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シナモン・ガール [a r c h i v e s]



  • 《Everybody Knows This Is Nowhere》は、1969年5月に発売され、評論家からさまざまな反応が返って来た。しかし、発売後数年経ってなお、多くの人はこれがヤングのもっとも素晴しい作品であると認めている。そしてそれは、アルバムの永続性に対して贈られた賛辞であった。/ オープニング・ナンバーの〈Cinnamon Girl〉は、ヤングの気に入っているライヴ・ソングの1曲として歌われ続けており、時にはアンコール曲にも使われている。力強いギター・ワークとドライヴの効いたビートによるこの強力なロック・ナンバーは模範的なオープニング・ナンバーであった。基本的にこの歌は、ロックンロール・グループの人生における平均的日常を歌っているのだろう。「シナモン・ガール」がグルーピーなのかどうかは判断し難く、ヤングも何1つ手懸かりを残さず不明瞭なままにしている── //《この歌はフィンガー・シンバルを鳴らしながら、フィル・オクスの目を通して舗装の剥がれた道を僕の方へ歩いて来る都会の女の子のために書いた。女房に説明するのが難しかったよ》。
    ジョニー・ローガン 『ニール・ヤング 錆びるより燃えつきたい』


  • Neil Youngの初期アルバム、4タイトルのリマスター・アルバム(CD&アナログ盤)が2009年7月にリリースされた。いずれもオリジナル・アナログ・マスター・テープからのリマスター化で、「NYA ORS」(Neil Young Archives Official Release Series)というロゴが裏ジャケと背表紙に記されている。オリジナル・リマスター盤にデモや別ヴァージョン、ミックス違い、ライヴ音源などをボーナス・トラックとして追加収録することが慣例となっている中で、余計なものが1曲も入っていない廉価盤「NYA ORS」は逆に潔いと言えるかもしれない。洋楽ファンの多くはオリジナル・アルバムを高音質で聴きたいと願っている。ボーナス・トラックは笑って許せても、エキストラ・トラックを、もう1枚のCDに収録した「デラックス・エディション」と称する2CDには苦々しい思いがあるのではないか。不格好なデジパック仕様(CD2枚組)がオリジナル・カヴァ・デザインを台無しにしている。「付録」と考えれば良いじゃないかという人もいるかもしれないが、The Beatlesのオリジナル・リマスター盤が未発表音源などを多数収録したCDを同梱した「Deluxe Edition」で発売されたら、ファンは一体どう感じるだろうか?

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    ソロ・デビュー・アルバム《Neil Young》(Reprise 1969)は、表カヴァ上部に「NEIL YOUNG」のロゴが入ってないオリジナル・ジャケットでリイシューされた。ところが、その中身はオリジナル盤のミックスに疑問を感じていたNeil Youngによって、後年リミックスされたUS盤である。つまり1stアルバムのリマスターはオリジナル・カヴァなのにリミックス盤という奇妙な捩れが生じている。このデザインとサウンドの齟齬はコンパクトなCDカヴァよりも、アナログ盤の方が著しいかもしれない。ムンクが好んで描いたような赤く燃える夕焼け空と山の背景、前面の蜃気楼のように都会のビル群を逆さまに映す海を衣裳として纏ったNeil Youngの肖像が描かれているオリジナル・カヴァは、「NEIL YOUNG」のロゴが白地に黒文字でレイアウトされている旧盤とは大きく印象が異なる。オリジナルとリミックス、旧盤とリマスターの音質の違いは兎も角、小さなCDよりも大きなアナログ(ヴァイナル)盤が欲しくなるアルバム・カヴァですね。

    Buffalo Springsfield時代のNeil Youngは、ストリングスを大胆に導入した〈Expecting To Fly〉や組曲風の構成になっている〈Broken Arrow〉など、今では信じられないほど実験的な曲作りをしていた。その傾向は1stソロ・アルバムでも顕著である。カントリー調のインスト曲〈The Emperor Of Wyoming〉で始まり、6曲目(B-1)にJack Nitzsch作曲のインスト〈String Quartet From Whiskey Boot Hill〉を挿み、9分を超える生ギター弾き語り〈The Last Trip To Tulsa〉で幕を下ろす‥‥というように、トータル・アルバム風の構成になっている。途中で唐突に5拍子になったり、後半のゴスペル調の女声コーラス隊が盛り上げる〈The Old Laughing Lady〉や、サビのメジャー7thコードのメロディが美しい〈Here We Are In The Years〉など、聴きどころがないわけじゃないけれど、アルバムの白眉は映画『いちご白書』(1970)の中でも鮮烈な印象を残した〈The Loner〉だろう。2コーラス目の後の間奏とエンディングで、イントロのコード進行をリフレインせずに、メジャー・コード(F → D)に変化するところが素晴しい。

