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クリアランスセール 2 0 1 3 [m u s i c]



  • ◎ Big Science(Nonesuch 2007)Laurie Anderson
  • ツンツン尖ったパンク・ヘアがトレードマークの女性パフォーマーLaurie Andersonはヨーゼフ・ボイスやナム・ジュン・パイクのパフォーマンスと共に記憶される。25周年記念盤アルバム(CD)はリマスターされただけでなく、〈O Superman〉のPV(flv. mp4)と同シングルのB面曲〈Walk The Dog〉(wav. mp3)を特典として追加収録している。Laurie Andersonが左手で握り拳(左腕で力瘤)を作った影絵が円形のスクリーンに映し出されるヴィデオは4半世紀以上を経ても強烈な光を放つ。全英チャート第2位の大ヒットとなった〈O Superman〉は仏作曲家ジュール・マスネ(Jules Massenet)のオペラ〈Le Cid〉の中で米黒人テナーCharles Hollandの歌ったアリア〈O Souverain〉と「テヘラン・アメリカ大使館人質事件」(1979)にインスパイアされたという。〈O Souverain〉は彼女に皇帝ナポレオンのワルテローの戦いを想起させ、米カーター元大統領の人質救出作戦は失敗に終わった。そしてカーター政権の凋落とレーガン主義の擡頭を齎すことになる。

    9・11の1週間後に行なわれたライヴで〈O Superman〉の「Here come the planes / They're American planes」という一節を歌ったLaurie Andersonは今まさに現在のことを歌っていると気づく。「愛」(love)が消え去ると「正義」(justice)が現われ、「正義」が去ると「武力」(force)が現われ、「武力」が去った後には「ママ」(Mom)が現われる。「ママ」を「愛」の別名と看做せば「歴史」というか「権力構造」の情緒的無限ループとなる。危ない機長が乗客に非常事態をアナウンスする〈From The Air〉、核戦争で死滅した街を想わせる〈Big Science〉‥‥。留守番電話に残された応答メッセージが語りかける〈O Superman〉は「ha, ha, ha, ha ,ha, ha, ha, ha…」という鼓動のようなループとヴォコーダで変形されたヴォイスが心地良くもあり、薄気味悪くもある。もし彼女の存在がなければ、Julia HolterもLaurel Haloも歌っていなかったかもしれない。「Big Science. Hallelujah. Yodellayheehoo.」と口ずさみながら散歩に出かけようかな。

  • ◎ Unausagesprochen(105 Music 2006)Annett Louisan
  • 赤いクルマに凭れて8ミリカメラを回すトレンチコートの女性‥‥60年代のヌーヴェルバーグを意識した4thアルバム《Teilzeithippie》(2008)が日本でも話題になった独ロリータ歌手の2ndアルバム(2005)に2曲を追加収録。全17曲、フレンチ・ポップスを想わせる小悪魔ヴォイスが可愛い。オルゴールの螺子を巻く音から始まるオープニング曲はミュゼット風の3拍子。チェロ、ウーリッツァー、ピアノ、ハーモニカ、ハーモニウム、ハモンドオルガン、アコーディオン、バンドネオン、フリューゲルホルン、トランペット、クラリネット、フルート、ヴァイオリン、スライド・ギターなどを配したアクースティック・サウンドで、曲調もミュゼット、ブルーズ、ジャズ、タンゴ、ボサノヴァ‥‥と変化に富む。作詞・作曲の多くはプロデュースも兼ねるFrank Ramondの手によるものだが、Annett Louisan自らも6曲で共作詞している。Vanessa Paradisが独語で歌っているような錯覚に陥るし、60年代にタイムスリップしてしまったようなノスタルジックな気分にも浸れる。

