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ヒグチユウコの曲猫団 [a r t]


  • CIRCUS © 2019 Higuchi Yuko


  • ご挨拶

  • 「絵を描く」 ということが当たり前の生活を、子ども時代から過ごして、今日まできました。
    わたしというものを構成する大部分が、その 「絵を描く」 という行為と記憶と記録とで、
    できているように思えます。
    わたしはなぜ絵を描くのか? という問いの答えは、まだわかりませんが、
    絵を描かない自分というものは想像もできません。
    絵描きになろう、と思ったのはとても幼い頃で、あまり疑問にも思わず続けてきましたが、 これまで全てうまくいっていたか? というとそういうわけでもありませんでした。
    ものをつくるということはわたしにとって毎日の生活そのものです。
    そんなことを今思える自分はとても幸せなのだと思います。
    こうして数年の仕事を本にまとめることができ、
    初めての巡回展* も行われるという、素晴らしい幸運に恵まれました。
    本当に関わった全ての皆さまに感謝を。
    稚拙な表現や描ききれていないものも多く、お見苦しいところもあるかと思いますが、
    ご覧いただけると嬉しいです。

    ヒグチユウコ
    2018年 冬 絵を描きながら



  • ▢ ヒグチユウコ展 CIRCUS(世田谷文学館 2019)
  • 2階展示室をコの字に回廊する。「エントランス」に置かれた赤い用紙の表・裏に順路図と「主な出品作品」のリストが記載されていた。右に〈くまのたまご〉〈ひとつめちゃん〉、こけし(立体作品)など‥‥正面奥に自著や装幀本、ヒグチユウコが表紙を描いたMOEやSPURなどの雑誌を展示。左奥に抽象画やヌード・デッサンなどの「初期作品」。左に曲がると右側に「絵本の仕事」‥‥ぬいぐるみのニャンコ・シリーズ「ふたりのねこ」『せかいいちのねこ』『いらないねこ』『ほんやのねこ』、美少女とワニくんの愛を描いた『すきになったら』、日和聡子との共著『御伽草子 うらしま』の原画が並ぶ。左手の赤いスペースが「楽しいけれど、どこかはかなさを感じる場所」と自ら定義する「CIRCUS」‥‥中央にカカオに乗った縫いぐるみ(今井昌代)が螺旋状の山を駆け回る立体オブジェ「CACAO CAR RACING」がある。その周りに〈内臓ちゃん〉、舞台「みえるわ」の衣裳、〈GUSTAVEくん〉〈プランツつかい〉〈しましまピエロ〉〈ねこのピエロ〉〈双子〉〈アリス〉〈散歩〉『ギュスターヴくん』の原画、『カカオ・レーシング』の背景画(セル画)などを展示。

    印刷された画集からは感じ得ない細密に描かれた原画に圧倒される。『ヒグチユウコ画集』の表紙やポスター、チラシなどの装画〈CIRCUS〉を描いている早送りヴィデオ(下書きなしで描いている!)、短い動画が視れる「覗き穴」などの趣向も愉しい。「バベルの塔」展とのコラボした画集『BABEL』にはピーテル・ブリューゲルとヒエロニムス・ボスの絵画世界にギュスターヴくん、ひとつめちゃん、アリスなど、ヒグチユウコの人気キャラが紛れ込んでいる。「ホラー」には〈Ghostシリーズ〉〈鋏〉、映画のポスターやイラスト、2体トルソ(本、プランツ)と2脚の椅子(ひとつめ、かたつむり)。奥まった区画にある「和」と題された六畳の和室には〈猫風神雷神図〉〈GUSTAVE若冲雄鶏図〉〈空飛ぶGUSTAVEくん〉などの額絵、掛け軸、座布団などがある。「最近の仕事」には雑誌の表紙やGUCCIとのコラボ作品、紅茶のラベル、町田康の短篇集『猫のエルは』の装画、ポケモン・キャラの〈EVs〉、画集の綴じ込み絵本「きのこ会議」(夢野久作)、「卑怯な蝙蝠」(イソップ童話)など‥‥「約20年の画業で描かれた500点を超える作品を公開」。

