F A V O R I T E ー A L B U M S 1 4 [f a v o r i t e s]
MAGDALENE (Young Trucks 2019) FKA twigs
FKAツイッグスは英グロスタシャー・チェルトナム生まれの女性SSW。デビュー・アルバム《LP1》(2014)から5年、失恋や病気(子宮筋腫)を経てリリースされた2ndアルバムは傷心と痛みから生まれた。ソプラノ・ヴォイスとインダストリアル・ノイズ、破壊的なビートと奇妙なサンプリングなどの織りなす拗れたアヴァンポップ。多数のアーティストとの共同プロデュースだが、最も深く貢献しているのはNicolas Jaar。全9曲・39分。見開き紙ジャケ、6連綴りの歌詞カード付き 280
GRANDEZA (Risco 2019) Sessa
サンパウロのインディ・ロック・バンド、Garotas Suecas (スウェーデン娘たち)に在籍していたSergio Sayegの1stソロ・アルバム。白昼夢のようなサイケデリア小宇宙に、トロピカリアの柔らかい陽光が降り注ぐ。新ミナス派のGustavitoにも相通じる脱力系の生ギター弾き語りタイプのSSWだと思われるが、フリー・ジャズ・バンドのMusica de Selvagemと共演した〈Tanto〉などの意外性もある。全11曲・30分。デジパック仕様、9つ折りポスター&歌詞(表・裏)付き 279
DONT SMILE AT ME (Darkroom 2019) Billie Eilish
アナログEP(2017)がボーナストラック1曲を追加してCD化された。全9曲・29分(2018年発売の国内盤は6曲多い全14曲を収録)。〈Watch〉〈Ocean Eyes〉〈&Burn〉の3曲はプロデュースした兄Finneas O'Connellの提供曲。ボートラの〈&Burn〉はVince Staplesとコラボしている。EPリリ ース時、2001年12月生まれのBillie Eilishは15歳だった。世界中に蔓延る真似っ子少女たちを揶揄する〈COPYCAT〉のMVは非公式のリリック・ネコアニメの方が面白いにゃん 278
THE SINGLES (Bikini Kill 2018) Bikini Kill
自主レーベルからのリイシュー編集盤。シングル集(1998)は3枚のEPをコンパイル。《New Radio》(1993)の3曲はJoan Jettのプロデュース。《Anti-Pleasure Dissertation》《I Like Fucking》(1995)の6曲は同時期のレコーディングで、Tobi Vaiがヴォーカルの〈In Accordance To Natural Law〉〈I Hate Danger〉の2曲はKathleen Hannaがベース、Kathi Wilcoxがドラムスを担当。全9曲・17分半と短いが、Pitchfork 「BEST NEW REISSUE」(10点)を獲得 277
THE PRACTICE OF LOVE (Sacred Bones 2019) Jenny Hval
ジェニー・ヴァルはノルウェー・トベーデストラン生まれのSSW。オーストリアの女性美術作家ヴァリー・エクスポート(Valie Export)の同名ドラマ(1985)から採った7thアルバムは実験的なアートポップからトランス・ミュージックへ踏み出す。兎の穴に落ちたアリスを描く〈High Alice〉、「アメリア・イアハートを書いたジョニ・ミッチェルのようにジョージア・オキーフの曲を書きたい」 と歌う〈Six Red Cannas〉など‥‥全8曲・34分。歌詞ブックレット(24頁)付き 276
JE SUIS AFRICAIN (Naive 2019) Rachid Taha
2018年9月12日に急逝したラシッド・タハのラスト・アルバム。死因は心臓発作だったが、1987年に「アーノルド・キアリ奇形」を発症していたという。スリップケース入り三面デジパック仕様で、見開きに描かれたラシッドを囲む偉人・著名人30数名の似顔絵‥‥マイルス・デイヴィス、エルヴィス・プレスリー、マルレーネ・ディートリヒ、ボ・ディドリー、ウム・クルスームなどの名前は〈Je Suis Africain〉の他4曲にも登場する。全10曲・37分。歌詞ブックレット(16頁)付き 275
NO HOME RECORD (Matador 2019) Kim Gordon
キム姐さんのソロ・デビュー・アルバムはアヴァンポップ系プロデューサーJustin Raisenと共同制作。Arto Lindsayみたいなノイズ・ギターが炸裂する〈Air BnB〉、トラップ(Trap)とマリンバを組み合わせた〈Paprika Pony〉、Sonic Youthの〈Razor Blade〉を巨大凶暴化させた〈Murdered Out〉、狂乱騒音パンクの〈Hungry Baby〉、「私の乳首は震えて、密かに勃起している」 と囁く〈Get Yr Life Back〉など全9曲 ・39分。紙ジャケ仕様、4つ折りポスター・カード入り 274