  • ◎ L'Un Empeche Pas L'Autre(Polydor 2011)Brigitte Fontaine
  • アヴァギャン婆さんの17thアルバムは全13曲中2曲を除き、ゲスト・ミュージシャンとデュエットするという趣向。新曲(未発表)は4曲のみで、オリジナル・アルバムから6曲、レア・トラック3曲を新録している。Brigitte FontaineとAreski Belkacemの作詞・作曲で7曲、Astor Piazzolla、Duke Ellingtonの曲に彼女が詞を付けたカヴァもある。彼女とデュエットするのはGrace Jones、Arno、Alain Souchon、Christophe、Matthieu Chedid、Bertrand Cantat(Noir Desir)、Jacques Higelin、Emmanuelle Seigner、Areskiの9人。妖怪婆さんと女サイボーグの最強タッグ。黒い女豹のソロ・アルバムを想わせるエレクトロ・ポップの〈Dancefloor〉とアラビックな6拍子ファンクに改変された〈Caravane〉の2曲も刺戟的。見たいような見たくないような、聴きたいような聴きたくないような(もう手遅れだが)、「老人力」というか、ゲスト陣をも含めた凄みのあるヴォイスに気圧される。まるで老魔女の悪夢の中に幽閉された草食系男子みたいに。

  • ◎ Sense And Sensuality(Castle 2002)Au Pairs
  • 1978年、英バーミンガムで結成されたポスト・パンク・バンドの2ndアルバム。デビュー・アルバム《Playing With A Different Sex》(Human 1981)と2ndを抱き合わせた2枚組アンソロジー《Stepping Out Of Line》(2006)もリリースされているが、オリジナル盤をリミックス(欠陥を修正)&リマスターした赤と黒とピンクのアルバム・カヴァ(エル・リシツキーの作品を改変)の方が魅力的に映る。Au PairsがGang Of FourやThe Slitsなどと異なっているのは男女4人組(男2・女2)だったこと。 Lesley Woods(ヴォーカル、ギター)、Paul Foad(ギター、チェロ、ヴォーカル)、Jane Munro(ベース)、Pete Hammond(ドラムス、パーカッション)の4人が対等な関係にあったことである。ロック、ファンク、レゲエに、トランペットやサックスが絡むサウンドは30年後に聴いてもクールでカッコ良い。1983年、Steve Lilywhiteのプロデュースで3rdアルバムをレコーディングする直前に解散してしまったことが惜しまれる。

  • ◎ Liberte(Wrasse 2009)Khaled
  • ライの帝王による《Ya - Rayi》(2004)以来、5年振りのアルバム。全17曲とクレジットされているが、5曲は次の曲のイントロなので実質は12曲、それでも演奏時間は73分もある。Martin Meissonnierのプロデュースはアコーディオン、タール(tar)、ダルブッカ、ガラル(gallal)、リュート、テナーサックス、トロンボーン、トランペット、ヴァイオリン、ガンブリ(gumbri)などにエジプト・カイロのストリングスを配したアクースティックなサウンドで、エレクトロ色は抑制されている。モロッコのグナワ・ミュージックを採り入れた〈Gnaoui〉、アルジェリア戦争の闘士アフメド・ザバナ(Ahmed Zabana)に捧げたという〈Zabana〉、父親へのオマージュの〈Papa〉、レゲエ調の〈Sidi Rabbi〉‥‥全編を通してKhaledの力強いヴォーカルを堪能出来る。彼の歌唱は日本の演歌や民謡よりも深く胸に沁み入る。聴いていると目頭が熱くなるということだ。少し長いかもしれないけれど。

  • ◎ Um Labirinto Em Cada Pe(YB 2011)Romulo Froes
  • ブラジル・サンパウロ生まれのSSWの4thアルバムは女性サンビスタDona Inahのアカペラ〈Olhos Da Cara〉から始まる。ヌーノ・ハモス(Nuno Ramos)やクリーマ(Clima)との共作を含む楽曲や贅肉を削ぎ落したサウンドは内省的でストイックなFred 04(Mundo Livre)を想わせなくもない。Arnaldo Antunesが低音ヴォイスでデュエットした〈Rap Em Latim〉、Romulo Froesがクールなラップを披露する〈Ditado〉、フリー・サックスが疾走する〈Onde Foi Que Nunca Vem〉、Nina Beckerも6曲で清冽なバック・コーラスを添えている。Guilherme Heldのスペイシーなノイズ・ギターも切れ味鋭い。アルバム・カヴァには2枚組の大作《No Chao Sem O Chao》(2010)に引き続いて、女性アーティストのタチアナ・ブラス(Tatiana Blass)の作品を採用している。

