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オカノウエトシコ [a r t]


  • © Okanoue Toshiko, Invitation

  • ねこ童子のお話をしましょう。/ みなさんはねこのせなかをなでるとパチパチ音がするのを知っているでしょう。/ ねこ童子はあの電気でうつるねこのテレビを発明したのです。そのテレビにはスイッチもブラウン管もついていません。どんな形をしているのかって?つまりねこの形をしているのです。しっぽがあってひげがはえていてニャーというテレビです。/ テレビを見たいと思うねこは、ねこの電気屋のところへ行ってしかけをしてもらい、自分がテレビになってしまうのです。どこにうつるかって?‥‥つまりねこのあの丸い目玉にうつるのです。だからねこのテレビは持ちはこびは便利なかわりに、自分で自分のテレビを見るわけにはゆかないのです。/ よく夜中にねこが屋根の上などに集まっていることがあるでしょう。あれはみんなでせなかをこすり合わせて電気を起こしては、おたがいの目玉にうつるテレビを見ているのです。/ 何チャンネルかって?‥‥C・A・T=ねこチャンネルで "ねこ童子" の番組しかやりません。それはねこ童子が自分でテレビの電波を出しているからです。
    岡上 淑子 「ねこ童子」


  • ▢ 岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟(東京都庭園美術館 2019)
  • 庭園美術館(旧朝香宮邸)は庭園内にある美術館なので、六義園や古河庭園と同じく入口に売礼所があって、美術展の入館料か庭園入場料(一般200円)を払って庭内に入る(招待券にはポスターやチラシに使用された〈夜間訪問〉がデザインされているのに、当日券は美術館写真入りの汎用チケットだった)。旧朝香宮邸は鉄筋コンクリート2階建て(一部3階建て)の洋館で、内装はアール・デコ様式の凝った造りである。1950年代(1950~56)に制作した岡上淑子のフォトコラージュ、写真、日本画など100点余りを展示。1階大広間に女性の頭部を黒ネコに挿げ替えた〈マスク〉、バロック調のアパルトメントに馬や馬女たちがいる〈幻想〉、顔のないトレンチコートの女性が公園で5匹の犬を散歩させている〈沈黙の奇蹟〉の3点が架かっている。2階合の間には初の『岡上淑子作品集』(2015)や「岡上淑子コラージュ展」(高知県立美術館 2018)のタイトルになった〈はるかな旅〉や作者の一番好きな作品〈海のレダ〉なども展示されている。

    2階若宮寝室と居間にはマックス・エルンストのコラージュ・ロマン3部作『百頭女』『カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢』『慈善週間または七大元素』の原著や岡上淑子にエルンストのコラージュ画集を見せた瀧口修造からの書簡、展覧会の案内状(葉書)、北の間には彼女の作品が出品された展覧会のリーフレットや掲載されたグラフ・美術雑誌、コラージュの素材に使用した洋雑誌なども参考・関連資料として展示されていた。「LIFE」のイラン王族の結婚式が〈懺悔室の展望〉に、犬を連れて公園を散歩する男の写真が〈沈黙の奇蹟〉に、白波の立つ水上スキー写真が〈海のレダ〉に、「VOUGE」のバロック風のアパルトメントが〈幻想〉に、「Harper's BAZAAR」の白いウェディング・ドレスの広告が〈侵入者〉にコラージュ(デペイズマン)されたことが良く分かる。殿下居間には「プライヴェート写真」や洋裁の型紙、切り抜いたコラージュ・パーツ、妃殿下寝室にはコラージュ以降に撮ったフォト作品、殿下寝室にはスケッチや日本画などもあった。

