで古いホテルを経営するシドと一緒に夏休みを過ごすエーリク。マリエの思い出、ユリスモールからの手紙。2人の許へオスカーが訪ねて来る。神学校へ行ってユーリに会って来たと語るオスカー‥‥。未読だった「湖畔にて」(カラー全28ページ)を原画展で読めるとは思ってもみなかった。「エッグ・スタンド」(1984)の表紙、扉画、原稿。「マージナル」(1985-87)の扉画や単行本表紙画。2色原稿は赤やグレーのカラー用紙を使用し、スクリーントーンを貼っている。「ばらのかびん」(1985)、「完全犯罪(フェアリー)」(1988)、「フラワー・フェスティバル」(1988ー89)、「海のアリア」(1989ー91)の扉画やカラー原稿が美しい。

    『sanctus サンクトゥス』(CD-ROM2枚 1998)用に書き下ろされた「神々の少年時代」はドーム状の1人用カプセルの中に裸の美少年たちが横たわっている。「感謝知らずの男」(1991)、「イグアナの娘」(1992)、「狂おしい月星」「あぶない壇の浦」(1993)など、90年代のカラー扉画。2000年代のSF長編「バルバラ異界」(2002-05)や、傑作猫マンガ「レオくん」(2008-09)、最新作「スフィンクス」(2009)の展示がカラー扉画だけだったのは、ちょっと惜しまれる。プチフラワーに約10年間連載された大長編「残酷な神が支配する」(1992-2001)の予告カット、扉画、原稿10頁(ホワイトで描いた雪が降っている)。特別企画「劇団Studio Life」が初舞台化した「トーマの心臓」(1996)の衣裳や小道具などを展示したブース(原画展とは直接関係ないような気もする)をショートカットすると、最終コーナーにモーさまの代表作が待っていた。

                        *

    「ポーの一族」(1972-76)の予告カット、フラワーコミックス第1巻の表紙画、扉画、第1話の冒頭から14頁が読める。「メリーベルと銀のばら」(1973)の扉画、「小鳥の巣」の見開き扉画、マザー・グースのイメージ画「クック・ロビンの歌」、小学館文庫『ポーの一族1』の表紙にもなっているエドガーとアランの「バレンタインカード」(雑誌付録)、エドガーの「クリスマスカード」、「エヴァンズの遺書」(1974)の耽美的な予告カットと扉画。「ペニー・レイン」(1975)の扉画。「萩尾望都作品集6〜9」の扉画4作分には「原画にハサミを入れてバラバラにしないこと」という注意書きがある。原画展のポスターやチラシ、チケットなどにも使われた「ランプトンは語る」の扉画と原稿11頁(カラー2頁、2色9頁)‥‥ソファの色はグリーンだったのね。最終話「エディス」の扉画。東逸子がカスタマイズしたスーパードルフィー(球体関節人形)「エドガーとアラン人形」も展示されている。

    「トーマの心臓」(1974)もトーマが陸橋から飛び降りる連載第1回目の冒頭シーン、2色カラー8頁が展示されている。初回原稿が少コミに掲載された直後、3回目の入稿時に編集長から打ち切りを打診されたのだ(人気アンケートの集計結果が最下位だった)。『MORI LOG ACADEMY 13』(2009)の巻末特別対談の中で、萩尾望都は「『訪問者』も、最初は『トーマ〜』に組み込まれていたエピソードだったんですけど、サイドストーリィは全部捨ててメインだけで33回、週刊で連載したんです」と語っている。サイドストーリを全部捨てたというところが凄いなぁ‥‥その結果、「トーマの心臓」の純度が高まったと言えるのかもしれませんが。萩尾望都が90年代に独ベルリンのデパートで購入した「3体の人形」やオスカー・ライザーの子供時代を描いた「訪問者」(1980)の扉画、森博嗣がノヴェライズした『トーマの心臓』(2009)の表紙画や挿画‥‥。ラストを飾るのは「メッシュ」シリーズ(1980-84)だった。「モンマルトル」(1981)の扉画&2色原稿7頁、「革命」「耳をかたむけて」(1982)、「謝肉祭」(1983)、「苦手な人種」の扉画や文庫版表紙画「自由へのキス」が並ぶ。

                        *

    展示スペースから出ると、そこはモーさまの著作(コミック、イラスト、エッセイ集など)や原画展のカタログ、限定版画(各40部)、高級ポスター(2種)、オリジナル・グッズ(香水、手鏡、タンブラー、ハンドタオル、金属製の栞、トートバッグ、クリアファイル、ポストカードなど)が陳列されている限定ショップになっていた。8日間という開催期間は短すぎるし、新作の原稿も少ない。これで終わってしまうのかと残念に思っていたら、グッズ売り場で購入した最新刊『スフィンクス』(2009)の腰巻きに、「速報!!! 巡回展決定! ’10年秋福岡、ほか全国巡回予定」とある。スケールアップして、また東京(池袋)に戻って来て欲しいな。『バルバラ異界」や『レオくん』の原稿も見たいし‥‥。それにしても、オバさんたちの購買欲は凄まじいですね。最終日に再度行って来たんですが、『夢見るビーズ物語』『スフィンクス』『レオくん』、『モザイク・ラセン』(ハードカヴァ)、『百億の昼と千億の夜』(少年チャンピオン・コミックス)などは完売していました。