  • ▢ ヒグチユウコ画集 CIRCUS (グラフィック社 2019)
  • 「ヒグチユウコ展」の図録を兼ねた画集。GUSTAVEくん、Sちゃん、ボリス、ニャンコとアノマロ、ニュータイプとトリモドキ、ひとつめちゃん、猫風神雷神、うみねこシリーズ、ワニくん、Alice、Ghostシリーズ‥‥一番多く描かれているのはネコたちだが、烏賊や蛸などの海洋生物、植物、鳥類、昆虫、蝸牛、金魚、羊、兎、複数の動植物が合体・融合した想像上の生物たちが大集合。シール図鑑、こけしちゃん、原画(ブリキ缶、パッケージ、マスキングテープ、クロッキーブック、おえかきちょう、ぬりえBOOKなど)、GUCCIや資生堂とのコラボ商品、雑誌の表紙や書籍の装画、自著、タイポグラフィ、ロゴ、映画のイラストやポスターなど‥‥宮木あや子『喉の奥なら傷ついてもばれない』の表紙カヴァ〈オフィーリア〉や映画「世にも怪奇な物語」の「悪魔の首飾り」も描いている。綴じ込み絵本「卑怯な蝙蝠」(16頁)を併録。ミュージアムショップで販売されている「Exhibition Edition」は表紙の異なる(画集p.3の装画)特別仕様で、「卑怯な蝙蝠」の代わりに夢野久作の「きのこ会議」を収録。奥付の「Special Thanks」には宇野亜喜良や諸星大二郎の名前もある。

                        *

  • ▢ ほんやのねこ(白泉社 2018)ヒグチユウコ
  • 縫いぐるみのニャンコを主人公にした絵本シリーズ。4作目の主役は謎めいた本屋の女主人で、『せかいいちのねこ』(2015)や『いらないねこ』(2017)のような物語形式ではなく、本屋を訪れた不思議な客たちのショート・エピソードが描かれる。遠くから来たニュータイプとトリモドキに女主人が本を選ぶ。10人のギュスターヴくんが本を売りつけに来て、悪戯しようとする。オカヒトデとツチグリに豆本を薦める。長い旅に出た「旅のねこ」の飼い犬コクを常連のニャンコが抱きしめる。6匹の金魚(おきんちゃん)が宝石の本を求めて来る。女の子たち(パンダとクマ)と病院の先生(雌犬)がオシャレ談議に花を咲かせる。ニャンコとアノマロが一晩泊まりに来て、夜の本屋の秘密を知る。4人のネコ紳士が憧れの女主人に逢いに来る。こねこ(いらないねこ)の誕生日をニャンコたちが祝う。オバケにも宇宙人にも見える一つ目たち(ひとつめちゃん)が来店する。ニャンコが花束を女主人に贈る‥‥訪れる客も奇妙だが、紹介される本も奇天烈。「ほんやの見取り図」付き。

  • ▢ ギュスターヴくん(白泉社 2016)ヒグチユウコ
  • ヒグチユウコの絵本の中でも超シュールな1冊。主人公のギュスターヴくんはネコとタコとヘビのキメラ。ギリシャ神話のキマイラ(獅子の頭と山羊の胴体と毒蛇の尻尾)にも似た魔獣である。オクトキャット(Octocat)は上半身が猫、下半身が蛸足のハイブリッドだが、ギュスターヴくんの両手は黒い蛇頭で、頭の上に尖端が赤い球になったアンテナのような触覚が生えている。「きみは ネコなの? ヘビなの? タコなの?」とワニくんが訊く。熱心に本を読んでいるギュスターヴくんは生返事。自分自身を描いた本を下に向けて振ると、9匹の分身クローン(3Dコピーキャット?)が落ち出て来る。10匹のギュスターヴくんは古い書物や図鑑(若冲、UMA)の中から、金魚、ヘビ、アルマジロ、インコ、兎、蝸牛、虎、鶏、蛸、犬、蝙蝠など‥‥摩訶不思議なキマイラ(合成幻獣)を次々に出現させる。ワニくんはギュスターヴくんの悪戯を止めさせようとするのだが‥‥巻末にネコやギュスターヴくんなどの縫いぐるみ写真(ぬいぐるみ制作・今井昌代)を併録。