    岡上淑子展はマチネとソワレの2部構成。マチネは「岡上淑子とモードの世界」「初期の作品」「瀧口修造とマックス・エルンスト」「型紙からフォトコラージュへ 」「コラージュ以降 」「その他関連資料」。本館(旧朝香宮邸)の1階と2階を見終えて、これだけなのかと少々物足りなく感じていたら、新館にも数多くのコラージュ作品が展示されていた。「懺悔室の展望」「翻弄するミューズたち」「私達は自由よ」という3幕構成で、米ヒューストン美術館所蔵の〈懺悔室の展望〉〈侵入者〉など12点も日本初公開されている。渡り廊下というか、一度外に出て新館(ソワレ)へ行くのだが、何の変哲もない展示室だったので、本館(マチネ)との落差に違和感を覚えた。インスタレーションという表現方法があるように、作品を展示する空間も作品の一部ではないかと痛感した。歴史的な建造物と新築の美術館の展示では自ずから鑑賞者の印象も異なるのだ。夜間開館日だったので、ゆったりと鑑賞出来た。庭園美術館を出ると、ライトアップされた夜桜が令しかった。

    「LIFE」「VOUGE」「Harper's BAZAAR」などのグラフ誌やファッション雑誌を切り貼りしているので、コラージュ作品も基本的に大きくない。小さな雑誌サイズばかりでは見映えが悪いと思ったのか、拡大した大型パネルが所々に展示されていたが、ブローアップした岩合光昭のネコ写真パネルとは異なり、コラージュ作品は必然的にボヤけてしまう(本館2階正面の〈幻想〉と新館エントランスの〈夜間訪問〉のポスター・パネルの2点だけは撮影可だった)。元々印刷されたグラヴィア写真を素材にしているので、たとえばヒグチユウコの原画展のように印刷された画集との違いに感嘆することはない代わりに、どの部分を切り貼りしたのか痕跡が良く分かる。〈廃墟の旋律〉〈恋の残骸〉など荒廃した風景の基にしたコラージュはバンクシーの「子猫」を思わせなくもない。机上のコラージュと現地に赴いてステンシルとスプレー缶で描くバンクシーの壁画はある意味で似ているかもしれない。〈舞踏会〉〈気まぐれ〉〈白い花束〉〈落下〉など、ネコやネズミをコラージュした作品も多い。

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  • ▢ 岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟(青幻舎 2018)岡上 淑子
  • 東京都庭園美術館で開催された「岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」の公式カタログ兼書籍。コラージュ作品113点を原寸大の大判サイズ(A4)で収録している。高知県立美術館「岡上淑子コラージュ展―はるかな旅」の公式図録として刊行された『岡上淑子全作品』(河出書房新社 2018)はモノクロ写真だったが、「沈黙の奇蹟」はコラージュした写真の色合いや紙質の違いが判別出来るように印刷されている。切り貼りした部分が背景にシームレスに溶け込んだ1枚のフォトコラージュというよりも、シュールで立体的なコラージュ作品という側面が鮮明化した。庭園美術館の展示(マチネとソワレの2部構成)とは異なり、ソワレの3幕「懺悔室の展望」「翻弄するミューズたち」「私達は自由よ」に、初期作品集「戯れ」を加えた4幕構成で、岡上淑子の詩文とエッセイ、瀧口修造の書簡とエッセイ、神保京子の論考「沈黙の薔薇 岡上淑子──鎮魂と祝祭のコラージュ」「年譜」「作品リスト」「作者本人に関連する主要文献」などを巻末に併録している。

  • ▢ 美しき瞬間(河出書房新社 2019)岡上 淑子
  • サブタイトルに「The Essence of Toshiko Okanoue」とあるように、岡上淑子の代表的なコラージュ作品40点を収録したハンディ・サイズの画集(46変形・96頁)。見開き左頁に自筆テキスト・インタヴューなどから抜粋した言葉、右頁にコラージュ作品をレイアウトしている。戦後アメリカの進駐軍が日本に残して行った「LIFE」「VOGUE」などの洋雑誌を素材として切り貼りしているので、コラージュ作品自体も大きくない。絵画集ならば大型本の方が見映えも良いけれど、1940年代後半から50年代の洋雑誌に掲載された白黒写真のコラージュは逆に縮小した方が鮮明に映る。《あの当時、「私達は自由よ」と書きましたが、その後の歳月は、自由とは青春を磨いてゆくものであることも教えてくれました。》‥‥コラージュに添えられた岡上淑子の言葉も感慨深い。巻末に2篇のエッセイ、武満浅香の「私達の自由と希望」と巌谷國士の「岡上淑子さんのはるかな旅」「岡上淑子略年譜」「収録作品一覧」「収録テキスト出典一覧」を併録。

