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ローズ・セラヴィ [m u s i c]

ロリータ化したBjorkが真夜中の遊園地で狂ったメリーゴーラウンドに乗って変則回転しているような浮游感で幻惑したかと思えば、「幻影城」地下のフィータス(Foetus)邸で催されたビッグ・バンド付きの秘密の舞踏会に飛び入り参加して衆目を集める。1度聴いたら2度と忘れられない強烈な個性を放つElisabeth EsselinkことSolexがフランスの仔兎ちゃんたちと夢の共演!──The Little Rabbitsの面々も嗅覚が鋭い(お耳が高い?)ですね──と聞いて、色めき立った人も少なくないだろう。《Yeah!》(Rosebud 1998)辺りからヒップホップ色を強めて来た仔兎とオランダ在住のSolex嬢のコラボレートは想像するだけでも充分に刺戟的だが、実際のところはゲスト扱い(主にコーラス参加)に留まっているので残念ながら少々肩透かしを食う(完全に「ソレックス化」している曲もあるけれど)。

人を喰ったバットホール波乗りオカマ風のインスト〈猿の惑星〉、Solexとのデュエット〈J'ai Faim〉、エア・ギターならぬエア・バイクPVが笑える〈La Grande Musique〉、Donovanの〈Sunshine Superman〉やTalking Headsの〈Crosseyed & Painless〉をパクったような曲‥‥いずれも強靭なヒップホップのリズムに下支えされているためにダンサブルに響く。今回もJim Watersのプロデュースによる全13曲+2曲(ボーナス・トラック)、さらに限定盤には特典として《TRANSPORT 10》と題された全10本(PVを含む)の映像作品──あのBeastie Boysも裸足で逃げ出しそうな超オバカさんヴィデオに股関節脱臼?──を丸ごと収めたCDーROM1枚が付く。

様々な明度のピンク一色でコーディネイトされた、まるで激写GAL「松本朗子の部屋」のような乙女チックな空間──フランスの鉄腕アトム(髪型がM字開脚!)こと-M-《Je Dis Aime》(Virgin France 2000)と同じくスタジオ・セット──にムサ苦しい野郎ども6人が思い思いの格好で寛いでいる。もし「La Grande Musique Edition Limitee 2CD」というステッカーがプラケースに貼ってなければ、アルバム・タイトルを《RROSE SELAVY》(このロゴ・プレートが右上の壁面に掲げてある)だと見誤り兼ねないThe Little Rabbitsの《La Grande Musique》(Rosebud 2001)は、ソレックス印の「薬味」の効いたヒップホップ料理、あるいは毒々しいデザート皿(超お下劣な宇宙人来襲!)として、食客たちの舌先を痺れ刺すことでしょう。

                    *

『マルセル・デュシャン』(タッシェン 2001)の著者ジャニス・ミンクは、デュシャンの女性(分身)名であるローズ・セラヴィ(Rrose Selavy)に光を当てることで、女性ならではの「デュシャン論」を展開していく。ローズ・セラヴィ(Rose Selavy)とは言うまでもなく「エロス、セ・ラ・ヴィ」(Eros, c'est la vie)のモジリだが、ローズ名で発表した最初のアサンブラージュ作品が〈Fresh Widow〉(1920)──その形状から多くのアメリカ人は「フランス式窓」(French Window)と誤読してしまう!──だったために、彼女(RS)には常に「未亡人」の黒い喪服のイメージが付き纏う。マン・レイが撮影した「女装したデュシャン」(ローズに扮したデュシャン)のポートレイトも何処か悲しげに映る。

ミンク女史はデュシャンの意図的なアンドロギュヌス性──「男女両性具有的傾向の擬人化」──をガートルード・スタインの〈ローズ〉(詩のサークル)との関連性を仄めかしながら指摘する。デュシャンにピエール・モリニエのような女装(黒網タイツ!)趣味や、ハンス・ベルメールのような女体オブジェ嗜好があったわけではない。ただ彼の一種の匿名性→変身願望が「ローズ・セラヴィ」という類稀なる分身女性(名)を産み落したのだ。しかし、冗談から出たゴロ合わせ的女性名が逆にデュシャンの本質を露わにしてしまう。それが「エロス」(性愛)だったことは、有名な大作〈彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁さえも、あるいは大ガラス〉(1915-1923)や、驚天動地の遺作〈(1)落ちる水(2)照明用ガスが与えられたとせよ〉(1946-1966)に対峙する、覗いてみるまでもないだろう。

一般にダダ / シュルレアリスム作品には何か意味ありげで難解な題名の付くことが多いけれど、例えばルネ・マグリットのように殆ど「絵」とは無関係と思われるような、見る者を煙に巻く(これはパイプではない)こと自体を意図したかのようなタイトルを付ける──深読みすればするほど相手の術中にハマっていく──韜晦者たちに比べれば、デュシャンには未だしも隠された意味の痕跡を辿る余地が多少なりとも残されている。それは彼(彼女?)が「画家」というより「詩人」や「作家」に近い資質の持ち主だったことに由来する。〈ローズ・セラヴィよ、何故クシャミをしない?〉(1921)について一晩じっくりと考えてみるのも決して無駄な行為ではない。

