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ムカデが手噛む [p a l i n d r o m e]

『虚空の逆マトリクス』(講談社 2003)という森博嗣の短篇集に収録されている「ゲームの国」(リリおばさんの事件簿1)に回文が沢山出て来ます。リリ伯母さんは丸味スープ株式会社の女社長で、D&Kセメントの社員食堂も経営している。語り手の「私」は短大卒業後に正社員として《丸味スープ》に就職した姪の星茂佳奈(モナカ)22歳。その伯母さんが「回文同好会」を主宰しているので、会員は1日1回文を作るのがノルマ。一応、森ミステリィなんですけれど、会話の中の回文の方が面白かったりして‥‥〈軽い機敏な子猫何匹いるか〉とか〈住まいは田舎がいい、森と日溜まりでひと寝入り、飛ぶ鳥、稲と日照り、まだ独りもいいが、家内はいます〉など‥‥誰でも周知の有名なものから、激ムズの長難度回文まで色々披露されていて愉しい(続編も期待したいところですが「事件簿1シリーズ」に続編はあっても「事件簿2」は永遠にない?)。

□ イタチごっこ地帯
「簡単な回文の作り方」のコツを伝授しましょう。兎に角「単語」を引っくり返してみること。新聞・雑誌・本‥‥の中のこれは、と思った「単語」や「文章」──慣れて来ると使えそうなものはピンと来るようになる──を逆から読む。例えば、中島らもの本を読んでいて「いたちごっこ」という言葉が目に飛び込む。「いたち」→「ちたい」で瞬時にして回文が完成しました。オーソドクスに行くなら〈イタチごっこ地帯〉(一体どんな「地帯」なんだと問われても困りますが)、〈イタチごっこ痴態〉とするとエロい感じ。日本語は同音異語が多いので、この辺は臨機応変自由自在。辞書の救けを借りるのは最終の手段。よりシンプルな〈鼬の痴態〉でもOKですが、短い分だけ表現がドキツクなってしまうし、過去に前例がないとも限らない。逆に長くしたい場合は、その前後に言葉を繋げて行けば良い訳で、前・後で正逆両方から意味が通じ合うように工面しなければいけないし、全体の整合性(文章として面白いことが大事!)も量らなければならないので、より高度な作業が要求されます。〈新木場イタチごっこ地帯は禁止〉〈新木場地帯のイタチは禁止〉‥‥チョット苦しい? 

□ ヒスか?‥‥明菜泣き明かす日
2002年末、14年振りの紅白再出場を果した中森明菜さま。またまたNHKのリハ中に一悶着あったらしいですが、元気で何よりです。自殺未遂からのカムバック後も、レコード会社移籍〜借金問題、所属芸能プロからの独立、独身マネージャとの恋愛関係、元身内からの暴露本『哀しい性』、骨折(?)で連ドラ降板〜打ち切り、逆ギレと酒浸りの日々‥‥と逆境の薄倖女のイメージが付いて回るようになってしまった。ユニヴァーサル移籍後のアルバムの評価が高いのが唯一の救いです。今の歌謡アイドルって、モー娘にゴマキ(後藤真希)、アヤヤ(松浦亜弥)、アユ(浜崎あゆみ)ですか?‥‥加護&辻コンビは面白いけれど、その人工的な笑顔の背後で蠢く拝金主義の大人たちのドロドロした闇がチラついて今イチ乗れませんね。少女アイドル凋落の始まりは80年代後半の「おニャンコ」以降、生身のアイドルは確実に年を取る(結婚/引退→出産→離婚→再デビュー?)ことに気づいた多くのファンたちが急速にオタク化した──アニメやコミックの2次元ヴァーチャル・アイドルへ移行した(彼女たちは永遠に年を取らないし、スキャンダルとも無縁だ!)結果でしょう。女子供相手の「幼稚ブンカ」花盛りの日本ではカイリー・ミノーグやマドンナのような熟女アイドルは存在し得ない?

