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F A V O R I T E ー B O O K S 2 4 [f a v o r i t e s]

  • 「男の娘(こ)」 たち(河出書房新社 2014)川本 直480


  • 「男の娘とは、生まれた時の生物学的性別が男性だった "トランスジェンダー" のこと」。子供の頃からバイセクシャルであることを自覚して 、女装していたという著者による 「男の娘」 たちへのルポルタージュ&インタヴュー。狭義のトランスジェンダー(女性ホルモンを投与しつつも、性転換を望まない人々)、クロスドレッサー(異性装者)、トランスセクシュアル(性同一性障害。女性ホルモンを投与し、性別適合手術を受けた人々)、MtF(Male to Female)など、全てを内包する言葉として、「男の娘」(広義のトランスジェンダー)という言葉を定義する



  • アタシと私(幻冬舎 1997)中山 美穂479


  • 歌手の 「アタシ」 とベース奏者の 「私」 が地上の天使になる夢物語。自宅マンションで火災(?)に遭った香音とバーで胸を刺された男。リボンに巻かれた箱の中から出たアタシがナイフで刺された 「私」 と出会う。男のアパートへ行き、女はココアを飲む。浴室で交互にシャワーを浴びるリボンで繋がった男女。一夜を過ごした男の胸は血で染まっていた。男の調達した食事とツリー、女が〈スターダスト〉を歌ってクリスマスを祝った2人をガス台の壁に空いた穴から隣室の夫婦が覗いていた‥‥約1カ月の休暇中に滞在先のLAで書いたミポリンの処女小説



  • 哀しいカフェのバラード(新潮社 2024)カーソン・マッカラーズ478


  • ある夜、寂れた田舎町に1人の見窄らしい小男(せむし)が来た。雑貨商を営むミス・アミーリアは遠戚だと主張するカズン・ライモンを招き入れて同居する。2人が開いたカフェは繁盛した。長身で内斜視の女主人は前夫マーヴィン・メイシーに恋われて結婚したが、邪険な塩対応で叩き出して10日後に離婚した。元々邪悪な人間だったイケメン男はガソリン・スタンドなどを襲った強盗罪で刑務所に服役中だった。6年後ミス・アミーリアはヘンリー・メイシーから兄マーヴィンが仮釈放されたと聞かされる。村上春樹(訳)、山本容子(銅版画)による中編小説



  • このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる / ハプワース16、1924年(新潮社 2024)
    J. D. サリンジャー477


  • 単行本未収録の中短編集 「アナザー・ナイン・ストーリーズ」。前半の6篇は 「ライ麦畑」 の主人公に纏わる短篇で、表題作は兄ヴィンセント軍曹の言述によって、ホールデン・コールフィールドが太平洋戦線で行方不明になった(戦死した?)ことが分かる。グラース家の長男シ ーモア(7歳)が夏のキャンプ地ハプワースから家族へ宛てた長い手紙を次男バディがタイプしたという設定の 「ハプワース」 は訳者・金原瑞人が翻訳に2カ月を費やしたというくらい訳すのも読むのも難儀な中編 。子供が長文を書けるのか、本を読めるのかという疑問が湧く



  • 猫社会学、はじめます(筑摩書房 2024)赤川 学(編)476


  • 16年間連れ添った愛猫 「にゃんこ先生」 を2011年に亡くして、「猫ロス」 に陥った編者が提唱する 「猫好きの、社会学者による、猫のための社会学」。「猫はなぜ可愛いのか?」(赤川学)、「私たちは猫カフェから何を得ているのか?」(新島典子)、「ふつうの猫しかいない 「猫島」 に人はなぜ訪れるのか?」(柄本三代子)、「猫から見た 「サザエさん」 ── 猫が 「家族」 の一員になったのはいつか?」(秦美香子)、「人と猫は、いかにして互いを理解し合っているのか?」(出口剛司)。巻末に赤川学と斎藤環の対談 「猫が教えてくれた、「ただ、いるだけ」 の価値」