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    左手を樹の幹に預けてポーズを決めるNeil Young、その傍らに白い犬が行儀良く坐っている。粒子の粗いカヴァ写真はCDサイズに縮小されると、印象(点描)派風の魅力が半減してしまうけれど。長年のパートナーとなるCrazy Horseとの初共演盤《Everybody Knows This Is Nowhere》(1969)は1stソロ・アルバムとは対照的に豪快で繊細なバンド・サウンドが炸裂している。ライヴでも演奏され続けている〈Cinnamon Girl〉は驚きのコード進行(D → Am7 → C → G)と変則チューニングのギター・リフがカッコ良くて、ロックのマジックに満ちている。軽快なカントリー・タッチのアルバム・タイトル曲〈Everybody Knows This Is Nowhere〉は調子っ外れのコーラスが祝祭的な高揚感を盛り上げる。「川の畔で恋人を射殺してしまった!」とサビで歌われる〈Down By The River〉は9分を超える長尺曲。アンプやギター・マイクの切り換えノイズが入った生々しい演奏‥‥2度の間奏でNeil Youngのギター・ソロが堪能出来る。左チャンネルで鳴っているDanny Whittenのサイド・ギターも味わい深い。

    Danny Whitten(ギター)、Ralph Molina(ドラムス)、Billy Talbot(ベース)の3人はThe Rocketsというバンドの中心メンバーだった。彼らのライヴに感銘したNeil YoungがCrazy Horseとして3人を引き抜いたことで、実質的にThe Rocketsは活動停止状態に追い込まれてしまう。The Rocketsのメンバー、Bobby Notkoffのヴァイオリンが哀切で悲痛な旋律を奏でる〈Running Dry (Requiem For The Rockets)〉が「鎮魂歌」となっているのは、この裏事情による。ファンタスティックなフォーク・ワルツ〈Round & Round (It Won't Be Long)〉では、Neil Youngの元恋人だったRobin Laneのギターとヴォーカルが聴ける。ラストの10分に及ぶ〈Cowgirl In The Sand〉はエキセントリックで性急な大作ロックだが、個人的には《4 Way Street》(Atlantic 1971)などに収録されているアクースティック・ヴァージョンの方に愛着があります。

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    煉瓦の塀と鉄格子のフェンスの前で左右に擦れ違う若者と老婆の一瞬を捉えた白黒写真、まるでNeil Youngの背中に気味の悪い魔女(腹話術の人形のようにも見える)が張りついているようなアルバム・カヴァ(裏ジャケには妻のSusan Youngがパッチワークしたジーンズのお尻部分の写真が載っている)に象徴的な意味を読み取ろうとしたリスナーも少なくないだろう。ソラリゼーション化したNeil Youngの横顔は一体何を見ていたのだろうか。《After The Gold Rush》(1970)はNeil Youngの代表作というだけでなく、「70年代ロック・アルバム」の名盤として40年後の現在も色褪せることなく光り輝く。録音メンバーは2ndに続いてCrazy Horseの3人(Danny Whitten、Ralph Molina、Billy Talbot)と「ギター小僧」の渾名で知られるNils Lofgren、Jack Nitzsche、Steve Stills(ヴォーカル)など。「心霊写真」や「継ぎ接ぎジーンズ」を撮ったJoel Bernsteinは当時まだ高校生だった!

    《After The Gold Rush》が「名盤」と呼ばれる由縁は粒揃いの名曲が多数収録されていること。全11曲中、Don Gibsonのカヴァ曲〈Oh Lonesome Me〉と、AB面のラスト(CDでは6&11曲目)に入っている1分台の小品2曲を除く8曲は、いずれも甲乙つけ難い楽曲揃い。ピアノの伴奏とフルーゲルホルンの間奏だけで歌われるファンタジックなアルバム・タイトル曲〈After The Gold Rush〉、泣きたくなるほどロマンティックなワルツ〈Only Love Can Break Your Heart〉、美しいピアノ・バラード〈Birds〉は、PreludeやSaint Etienne、Paul Wellerなど、複数のバンドやミュージシャンによってカヴァされている。生ギター弾き語りのフォーク・ソング〈Tell Me Why〉、変則チューニングの響きがカッコ良い〈Don't Let It Bring You Down〉。超ショッキングな歌詞が「南部人」を告発する〈Southern Man〉と、浮游感のあるコーラスが調子っ外れな〈When You Dance, I Can Really Live〉は、CSN&YやCrazy Horseとのライヴでも聴けるロック・ナンバーである。