  • ▢ すきになったら(ブロンズ新社 2016)ヒグチユウコ
  • 赤いドレスを着た少女とワニくんの「禁断の愛」を描いた絵本。「すきになったら‥‥しりたくなる」「すきになったら‥‥わたしのことも しってもらいたくなる」「すきになったら‥‥」という少女のモノローグで、ワニくんとの交歓が語られる。ワニくんの読んでいる本を少女も読む。少女が奏でるヴァイオリンをワニくんが聴く。ワニくんの被っている黒い山高帽子を少女も被る。少女は雛菊の花冠を髪に飾り、ワニくんの帽子にも乗せる。雛菊のブーケをワニくんに贈ると、少女にもワニくんと同じような尻尾が生える。現実世界では有り得ない話だが、爬虫類の鱗を細密に描いたワニくんがリアリティを高めている。『ギュスターヴくん』に登場するワニくんと同一人物(動物)なのでしょうか?‥‥たまたま好きになったのがワニくんだったので、ぬいぐるみのニャンコや、ひとつめちゃん、ギュスターヴくんのような魔猫(オクトキャット)を好きになっても問題はないはずです。

  • ▢ ふたりのねこ(祥伝社 2014)ヒグチユウコ
  • 夏の終わり、ぬいぐるみのニャンコ(ぼく)は公園で見知らぬ猫(こねこ)に拾われる。繁みで倒れていたニャンコの躰は泥だらけでヒリヒリと痛み、腕の付け根から雲(綿)が食み出していた。真っ黒な服とブーツが良く似合う女の子(こねこ)は公園に棲んでいた。家と飼主(ぼっちゃん)のことを思い出したニャンコは彼女と一緒に飼主を探す。「ふたりのねこ」は家族になったのだ。池の鯉、文鳥夫婦、兎‥‥2人は手懸かりを求めて聞き込みをするが、誰も飼主のことを知らない。こねこは「すてられちゃったんじゃないかしら?」と思う。「にんげんは、ほんとうは ひどい いきものなの」‥‥4人兄弟姉妹だったのに、飼主が1匹だけを残して3匹を公園に捨てたという。こねこがニャンコの頭の後のファスナーを開けると、アンモナイトの首飾りが現われる。ぼっちゃんとニャンコの宝物だった。冷たい風の吹く朝、こねこは病に倒れる。頭痛と高熱を発していた。ニャンコは顔見知りの犬に救けを求め、大切な宝物を渡す。犬に連れて来られた飼主がこねこを保護する。その後、ぼっちゃんの家に帰ることが出来たニャンコは、こねことの日々を思い出すのだった。

                        *

    桜の咲く春麗らかな日に行こうと思っていたら、3月9日から「会期終盤にむけて更なる混雑が見込まれることから、鑑賞者と作品の安全を図り、良好な鑑賞環境を保つため」「チケット販売方法が変更」されるという。「日時指定前売券」を予めコンビニ(ローソン)で購入しなければならず、当日券も午前10時から配布する「入場整理券」がないと買えなくなってしまう。浮かれていた花見気分も一瞬で吹っ飛び、週末に出かける予定を急遽前倒しした。京王線・芦花公園で下車し、右手にあるスーパー・サミットや成城石井を通り過ぎて、「世田谷文学館」へ一路向かう。どれだけの大混雑なのかと戦戦恐恐していたが、館内は意外に空いている。「ムンク展」の悪夢は杞憂に終わった。2階展示室を一通り見回ってから1階の「オリジナルグッズ特設コーナー」を覗く。欠品中・完売が多くて、グッズ売場も閑散としている。「台形型のチラシ」も残部少で、所望しないと貰えない。1階でギュスターヴくん(展示パネル)の写真を撮ってから、再入場した(3/9以降は再入場も不可となる)。

                        *

  • * 2019年1月19日から、世田谷文学館(東京)を皮切りに全国巡回する展覧会「ヒグチ ユウコ展 CIRCUS」のこと。
    • 「いらないねこ」(白泉社 2017)、「せかいいちのねこ」(白泉社 2015)、「ヒグチユウコ作品集」(グラフィック社 2013)などはアーカイヴ記事を参照して下さい。「いらないねこ」 は 「ふたりのねこ」 の逆ヴァージョン‥‥公園で倒れていたニャンコをこねこが救い、捨てられていたこねこをニャンコが逆に拾うという無限ループです^^;

