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ハロー・ウィーン [m u s i c]

  • C・G・ユングは、旧大陸の清教徒たちが新大陸を征服したとき、アングロ・サクソン人種は政治的にはアメリカを支配することに成功したが、道徳的にはインディアンに、生活様式の多くの点では黒人奴隷に逆に甚大な影響を蒙ったことを指摘している。3人の地球空洞論者の奇妙な地球論も、被征服民族の神話の隔世遺伝でなかったとは言えない。現実にはコロンブスのヴェクトルにしたがいながらアジア大陸に向かって悪しき西進をつづけ、月や火星にも楽園探査の旅に出て、それがたしかに実在することを発見したのが、それ以後のアメリカ人の活動であった。だが、対アジア戦争と宇宙ロケットに要する物質的頭脳的労力を傾注して、シムスや、コーレッシュや、ガードナーの奇妙な地球像の実在性を証明しようとしていたとすれば、あるいは月が実在せず、地球内部にもう1つの太陽が実在することが、今頃は発見されていたのではないであろうか。すくなくとも、そうでないとは、何人も断言する資格はないのではあるまいか。
    種村 季弘 「地球空洞説」
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    ジャパニメーションおたくのMatthew Sweetが年間ベスト1アルバムに選んだこともあるシミー盤のスリーヴは、《The Best of Leonard Cohen》の悪趣味なパロディだった。捻くれたポップス度、パロディ感覚に秀でたDean & Gene兄弟デュオ、WeenはKramerの寵愛の許、シミー・ディスクから《The Pod》(Shimmy 1991)をリリースする。インナー・スリーヴに拠ると、タイトルにも使われた「Pod」と称するアパートで1990年1〜10月の間、4トラック・カセットに録音されたテープは最終的に延べ3600時間にも達したという。ペンシルヴァニア州ソールベリー郡の宅録部屋は牧場の真ん中に位置する絶景のロケーションゆえに、ハエどもに占領され──次作に収められた〈Flies On My Dick〉も全くのフィクションとは言い切れない?──、Scotchguardを5缶も吸引したらしい(ジャケ写真で怪しげな「吸引マスク」を装着しているのはウィーン「第3の男」Mean Weenである)。2人は1991年10月1日に立ち退く(追い出される?)まで、「蠅の安息地」に飼猫のマンディ(Mandee)ちゃんと一緒に1年と10ヵ月も居坐り続けたのだ。

    1992年の夏、Weenはメジャー・デビューを果たす。《Pure Guava》(Elektra)と題された彼らの3rdアルバムは前作と比べて、サウンド、楽曲、アイディア等‥‥総ての面で格段の進化を遂げていた。だからと言って正面になった訳ではサラサラなく、半液体のドロドロ〜フロイド状態から輪郭のクッキリした具体物への凝固、塑像化した一種異形の「もの」たちである。おもちゃ箱を引っくり返した世界が約1時間に渡って繰り広げられるのだ。例えば、片腕のないGIジョー(Adios!)、片輪のキャタピラが外れたパットン戦車、両腕の動かないガラモン、ヘッドライトが破損したミニカー、回転しないリヴォルヴァ、バラバラに解体されたルービックキューブ、暗闇の中で光るヨーヨー、首のないフォンタネル人形、折れた矢、角が丸くなった三角定規(兄)、気の狂ったコンパス、暴走する機関車トーマス、野球盤のバットホール、空気の抜けたサッカー・ボール、罅割れたドーナツ盤、スキンヘッドのリカちゃん、メリーミルクの錆びた罐(の中の少女の中の少女‥‥)、ゼンマイの切れた懐中時計、音の出ないトランジスタ・ラヂオ、ボール紙で作った手裏剣、〈不変物質〉で作った手榴弾、変色した「雛菊の押し花」‥‥。

