6つも桃包む [p a l i n d r o m e]
山尾 悠子 「夢の棲む街」
□ 鳴いて露地またぐ獏、恋う告白、玉城ティナ
近所を散歩していた玉城ティナは甲高い声を耳にした。子ネコが鳴いているのかと思って露地裏に入ると、白黒ツートンカラーの獏がいた。動物園から逃走したのだろうか、それとも民家から脱走したペットなのだろうか?‥‥突然の出遭いにビックリしていると、人に馴れているのか獏の方から近寄って来た。さらに驚いたことに人間の言葉を喋ったのだ。〈夢喰い虫〉のバクは街の噂を収集して街中に広める仕事をしていた。ある夜、漏斗状の街の中央広場にある円形劇場が崩落して奈落の底へ落ちた。硝子天井が砕け散り、虚空に舞い降る夥しい羽毛の渦を浴びて何も見えなくなり、羽毛が気管に詰まって息が止まって意識を失ったが、気がづくと見知らぬ街にいたという。「ここは一体どこなのですか?‥‥誰かの夢の中に入り込んでしまったのでしょうか」と彼女に訊ねる。「これは私の見ている夢なのかもしれない」とティナは疑う。「夢の棲む街」を読んで就寝した昨夜の夢なのではないかと。
□ ニャンドロイドは十色問屋に
『アンドロイドは電気羊の夢をみるか?』(1968)の舞台は最終世界大戦後、死の灰(放射能物質)に汚染された地球。米サンフランシスコの高層集合住宅に住むリック・デッカード刑事は去年破傷風で死んでしまった羊のグルーチョの代わりに屋上で「電気羊」を飼っているが、植民惑星の火星から逃亡して来たアンドロイドの懸賞金で本物の動物を買うことを決心する。稀少な動物を所有していることがステータスになっていたからだ。アイボ(AIBO)は20年前にソニーが開発・販売していた「自律型エンタテインメントロボット」。PKD流にいえば「電気犬」である。ロボット事業からの撤退によって、2006年に製造中止となってしまったが、2017年に新アイボ(aibo)として復活した。アップルもアイボよりも一回り小さなネコ型ロボット(iCat)の開発を極秘に進めていた。2019年末のクリスマス商戦に発売予定。赤・青・緑・黄・黒・灰・橙・紫・茶・ピンク‥‥アップル製品を取り扱う問屋にはカラバリ全10色の可愛いニャンドロイドたちが出荷を待っている。
□ キャット棄権、力むキリン、激突山羊
202X年夏、灼熱地獄の東京で「第1回アニマル・オリンピック」が開催された。ライオン、トラ、ゾウ、キリン、サイ、ゴリラ、クマ、パンダ、コアラ、カンガルー、ワニ、コンドル、イルカ、ペンギン‥‥など、世界各地の棲息する野生動物たちが新国立競技場に集結する。各国の代表ではなく、それぞれの動物の代表として参加しているところがヒューマン五輪との大きな違い。陸上競技の花形といわれる「100m走」の決勝は優勝候補ナンバー1のチーターが体調不良(下痢)で急遽棄権するというアクシデントが起き、金メダル争いは混沌として来た。決勝に進出した四つ足動物はライオン、クマ、オオカミ、キリン、ガゼル、バッファロー、ダチョウ、ウサギ、ネコの8頭。スタート直後、1コースを走っていたキリンが暴走してコースを外れて審判員の山羊に激突(失格)。身の危険を感じた2コースのネコは走行を途中で止めて棄権した。優勝したのは皮肉にも可愛いガゼルちゃんだった。
□ どーもくんは反撃。機嫌はパンク・モード
「NHKをぶっ壊す!」という威勢の良いスローガンを掲げて参院選挙に当選した「N国」代表の物騒な言動は兎も角、「スクランブル有料放送化」という主張には賛同する。家にTVがあるだけで、NHKを視聴可能な環境にあるだけで受信料を毎月支払わなければならないという徴収制度には納得が行かない。そもそもNHKを殆ど視ることがないというか、民放局を含めて余りTVを視ない。日本国内にTVが普及する前、紙芝居のオジさんから只見はダメと注意されたものだが、視てもいない「電気紙芝居」に金を払わなければならないのは子供心にも理不尽と映るだろう。民放BSやCSのようにスクランブル放送にして、視たい人だけが料金を支払う方が理に適っている。地震や津波、台風情報など国民の生命に関わる緊急情報は無料放送日のようにスクランブルを解けば良いだけの話だ。地上波だけでなく、BSやオンデマンドからも使用料金を別途徴収するというのだから呆れる。NHK(の集金人)は村上春樹を「ウソつき呼ばわり」するよりも、お金を払っても視たい番組作りに精進するべきである。