□ 伐るな呑気な金のなる樹
昔から「金のなる木」に纏わる物語は色々あって、一種の富みと幸福のシンボルになっている。実際に金の実をつけなくても、例えばジャック少年の登った「豆の木」も結果的には「金のなる木」だったとも言えます。幸せを呼ぶ「幸福の木」ブームも過去にありました。フルアニメ短篇『木を植えた男』(フレデリック・バック)の優柔なイメージも植樹する行為そのものが地球環境的には「金」な訳です。この回文は目先の利益に捕われて事を急ぐよりノンビリと気長に生きる、スローライフ的なイメージに溢れています。「樹」は「人間」のメタファなのかもしれません。ところが〈切るな人気、金になる木〉になると途端に、ドル箱スターのスキャンダル事件→揉み消し工作発覚→緊急釈明会見‥‥みたいに一瞬にして腥くなってしまう。大スターも人気が無くなれば、ただのタレント。頂点を極めた人ほど落ちぶれた時の差は大きいようで、使い捨てられた元スターの末路は悲惨なものです。芸能界(芸能回文?)って本当に怖いですね。

□ 名高い、コスタリカで借りた凄い刀
コスタリカ国立博物館特別室の強化ガラスケースの中に、その太刀はあった。日本刀に良く似た意外に小振りの刀だが、光耀く宝飾を施した美麗な鞘に収まっているので、抜き身を見ることは叶わない。その昔、勇者サマラムがコスタリカ王家代々に受け継げられていた、その宝刀を借りて怪物を退治したという伝説が残っている。元々は王家の墓の中に遺体と一緒に埋葬する副葬品だったが、ある日第3王子が秘かに持ち出して遊んでいる時に雷に打たれて命を落す。刀は無傷のまま岩に突き刺さったままの状態で2度と抜けなくなった。何時しか真の勇者だけが刀を岩肌から引き抜くことが出来るという言い伝えが流布されるようになる。その刀を抜き去ったのがサマラムだった。怪物を倒した後、王はサマラムに褒美として刀を授与しようとしたが、彼は受け取ろうとはせず、放浪の旅に出て2度と都に還ることはなかった。王は当時の技術の粋を尽くして美しい鞘を造らせ、夭折した少年王子の亡骸の傍らに安置した。スペインの若き考古学者の手によって「サマラム」(刀の名前)が発掘されたのは、20世紀初頭のことだった。今まで鞘から刀身が引き抜かれたことは1度もない。

□ 肉食いに行く国
焼肉なら韓国、羊肉ならニュージーランド、牛ステーキならアルゼンチン、シシカバブならトルコ、ペキンダックなら香港、桜肉なら日本‥‥。英語圏だと生きている牛(cow)と牛肉(beef)をまるで別物のように扱っていることから、肉食人種の食肉用動物への「死生観」が窺われます。そこからウシやブタは何百万頭殺しても良いけれど、クジラは1頭足りとも殺させないという風な極端な思想が芽生える(乱獲で絶滅の危機に瀕しているとか哺乳類で知能が高いから可哀相とかいう理由が後から付く)。欧米では魚介類を生で食べる習慣はなく、烏賊や蛸などのイカモノ食いは世界中で日本人とイタリア人ぐらいだと揶揄されて来ました。しかし一番のゲテモノ食いの国は中国でしょう。ブタの耳や脚は言うに及ばず、クマの掌(ハチミツを採って食べているので、甘い蜜の染み込んだ右手の方が旨い?)や猿の脳味噌(頭蓋骨に錐で穴を空けて、ストローでチューチュー吸っちゃう!)‥‥。日韓W杯の前に問題になった韓国の「狗肉料理店」で思い出しましたが、米中国交を結んだ記念にアメリカ大統領が友好の印としてペット犬をプレゼントしたら、後日「大変美味しかったです」という礼状が中国政府から届いたというブラック・ジョークまである位ですから。近年は狂牛病(BSE)や新型肺炎(SARS)、鳥インフルエンザの流行で海外グルメ旅どころの騒ぎじゃないよね。

□ ミルク嫌い、オイラ着ぐるみ
しかし息苦しいなぁ、一体オレは今何処にいて何をしているのか‥‥。そうだ、パンダの着ぐるみの中だった。人騒がせな「断髪魔」を待っていたのだ。毎日こうして囮のミニスカポリスの後を付かず離れず監視しているのに一向に現れる気配もない。この汗臭いパンダ服さえ着ていなければ早春のヒンヤリした空気と麗らかな陽光に包まれて、さぞかし気持ち良いだろうな‥‥子供たちが愉しげに走り回っている。ち、近寄るな、オレは人寄せパンダじゃないぞ、あっちへ行け‥‥酸欠なのか気分が悪い。一体何時までオレはこんなカブリモノの中でジッと我慢しなければいけないのか。胸がムカムカする、超キモくなって来た。この感じ‥‥そうだ、オレは学級給食の牛乳が死ぬほど嫌いだった。それまでは隣のデブに飲んでもらっていたのだが、ある日担任の先公にバレて無理矢理飲まされ、午後の授業中にゲロしちゃったことあったなぁ‥‥あれは悲惨な出来事だった。それ以来、オレはミルクが一滴たりとも飲めない躰になった。