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    どこかが狂った玩具たちは、昼間は死んだように眠りこけ、満月の夜になると自動人形宛らに、その耳障りな不協和音(ノイズ)と共に踊り出す。あるいは唐突に、歪んでいるのは現世の人間たちの方かもしれないという疑念が湧く。この世界では壊れもの(フリークス)として扱われる彼らは実は「反世界の住人」ではないのか、夢や虚構、異次元、パラレル・ワールド、未知の惑星では「正常者」看做されるのではないか‥‥。一体どこの住人であることが最も相応しいのかと想像して、〈地球空洞説〉という魅惑的な「仮説」に落ち着く。「月が実在せず、地球内部にもう1つの太陽が存在する」地下世界からWeen兄弟は(ちょうどTFUL282が遠い星という外部から地球に侵入したように)やって来たのだ。マーシャル・B・ガードナーの〈地球空洞説〉をトポロジカルに裏返したのが今の「地球」だと、逆説的に言えなくもない。

    そこは地上と殆ど変わらないが構造上(凹面世界)、人間〜環境を含めてどこかが微妙に違う。既視感と未視感の鬩ぎ合い──有名オリジナル曲に良く似た、あるいは異なった2曲を掛け合せて2で割った折衷混淆の、マッド・サイエンティストが創造した突然変異体みたいな、それでいてどこか変な、やっぱり原曲と違う妙な楽曲を日夜捻り出しているKramer博士も「地底世界」の住人ではないかと前々から睨んでいたのだが‥‥。《Pure Guava》という凹面世界の入口 / 出口から奇妙なガラクタ類が溢れ出て来る。CDの回転ムラかと思ったらオケとシンクロしないアナログ多重録音失敗の〈little Birdy〉、得意の早回し幼児声(Pt.2は前作に収録)の〈The Stallion Pt.3〉(そうか、地底人は声がカン高いのか!)、恐れ多くもストーンズ・ネタの〈Big Jilm〉、タイトルが示す通りレゲエ+ジャンキー+ユダヤ人の狂躁的ダブ空間の〈Reggaejunkiejew〉。

    超高速ド下手クソ・カントリーの〈Pummpin' 4 the Man〉、どこかで聴いた気もするメロディなのに記憶の深淵に引っ掛かって思い出せないLennon〜Kramer調の〈Sarah〉、「おかまのサーファーたち」似の〈Touch My Tooter〉、多国籍軍のイラク空爆をCNN「地下特派員」が実況中継する〈Mourning Glory〉、Ween版〈朝日の昇らない家〉の〈Loving U Thru It All〉、Devoというハイテク車を酔っ払い運転で台無しにしたような〈Hey Fat Boy(Asshole)〉、メジャー7thコードが美しい唯一正調ポップ・チューンの〈Don't Get 2 Close(2 My Fantasy)〉──でも、ちょっと変かな?‥‥60's風のサビの強引さが笑える‥‥というように「元ネタ」、アイディア探しを始めたら切りがない。いずれ劣らずAFNの「Funny 5」に入っても遜色ない珍曲揃い。恐らく「空洞世界」のラジオ局では、ごく普通のポップスとして流れているんでしょうね。

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    2年後にリリースされた《Chocolate & Cheese》(1994)のスリーヴ──Ween印のチャンピオン・ベルトを腰に巻いた褐色のセミ・ヌード娘がポーズするジャケ写真(彼女の顔は写っていない)は、まるでハードロックの定番アルバムみたいで気恥ずかしい。それを裏付けるかのように1曲目は「フツーのロック」(でもないか?)‥‥その種のサウンドを期待して購入してしまったWeen初体験のヘヴィメタおたくが、この時点で未だ騙されたままでいるのかと想うと自然に笑みが零れる。つまり〈Take Me Away〉は従来のWeenファンにとっても甚だ意表を衝く曲だったのだ。この一例からも分かるように《チョコとチーズ》は前作の二番煎じは嫌だ、同じネタの曲は意地でも演らないもんね、という意気込みなのか、十八番のカントリー色を一掃し、独自のポップス路線を突き進む。ちょっとWas兄弟の2ndに趣向が似ていると言ったら誉め過ぎでしょうか。