それにしても〈大ガラス〉の制作を止めた(1923)後、ひたすらチェス競技に没頭していると揶揄半分に伝えられていたデュシャンが極秘密裏に「遺作」(覗き部屋)の制作を20年間に渡って続けていたというエピソードには──その間のヨゼフ・ボイス等の批判に沈黙し続けたデュシャンの心中を察すると──笑ってしまう。間違いなく死後に公表されるわけだから当然デュシャン自身は、その時の世界の反応を実際に体験することが叶わない。しかし、現実に見ることが出来た「ハレー彗星」よりも今か今かと何年も待ち焦がれていた時の空想上の「ホウキ星」の方が何百倍も幻想的で美しかったように、未来の人々の驚きぶりに想像を巡らしている時間の方が、遙かにエキサイティングで有意義だったのではないか。

晩年の20年間はデュシャンにとって嘸かし愉快な日々だったに違いない。外部からの批判や雑音に背を向けることで、前代未聞の「覗き部屋」という内部への果てしなき冒険に旅立つ。孤独な作業だが同時に微笑みの絶えない充実した日々だったと想うと、一鑑賞者(覗き魔?)の頬も自然と緩む。「遺作」には性的なものへの仄めかしに終始していた生前のシャイなデュシャン像は跡形もない。隠蔽され→暴露された、より直截的でリアルなジオラマが着飾った現実世界を「覗き孔」から暴力的に逆照射する。マルセル・デュシャンの死後、自ら放ったスキャンダラスな毒矢が「現実」という〈大ガラス〉に罅割れを創り、コナゴナに打ち砕く。キュビズムからも未来派からも忌避された蠢き発光するタブロー、放電するレディ・メイド、火花を散らすアサンブラージュ‥‥。鳥籠の中の角砂糖(大理石)、温度計、烏賊の甲羅が「時限バクダン」のように爆発する!‥‥ローズ・セラヴィよ、何故クシャミをしない?

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以前から気になっていましたが、フランス産のロック野郎たちって──Louise Attaque然りThe Little Rabbits然り(-M-やRacid Tahaも不機嫌そうな面構えだ)──よりによって、どうして皆さん冴えない老け顔、人生に疲れたようなオヤジ面ばかりなのだろうか(単に歳食っているだけっていう説もあるけれど)。Noir Desirの面々も、リュック・ベッソンの映画に出演するとしたらクレイジーな主人公よりは草臥れた刑事役の方が似つかわしい。それに加えて、前作の《One Trip One Noise》(Barclay 1998)が派手でカラフルなリミックス・ベスト盤だったことも手伝ってか、《Des Visages Des Figures》(2001)は地味目に聴こえてしまう。それだけに淡々と(ある時は激しく)歌われるメッセージ(内容)こそが胸に深く沁み入って来ると言いたいところだが、当然のことながら全編仏語なので今いちピンと来ない。

それらのマイナス面を差し引いても御釣りが来るくらいに、このアルバムが燻し銀のように渋く輝いているのはManu Chao & Brigitte Fontaineという原色の2大ミュージシャンのゲスト参加に負っている部分が大きいからだ。周知の通り2人は2001年に《Esperanza》&《Kekeland》(Virgin France)という力作をリリースしている。モノトーンの深く沈み込んだ色調の中で、Manu Chaoの奏でるカリブ風リズム・ギターが際立つ〈Le Vent Nous Portera〉は、そこだけ妙に明るい青空を切り取っているし、余興と呼ぶのも憚られるラストの23分以上にも及ぶBrigitte Fontaineとのコラボレーション〈L'Europe〉(7拍ビートのジャズ〜ロック絵巻!)は、彼女のアルバム──Sonic Youth組よりもNoir DesirやMとの方が相性が良い──の方は聴かなくてもいいかなとさえ思えるほどの圧倒的な迫力で逼って来る。

2大スターを楽々と呑み込んでしまったNoir Desirの「鯨飲作」は、欧州でベストセラーになったManu Chaoのアルバムに負けないくらい仏国内で売れたらしい。2002年春、フランスはシラク大統領 vs.ジャンマリ・ルペン氏という余り有り難くない「究極の選択」に搖れていた。スーパー「嘘つき」マンと、極右党党首の2大悪玉対決‥‥。日本では殆ど報道されなかったが、2003年7月26日深夜、Noir Desirの中心人物Bertrant Cantatが恋人の女優Marie Trintignantをロケ地のリトアニアのホテル内で殴殺してしまうというスキャンダラスな悲劇がフランス中を震撼させた。その後、罪を認めた彼はツールーズ近くの刑務所に服役中(懲役8年)。Noir Desirは出所後の彼をメンバーに迎える準備があるという。