  • ▢ はるかな旅(河出書房新社 2015)岡上 淑子
  • 国内初の「岡上淑子作品集」は自選コラージュ作品77点と写真を含む全作品145点の一覧表(サムネイル付き)を収録。1950年、彼女がコラージュ制作を始めた契機は文化学院デザイン科の授業「貼り絵」だった。千切った色紙の中に笑顔の女性の顔が入っていたことから閃いたという。初期は黒い羅紗紙に貼っていたが、マックス・エルンストのコラージュ(画集を見るまでエルンストもシュルレアリスムも全く知らなかった!)の影響で、背景にも洋雑誌の写真を使うようになった。エルンストのコラージュが複数で一連の物語を形成するのに対して、岡上淑子のフォトコラージュは1枚の作品の中に魅惑的なストーリが凝縮されている。廃墟や荒野、女性や空や海などが頻出するのは戦後日本の復興期と重なるイメージなのかもしれない。《国が負けて、女性が解放され、自由を探る時代になったと、若い私は単純に思っていました。コラージュは、そんな私の青春でした。》‥‥巻末にインタヴュー「夢多き時代」、エッセイ「私とコラージュ」、略年譜、金子隆一の「夢の遭遇」を併録。

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  • ▢ 岡上淑子全作品(河出書房新社 2018)岡上 淑子
  • 岡上淑子は「幻のコラージュ作家」だった。1950年代に「LIFE」「VOUGE」「Harper's BAZAAR」などのアメリカ・グラフ雑誌に掲載された写真を切り抜いて貼り合わせた作品はマックス・エルンストのコラージュのようにシュールで美しく、妖しく心を掻き乱す。結婚を機に創作から遠ざかり、長らく忘れ去られていた。1996年に再発見されると、国内外で個展が開かれて、海外の美術展に出品・所蔵されるようになった。金井美恵子は『ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ』(新潮社 2012)の表紙カヴァに〈彷徨〉を使用し、フォトコラージュ6点〈破船〉〈昇天〉〈呼び声〉〈廃墟の旋律〉〈王女〉〈孤独の讃歌〉をモチーフにした小説集『カストロの尻』(2017)も上梓した。高知県立美術館「岡上淑子コラージュ展―はるかな旅」の公式図録として刊行された『岡上淑子全作品』はコラージュ128点、写真22点を収録。新聞に掲載されたショード童話「ねこ童子」「コグマのゴンベ」なども再録されている。

  • ▢ カストロの尻(新潮社 2017)金井 美恵子
  • 巻頭と巻末のエッセイ2篇と10篇の短篇で構成された連作集。エッセイと小説の文体に差異がないので違和感なく読み通せる。岡上淑子のコラージュを掲げた6篇は「アメリカの写真雑誌──1940年代後半から50年代にかけての──を使用したフォト・コラージュ作品から揺曳された映像が、私の記憶の中の映像や記憶の断片と結びついて書かれた」という。マックス・エルンスト風のシュールなコラージで、プルースト、後藤明生、安岡章太郎、ジェラール・ド・ネルヴァル、宇野浩二、ヴィクトル・ユーゴー、チェーホフ、山田宏一、ロラン・バルト、スタンダールなどをエピグラフや文中に引用した小説も括弧()やダッシュ(──)で継ぎ接ぎされている。金粉ショーの踊子に夢中の狂恋男(衣料問屋の元番頭)が「尼」を「尻」と読み間違えた「カストロの尻」。鴎外と森娘(森茉莉)の秘められたエピソードを発見したエッセイ「小さな女の子のいっぱいになった膀胱について」なども出色の面白さ。