ENERGETIC MIND (Small Pond 2019) Bonniesongs
ボニーソングスは豪シドニーのSSW、Bonnie Stewart(アイルランド生まれ)のソロ・プロジェクト。デビュー・アルバムはBjorkやJulianna Barwickを想わせる多重ヴォーカル、ループペダル、ポリリズムなどが織りなす浮游感のあるファンタジアへ誘う。Grouperのようなアンビエントの後半にドラムスが闖入する〈123 Reprise〉。女フランケンシュタインになってしまう〈Frank〉。7拍子ポリリズムの〈Ice Cream〉など 「夢のような実験的インディ・フォーク」 と称される 273
MARGEM (Sony Music 2019) Adriana Calcanhotto
水面に浮ぶ夥しいペットボトルに蝟集された短髪女性。アドリアーナ・カルカニョットの10thアルバムは「海」をテーマにした3部作の最終章‥‥《Maritmo》(1998)、《Maré》(2008)に続くアルバムはカヴァ2曲を含む全9曲・28分とコンパクトだが、稠密なポリリズムで魅了する。バックはBen Gil率いるTonoの3人で、彼女のセルフ・プロデュース。自ら髪を切って丸める〈Margem〉、部屋と自分自身を青い塗料で塗りたくる〈La La La〉などのPV6曲も充実している 272
HOT KATS (Chinese Man 2019) Baja Frequencia
バハ・フレケンシア(Baja Frequencia)は仏マルセイユの男性デュオ、AzuleskiとGoodjiu。EP《Catzilla》 (2017)に続くデビュー・アルバムも猫ジャケ(Frank Zappa《Hot Rats》(1969)のパロディ)だった。クンビア、アフロ、レゲエ、ヒップホップなどを混ぜ合わせたトロピカル・ベース・ミュージック。〈Windrush Scandal〉にジャマイカの女性歌手Warrior Queen、〈Crisis〉にキューバの女性ラッパー La Dame Blancheなど、多彩なゲストが参加している 271
PRACTICE CHANTER (Le Saule 2019) Leonore Boulanger
レオノール・ブーランジェの4thアルバム。Juana Molinaを解体して再構成したような摩訶不思議な世界。シャンソン、民族音楽、現代音楽をコラージュしたアヴァン・ポップ。レオノールの「もう1つの顔」Jean-Daniel Bottaとの共作。「あらゆる声域で、あらゆる言語で、絶えず歌っていることが好き」 と語るように、〈Chant Tomodachi〉は日本語で歌う。変幻自在の人懐っこいヴォイスに魅惑される。クレア・モレルの描画「箱女」も謎めいている。見開き紙ジャケ仕様 270
SOLILOQUY (Barclay 2019) Lou Doillon
Jane Birkinの末娘Lou Doillonは若い頃の母親に生き写しだが、母譲りのウィスパー系ヴォイスを期待すると一蹴される。女性ロッカー並みの凄みを秘めたヴォーカルなのだから。フレンチ・ポップには不向きな声質のためか、3rdアルバムもロック色が濃く、サウンドもハードではないけれどヘヴィ。暗鬱な色調の中で、Cat Powerとデュエットした〈It's You〉だけはアルバム・カヴァのような淡い色彩で描かれる。彼女の作詞作曲による全12曲・40分。歌詞ブックレット(16頁)付き 269
WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO? (Darkroom 2019) Billie Eilish
英ノリッジの少女デュオLet's Eat Grandmaに続いて、米LAから十代のSSWがデビューした。映画「エクソシスト」を想わせる白目少女のカヴァ、小悪魔風のヴォイス、低音を強調したサウンド‥‥これがBillie Eilishのアイディアならば見上げたものだが、良くも悪くも裏で少女を操る男の影が見え隠れすると訝しんだら、兄(Finneas O'Connell)の全面プロデュースだった。多感な17歳の今をクールに歌う、全14曲・43分。三面デジパック仕様で、歌詞はインナーに記載されている 268
GRID OF POINTS (Kranky 2018) Grouper