  • ふしぎな鏡をさがせ(小学館 2024)キム・チェリン / イ・ソヨン(絵)475


  • 少年ジンがアリスのように鏡を通り抜けて、祖父(鏡の世界から来たおじいちゃん)の失くした手鏡を探しに行くファンタジー絵本。祖父のヒントを手がかりに、書斎の引き出しの鍵の暗証番号を見つけたり、黒猫キティと一緒に 「鏡は何色でしょうか?」 という問題を解いて、ベルサイユ宮殿行きの鏡のエレヴェータのドアロックを外したり。読者も 「付録の鏡シート」 を使って、ジンのように鏡文字を書いたり、万華鏡を手作りしたり、アナモルフォーシスを描いて遊べる。横尾忠則の 「アート書評」(朝日新聞朝刊 10/26)も鏡文字!



  • 3つの鍵の扉(晶文社 2013)ソニア・フェルナンデス=ビダル474


  • 少年ニコはベッドの上で動けなかった。「何かを変えたいのなら、いつもとちがうことをしよう」 というメッセージが天井に現われたのだ。ママに急かされて慌ただしく家から出たニコは遅刻するのにも構わず 、学校への坂道とは逆の方向へ上って行き、荒れ果てた大きな家の前で足を止めた。入り口の扉だけは真新しくて頑丈そうな鍵穴が3つもあった。素粒子界に迷い込んだニコが少年科学者エルドウェン、妖精Qキオーナ、小人イリーナ、シュレディンガーの黒猫に案内されて、ゼン・オー師匠に会いに行く。ファンタジー仕立ての素粒子論入門書



  • ギュスターヴくんとまぼろしのどうぶつ(白泉社 2024)ヒグチユウコ473


  • 猫頭・蛇手・蛸足(6本)のキメラ・キャット、ギュスターヴくんたち(10匹)が森へ未確認生物を探しに行く。彼らも聞き込みしたキノコも花も自分たちが希少生物だという自覚がない。幻の動物フィッケルペルネンクスはイタチやフェレットを大きくしたような体長約3mの四足動物。著者のオリジナルではなく、キューライス(坂元友介)の絵本を参考にして写実的に描いている。捕獲するつもりだったのに、仲良くなって遊んで帰り、ギュスターヴくん1号が未確認動物の生態を絵に描く



  • フリーダ・カーロ作品集(東京美術 2024)堀尾 眞紀子472


  • メキシコの画家フリーダ・カーロ(1907-1954)の絵画86点とポートレートなど42点を収録した大型本。フリーダは18歳の時、市電とバスの衝突事故に遭い、22歳で国民的壁画家ディエゴ・リベラと結婚した。重い後遺症と夫の浮気性に生涯苦しめられながらも、その一方でイサム・ノグチやトロッキーなどと浮名を流す情熱的な奔放さで、シ ュルレアリスム絵画(彼女にとっては過酷な 「現実」 だった)を描き続けた。1987年メキシコで初めて観た彼女の絵画に衝撃を受け、日本で無名だったフリーダ・カーロを紹介した著者による書き下ろし画集



  • 明智恭介の奔走(東京創元社 2024)今村 昌弘471


  • 『屍人荘の殺人』(2017)で、登場早々ゾンビの餌食になってしまった神紅大学三回生ミステリ愛好会会長(自称神紅のホームズ)の在りし日の姿を描く短篇集。〈剣崎比留子シリーズ〉と同じく、コスプレ研究部のサークル棟で起きた盗難事件の真相を唯一の会員にして助手(ワトソン役)の葉村譲(俺)が語る 「最初でも最後でもない事件」 。夢園ビルに隣に建つボロビルが二千万で買い取られた謎を藤町商店街の喫茶〈ポピー〉の主人・加藤久夫(三人称視点)、「五十円玉二十枚の謎」 を明智恭介が解く 「とある日常の謎について」 他3篇を収録する



