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4人はアイドル [m u s i c]

  


  • 『ヘルプ!4人はアイドル』の撮影中はいつでも現場にピアノがあり、しょっちゅうポールがピアノを弾いて、曲を作っていた。少しずつできあがりつつあったとはいえ、同じ曲ばかり弾くので、みんなだんだんいらいらしてきた。ついにリチャード・レスターは我慢できなくなり、「もしまたその曲を弾いたらピアノを取り上げるからな」と冗談混じりに言い、それから訊いた。「ところでその曲はなんていうんだい?」「『スクランブルエッグ』だよ」とポールは答えた。それきりリチャードはその曲がどうなったか何も聞かずにいたが、スペインで次の作品の撮影をしているところへ、「『スクランブルエッグ』を気に入ってもらえるといいけど」というポールのメッセージを添えたアルバムが届いた。その曲は「イエスタデイ」とタイトルを換えて発表されていた。ポールの曲のなかでももっとも評価の高い曲のひとつである。
    アンドリュー・ユール 「『ヘルプ!4人はアイドル』の舞台裏」


  • ◎ Help!(Parlophone 1965)The Beatles
  • ファブ・フォー2作目の主演映画のサントラ盤(邦題は『ヘルプ!4人はアイドル』)。初主演映画《A Hard Day's Night》(1964)と同じく、A面に映画で使われた7曲、B面に新曲5曲とカヴァ2曲を抱き合わせた1枚で2度美味しい「オリジナル・アルバム」になっている。アルバム構成も主演(リンゴ・スター)も監督(リチャード・レスター)も1作目と同じだが、作品の内容は大きく異なる。ドキュメンタリー風モノクロ映画とスラップステ ィックのカラー映画‥‥リンゴの指輪を奪おうとする謎のカルト教団にファブ・フォーが追い駆けられるというドタバタ・コメディのオリジナル脚本は「Eight Arms To Hold You」というタイトルだった。ダブルトラックによってヴォーカルの厚みが増して、ピアノや弦楽四重奏などの導入によってサウンドの幅も広がった。アルバム・カヴァ写真の4人の手旗信号が「HELP」ではなく、「NUJV」になっているのも御愛嬌?

    ■ Help!
    主演映画の撮影は2月に始まっていたが、「Eight Arms To Hold You」という原題はファブ・フォーにも不評だった。監督のリチャード・レスターがシンプルで直截的な「Help! 」というタイトルに変更してから、Johnが主題歌を書き上げ、1965年4月にレコーディングされた。パーカッシヴなアクースティック・ギターの音色と追っかけコーラスが新鮮で、半世紀後の今日聴いても胸が熱くなる。Johnのヴォーカル(ダブルトラック)、12弦ギター、Paulのベース、Georgeのギター、Ringoのドラムス、タンバリン、PaulとGeorgeのコーラス。映画のストーリに準じた歌詞だと誰もが思っていたけれど、後年Johnは切実な心の叫びだったと述懐している(お気に入りの曲だがテンポが速すぎたとも)。10枚目のシングルとして7月に先行リリースされた(B面はPaulの〈I'm Down〉)。

    ● The Night Before
    Paulの軽快なポップ・ソングだが、歌詞は優しかった「昨夜」とは別人になってしまった恋人の豹変ぶりを嘆く情けない男の歌である。AメロはD→C→G→Aというコード進行で、サビはAm→D7→G→C/Gとなる(Gに転調?)。Paulのヴォーカル(ダブルトラック)、ベース、Johnのエレピ(ホナー・ピアネットN)、ギター、Georgeのギター、Ringoのドラムス、マラカスにJohnとGeorgeのコーラス。間奏とエンディングではJohnとGeorgeのツイン・リード・ギターが聴ける。優しかった昨夜とは別人になってしまった恋人の豹変ぶりを嘆く男の歌。映画ではソールズベリー平原のライヴ・レコーディング・シーンで使われた。英陸軍の戦車が警備する物々しい中、地下から微かに聴こえて来る〈She's A Woman〉と交互に流れるのだった。