Grouperの11thアルバムは全7曲・22分。PitchforkやNMEなどのレヴューも判を押したように「22-minutes」と書いている。レヴュワーもリスナーもレーベルも困惑しているようだが、Liz Harris本人は一週間半のレコーディング中に高熱を発して、突然中断されたことが兆候となり、短いままで完成したと述べている。《Ruins》(2014)の続編的な内容で、全編ピアノの弾き語り。意趣返しなのか、別名義Nivhekの《After Its Own Death》(2019)はタイトルも収録時間も長い 267
MANOS DE CIELO (2017) Milagros Majo
ミラグロス・マホ(Milagros Majo)はブエノス・アイレス生まれの女性SSW。デビュー・アルバムは彼女のンゴニ、チャランゴ、クリスタロフォン(Cristalofón)、口琴(Arpa de boca)、クラシック・ギター(Guitarras Criollas)に、ギター、ベース、ピアノ、ヴィオラなど‥‥アフリカや南米の楽器の優しい音色に可愛らしいヴォーカルが戯れる。Ezequiel Borra(ギター)でゲスト参加。両手を上げたカヴァ・イラストも彼女が描いている。見開き紙ジャケ、全10曲・31分 266
BUOYS (Domino 2019) Panda Bear
アニコレと判別がつかないこともあったけれど、パンダ・ベア(Noah Lennox)の6thソロ・アルバムは趣きが異なる。大海原を自由に泳ぐイルカのように、オートチューンが音像空間を揺蕩う〈Dolphin〉。星間戦争ゲームみたいな〈Cranked〉 、人懐っこい電子音とアクースティック・ギターの融合はフリ ー・フォークの最新進化型。ダブ空間を浮游するヴォーカルに身を任せていると、躰の輪郭が曖昧なって溶け出してしまいそう。銀河の壺直し職人ジョー・ファーンライトのように 265
REMIND ME TOMORROW (Jagjaguwar 2019) Sharon Van Etten
2017年に男児を出産して母親になったSharon Van Ettenの5thアルバム。2人の子供が散らかした「ゴミ部屋」のアルバム・カヴァは映画監督キャサリン・ディークマン(Katherine Dieckmann)が15年前に撮った写真。John Congletonのプロデュース、Jamie Stewart(Xiu Xiu)、Stella Mozgawa (Warpaint)などが参加したサウンドはダビーでダークでダンサブル。幽霊が出て来そうな黙示録的な空気感を《Double Negative》(2018)と共有するというレヴューもある 264
SPRAINED ANKLE (6131 2015) Julien Baker
「挫いた足首」は米テネシー・メンフィス生まれの女性SSWのデビュー・アルバム。大学在学中に書いた曲をヴァージニア・リッチモンドのスタジオで録音。1人多重唱の〈Brittle Boned〉とバスドラの入った〈Vessel〉の2曲は後にレコーディングされた。ラストのピアノの弾き語り〈Go Home〉を除き、彼女のヴォーカルとギターだけのシンプルなサウンドだが、切々と吐露される無垢で可憐なヴォイスに魅了される。全9曲・34分。三面紙ジャケ仕様、歌詞はインナーに記載 263
LOS ANGELES (Universal 2017) Rosalia
ロサリア(Rosalia)のデビュー・アルバムはRaul Refreeのプロデュース。彼のギターだけの伴奏で、死をテーマにしたフラメンコの古典を歌うコンセプト・アルバム。ラスト曲のWill Oldham(Bonnie "Prince" Billy)の〈I See A Darknes〉を除き、スペイン語で歌っている。彼女の内に秘めたパッションはパンキッシュでクール。「LOS ANGELES」 というアルバム・タイトルは「天使たち」という意味。全12曲・49分。見開き紙ジャケ仕様、歌詞ブックレット(12頁)付きです 262
QUIET SIGNS (City Slang 2019) Jessica Pratt
ジェシカ・プラット(Jessica Pratt)の3rdアルバムは初のスタジオ録音。全9曲・28分という小品ながら、白昼夢のようなシュールでサイケデリックな夢幻世界を紡ぎ出す。ジョン・カサヴェテスの映画 「Opening Night」(1977)からタイトルを採ったという、Matthew McDermottのピアノ・インストで始まる。彼女のギターに、オルガン、フルートなどの簡素な伴奏で歌う蠱惑的なヴォイスは唯一無二。童女にも魔女のようにも聴こえる。デジパック仕様、4折り歌詞カード付き 261
*
favorite-albums 1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 10 / 11 / 12 / 13 / 14 / 15 / 16 / 17 / 18 / 19 / 20 / sknynx 837
コメント 0