  • ◎ Otra Cosa(Sony 2010)Julieta Venegas
  • Mariana BarajやNatalia Lafourcadeちゃんだけでなく、Marisa Monte嬢まで登場したライヴ・アルバム《MTV Unplugged》(Norte 2008)が強烈だったメキシコの女性SSW、マルチ器楽奏者の5thアルバム。アルハンドロ・ロス(Alejandro Ros)の手がけた雁(?)のイラストをレオノール・フィニの仮面のようにコラージュしたデザインはシュールで妖しい雰囲気だが、Juana Molinaのようにサウンドまでエレクトロニカしているわけではない。寧ろアルバム・カヴァに反して陽気で明るいというべきかもしれない。Julieta VenegasはAlejandro Sergi(Miranda!)とAdrian Dargelos(Babasonicos)との共作曲2曲を除く10曲を作詞・作曲、ヴォーカル、バックコーラスに加えてアコーディオン、ピアノ、グロッケンシュピール、キーボード、ギター、カヴァキーニョ(cavaquinho)、バンジョー、シロフォン(xylophone)、ウクレレ、ローズ(rhodes)、メロディオン(melodion)、パーカッション‥‥とマルチ・プレイヤーぶりを発揮している。《MTV Unplugged》に付いていたライヴDVDを見れば分かるように、彼女の弾くアコーディオンは小型で可愛いのだ。

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    開場20分前にタワレコ渋谷に着いたのに、階段の7F辺りまで長い行列が出来ていた。新年早々、お暇な人たちが多いのね。もしかして地下1Fの会場もリニューアルされているのではないかという淡い期待は裏切られた。相変わらず薄暗い照明の中で、既に大量のCDやDVDを漁った中古業者らしき輩が品定めに入っている。古本などを安く買って、中古ショップやネットで転売して利鞘を稼ぐ連中のことを「せどり」と称するらしいが、洋楽リスナーや音楽愛好家には到底見えない薄汚い野郎どもの傍若無人の振る舞いには辟易するし、会場の空気も淀んでいるように感じられて不快極まりない。ここ数年来、掘り出し物を探し出すという愉しみも半減している。1人CD10枚までとか‥‥枚数制限を設ける段階に来ているのではないかしら。10枚ほど購入したものの、小躍りするようなアルバムは少なかった‥‥というわけで、旧年(2012)中に実施された各店舗のミニ・ワゴンセールで入手したアルバムも紛れ込ませることにした。

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    • デフレの影響なのか少し単価が下がって1枚(¥276)×7=1932円の出費です^^;

    • 〈O Superman〉については《Big Science》(Nonesuch 2007)のセルフ・ライナーノーツを参照しました

    • 「RSSフィード」の不具合を修正しました。「記事に使用できない文字」って何よ?
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    Big Science

    Big Science

    • Artist: Laurie Anderson
    • Label: Nonesuch
    • Date: 2007/07/17
    • Media: Audio CD
    • Songs: From The Air / Big Science / Sweaters / Walking & Falling / Born, Never Asked / O Superman (For Massenet) / Example #22 / Let X=X / It Tango / O Superman (video clip) / Walk The Dog (audio track)


    Unausgesprochen

    Unausgesprochen

    • Artist: Annett Louisan
    • Label: 105 Music
    • Date: 2006/04/17
    • Media: Audio CD
    • Songs: Das Große Erwachen (...und jetzt...) / Torsten Schmidt / Chancenlos / Gedacht Ich Sage Nein / Eve / Läuft Alles Perfekt / Wo Ist Das Problem? / Er Gehörte Mal Mir / Die Lösung / Der den ich will / Vielleicht / Widder wider Willen / Beerdigung / Ausgesprochen Unaus...