    ■ You've Got To Hide Your Love Away
    Johnの生ギター弾き語りフォーク・ソング(12/8拍子)。「ディラン時代の曲」と自ら語る通り、ヴォーカルもボブ・ディラン風に苦み走っている。Johnの12弦ギター、Paulのベース、マラカス、Georgeのギター、Ringoのドラムス、タンバリン。エンディングのフルートはファブ・フォーの意向で外部ミュージシャン(John Scott)が起用されている。「Hey! you've got to hide your love away」というサビの冒頭部分の「hey! 」はトニック(G)なのに、「hide」のD音がサブドミナント・コード(C)になっているところがカッコ良い。映画の中では室内でソファに足を組んで座ったJohnがギターを抱えて美女アーメに歌いかける。アーメに色目を使う3人とは対照的に、床の一段低いところで足を伸ばしたRingoだけが無表情でタンバリンを叩くのだ。邦題は〈悲しみはぶっとばせ〉。

    ◆ I Need You
    〈Don't Bother Me〉(1963)以来、久々に発表されたGeorgeのオリジナル2作目。デビュー曲とは打って変わったナイーヴなラブ・ソングで、別れた恋人にボクの許へ帰って来て欲しいと乞い願う。同じように心変わりしてしまった恋人への想いを歌ったPaulの〈The Night Before〉とは随分と趣きが異なる。ヴォリュームペダルを使用した12弦ギターがファンタジックなサウンドを演出している。Georgeのヴォーカル(ダブルトラック)、ギター、Johnのドラムス(オフビート)、Paulのベース、Ringoのカウベル、パーカッション(生ギターのボディを叩いた音)、JohnとPauのコーラス。〈The Night Before〉と同じく、映画の中では野外ライヴ・レコーディングのシーンで使われた。

    ● Another Girl
    1965年2月、休暇でアフリカ・チュニジアを訪れたPaulが滞在中に英国大使の別邸離れのバスルームで書いたという。カントリー風の軽快なギター・サウンドで、チョーキングを多用したリード・ギターも〈Ticket To Ride〉と同じくPaul自身が弾いている。Paulのヴォーカル(ダブルトラック)、ベース、ギター、JohnとGeorgeのギター、コーラス、Ringoのドラムス。キーはAだが、サビでCへ転調する。映画ではバハマの海岸の演奏シーンで使われた。Paulがビキニ美女を抱いて歌ったり、ギターに見立てて弾いたり、ファブ・フォーが楽器を取り替えて演奏したり、アドリブで戯けたり‥‥細かいカット割りの映像は80年代MTVの先駆け的なPVと看做すことも出来る。

    ■ You're Going To Lose That Girl
    JohnのヴォーカルをPaulとGeorgeのコーラスが追い駆ける。キーEで始まった曲はサビの3声コーラス部分でGへ転調する。南国リゾート地で吹く涼風のような爽やかなサウンド。映画の中の紫煙が立ち籠める逆光ライティングのスタジオ録音風景からも、ファブ・フォーのリラックスした雰囲気が伝わって来る。Johnのヴォーカル(ダブルトラック)、ギター、Paulのベース、エレクトリック・ピアノ、Georgeのギター、Ringoのドラムス、ボンゴ。〈恋のアドバイス〉という邦題の通り、友人(you)と「あの娘」(that girl)の恋愛が上手く行くように「ボク」が指南する歌詞内容になっている。

    ■ Ticket To Ride
    「Help!」セッションで最初にレコーディングされたJohnの曲。「ヘヴィ・メタルのレコードとしては最も初期のもの」 と本人が述懐しているように、印象的なギター・リフや重いドラミングは「元祖ヘビメタ」と称して良いかもしれない。Johnのヴォーカル(ダブルトラック)、ギター、手拍子、Paulのベース、ギター(リード)、コーラス、Georgeのガット・ギター、12弦ギター(リフ)、Ringoのドラムス。Georgeを押し退けてリード・ギターを弾いたPaulはドラム・パターンやエンディングの工夫などサウンド面でも貢献している。映画ではオーストリアのスキー・ロケの場面で使用された(駅に滑り込んだJohnが「ロンドン」と言うと、映画館の観客席から黄色い悲鳴が飛び交うのだ)。〈涙の乗車券〉という邦題は恋人が乗車券を手にして「ボク」の許を去って行くという失恋ソングだから?‥‥1965年2月、アルバムの先行シングルとしてリリースされた(B面もJohnの〈Yes It Is〉)。