薄れゆく意識の彼方から甲高い悲鳴が聞えて来た。あの声は千里ちゃん!‥‥しまった、大切な任務を忘れていた。慌てて蹲って震えている彼女の許へ駆けつける。その傍に漆黒の髪の毛の塊が‥‥こんなに沢山切られてしまったのか?‥‥いやいや違う、これは変装用のロングの鬘、断髪魔はカツラだと気づいて投げ捨てて逃げたのだ。森下婦警の無事──良かった、彼女の髪は切られていない。でもこんな非常事態なのに、乱れたミニスカから露出した健康的な2本の太腿と純白のパンティに目が釘付けになってしまった自分が情けない──を確認して辺りを見回すと、ハサミ片手にアタフタと逃げて行く髪切り魔の後ろ姿が視界に入った。周囲を固めていた私服警官たちも一斉に走り出す。左右に揺れる太い尻尾‥‥一瞬、我が眼が信じられなかった、何だアレ、栗鼠じゃないか!‥‥斯くしてリス男とパンダ刑事の前代未聞の追いかけっこが始まった。(以下次回へ続く)

□ 自宅、月見うどん味良し、安藤美姫つぐ出汁
フィギュア少女の安藤美姫ちゃんの実家は「うどん屋」。といっても自宅を改装しただけの一般の民家なので外観からは、ここが知る人ぞ知る有名な「安藤庵」だとは全く分かりません。腰のあるシコシコした手打ち麺──本当は父が毎朝、脚で踏んでるんだけど(裸足じゃないよ、ちゃんと足袋はいてるもん。保健所ウルサイからね)──と自慢の出し汁のバランスが絶妙。特に1日50食限定の「特製月見うどん」の味は絶品という評判で、近所の常連客のみならず遠方から電車やマイカーで駆けつけるリピーターも多いとか。今はトリノ冬期五輪(2006)へ向けて氷上の毎日で、実家の手打ちうどんの味も忘れてしまいそうですが、ゆくゆくは「安藤庵」秘伝の出汁をチャンと受け継いで、2代目看板娘(女主人?)としての修業に励みたいとミキティは思っています。

□ むかつく駄犬、脱いだ靴噛む
〈タイヤキ焼いた〉で紹介した駄作〈長靴まで脱いだ犬でマックかな〉が余りにも酷かったので、反省して一から作り直しました。「駄犬」を「ダケン」ではなく「ダイヌ」と読むところがミソです。これならバッチリ意味も通じるし回文としてもAランク級(清・濁音の一致)の出来ですが、逆にストレートすぎて面白味に欠ける嫌いもあります。回文って奥が深いね。少々強引でシュールな方が眠っていた読み手の想像力を刺戟するらしい。ツケ込む隙のない八方美人的な完璧美女と、欠点はあるけれど個性的でチャーミングな女性(黒木瞳と久本雅美?)との違い?‥‥回文にも2種類あるみたいですね。美を優先させるか笑いを取るか、美人女優とコメディアンヌ。一番ダメのはどちらもスベった中途半端な芸。巧いと思うけれど全然笑えない「落語」みたいなものですか‥‥「駄犬」ってソロモンのこと?

□ 桜の散る地の落差
宇多田ヒカルの〈SAKURAドロップス〉を聴いている時に閃きました。毎年2月下旬〜5月に架けて桜前線が日本列島を沖縄から北海道へ北上して行く。前線の移動に合せて旅行すれば日本全国の桜名所を隈無く踏破→堪能出来る。その地方によって桜の咲くのに時間差があるように、散り際にも「落差」があるわけです。以前は自室のベランダから真向かいのQ女子高敷地内に桜の樹があったのですが、数年前の改築工事の際に無情にも切り倒されてしまいました。でも、その代わり今では(建物自体が右側に移転新築されたために)目前の眺望も開け、U公園の桜が見渡せるようになったのは怪我の功名でした。そのせいか昨年もU公園への花見は遠慮して、Kさくら公園やS井吉野桜記念公園などT区内の桜を図書館ヘ行く序でに見て回りました。ヒッキーの歌は曲名を甘酸っぱい「サクマドロップス」に掛けているところが技ありです。