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    全米ヒット・チャートの第1位に輝いた〈Heart Of Gold〉が収録されている《Harvest》(1972)は名実共にNeil Youngの存在を広く知らしめた「金字塔」とも言うべきアルバムだが、楽曲面では《After The Gold Rush》の方に譲らなければならない。Neil Youngのバックを務めるのはCrazy Horseに代わり、Stray Gatorsと名乗るミュージシャンたち。タイトなドラムス、Ben Keithのペダル・スチールやドブロ、Jack Nitzscheのピアノやスライド・ギターに彩られたカントリー・ロックのサウンドは完成の域に達している。素朴なマウス・ハープや軽快なバンジョー・ギターがアクセントになっている〈Heart Of Gold〉や〈Old Man〉は、James TaylerとLinda Ronstadtのコーラスも力強く素晴しい。しかし、その一方でJack Nitzscheの編曲によるオーケストラ(ロンドン交響楽団)と共演した〈A Man Needs A Maid〉や〈There's A World〉の大仰な感じは歪めないし、Lynyrd Skynyrdに皮肉られることになる〈Alabama〉も〈Southern Man〉の二番煎じのような気もしないではない。〈The Needle And The Damege Done〉だけがライヴ録音という破調もある。リリースから40年近い年月を経て、《Harvest》の評価は下落してしまった。

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    猫にも弾けるNeil Youngのギター奏法について触れておこう。アクースティック・ギターでは〈Tell Me Why〉のカッター・ファミリーや〈The Needle And The Damage Done〉のベースとメロディ・ラインを同時に弾くフラット・ピッキング、〈Ohio〉や〈Cowgirl In The Sand〉など右手の腹で低音弦をミュートするパーカッシヴな弾き方が独特だが、最も多用されている変則チューニングは1弦と6弦を1音下げたダブル・ドロップ・Dチューニング(D B G D A D)である。その特徴は1&6弦を開放弦として鳴らすことで高・低音に厚みが増すことと、1〜3弦がGメジャー・コードになるので押さえ方が簡単になること。〈Mr. Soul〉〈Cinnamon Girl〉〈Ohio〉などの代表曲も、この変則チューニングを使っている。たとえば、〈The Loner〉のイントロのコード進行、F → G → C → Dは、10 → 12 → 5 → 7フレットの1〜3弦を人差し指で(バレー)押さえて順に移動させる。

    〈Cinnamon Girl〉の前奏リフ、C → Dは5フレットの1〜4弦を人差し指でバレーして、7フレットにスライド(もしくは薬指でバレー)させる。ブリッジ部分のC → Gm7 → Aは逆に5 → 3 → 2フレットに下りて来る。〈Don't Let It Bring You Down〉は、さらに全弦を1音下げたCチューニング(C A F C G C)で弾いている(それでもキーは超高い。Stephen Stillsの〈Black Queen〉やCSN&Yの〈Find The Cost Of Freedom〉なども同じチューニング)。イントロはオープンDとCコード(1弦を押さえない!)を繰り返す。歌い出しの2小節、C → E♭6(Am7ー5)は2弦の3フレットと3弦の2フレットを中指(薬指)と人差し指で押さえたDのコード・フォームのまま5フレットまでスライドさせる(レギュラー・チューニングの〈Old Man〉のイントロも同じコード・フォームだが、コード進行はF → Dの逆順になっている)。エンディングのハーモニクス・コードC → Fは、それぞれ7フレットと12フレットの1〜3弦を人差し指(バレー)で軽く触れ、弦を弾いた瞬間に指を放す。Neil Youngのライヴ・アルバムやヴィデオを視聴して完コピを目指しましょう。

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    • ジョニー・ローガン『ニール・ヤング 錆びるより燃えつきたい』(CBS・ソニー出版 1983)を参照しました。増補版『ニール・ヤング 孤独の旅路』(大栄出版 1994)も出版されているそうです
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    Neil Young

    Neil Young

    • Artist: Neil Young
    • Label: Reprise
    • Date: 2009/07/20
    • Media: Audio CD
    • Songs: Emperor Of Wyoming / Loner / If I Could Have Her Tonight / I've Been Waiting For You / Old Laughing Lady / String Quartet From Whiskey Boot Hill / Here We Are In The Years / What Did You Do To My Life? / I've Loved Her So Long / The Last Trip To Tulsa


    Everybody Knows This Is Nowhere

    Everybody Knows This Is Nowhere

    • Artist: Neil Young
    • Label: Reprise
    • Date: 2009/07/20
    • Media: Audio CD
    • Songs: Cinnamon Girl / Everybody Knows This Is Nowhere / Round & Round (It Won't Be Long) / Down By The River / Losing End (When You're On) / Running Dry (Requiem For The Rockets) / Cowgirl In The Sand


    After The Gold Rush

    After The Gold Rush

    • Artist: Neil Young
    • Label: Reprise
    • Date: 2009/07/20
    • Media: Audio CD
    • Songs: Tell Me Why / After The Gold Rush / Only Love Can Break Your Heart / Southern Man / Till The Morning Comes / Oh, Lonesome Me / Don't Let It Bring You Down / Birds / When You Dance, I Can Really Love / I Believe in You / Cripple Creek Ferry


    Harvest

    Harvest

    • Artist: Neil Young
    • Label: Reprise
    • Date: 2009/07/20
    • Media: Audio CD
    • Songs: Out On The Weekend / Harvest / Man Needs A Maid / Heart Of Gold / Are You Ready For The Country? / Old Man / There's A World / Alabama / Needle And The Damage Done / Words (Between The Lines Of Age)

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