    ★ Act Naturally (Johnny Russell, Voni Morrison)
    アルバム後半(レコードではB面)は映画に使われなかった新曲(オリジナル5曲、カヴァ2曲)が収録されている。Ringoの歌った曲は1963年にヒットしたカントリー&ウエスタン歌手バック・オーウェンズ(Buck Owens)のカヴァ。レノン&マッカートニーがRingoのために書いた〈If You've Got Trouble〉は2月にレコーディングされていたものの出来が悪くてボツになったため、セッション最終日(6/17)に録音された。Ringoのヴォーカル、ドラムス、Paulのベース、コーラス、Georgeのギターで、Johnはレコーディングに参加していない可能性もある。アメリカでは〈Yesterday〉のB面として9月にシングル・カットされたが、英国では4曲入りEPの1曲として1966年にリリースされている。

    ■ It's Only Love
    解散後のJohnの発言は話半分に聞いておくべきだと思うけれど、「ビートルズ時代の最も嫌いな曲」 とは手厳しい。凡庸なラヴ・ソングになってしまった歌詞内容が気に入らなかったのかもしれない。Johnのヴォーカル(ダブルトラック)、ギター、Paulのベース、Georgeの12弦ギター、Ringoのドラムス、タンバリン。右チャンネルから聴こえるGeorgeの2つのリード・ギターはトレモロ(アーム)奏法で、左チャンネルでは2本のアクースティック・ギター(コード・ストローク)が鳴っている。Johnのダブルトラックは不完全で1人2重唱に聴こえる部分もある。Johnが嫌悪する歌詞は兎も角、ラヴ・バラードとしては悪くない出来ではないかしら。

    ◆ You Like Me Too Much
    《Help!》にはGeorgeのオリジナルが2曲収録されている。〈I Need You〉はスロー・ナンバーだったが、ピアノのイントロから始まる2曲目はアップテンポのラブ・ソングである(映画のサントラ用に録音されたけれど使われなかった)。Georgeのヴォーカル(ダブルトラック)、ギター、タンバリン、Johnのギター、エレクトリック・ピアノ、Paulのベース、ピアノ、Ringoのドラムス。イントロのピアノはJohn、PaulとGeorge Martinの合奏。間奏はPaul、George MartinのピアノとGeogeのリード・ギターの掛け合いになっている。ダブルトラックは1人2重唱(3度ハーモニー)で、〈It's Only Love〉と同じく他のメンバーのコーラスは一切入っていない。

    ● Tell Me What You See
    PaulとJohnのツイン・ヴォーカル(PaulのヴォーカルにJohnがコーラスをつけている)はサビのコーラスでは3声ハーモニーになる。ミドル・エイトでタイトルの「Tell me what you see」と歌うだけのシンプルな曲だが、3回繰り返される親しみやすいメロディ(Aメロ)なので、つい口ずさんでしまう。Paulのヴォーカル(ダブルトラック)、ベース、エレクトリック・ピアノ、Johnのコーラス、ギター、Georgeのギロ、クラベス、Ringoのドラムス、タンバリン。リード・ギターのないサウンドで、パーカッションがラテン風のテイストを醸し出している。〈You Like Me Too Much〉と同じく、映画のサウンド・トラック候補としてレコーディングされたけれど採用されなかった。

    ● I've Just Seen A Face
    John、Paul、Georgeの3人がアクースティック・ギターを弾くというMTVアンプラグド風編成のフォーク・ソングで、カントリー&ウエスタン風の趣きもある。Paulのヴォーカル、ギター、Johnのギター、Georgeの12弦ギター、Ringoのドラムス(スネア)、マラカス。ヴォーカルと3本の生ギターが一丸となって疾走するアップテンポの曲はアンプラグドでも迫力満点。ベースレスのサウンドはファブ・フォーのスキッフル・バンド時代を彷彿させなくもない。〈夢の人〉という邦題は一目見た瞬間に恋に落ちてしまうほどの理想の女、夢の中に出て来るほどの娘という歌詞から採られたのでしょう。解散後、Wings時代のライヴでも演奏しているPaulお気に入りの曲でもある。

    ● Yesterday
    映画の撮影中にリチャード・レスター監督を苛立たせた名曲。Paulがピアノで弾いていた曲は〈Scrambled Eggs〉というタイトルだった。「朝目覚めた時にメロディが頭の中で鳴っていて、誰かが書いたスタンダード曲ではないかと疑い、周囲の人に訊いて回った」という有名なエピソードで知られる。Paulのヴォーカルとアクースティック・ギターに弦楽四重奏(ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ)を重ねたクラシカルなバラードで、他のメンバーはレコーディングに参加していない。キーはFだがPaulはギターのチューニングを1音下げてGフォームで弾いている。歌い出しはG音。F→Em7→A7→Dmというコード進行。Aメロは7小節。サビのメロディが上昇するのに対して、ベース・ラインは下降(D→C→B♭→A)して行く。アメリカではシングル・カットされたが、英国では解散後(1976)にリリースされた。発表後、3000回以上もカヴァされ、最もカヴァ・ヴァージョンの多い曲として「ギネス・ブック」に認定されている。