□ 姉妹は恋仇、過ぎた悔悟、倍増し
〈SAKURAドロップス〉は『First Love』(TBS 2002)の主題歌だった。江沢夏澄(深田恭子)は高校時代に古文の教師だった藤堂直(渡部篤郎)と恋に落ちるが突然彼は教壇を去り、5年後に再会した時は姉・朋子(和久井映見)の婚約者としてだった。姉妹で1人の男を奪い合う古典的な骨肉の三角愛ですが、「恋愛の神様」の姉が実は養女でコインロッカーベイビー(捨て子!)だったという物凄い出生の秘密が明らかに‥‥(最近の連ドラって身も蓋もない往年の「大映ドラマ」みたいな破天荒なシチュエーションなんですね)。そんな生い立ちのためか性格も歪んでいて「恋愛の悩み相談」の達人として若い女性たちのカリスマ的人気を集める一方で、彼女自身がカウンセリングを受けているという皮肉な現実。その担当の心理カウンセラーが直だったのだから世の中は狭い?‥‥それにしても、朴訥とした口調と情けない風貌の冴えない男が何故こんなにもモテるのか。開始早々(和久井は兎も角)純情可憐な深キョンの唇を奪ってしまった「姉妹ドンブリ」状態の渡部篤郎よ、羨まし過ぎるぞ!(←離婚ですか?)

                    *

  • 回文と本文はフィクションです。一部で実名も登場しますが、該当者を故意に誹謗・中傷するものではありません。純粋な「言葉遊び」として愉しんで下さい

  • mironさんが〈私負けましたわ〉というタイトルでオリジナル回文を紹介しています

  • 〈猫に、こにゃ。ニコニコね〉──“美形の捨て猫”ちゃんの「んっ?!」な顔に『猫に、こにゃニコニコね』です♪(by 火田こにゃ

  • 第3弾〈デジカメ貸して!〉をUPしました。エロ回文満載です^^;

                    *



虚空の逆マトリクス

虚空の逆マトリクス

  • 著者:森 博嗣
  • 出版社:講談社
  • 発売日:2003/01/07
  • メディア:新書
  • 収録作品:トロイの木馬 / 赤いドレスのメアリィ / 不良探偵 / 話好きのタクシードライバ / ゲームの国 / 探偵の孤影 / いつ入れ替わった?

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コメント 5

こにゃ

キョロキョロ・・・・一番乗り^^
パンダ刑事の活躍に期待です!
ミーナの美猫ぷりには「隠れていないで☆」
=^・_・^=
by こにゃ (2006-02-01 18:23) 

miron

どれも、今後の回文界のスタンダードとなるであろう
秀逸な作品ぞろいだと思いました。
文章も含めてとっても楽しませてもらいました。桜の散る地の落差
詩的でとくに好きです。
私も負けずに傍会社関係で一句。
幹部以下に怪文か
by miron (2006-02-01 20:50) 

sknys

・こにゃさんが一番乗りです。nice! &コメントありがとう。
「断髪魔シリーズ」は行き当りバッタリで、
作者にも今後の展開は予想がつきません。

ミーナの写真‥‥くの字に曲がった枝が絶妙のアクセントに
なっているでしょう(←自画自賛!)。
K図書館に隣接した公園のノラで、昨年の4月以降見掛けませんが、
近所で遊んでいたという目撃談もありました。
誰かに飼われていれば幸せと思います。

・mironさん、nice! &コメントありがとう。
〈桜の散る地の落差〉は作者も気に入っています。
出来た時、ヤッタァ〜って感じ?‥‥夜中に1人で昂奮したり‥‥。

徒らに長い回文よりも、〈幹部以下に怪文か?〉のような
短かくて風刺の効いた回文を作る方が難しい。
〈大幹部以下に怪文書いた〉とすると、平社員の「怨み」が滲み出す?
by sknys (2006-02-02 20:11) 

miron

私のブログ内で、
sknysさんの記事を紹介しましたよ。
by miron (2006-02-03 13:45) 

sknys

・mironさん、リンクありがとう。激辛ハバネロ回文に火傷しそうです。
こっちも負けずに「ホリエモン」で、今作ってみました。

〈利が良い株式ノン!‥‥ホリエモン財産燃え、リボンの騎士深い怒り〉

リボンの騎士が「セーラー戦士に代わって、お仕置きよ!」
(mironさんの記事に付けたコメントをコピー転載しました)。
by sknys (2006-02-03 23:13) 

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