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マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp 1887-1968)の全体像は手に余るので、「ローズ・セラヴィ」というピンクの角砂糖を齧ってみました。寡婦人ローズは「ピンク=薔薇」と「ブラック=喪服」のダブル・イメージ・カラーに包まれています。The Little RabbitsからNoir Desirへ、華やかなピンクから暗い黒(Noir)へのグラデーション。デュシャンの作品にリンクしましたが、画像を選ぶだけで大変!‥‥Google Image Searchで検索出来るように「大ガラス」と「遺作」の英題を挙げておきます。〈The Bride Stripped Bare by Her Bachelors, Even (The Large Glass)〉〈Given: 1. The Waterfall, 2. The Illuminating Gas〉

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  • 「マリー・トランティニャン殴殺」のニュースはOVNI(n°532)の「狂恋? 嫉妬? の悲劇」と、Wikipedia「Noir Desir」の項を参照しました

  • カヒミ・カリィ(Kahimi Karie)と共演したこともある仔兎ちゃんは渋谷系キッズにも知名度高そうですが、Noir Desirは日本では「無名」ですね

  • ヴァネッサ・パラディ主演映画『エイリアンvsヴァネッサ・パラディ』(原題:ATOMIK CIRCUS)はB級バカ映画っぽいなぁ‥‥サントラ盤はThe Little Rabbitsが音楽を手掛けているので面白いかも^^;

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La Grande Musique

La Grande Musique

  • Artist: Little Rabbits
  • Label: Rosebud
  • Date: 2001/04/03
  • Media: Audio CD (CD+CD-ROM)
  • Songs: Monkey Planet / J'Ai Faim / Simca 1000 / Belle Fille Comme Toi / Dans Ies Bras d'Une Autre / Des Hommes des Femmes des Enfants et le Sexe / On Dirait un Mort Sur le Banc / Grande Musique


マルセル・デュシャン

マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)

  • 著者:ジャニス・ミンク(Janis Mink)/ Kyoko Hasegawa(訳)
  • 出版社:タッシェンジャパン
  • 発売日: 2001/06/30
  • メディア:単行本


Des Visages des Figures

Des Visages des Figures

  • Artist: Noir Désir
  • Label: Barclay
  • Date: 2001/12/18
  • Media: Audio CD
  • Songs: L'Enfant Roi / Le Grand Incendie / Le Vent Nous Portera / Des Armes / L'Appartement / Des Visages Des Figures / Son Style 1 / Son Style 2 / A L'Envers A L'Endroit / Los / Bouquet De Nerfs / L'Europe

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コメント 4

モバサム41

sknysさん、お久し振り。
うちの英語版blogに出没する変なフランス人kaiを紹介してあげたくなりましたよ。
とにかく、スパム・メールのようにいろんな曲を紹介してくれて、こちらを苦しめてくれました(笑)
そのうち、うちのblogでネタにしてやるつもりです。
侮れないのは、日本の曲を私なんかよりはるかに知っていること。
アリゼのCMは、教えてあげたら大喜びしてました。
お返しに、Priscilla(プリシラ)ちゃんを紹介してくれました(笑)
by モバサム41 (2007-04-11 22:42) 

sknys

モバサム41さん、コメントありがとう。
「英語版blog」って、last・fmのことですか?
同じ趣味嗜好のブロガーたちが音楽を共有出来る「究極のWEBラジオ」。

Joni MitchellのヴィデオをYouTubeで探していたら、
ジョニおたく(男だよ)の弾き語り投稿ヴィデオが山のように!
‥‥ネット世界には色々な人が棲息しています^^;

ブルボン「エリーゼ」のCMですね。
kaiさんに、ゴスロリ姫RoBERTと、鉄腕アトムMを紹介してあげましょう^^
by sknys (2007-04-12 00:12) 

yubeshi

なる程、デュシャンは猟奇的で覗視症の女装癖のあるプータローなんですね(爆)
いや、冗談です。忘れてた事、実はあんまりよく知らなかった事、色々書いてあるので、この記事、久々に永久保存版に認定です(笑)
RoBERT嬢はおデコ出した方が良いような気も(個人的趣味ですが)。
by yubeshi (2007-04-12 23:55) 

sknys

yubeshiさん、コメントありがとう。
晩年のデュシャンは「プータロー」ではなかった?
表向きはチェス競技に耽っていると思わせて、
秘密裏に「遺作」を創っていたわけです。
20年間を費やして「覗き部屋」かよ!‥‥みたいな人生オチ^^

記事に「タブロー」をベタベタ貼っちゃうのは色々と問題ありそうなので、
「遺作」は画像リンクにしました^^;
オカッパ髪のRoBERTさんは若く見えますが結構、歳イッちゃってますよ。
「裏ミレーヌ」と呼ばれているらしいけれど^^
by sknys (2007-04-13 01:15) 

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