    ■ Dizzy Miss Lizzy (Larry Williams)
    ラリー・ウィリアムズ(Larry Williams)が1958年に発表したロックンロールのカヴァ曲。Johnのヴォーカル、ギター、オルガン、Paulのベース、Georgeのギター、Ringoのドラムス、カウベル。Georgeのリード・ギターは2回重ねたダブルトラック。ヴォーカルと演奏は一発録り(リード・ギター、オルガン、カウベルが後からオーヴァ・ダビングされた)で、スタジオ・ライヴの臨場感に溢れている。ファブ・フォーがオリジナル・アルバムのために録音した最後から2番目のカヴァ曲である(最後のカヴァは「Help!」セッション最終日にレコーディングされたRingoの〈Act Naturally〉)。

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    • ■ John Lennon ● Paul McCartney ◆ George Harrison ★ Ringo Starr
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    Help!

    Help!

    • Artist: The Beatles
    • Label: EMI UK
    • Date: 2009/09/09
    • Media: Audio CD
    • Songs: Help! / The Night Before / You've Got To Hide Your Love Away / I Need You / Another Girl / You're Going To Lose That Girl / Ticket To Ride / Act Naturally / It's Only Love / You Like Me Too Much / Tell Me What You See / I've Just Seen A Face / Yesterday / Dizzy Miss Lizzy


    ザ・ビートルズ全曲バイブル ── 公式録音全213曲完全ガイド

    ザ・ビートルズ全曲バイブル ── 公式録音全213曲完全ガイド

    • 編者: 大人のロック!
    • 出版社:日経BP社
    • 発売日: 2009/12/07
    • メディア:ハードカヴァ
    • 目次:英米公式全作品の系譜 / 公式録音全213曲徹底ガイド(2トラックレコーディング時代〜ライヴ演奏スタイルでの録音/ 4トラックレコーディング時代 1〜アレンジの幅が広がりサウンドに深み / 4トラックレコーディング時代 2〜バンドの枠を超えた録音の始まり / 4トラックレコーディング時代 3 〜ロックを芸術の域に高める/ 8トラックレコーディング時代へ〜サウンドと作品の多様化 / 8トラックレコーディング時代〜原点回帰...と円熟のサウンド)/ 録音技術の変化と楽曲解析方法


    リチャード・レスター ビートルズを撮った男

    リチャード・レスター ビートルズを撮った男

    • 著者:アンドリュー・ユール(Andrew Yule)/ 島田 陽子(訳)
    • 出版社:プロデュース・センター出版局
    • 発売日: 1996/10/20
    • メディア:単行本
    • 目次:ビートルズを撮る! / セロリは外側から / ロンドンで勝負 / 突然「映画監督」に / CMで監督修業 / 成功の苦味 /『ヘルプ! 4人はアイドル』の舞台裏 / コメディの神々 /『僕の戦争』とジョン・レノン / ヒッピー時代の終焉 / 体制ぶち壊しのツケ / トンネル脱出 / たかが映画、されど映画 / 超人監督の人間性 / ショーン・コネリーとの出会いと別れ / ...

    タグ:Music HELP! BEATLES
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    コメント 2

    ぶーけ

    ビートルズ、伝説ですね。^^

    クラウドのこと、ありがとうございました。
    再挑戦してみました。ちょっと、クラウドっぽくなりました。^^
    カラー太字になるのはまだまだ、みたいです。
    by ぶーけ (2014-08-04 14:28) 

    sknys

    ぶーけさん、コメントありがとう。
    『ヘルプ!4人はアイドル』から半世紀も経ったなんて、信じられません^^

    カラフルな雲、うねうね動く雲‥‥「タグクラウド」で画像検索すると
    色々な形状のタグクラウドが出て来ます。
    同一タグの数が増えれば増えるほど、大きなクラウド(雲)になるわけです。
    by sknys (2014-08-05 00:51) 

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