□ ヤンバルクイナ午後来ない、来る?‥‥パン屋
チコちゃんが3人に質問する。「なんで恐竜はいないの?」‥‥永遠の5歳児の解答は意外にも「恐竜はいる」だった。脊椎動物は進化の過程で魚類と両生類に分かれ、両生類から哺乳類、爬虫類に枝分かれして来た。爬虫類はトカゲ、ワニ、翼竜、恐竜に分類され、さらに恐竜は鳥盤類(トリケラトプス、ステゴサウルスなど)と竜盤類(ティラノサウルス、鳥類など)に分かれる。爬虫類の肢は横向きに生えているが、鳥類や恐竜の肢は下向きに生えている。1990年代に羽毛恐竜の化石が数多く発見されたことからも、鳥類と恐竜が仲間であることが分かって来た。6600万年前、地球に巨大隕石が衝突して恐竜は絶滅したけれど、環境の変化に適応した鳥類は生き延びた。巨大な恐竜は絶滅したのではなく、可愛い鳥類に進化したと考えると、都会の鳩やカラスまでもが愛おしくなる。沖縄本島北部に生息する天然記念物で絶滅危惧種のヤンバルクイナ(山原水鶏)ならば尚更である。
□ 「帰ってきた時効警察」 罪は3つ。在家、雨後死、滝で杖が
「帰ってきた時効警察」(テレ朝 2007)から12年振りに「時効警察」(2006)が復活した。総武署・時効管理課の霧山修一朗(オダギリジョー)は迷宮入りした未解決事件を趣味で捜査する。時効になっているので事件を解明しても「犯人」を罪には問えない。「この件は誰にも言いません」と書かれたカードを手渡すだけである。2010年に殺人事件の時効が撤廃されたが、時効管理課は存続していた。米FBIに出向していた霧山が帰国して「怪訝の滝・殺人事件」を再調査する。1994年、上総武市の滝で溺死していた在家の男の死因は撲殺だった。凶器は滝壺の底に沈んでいた金属製の杖。死亡時刻は前夜に降った大雨の後と断定された。殺人・強盗・放火の凶悪事件。被害者の家は全焼し、金品も盗まれていた。三日月しずか(麻生久美子)、十文字疾風(豊原功補)、又来(ふせえり)、サネイエ(江口のりこ)、蜂須賀(緋田康人)、諸沢(光石研)、熊本(岩松了)‥‥一癖も二癖もあるレギュラー陣に、新人刑事の彩雲真空(吉岡里帆)、鑑識課の又来康知(磯村勇斗)が捜査する。
□ 公家、奈良で巫女穢した。わたし駆け込み寺、嘆く
日本の僧侶が結婚して子供までいるのは腑に落ちない。世俗から離れ、煩悩を絶ち、家庭生活を捨てて出家した男に妻子がいるのは明らかに矛盾していないだろうか。生臭坊主・破壊僧という誹りから間逃れない。尼僧も結婚・出産しても良いことになっているらしいが、たとえば出家して仏門に入った瀬戸内寂聴に家族がいたら世間にどう思われるだろうか。閑話休題。ある公家が奈良の神社で巫女をレイプした。公家とは日本の朝廷に仕える貴族、今風に言えば政府に仕える高級官僚であろうか。特権階級の地位と権力を笠に着て幼気な処女を穢すとは鬼畜にも劣る言語道断の残虐行為である。ところが昔も今も変わらぬ世の常、時の権力者よって握り潰されてしまった。このまま泣き寝入りするかと思われた巫女は身の危険を感じて、京都の駆け込み寺へ逃げ込んだ。少女は嘆いて泣きながら住職に懇願した。その後出家して尼僧になった少女は小鳥に変身して空を自由に飛翔したという‥‥「これは少しの教訓を無しともしない昔むかしの絵ものがたり」(山尾 悠子 「小鳥の葬送」)。
□ 寝屋酷い!‥‥寸断、停電、断水、飛び屋根
2019年9月9日未明、関東地方に上陸した台風15号は千葉県一帯に甚大な被害を及ぼした。「コンパクト」という気象庁の予報が1人歩きして甘く見ていたのか、行政機関の初期対応の遅れも指摘されている。台風一過から1週間も経つのに、千葉県内の約11万戸で停電が続いている。最大瞬間風速57.5m(千葉市中央区)の暴風で、電柱や鉄柱などが倒壊、街路樹なども倒木、民家の瓦屋根も吹き飛んだ。交通・情報網は寸断され、停電と断水でライフラインも絶たれた。ある民家の住人は耳を劈く途轍もない轟音で目が覚めると、寝室から夜空が見えた。屋根が吹き飛んで、寝室は一瞬にして青天井となった!‥‥エアコンが使えずに熱中症で緊急搬送される高齢者も続出、復旧した際の漏電による通電火災も起きている。早急に屋根を修復したくても屋根瓦は入手困難。瓦職人(瓦葺き工事業者)も後継者難で人手不足。壊れた屋根などを覆うブルーシートも足りないという。
□ 寒天売り「おあしす」が逗子あおり運転か?