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    岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟

    岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟

    • アーティスト:岡上 淑子
    • 会場:東京都庭園美術館
    • 会期:2019/01/26 - 04/07
    • メディア:コラージュ / 写真 / 日本画
    • 展示構成:マチネ 岡上淑子とモードの世界 / 初期の作品 / 瀧口修造とマックス・エルンスト / 型紙からフォトコラージュへ / コラージュ以降 / その他関連資料 / ソワレ 懺悔室の展望 / 翻弄するミューズたち / 私達は自由よ


    岡上淑子フォトコラージュ沈黙の奇蹟

    岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟

    • 著者:岡上 淑子
    • 出版社:青幻舎
    • 発売日:2019/02/08
    • メディア:単行本(ソフトカヴァ)
    • 目次:懴悔室の展望 / 翻弄するミューズたち / 私達は自由よ / 戯れ / 岡上淑子 詩文、エッセイ / 瀧口修造 書簡、エッセイ / 神保京子 論考 / 年譜 / 作品リスト / 主要文献


    美しき瞬間(The Essence of Toshiko Okanoue)

    美しき瞬間(The Essence of Toshiko Okanoue)

    • 著者:岡上 淑子
    • 出版社:河出書房新社
    • 発売日: 2019/02/22
    • メディア:単行本
    • 目次:祈禱室の薔薇 / 私とコラージュ / 夢のしずく / 私達は自由よ / 私達の自由と希望(武満浅香)/ 岡上淑子さんのはるかな旅(巌谷國士)/ 岡上淑子略年譜 / 収録作品一覧 / 収録テキスト出典一覧


    岡上淑子全作品

    岡上淑子全作品

    • 著者:岡上 淑子
    • 出版社:河出書房新社
    • 発売日:2018/01/18
    • メディア:ハードカヴァ
    • 内容:優美で不穏、繊細で大胆―幻のコラージュ作家の150作品を完全収録。高知県立美術館「岡上淑子コラージュ展―はるかな旅」公式図録

    カストロの尻

    カストロの尻

    • 著者:金井 美恵子
    • 出版社:新潮社
    • 発売日:2017/05/31
    • メディア:単行本
    • 目次:「この人を見よ」 あるいは、ボヴァリー夫人も私だ / 破船 / 昇天 / 呼び声、もしくはサンザシ / シテール島への、/ 胡同の素馨 / 廃墟の旋律 / 雷鳴の湾──王女、あるいはMiscellany / 雷鳴の湾──Incident / 「孤独の讃歌」 あるいは、カストロの尻 / カストロの尻──Miscellany / 小さな女の子のいっぱいになった膀胱について / 本を燃やす、/ パナ...マ・ドンパチ・ゲイシャ

    はるかな旅 岡上淑子作品集

    はるかな旅 岡上淑子作品集

    • 著者:岡上 淑子
    • 出版社:河出書房新社
    • 発売日: 2015/03/26
    • メディア:ハードカヴァ
    • 内容:幻のフォト・コラージュ作家、半世紀の時を超えて国内初の作品集、待望の刊行。自選作品77点および全作品一覧表収録の決定版

    コメント(2) 

    コメント 2

    ぶーけ

    美女と野獣(野鳥?怪鳥?)、と思ったら、猫さんになって、
    白黒かとおもったら、カラーになって。(*'▽')
    庭園美術館、素敵ですよね。
    岡上 淑子さん、知らなかったけど、美術館にあいますね。^^
    by ぶーけ (2019-04-13 18:55) 

    sknys

    掲載する写真は1枚と決めているので、3枚重ねてみました^^
    本館は岡上さんのコラージュ作品を展示する最適の場所だったのに、
    新館はフツーの美術館だったので拍子抜けしちゃった。
    ライトアップされた夜桜も綺麗でしたよ。
    by sknys (2019-04-13 20:00) 

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