スキャナー・ディック [b o o k s]
フィリップ・K・ディック 「スキャナー・ダークリー」
星間実業家パーマー・エルドリッチの宇宙船が冥王星に不時着する。レオ・ビュレロは助手ロニ・フューゲイトの予知によって、自分がエルドリッチを殺害することを知らされる。ガニメデ第3基地にあるジェームズ・リドル復員軍人病院に入院しているエルドリッチに面会しょうと試みるが、娘のゾー・エルドリッチに会えただけだった。社内報の記者に扮したレオは月の邸宅で行なわれる記者会見に潜り込む。しかし、それはエルドリッチの仕組んだ罠だった。囚われの身となったレオは強制的にチューZを投与させられる。ヨーヨーで遊ぶ少女モニカ、スーツケースのスマイル博士、グラック、エルドリッチ、ロニ、バーニイ、アレ ック(進化した地球人)‥‥エルドリッチがプロキシマ星系から持ち帰ったチューZはキャンDよりも遙かに危険な幻覚剤だった。レオを助けなかったことで会社を解雇されたバーニイはチューZ産業への転職を断り、徴用令状を受けて火星のファインバーグ・クレセントへ移住する。チューZを服用したバーニイ・メイヤスンもエルドリッチの世界に取り込まれる。
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警察の心理検査で物質Dによる脳の損傷(左脳と右脳の競合現象)と診断されたフレッドはハンクに捜査官の職を解かれる(そもそも麻薬課の監視対象はロバート・アークターではなく、情報提供者のジム・バリスの方だった)。迎えに来たドナ・ホーソンの車に乗せられたボブ・アークターはドラッグ更生施設の〈ニュー・パス〉へ送られる。サンタ・アナにある〈ニュー・パス〉の宿泊施設に入所したボブ・アークターはブルースという名前で呼ばれている。トイレ掃除を命じられて、入所者たちの〈ゲーム〉に参加する。職員のマイク・ウェスタウェイと知り合う。ドナ・ホーソンの正体は連邦おとり捜査官、マイクも麻薬取締局員だった。ボブ・アークター(ブルース)は意図的に〈ニュー・パス〉へ送り込まれたのだ。2カ月後、ブルースは北カルフォルニアの内陸部にあるナパ・ヴァレーの農園施設へ移動する。支配人と理事長ドナルド・エイブラズムに農園を案内されたブルースはトウモロコシ畑の中で青い花を見つける。密かに栽培されているモルス・オントロジカ(物質D)だった。
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「高い城の男」は歴史改変小説という枠組みを外せば全然SF的っぽくない。登場人物たちが「易経」に頼って行動しているのは不自然という批判も見当外れである。「虚空の眼」「死の迷路」「ユービック」などと同じような歪んだ虚構世界だったことがラストで明かされるなのだから。「スキャナー・ダークリー」も覆面麻薬捜査官が着用しているスクランブル・スーツ以外はSFガジェットなし。ホロ・スキャナー(盗聴・盗撮装置)も今は実用化されている。むしろ反ドラッグ小説として読むべきでしょう。「火星のタイム・スリップ」は主人公が原住民ブリークマンを救助する伏線なども含めて瑕疵なく良く出来ている。「流れよわが涙、と警官は言った」の登場人物の脳内(外?)世界というオチには無理がある。主人公がスイックス(遺伝子操作による優生学的能力者)という設定は「電気羊」のアンドロイドとの相似性が認められる。PKD流の恋愛小説なのかもしれない。「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」のパーキー・パット人形(ミニアチュール世界)は現代人が没頭する仮想現実ゲームのように映る。チューZによる幻影はエルドリッチが支配する悪夢世界だった。
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scanner dick / ubik dick / pre-persons / sknynx / 778
- 著者:フィリップ・K・ディック(Philip K. Dick)/ 浅倉 久志(訳)
- 出版社:早川書房
- 発売日:1984/07/31
- メディア:文庫(ハヤカワ文庫 SF 568)
- 内容:アメリカ美術工芸品商会を経営するロバート・チルダンは、通商代表部の田上信輔に平身低頭して商品の説明をしていた。ここ、サンフランシスコは、現在日本の勢力下にある。第二次大戦が枢軸国側の勝利に終わり、いまや日本とドイツの二大国家が世界を支配しているのだ--。第二次大戦の勝敗が逆転した世界を舞台に、現実と虚構との微妙なバラン...
- 著者:フィリップ・K・ディック(Philip K. Dick)/ 友枝 康子(訳)
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- 著者:フィリップ K.ディック(Philip K. Dick)/ 小尾 芙佐(訳)
- 出版社:早川書房
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- メディア:文庫(ハヤカワ文庫 SF 396)
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- 著者:フィリップ・K・ディック(Philip K. Dick)/ 浅倉 久志(訳)
- 出版社:早川書房
- 発売日:1984/12/12
- メディア:文庫(ハヤカワ文庫 SF 590)
- 内容:遙かプロキシマ星系から、謎の星間実業家パーマー・エルドリッチが新種のドラッグ〈チューZ〉を携えて太陽系に帰還した。国連によって地球を追われ、過酷な環境下の火星や金星に強制移住させられた人々にとって、ドラッグは必需品だった。彼らはこぞって〈チ ューZ〉に飛びつくが、幻影に酔いしれる彼らを待っていたのは、死よりも恐るべき陥穽...
- 著者:フィリップ・K・ディック(Philip K. Dick)/ 浅倉 久志(訳)
- 出版社:早川書房
- 発売日:2005/11/01
- メディア:文庫(ハヤカワ文庫 SF 1538)
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- 著者:ポール・ウィリアムズ(Paul Williams)/ 小川 隆(訳)
- 出版社:河出書房新社
- 発売日: 2017/08/29
- メディア: 単行本
- 目次:消える現実 / 紙の上ですごした生涯 / 住居侵入事件 I / 三度の神経症 /「彼らは小人なんだ、ポール」/ どん底の生活のなかで死ぬこと / 住居侵入事件 II / アンフェタミンと記憶喪失症 /「一貫してすばらしい活躍をつづけている」/ 神に呑みこまれて / 夢を見たのはどちらだったのか?/ 訳者あとがき / 新版へのあとがき / 長篇作品一覧 / 年譜
2018-06-11 00:15
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