b パンダじゃないよ （books）7月7日、頭脳警察のパンタ（享年73歳）が亡くなった。過激なメッセージとライヴ・パフ ォーマンスで知られる反体制バンドだったが、第20回小説現代新人賞を受賞した皆川博子の短篇 ｢アルカディアの夏｣（1973）に登場していたとは驚きだ。
『トマト・ゲーム』 （講談社 1974）は皆川博子の第１短篇集。犯罪サスペンスやミステリの衣装を纏っている。そして破れた服の裂け目から作家の目指す「華麗な狂気」が漏れ出す。単行本は ｢トマト・ゲ ーム｣ ｢アルカディアの夏｣ ｢獣舎のスキャット｣ ｢漕げよマイケル｣ ｢蜜の犬｣ の５篇、講談社文庫（1981）は ｢獣舎のスキャット｣ と ｢蜜の犬｣ を ｢アイデースの館｣ ｢遠い炎｣ ｢花冠と氷の剣｣と差し替えた６篇、ハヤカワ文庫（2015）は割愛された２篇を増補・加筆修正した全８篇を収録している。｢アルカディアの夏｣ は転校することになった同級生・皓ニからカトキン（コノハズク）を譲り受けた少女（中３）が１年前の父親と同じように家出する元祖・腐女子もの。主人公・令は夏期講習の帰りに、新宿Ｌデパートの７階で、頭脳警察のライヴを観る。｢パンタ（パンダじゃないよ）がワサワサヘアを振りたてて、声をしぼり出す｣ のだ。
b 偽ランクム （music）アイリッシュ・フォーク・バンド、ランクム（Lankum）の4thアルバム
《False Lankum》 （Rough Trade 2023）は全12曲・70分。トラッド5曲、カヴァ2曲、インスト3曲を含むオリジナル5曲という構成。ダブリン出身のイアン・リンチ（Ian Lynch）、ダラグ・リンチ（Daragh Lynch）兄弟、レイディ・ピート（Radie Peat）、コーマック・マクディアーマダ（Cormac MacDiarmada）の4人組はイリアン・パイプス、コンサーテ ィーナ、ハーモニウム、ダルシマー、ハーディ・ガーディ、バヤン、オルガン、ハープなどの楽器を奏で、ポスト・ロック、エクスペリメンタル、アンビエント、ノイズなどを自家薬籠中のものとすることで、フォークに留まらないダークで不穏な音楽を創出している。3rdアルバム
《The Livelong Day》 （2019）に収録されたトラッド・ソング
〈Katie Cruel〉 を絶叫インダストリアル・ノイズ姫リングア・イグノタ
（Lingua Ignota） がカヴァしていることからもランクムの立ち位置が鮮明になるだろう。見開き紙ジャケ仕様、ブックレット（8頁）付き。
b ソネットの障害 （event）6月1日の夜、３時間ほどSo-netの「システム障害」で、ネットに繋がらなかった。そもそもSo-netの「障害・メンテナンス情報」にアクセス出来ないし、メールで問い合わせることも不可能。夜中ではサポートセンターの電話も通じない。この不安で深刻なストレスは不具合の原因がハードなのかソフトなのか分からないことに起因する。DVD再生機と化した旧MacBook Pro（2011）を起動して、ネットワーク障害であることを確認して一旦安堵したものの、ネットに繋がらない苛々は治らない。数時間後、日付が2日に変わった途端にシレ っと、何事もなかったように復旧したけれど。
｢So-net サービス 障害発生のお知らせ（復旧済み）｣ で、《このたびは、長時間にわたっての障害により、ご利用中のお客さまには多大なるご迷惑をおかけいたしましたこと、心よりお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした》と復旧後に謝れてもねぇ。障害発生中、ユーザに現状を報せる何かしらの手立てを講じるべきではないかしら。MacBook Pro（2021）が壊れたのかと思っちゃったよ。
b ウィンド・ローズ （books）皆川博子の最後の長編小説
『風配図』 （河出書房新社 2023）は「ハンザ同盟」をテーマにした歴史ロマン。1160年5月、バルト海に浮かぶゴットランド島ヴィスビューの教会で行われた婚礼の儀式。結婚した少女ヘルガ（15歳）と義妹アグネ（12歳）は機織り小屋から手を取り合って丘の中腹へ走り出す。嵐の夜、難破した帆船から流出した積荷の所有権を争って、唯一の生存者ヨハン（リューベックの商人）と島民との間で決闘裁判が行われることになる。ゴットランドの有力な農民ソルゲル（アグネの父）の代理にギースリ（アグネの母方の従兄）、足を負傷したヨハンの代わりにヘルガが戦う。ハンデのある決闘に勝利したヘルガは悪魔に憑かれた野獣フェンリル（狼女）と噂される。ヘルガを見守るユーリィ（ノヴゴロド・リュジン区の若い商人）と完全奴隷のマトヴェイ（俺）。バルト海・北海に渡るヴィスビュー、リューベック、ノヴゴロドを巡る交易に身を投じる女商人の物語だが、ゴットランドの女性たちの機織りのように、小説、戯曲、詩歌（引用）を縦横に織り込んだ構成に驚かされる。齢92歳にして、緻密で実験的な物語を紡ぎ続ける著者にはリスペクトしかない。
b ビハインド・マスク （books）山尾悠子唯一の長編
『仮面物語 或は鏡の王国の記』 （徳間書店 1980）が43年ぶりに復刊（国書刊行会 2023）された。作者（当時24歳）は雑誌掲載するつもりで中編 ｢ゴーレム｣（150枚）を構想して書き始めていたが、諸般の事情により書き下ろし長編（400枚）として書き直すことになった。Ｇ、Ｆ、Ｋなどの登場人物名をアルファベット記号から、癖の強い人工的な漢字名（善助、加賀美、聖夜、不破、間久部、櫂、果星など）に、舞台も名無しの土地ではなく「鏡市」に変更。登場人物を必要以上に多く増やして、水増ししたことを後悔して、長らく封印していたという。帝王、影盗み（彫刻師）、詩人（図書館司書）、人形師、魔術師、鉄仮面ゴオレム（粘土人形）、アマデウス（自動人形）、虎などが暗躍する異世界。｢影盗みと鏡｣ ｢仮面の翳｣ の二部構成は
『飛ぶ孔雀』 （文藝春秋 2018）と通底するところも少なくない。簡易版「ゴーレム」は