                        *
    • 原画展の記事なので〔comic〕ではなく、〔art〕に分類しています

    • 作品が収録されている単行本、新書、文庫などの表紙画像にリンクしました^^
                        *




    萩尾望都原画展

    萩尾望都原画展

    • アーティスト:萩尾 望都
    • 会場:池袋西武本店 別館2階・西武ギャラリー
    • 会期:2009/12/16 - 23
    • メディア:コミック


    スフィンクス ── ここではない★どこか 2

    スフィンクス ── ここではない★どこか 2

    • 著者:萩尾 望都
    • 出版社:小学館
    • 発売日:2009/12/15
    • メディア:コミック
    • 収録作品:オイディプス / スフィンクス / 海の青 / 青いドア / 世界の終わりにたった1人で / しまうまのQ&A


    レオくん

    レオくん(flowers flower comics α)

    • 著者:萩尾 望都
    • 出版社:小学館
    • 発売日:2009/06/15
    • メディア:コミック
    • 収録作品:レオくんの小学1年生 / お外に出して / レオくんのお見合い / ヤマトちゃんの恋 / レオくんのアシスタント / レオくんのグルメ日記 / レオくんの映画スター / マルちゃんのスキヤキ / レオの写真日記だよ


    思い出を切りぬくとき

    思い出を切りぬくとき

    • 著者:萩尾 望都
    • 出版社:河出書房新社
    • 発売日:2009/11/20
    • メディア: 文庫
    • 目次:しなやかに、したたかに / 秋の夜長のミステリー / 名前というもののあれこれ / 人の往来 / 日本語は論理的なのか / 清く正しく美しい場合 / 作家と編集の間には / 思い出を切りぬくとき / モーリス・ベジャールの『近代能楽集』/ ファウストの謎 / バリシニコフについ...

    タグ:art comic hagio moto
    コメント(2)  トラックバック(1) 

    コメント 2

    miyuco

    こんにちは。
    「湖畔にて」を全ページ展示したのは
    とてもいい選択だったと思います。
    (私は読みたくてパーセレ買っちゃったけど)
    オスカーが登場する場面のパッと輝くような明るさと
    ユーリの静謐で憂いを帯びた表情の原稿を見ると
    萩尾さんは本当に上手いなと改めて思いました。
    「トーマの心臓」の様々なエピソードが蘇ってきます。

    ふふふっ、25年前にひらひらした服を着て
    池袋に出かけていた私も
    原画展にいた中年女性の中の一人ですよ。
    勤務先が池袋だったので仕事帰りに
    毎日のようにPARCOに寄ってました。
    オバさんの購買欲で萩尾さんが潤うのなら
    それでいいではないですか^^
    萩尾さんは金銭には興味がないような気もするけど。

    TBありがとうございます!
    こちらからも送らせてくださいませ。
    よろしくお願いします。
    by miyuco (2009-12-26 17:43) 

    sknys

    miyucoさん、コメントありがとう。
    「湖畔にて」は企画スタッフがリクエストしたそうです。
    両脚を投げ出して坐っている少女の表紙画が印象的な
    『ストロベリーフィールズ』(新書館)に収録されていたのね。
    ラスト頁のボートのカットに余韻(波紋)が広がる‥‥。

    え〜〜〜〜っ!‥‥25年前、池袋PARCO内で擦れ違っていたりして^^;
    「ひらひらした服」って、今で言うところのゴスロリ・ファッション?
    オバさん率は86%くらいでしょうか。
    最終日は若い娘たちもチラホラ来ていましたが、少女の姿は皆無だった。
    「中学生以下は無料」だったのに‥‥。

    『バルバラ異界』を読んで行ったのに、扉画だけで原稿がない!
    ガーーーン、ひゅるるるる〜〜〜
    ‥‥給食のない日だと知った時のレオくん(小学1年生)の心境です^^

    オバさんたちの購買欲は、阿修羅の如く凄まじいなぁ^^
    一番驚いたのは6桁の「版画」を3点も購入したブロガーさんがいたこと。
    「家宝」ですか‥‥「BSマンガ夜話」では(モーさまの原画は)
    「国宝」と言っていましたが。
    by sknys (2009-12-27 12:04) 

    コメントを書く

    お名前:
    URL:
    コメント:
    画像認証:
    下の画像に表示されている文字を入力してください。

    トラックバック 1