  • 曲がった鋤(水声社 2023)イタマール・ヴィエイラ・ジュニオール470


  • ブラジル・バイーア州奥地のアグア・ネグラ農場は代々白人の不在地主が所有していた。アフリカから連れて来られた奴隷の子孫キロンボ ーラは無報酬で働かされ、泥の家で暮らす。ジャレの祭司・治癒師の父ゼッカと母サルーの娘ビビアーナとベロジーニア姉妹は祖母ドナーナがベッドの下の革鞄に隠していた象牙柄のナイフを発見する。その鋭利な切れ味を試したくなって刃先を舌に当てると、奪い合いになって互いに負傷する。1人は回復し、1人は舌を失って唖者となった。フ ーベル(Rubel)の〈Torto Arado〉は 「曲がった鋤」(2017)の原題



  • もののけdiary(岩崎書店 2024)京極 夏彦 / 石黒 亜矢子469


  • 寛延2年(1749)に稲生武太夫(平太郎)が体験したという怪異譚『稲生物怪録』を京極夏彦が改題した絵本。7月1日の夜に襲われた 「一つ目」 から、30日目の 「魔王」 まで1カ月間、連日連夜現われた化け物たちを半年後に訪れた怖がりの 「僕」 に語るが、平太郎は全く怖がっていないどころか、その軽妙な語り口はどこかコミカルでさえある。挿画は 「ばけねこぞろぞろ」(2015)の石黒亜矢子で、横書き・左開きの右頁にあるカラー画を右に開くと、化け物(モノクロ2頁)が現われる趣向



  • 死に急ぐ鯨たち・もぐら日記(新潮社 2024)安部 公房468


  • 「死に急ぐ鯨たち」(1986)に 「もぐら日記 ll・lll」(1985/89)を追加した文庫本。前者はエッセイ9篇とインタヴュー6本で、「方舟さくら丸」(1984)の自作解説や未完の次作 「飛ぶ男」 について語る。「もぐら日記」 は日記というより、シンポジウム 「人間と科学‥‥共存の道」 の草稿。「シャーマンは祖国を歌う」 の副題 「儀式・言語・国家・そしてDNA」 について、パブロフ、ローレンツ、チョムスキーを引いて論じるが、「予想していた以上に難解な内容」 と自ら述べている。初めてワープロで書いた日本人作家らしく、40年近く経っても全く古びない



  • 岩合光昭のご当地ねこ(クレヴィス 2024)岩合 光昭467


  • コロナ禍(新型コロナウイルス感染症)で、2020年から約3年ほど海外へ出られなかった動物写真家の「日本ネコ歩き」。北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、九州・沖縄、47都道府県を巡る183点。風景の中に溶け込み、映えるネコたちの姿に癒される。石川県(能登半島地震の影響か?)を除き、殆どの写真が撮り下ろしだと思われる。東京の外ネコは確実に減っているけれど、日本各地には多くのネコたちが暮らしていることに安堵する。表紙は大阪市・法善寺横丁のモー、裏表紙は高松市・屋島寺境内の蓑山大明神のネコ



  • 人形歌集 骨ならびにボネ(ステュディオ・パラボリカ 2024)川野 芽生 / 中川 多理466


  • 歌人と人形作家のコラボ 「廃鳥庭園」(Jardin Abandonne)の続編。『人形歌集 羽あるいは骨』(2024)は 「小鳥たちの葬送」 の〈小鳥に変身する城館勤めの侍女たち〉のイメージを気に入った中川多理が〈物語の中の少女〉の1つとして人形化した山尾悠子との共著『小鳥たち』(2019)から派生した短歌集。「骨ならびにボネ」 という表題は単なる語呂合わせではない。「人ならば骨とボネ(Bonnet)のあひには肉がある 人形には‥‥何があるのだろう」(帯文)。〈骨のかたちにボネ沿はすれば天蓋と頭蓋のあひに翼ひらきぬ〉〈骨の猫夢みてゐたり亡びたる星より来たる子らの遠足〉