    Boyz II Menが70年代ソウルしている(レニクラ調の)〈Freedom Of '76〉、メロウなギター・インストが途中からサイケ模様になるEddie Van Halenじゃなくて‥‥〈Tear For Eddie〉、サビなし握り寿司レノン風味の〈Joppa Road〉、7分に及ぶシリアス・フォーク弾き語りの〈Buenas Tardes Amigo〉、正調ドゥワップの〈Drifter In The Dark〉、Talking Headsの〈Psycho Killer〉が下敷きのような気もする〈Voodoo Lady〉など‥‥少しビターなところもあるけれど、全体的にポップでセミ・スウィートなミルクチョコ&甘さ控え目のチーズケーキ(cheese cakeには「女性のセミ・ヌード写真」の意味もある)。あるいは舐めている間に色と味が変わって行くワンカ特製の〈Candi〉変わり玉‥‥。外観を飾るカラフルなトッピング類や、隠し味に使われた中近東やラテン産のスパイシーな香辛料が、食客の舌を甘美&ホットに麻痺〜刺戟させ、もう1つの別世界へ誘う。そこが一体どこなのかは既に述べたので繰り返さない。

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    1996年、Weenは《12 Golden Country Greats》(1996)というタイトルが示す通りのカントリー・アルバム──もしかして歌詞が面白いのかもしれないが、サウンド的には正調カントリー・ソング集(12曲34分)を出して、周囲を煙に巻く。お遊び、余興、マジ、念願? ‥‥いずれにしても彼らのルーツの一端を披露した企画盤だった(Moistboyz名義の2ndパンク・アルバムもリリースされた)。97年に発表された《The Mollusk》(1997)では兄弟デュオから総勢11名の大所帯バンドヘ生まれ変わる。真夜中に玩具たちが踊り出すトイ・ソング味の〈I'm Dancing In The Show Tonight〉、ハチロクの深海軟体動物歌〈The Mollusk〉、3拍子の脱力ポルカ〈Polka Dot Tail〉、テクノ・パンク風の〈I'll Be Your Jonny On The Spot〉、フォーク+ホーミィ唱法(?)の〈Waving My Dick In The Wind〉‥‥。ロック・ビート(ドラム&ベース)は得たものの、逆に失ったものも多かった。宅録オタクな2人組のハチャメチャさが旧来のロック・バンド的なイディオムに回収されて行く。小回りの利くアクロバティックな変速二輪車から、燃費の悪いアメ車に乗り換えたような複雑な気分に陥ってしまうけれど。

    5人組となった新生Weenの《White Pepper》(2000)もポップ・アルバムとしては極上品だと思う一方で、すべてが予定調和的に聴こえてしまい、心から愉しめない。〈ラジオ・スターの悲劇〉みたいなメロディの〈Exactly Where I'm At〉、Brian Ferryがラテン化した〈Banana And Blow〉、スラッシュ・メタル・パンクな〈Stoker Ace〉、Bread風ソフト・ロックの〈Back To Basom〉‥‥。アルバムを重ねる毎に少なくなる曲数、短くなる収録時間(《The Pod》は23曲76分〜《White Pepper》は12曲38分)にアイディアの枯渇を感じてしまうのは浅慮でしょうか。90年代のライヴ音源を2CDに編集した《Paintin' The Town Brown: Ween Live '90-'98》(1999)には各時代、アルバムに準じたツアー(デュオ、4人組、ナッシュビル・バンド、5人組)の新旧ライヴが混在している。特にCD2の2曲を含めた(聴衆を無視した?)長尺ノイズ曲が笑える。Weenのベスト・アルバムを1枚選べと言われたら、躊躇なく《Pure Guava》を挙げるだろう。インディ時代の悲哀とメジャーに移籍した喜びが無邪気に混じり合い、爆発しているからである。

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    冒頭でも触れたように《The Pod》のアルバム・スリーヴはLeonard Cohenの顔をMean Weenに挿げ替えたパロディ〜簡易コラージュになっている。彼が装着している奇妙な「吸引マスク」(Scotchguard powered bongs)は、ライナー・ノーツやドラッギーな歌詞などからスコッチガード(防水スプレー)中毒を連想させるものだったが、後にWeen兄弟は単なるジョークだったことを認めている。スコッチガード(Scotchgard)を吸引するためのマスクではなく、笑気ガス(亜酸化窒素)を使って脳に直接THC(マリファナに含まれる向精神成分)を送る水パイプのような装置だと。《The Pod》の録音中に合法ドラッグでラリっていたわけではなく、本当は2人とも伝染性単核症(Infectious mononucleosis)に罹っていたのだという。