    L'un N'empeche Pas L'autre

    L'un N'empeche Pas L'autre

    • Artist: Brigitte Fontaine
    • Label: Polydor Import
    • Date: 2011/05/31
    • Media: Audio CD
    • Songs: Dancefloor / Supermarket / Rue Saint-Louis-En-L'ile / Hollywood / Pipeau / Les Vergers / Gilles De La Tourette / Duel / Caravane / Inadaptee / Dressing / God's Nightmare / Le Grand-Pere


    Liberte

    Liberte

    • Artist: Khaled
    • Label: Wrasse Records
    • Date: 2009/08/25
    • Media: Audio CD
    • Songs: Hiya Ansadou (Intro) / Hiya Ansadou / Raikoum (Intro) / Raikoum / Ya Bouya / Kirani / Gnaoui / Zabana / Libert (Intro) / Libert / Soghri / Sidi Rabbi / Yamina (Intro) / Yamina / Papa / Sbabi Nitya / Ya Mimoun (Intro) / Ya Mimoun


    Sense & Sensuality

    Sense & Sensuality

    • Artist: Au Pairs
    • Label: Castle Music UK
    • Date: 2002/03/26
    • Media: Audio CD
    • Songs: Steppin' Out Of Line / Sex Without Stress / Instant Touch / That's When It's Worth It / Shakedown / Tongue In Cheek / Intact / Don't Lie Back / America / Fiasco


    Um Labirinto Em Cada Pe

    Um Labirinto Em Cada Pe

    • Artist: Romulo Froes
    • Label: YB Music
    • Media: Audio CD
    • Songs: Olhos Da Cara / Muro / Máquina De Fumaça / O filho de Deus / Rap Em Latim / Varre E Sai / Boneco De Piche / Tua Beleza / Ditado / Jardineira / Cilada / Quero Quero / Onde Foi Que Nunca Vem / Um Labirinto Em Cada Pe


    Otra Cosa

    Otra Cosa

    • Artist: Julieta Venegas
    • Label: Sony U.S. Latin
    • Date: 2010/03/16
    • Media: Audio CD
    • Songs: Amores Platnicos / Bien O Mal / Despedida / Debajo De Mi Lengua / Revolucin / Otra Cosa / Original / Ya Conocern / Duda / Si Tu No Estas / Un Lugar / Eterno

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    コメント 4

    つむじ

    こんにちわsknysさん。

    確か「イカ天」という番組の初回に「チケット前売りコーナー」というのをやってて、それで急に「ローリー・アンダーソン・ライブ」を売り出したのでビックリして買った記憶があります。(本当か???)赤坂のラフォーレ。そんなのあるの知らなかったけれども前から2番目で、すべてのパフォーマンスがすべて実験的なものなのに洗練されていて見やすくてわかりやすくて大いに感動しました。
    ナムジュンパイクとヨーゼフ・ボイスのパフォーマンスも草月会館で観ましたので、あのころ現代美術は港区に支えられていたのか知らン?などと思いました。
    by つむじ (2013-02-16 10:18) 

    sknys

    つむじさん、コメントありがとう。
    ローリー・アンダーソン(日本青年館 1984. 6. 19)を観てから
    「ヨーゼフ・ボイス展」(西武美術館 6. 29)に行きました。
    「前から2番目」とは羨ましいなぁ。

    ボイスのパフォーマンスは会場内のヴィデオで観た記憶があるけれど、
    パイクのインスタレーション(箱庭ジャングルにTVモニタがある)は
    どこで観たのか記憶が曖昧‥‥。
    今から思えば「1Q84年」だったことに意味があるのかもしれません。

    アナログ盤で愛聴していた《Big Science》(Warner Bros. 1982)。
    25周年記念盤には映像特典として〈O Superman〉のPV2種(低・高画質)もハッ、ハッ、ハッ、ハッ、入っている^^;
    by sknys (2013-02-16 21:39) 

    つむじ

    パイクの展示は、東京都美術館で見たような気がします。テレビを積み上げてたようなやつですが、どうも記憶がはっきりしません。
    by つむじ (2013-02-17 01:37) 

    sknys

    「コンピュータ・アート展」(伊勢丹美術館 1985)だったかしら?
    戦争が終わっても日本兵が出て来なかったのはジャングルの中で
    TVを見ていたから‥‥というパイクのジョークは良く憶えています^^
    by sknys (2013-02-17 23:57) 

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