『山尾悠子作品集成』 （国書刊行会 2001）に書き下ろしで収録された。今回復刊したのは長年に渡る担当編集者Ｉ＊＊氏への餞らしい。
b オー・モノリス （music）英ブライトンで結成されたイカ野郎たち（Squid）の2ndアルバム
《O Monolith》 （Warp 2023）。プロデュースはDan Carey（Black Midi、Fontaines D.C.）、ピーガブのスタジオ（Real World）でレコーディング、John McEntire（Tortoise）がミックスしている。ロココ期の仏画家ジャン・オノレ・フラゴナールの絵画 ｢ぶらんこ｣
（The Swing 1767–8） に触発された
〈Swing (In A Dream) 〉 、夜中に悪魔が出るという英ウィルトシャー州にある新石器時代の埋葬室（burial chamber）から採ったという〈Devil’s Den〉、コロナ禍の閉鎖的な体験からアニミズムへの強迫観念に囚われたOllie Judge（ヴォーカル、ドラムス）が死について歌う
〈Undergrowth〉 、ブリストルの ｢キル・ザ・ビル抗議活動｣
（Kill The Bill protests） の発端となった警官の残虐行為に対する想像力豊かな反応だという
〈The Blades〉 、ローマ人の入植者が英国に連れて来た架空のネズミの物語〈If You Had Seen The Bull’s Swimming Attempts You Would Have Stayed Away〉など、全8曲・42分。三面見開きデジパック仕様、歌詞記載なし。店頭抽選でＢ賞
（刺繍ワッペン） が当たった。
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別館ミニ・ブログ「スニーズ・ラブ」 のエクストラ・ヴァージョン（EX 4）です
記事タイトルを「スニーズ・ラブ EX 4」から「パンダじゃないよ」に変更しました
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トマト・ゲーム
著者：皆川 博子 出版社：早川書房 発売日：2015/06/04 メディア：文庫（ハヤカワ文庫 JA ミ 6-6） 目次：トマト・ゲーム / アルカディアの夏 / 獣舎のスキャット / 蜜の犬 / アイデースの館 / 遠い炎 / 花冠と氷の剣 / 漕げよマイケル / 解説・日下 三蔵
False Lankum
Artist: Lankum Label: Rough Trade Date: 2023/03/24 Media: Audio CD Songs: Go Dig My Grave / Clear Away in the Morning / Fugue I / Master Crowley's / Newcastle / Fugue II / Netta Perseus / The New York Trader / Lord Abore And Mary Flynn / Fugue III / On A Monday Morning / The Turn
So-net
Name: Sony Network Communications Inc. Founded: 1995/11/01 Owner: Sony Industry: Information and communication industry Headquarters: Shinagawa Seaside TS Tower, 4-12-3 Higashi-shinagawa, Shinagawa-ku, Tokyo, Japan
風配図 WIND ROSE
著者：皆川 博子 出版社：河出書房新社 発売日：2023/05/09 メディア：単行本 内容：1160年5月、バルト海交易の要衝ゴットランド島。
流れ着いた難破船の積荷をめぐり、生存者であるドイツ商人と島民の間で決闘裁判が行われることとなった。重傷を負った商人の代闘に立ったのは、15歳の少女ヘルガ。義妹アグネが見守る中、裁判の幕が開き、運命が動き出す
仮面物語 或は鏡の王国の記
著者：山尾 悠子 出版社：国書刊行会 発売： 2023/05/26 メディア：単行本 目次：プロローグ / 影盗みと鏡（彫刻師は粘土を買いにゆく / 詩人の煩悶とその苦境 / もう一人の証言者が登場する / 影盗みは読書もする / 鏡の仮面が二重館に氾濫する / ついに殺人事件も起き）/ 仮面の翳（自動人形が鍵を持つ / 誰かがどこかで目醒める / 柩の中身についての混乱が生じる / 魔術師の弟子、或は預言者 / 泥人形にも考えがあることが判る / 水上街炎上図 / その後の軌跡さまざま / 芸術家が悲鳴をあげるまでのいきさつ / 再び鏡の仮面が二重館に氾濫する / 旅のおわりとはじまり）/ エピローグ / 新版後記
O Monolith
Artist: Squid Label: Warp Date: 2023/06/09 Media: Audio CD Songs: Swing (In A Dream) / Devil’s Den / Siphon Song / Undergrowth / The Blades / After The Flash / Green Light / If You Had Seen The Bull’s Swimming Attempts You Would Have Stayed Away
当方のブログに遊びに来ていただいてありがとうございます。
猫と音楽、そしてテキスト、最高ですね。
今後とも宜しくお願い致します。
by complex_cat (2023-08-11 14:27)
Googleに最新記事が反映されない弱小ブログを褒めてもらって嬉しいなぁ。
余り親しくないような知人の死よりも、いつも可愛がっていたネコの死の方が悲しいと語る吉本隆明の「ねことば」が胸に沁み入る真夏です。
by sknys (2023-08-11 20:25)