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    • 種村季弘氏の引用文を〈宇宙からの訪問者〉から移動しました。TFUL282が異星人なら、Weenは地底人(海底人8823?)という見立てです^^;

    • 《The Pod》のスリーヴについてはWikipedia(English)の記述を参照しました

    • パンプキン・スキンにしてみました。見難い場合は skin switcher で着替えてね

    • リンクや引用文の色を 「#e5a323」「#ff7518」 に変更しました(2017-11-07)

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    The Pod

    The Pod

    • Artist: Ween
    • Label: Shimmy Disc
    • Date: 1995/2/14
    • Media: Audio CD
    • Songs: Strapon That Jammy Pac / Doctor Rock / Frank / Sorry Charlie / Stallion, Pt.1 / Pollo Asado / Right To The Ways And The Rules Of The World / Captain Fantasy / Demon Sweat / Molly / Can U Taste The Waste? / Don't Sweat It / Awesome Sound / Laura / Boing / Monon...


    Pure Guava

    Pure Guava

    • Artist: Ween
    • Label: Elektra
    • Date: 1992/11/10
    • Media: Audio CD
    • Songs: Little Birdy / Tender Situation / Stallion, Pt.3 / Big Jilm / Push Th' Little Daisies / Goin' Gets Tough From The Getgo / Reggaejunkiejew / I Play It Off Legit / Pumpin' 4 The Man / Sarah / Springtheme / Flies On My Dick / I Saw Gener Cryin' In His Sleep / Touch My Tooter / Mo...


    Chocolate And Cheese

    Chocolate And Cheese

    • Artist: Ween
    • Label: Schnitzel
    • Daye: 1994/09/27
    • Media: Audio CD
    • Songs: Take Me Away / Spinal Meningitis (Got Me Down) / Freedom of '76 / I Can't Put My Finger on It / Tear for Eddie / Roses Are Free / Baby Bitch / Mister Would You Please Help My Pony? / Drifter In The Dark / Voodoo Lady / Joppa Road / Candi / Buenas Tardes Amigo / ...


    The Mollusk

    The Mollusk

    • Artist: Ween
    • Label: Mushroom
    • Date: 1997/06/24
    • Media: Audio CD
    • Songs: I'm Dancing In The Show Tonight / Mollusk / Polka Dot Tail / I'll Be Your Jonny On The Spot / Mutilated Lips / Blarney Stone / It's Gonna Be (Alright) / Golden Eel / Cold Blows The Wind / Pink Eye (On My Leg) / Waving My Dick In The Wind / Buckingham Green / Ocean Man / ...


    アナクロニズム

    アナクロニズム

    • 著者:種村季弘
    • 出版社:青土社
    • 発売日:2012/10/10
    • メディア:オンデマンド(ペーパーバック)
    • 目次:蘆原将軍考 / 地球空洞説 / 続・地球空洞説 / 人間栽培論 / 小児十字軍 / モーゼの魔術 / 壜の中の手記 / ロボット考 / 空飛ぶ円盤 / 血液嗜好症 / 文学的変装術 / 少女流謫 / 蛇と舞踏者 / 聖指話法 / 奇行奇人綺譚 / 奇術師入門 / 第三の眼 / 女の決闘 / 再説・蘆原将軍考(あとがきにかえて)/ 初出誌一覧

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    コメント 2

    モバサム41

    また誰もコメントできないアーティストを紹介して自己満足してますね(笑)
    せめて、国内盤が出てるのにしといてください。
    by モバサム41 (2007-10-25 22:16) 

    sknys

    モバサム41さん、コメントありがとう。
    メジャー進出した90年代のWeenのアルバムは国内盤も出ていましたよ。
    契約を切られた現在は廃盤になっちゃったかもしれませんが^^;

    YouTubeに新機能が追加されました。
    サイド欄に貼ったヴィデオを視聴すると、関連映像のサムネイルが下に並ぶ。
    クリックすると、その場で他のヴィデオも続けて視れちゃうのだ!

    小さすぎて見難いと仰る老眼人のために、大きな画像も用意しました。
    「FAVORITE ー VIDEOS」をクリックして下さい^^
    至れり尽くせりのサーヴィスでしょう?
    by sknys (2007-10-26 02:10) 

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