    • 「ご挨拶」 は『ヒグチユウコ画集 CIRCUS』(グラフィック社 2019)からの引用

    • 神戸ゆかりの美術館(6/15~9/1)、奥田元宋・小由女美術館(9/12~11/4)、佐野美術館(11/9~12/22)、高知県立文学館(2020/2/1~3/29)などを巡回予定

    • トップ画像(ワニとギュスターヴくん)をランダム表示にしました(2020-01-24)
                        *


    ヒグチユウコ展 CIRCUS

    ヒグチユウコ展 CIRCUS

    • アーティスト:ヒグチユウコ
    • 会場:世田谷文学館
    • 会期:2019/01/19 - 03/31
    • メディア:絵画
    • 展示構成:エントランス / 初期作品 / 絵本の仕事 / サーカス /『BABEL』より / こわい絵 / 和 / 最近の仕事


    ヒグチユウコ画集 CIRCUS

    ヒグチユウコ画集 CIRCUS

    • 著者:ヒグチユウコ
    • 出版社:グラフィック社
    • 発売日:2019/01/24
    • メディア:単行本
    • 内容紹介:日本のみならず世界から注目されている画家・ヒグチユウコの最新画集。渾身の作品を224ページという大ボリュームで掲載し、更に本書のための描き下ろし作品16ページ「卑怯な蝙蝠」も掲載されたファン垂涎・必携の一冊です


    ほんやのねこ

    ほんやのねこ

    • 著者:ヒグチユウコ
    • 出版社:白泉社
    • 発売日:2018/11/16
    • メディア:単行本(MOEのえほん)
    • 目次:このおはなしは‥‥ / とおくからのおきゃくさま / なぞのほうもんしゃ / ちいさなおきゃくさま / まほうのとけた犬 / おきんちゃん / オシャレたいけつ / ニャンコのおとまり / マドンナとすてきな紳士たち / すてきなおとうさん / ひとつめさまご一行 / ほんやのねこ


    ギュスターヴくん

    ギュスターヴくん

    • 著者:ヒグチユウコ
    • 出版社:白泉社
    • 発売日:2016/09/16
    • メディア:単行本(MOEのえほん)
    • 内容:「きみはネコなの? ヘビなの?タコなの?」 いたずら好きのギュスターヴくんがつむぎ出す摩訶不思議な世界!


    すきになったら

    すきになったら

    • 著者:ヒグチユウコ
    • 出版社:ブロンズ新社
    • 発売日:2016/09/14
    • メディア:単行本
    • 内容:「すき」 っていう気持ちを知ったすべての人へ。ヒグチユウコが描く愛の絵本。すきになったらしりたくなる。あなたのすきなものをすきになったり、あなたにとってだいじなものをりかいしたくなる。だっていっしょにいたいから。人を好きになったときの心のゆらぎと変化を、少女のモノローグで語る愛の絵本。

    MOE 2019年1月号

    MOE 2019年1月号

    • 巻頭大特集:ヒグチユウコ 絵の秘密
    • 出版社:白泉社
    • 発売日: 2018/12/03
    • メディア:雑誌
    • 特別ふろく:かわいい形の猫便箋 / ヒグチユウコ「ほんやのねこ」シール

    ふたりのねこ

    ふたりのねこ

    • 著者:ヒグチユウコ
    • 出版社:祥伝社
    • 発売日:2014/12/01
    • メディア:大型本
    • 内容:ひとりっこのぼっちゃんは、いつでもぼくといっしょだったこと。どこにでもつれていってくれて、ねるときもまいばん同じおふとんだったこと。おきにいりのクレヨンで、ぼくの絵をたくさんかいてくれたこと。かなしいときは、ぼくにかおをうずめてなみだをふいていたこと。このお腹だってはじめはまっ白...

    タグ:higuchi yuko art
    コメント(2) 

    コメント 2

    ぶーけ

    私、この人の絵、すごく好きです。^^
    一冊も持ってないけど。^^;

    by ぶーけ (2019-03-15 16:35) 

    sknys

    下書きなしで描かれた超細密画に圧倒されました。
    タコキャットの「ギュスターヴくん」にキュン死にゃん^^;
    by sknys (2019-03-16 11:04) 

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