「あおり運転」が頻繁にニュースで報じられている。どうしてこんなに危険な案件が急増しているのかと不審に思うかもしれないが、何十年も前から連綿として繰り返されている事案である。「あおり運転」によって重大事故が発生したから(死亡者が出たから)、クローズアップされているだけのこと。高齢者の自動車事故(ブレーキとアクセルの踏み間違いによる暴走)も同じ。ケータイやドラレコの普及で事件や事故の映像が残っていることもメディアで喧伝されるで要因になっている。コンビニや飲食店の「迷惑動画」も然り。幼児虐待や児童苛めなども日常茶飯事で、被害者が死亡や自殺しないとニュースにはならない。痴漢や盗撮も警察官や自衛官、代議士や教師などが捕まらないと新聞記事にも載らない。逗子で起きた「あおり運転」も連日行列が絶えない老舗「おあしす」の搬送トラックだったから、ワイドショーなどで大きく取り上げられることになった。甘味処「おあしす」のフルーツ餡蜜は絶品なのですが。
□ 岡上淑子の切り貼りキノコ、詩と絵、鵜の顔
「岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」(東京都庭園美術館 2019)では全コラージュ作品113点を展示していたが、展覧会終了後に未発表のフォトコラージュ1点が発見された。処分されずに残ってた米グラフ誌、コラージュの素材として使用した「LIFE」の中に紛れ込んでいたという。黒地にマジック・マッシュルームのような巨大キノコと「不思議の国のアリス」を想わせる少女、彼女のフォトコラージュには珍しく、数行の「詩」が添えられている。スカートを穿いた少女の顔が鳥(鵜)の頭部に挿げ替えられているところが、いかにも岡上淑子らしいシュールな作品である。黒い羅紗紙を使用していることから、初期のコラージュだと思われる。その当時、文化学院デザイン科の学生だった彼女はマックス・エルンストのコラージュ画集を見るまで、エルンストもシュルレアリスムも全く知らなかったというから驚きである。「国が負けて、女性が解放され、自由を探る時代になったと、若い私は単純に思っていました。コラージュは、そんな私の青春でした」と語っている。
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- 回文と本文はフィクションです。一部で実名も登場しますが、該当者を故意に誹謗・中傷するものではありません。純粋な「言葉遊び」として愉しんで下さい
- 〈チーター下痢、アリゲーター血〉(アニマルマニア)で決勝に棄権しました^^;
- 「絶景?リゾート?都心の屋上が大人気!」(NHK 2019年09月06日)を参照
- 「チコちゃんに叱られる!」(NHK 2019年8月30日)を参照しました
- 「時効警察・復活スペシャル」(テレ朝 2019年9月29日)も愉しみです^^
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- 著者:山尾 悠子
- 出版社:早川書房
- 発売日:1978/06/30
- メディア:文庫(ハヤカワ文庫JA)
- 目次:夢の棲む街 / 月蝕 / ムーンゲイト / 遠近法 / シメールの領地 / ファンタジア領 / 解説・荒巻 義雄
- 出演:オダギリジョー / 麻生 久美子 / 豊原 功補 / ふせえり / 光石 研 / 岩松 了
- メーカー:ポニーキャニオン
- 発売日:2019/04/17
- メディア:DVD-BOX(5DVD)
- 内容:時効の事件には、おいしいご飯の湯気が似合うと言っても過言では無いのだ / 偶然も極まれば必然となると言っても過言ではないのだ! / 百万人に無視されても、一人振りむいてくれれば人はしあわせ…じゃない? / 犯人の575は崖の上 / キッスで殺せ! 死の接吻は甘かったかも? / 恋の時効は2月14日であるか否かはあなた次第 / 主婦が裸足になる理由...
- 出演:オダギリジョー / 麻生 久美子 / 豊原 功補 / ふせえり / 光石 研 / 岩松 了
- メーカー:ポニーキャニオン
- 発売日:2019/04/17
- メディア:DVD-BOX(5DVD)
- 内容:嘘は真実を食べる怪物だと言っても過言では無いのだ! / 好きな理由よりも嫌いな理由の方がハッキリしてると言っても過言では無いのだ! / えっ!? 真犯人は霧山くん!? / 催眠術は、推理小説にはタブーだと言っても過言ではないのに… / 幽霊を見ても決して目をそらしてはいけないのだ / 青春に時効があるか否かは熊本さん次第! / ごく普通の主婦が...
2019-09-21 00:17
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