  • 夢幻の動物事典(グラフィック社 2024)ドゥニーズ・クロール=テルツァーギ 編465


  • コンパクト・サイズで掌に馴染む 「ひみつの本棚シリーズ」 第6弾。小口・天・地が金色に輝くリッチな造本。カラー・イラストも満載された左開きの横書き。ボルヘスの『幻獣辞典』とは異なり、蜘蛛、イタチ、鹿、猫、コウモリ、馬、犬、フクロウ(ミミズク)、カラス、ヒキガエルなど、実在する動物たちも登場するが、その生態や行動、部位を煎じた秘薬や中世の魔術、古代の神話や伝説に基づく記述の多くは科学的な根拠に乏しい迷信である。牡ヤギ(悪魔の化身)、ドラキュラ、ケルベロス、ドラゴン、ルー・ガルー(狼男)など、想像上の幻獣に惹かれる



  • 映画とポスターのお話(白泉社 2024)ヒグチユウコ / 大島 依提亜464


  • 「月刊MOE」 に連載した大島依提亜との対談 「映画のはなし」 20話にヒグチユウコの描いた 「オルタナティブポスター」 43点を収録した大型本。アリ・アスター 「ミッドサマー」、ジム・ジャームッシュ 「ダウン ・バイ・ロー」、ダリオ・アルジェント 「サスペリア」、宮﨑駿 「風の谷のナウシカ」、フェデリコ・フェリーニ 「悪魔の首飾り」(世にも怪奇な物語)、アルフレッド・ヒッチコック 「めまい」 など。ウィル ・シャープ 「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」(ベネディクト ・カンバーバッチ主演)のポスター2点が掲載されているのも嬉しい



  • サイボーグ009トリビュート(河出書房新社 2024)辻 真先 / 斜線堂 有紀 / 高野 史緒463


  • 石ノ森章太郎の代表作 「サイボーグ009」(1964)の誕生60周年を記念した小説アンソロジー。9人の戦鬼が新たな9つの物語を紡ぎ出す。辻真先の 「平和の戦士は死なず」 はTVアニメ(1968)の最終回(第26話)をノヴェライズ。斜線堂有紀の 「アプローズ、アプローズ」 は 「地下帝国 "ヨミ" 編」(1966)の後日譚。高野史緒の 「孤独な耳」 はソ連の政治局員イリヤ・タラソフの暗殺計画があるという極秘情報を得たジョー、グレート、イワン(僕)がバレリーナとして参加するフランソワと共にレニングラードの全世界国際バレエコンクールへ赴く



  • ねこの名画案内(オレンジページ 2024)MINAMI / アートテラー・とに~462


  • スーザン・ハーバートやシュー・ヤマモトのような 「猫名画」 ではなく、「ねこの刺繍美術館」である。本書では拡大されているが、実物は意外に小さい。制作に約3週間も費やしたという 「ヴィーニャスの誕生」(2020)でも3.8x8.9cm、殆どの作品は5x5cm前後。2000色近くある刺繍糸を一針一針刺す 「一本取り」 で、これ以上大きな作品は難しいのかもしれない。刺繍の白いねこは原画の微妙な表情までは忠実に再現し切れない。細密な写実絵画は不得手。印象派や表現主義などと相性が良い



  • 猫と罰(新潮社 2024)宇津木 健太郎461


  • ドストエフスキーのパロディみたいな表題だが、主人公の黒猫(己)は漱石に飼われていた名無し猫の生まれ変わりらしい。偏屈な性格も 「吾輩」 から引き継がれている。最後の転生(9回目)をした仔猫は不本意ながら古書店 「北斗堂」 で暮らすことになった。先住猫(茶白ルル 、三毛キヌ、茶虎カア、白黒チビ)も文豪の猫だったことがあるという。猫達と会話が出来る店主・北星恵梨香は 「魔女」 と呼ばれ、古本を仕入れなくても自然に書架に湧く書店に囚われていた。自作原稿を北星に読んでもらっていた小説家志望の少女・神崎円が来なくなって‥‥


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