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貧相ゾンビ [p a l i n d r o m e]



  • 何でしょうか、これは。田代湖ってどこにあるんですか? 聞いたことがないですね。猪苗代湖なら知っていますけれど。/ 新潟県です。信濃川水系のカッサ川にダムを造ってできた人造湖です。/ カッサ川っていうのがあるんですか。奇妙な名前ですね。/ 人の名前にいちゃもんをつけてはいけません。/ 人の名前なんですか。人の名前ですよね。えっとぉ、次にあるのは新作のオビのキャッチでしょうか? 本文はきっとまだ書けていないのですね?/ いえ、これが本文です。タイトルよりも本文が短い、という極めてトリッキィな作品です。/ 本文? たった一行で? / そうです。「殺した犯人は田代湖」というのが本文のすべてです。/ 短!/ そのとおりです。「みじか!」という叫びは、漢字にすると送り仮名がないので面白いですね。「たん!」と言ったわけじゃありませんよね。/ あのぉ、先生、この作品にはどういう面白さが隠されているのでしょうか?
    森 博嗣 「実験的経験」


  • □ 9月は小松彩夏、男性追い千駄ヶ谷。あ‥‥妻子、発覚!
    9月に入って1週間の夏休みが取れた愛野美奈子(小松彩夏)はパパラッチに追い駆けられるアイドルから、女ストーカーに豹変した。ミステリアスで妖しいオーラを放つイケメン男優Xのことが気になって仕方なかったからだ。先輩俳優やマネージャーに訊いてもXの私生活な謎に包まれていて、その自宅は親しい友人にも知らされていないという。黒サングラスと赤いハンチング帽で変装した美奈子はXの後を尾ける。追われる立場から追う側に転じてみると、獲物を狙うハンターのような緊張感と高揚感で胸が高まる。撮影所から出て来たXはバイクに股がっていた。何度も撒かれそうになったが、尾行を続ける。千駄ヶ谷の高級マンション駐車場へ降りて行くバイクを確認した時には夕闇に包まれていた。タクシーから降りた美奈子がマンションの物陰に隠れて待つこと小1時間‥‥まるで張り込み中の刑事みたいだわと1人悦に入っていると、1台の高級外車が地下駐車場から出て来た。信じられない光景を目撃した美奈子は絶句した。Xが運転するクルマの後部座席に若い女性と幼い男児が乗っているではないか!‥‥彼には隠し妻だけでなく、隠し子までいたのだ。「おのれ、純情可憐な乙女を惑わす妖魔め。月に代わって、お仕置きよ!」

    □ 2カ月猪苗代湖、見殺し罠、いつ怪我に?
    福島県の猪苗代湖周辺では突然出没しては農作物を荒らし、人を襲うイノシシによる被害が年々増加している。地元の猟友会や農家の有志たちが付近一帯をパトロールしているが、森に仕掛けた罠にツキノワグマの子供が捕まってしまったのは誤算だった。発見した時は子クマの衰弱も激しく、後脚を負傷していた。約2カ月も見殺し状態で放置されていたことが判明すると、その批判はパトロール隊に集中した。お前たちは一体何をしていたのだ。イノシシの代わりに絶滅危惧種の子クマを捕まえてどうするんだ!‥‥という抗議が耶麻郡猪苗代町の役場に殺到した。動物学者や獣医は2カ月に渡って檻の中で生存し続けたツキノワグマの生命力に驚きを隠さなかった。後日、「罠を仕掛けてから2カ月」という情報に訂正されたが、熱しやすく冷めやすい国民の関心は新たに絶滅種となったニホンカワウソの方に移っていた。保護されたツキノワグマは回復した後に森へ返されるという。

    □ ニケが発った、リオ来た。羽撃き降り立った崖に‥‥
    ロンドン五輪(2012)の金・銀・銅メダルには「パルテノン神殿からロンドンへ降り立つ勝利の女神ニケ」の姿がデザインされている。受賞台の上でメダルを首に掛けてもらった日本選手たちは一応に「メダルが重い」とコメントしているが、実際に従来のメダルよりも2倍近く重いらしい。肩にかかっていた重圧からは解放されたけれど、今は首が重いと洒脱なコメントを残したアーチェリー選手もいた。ロンドン五輪の閉会式は華麗なるロック・ショーだった。ブリティッシュ・ロック・スターやモンティ・パイソン、次期開催国ブラジルからゲスト参加したアーティストのライヴを上空から見届けた女神ニケは視察のために次期開催地のリオデジャネイロへ向かった。しかし、人気のない崖の上に降り立ったニケが見たのは荒涼とした廃墟だった。もしかして私、間違えて北京に来ちゃったのかしら?‥‥それとも100年後の未来へタイム・リープしちゃったとか?

    □ 脆いね、野次でオリンピック、翼、発掘品、リオデジャネイロも?
    表彰式後の写真撮影で選手たちが戯けてメダルを噛む仕草はオリンピックの見慣れた風景になっているけれど、ロンドン五輪では事前にメッキが剥げるので噛まないでとアナウンスされた。意外に脆い塗装なのね。でも、オリンピック・スタジアムで起こった事故に比べたら笑い話の1つかもね。野次や声援で騒然とする競技場のスタンドが轟音と悲鳴に変わった時は心底驚いたわ。何とスタンドの一部が突然崩れて観客たちが落下したのだ。幸いにして死者は1人も出なかったが、数十人が負傷して病院へ緊急搬送された。手足を骨折した男女も数人いたという。修復工事に携わっていた作業員が崩れた瓦礫の中から珍しいものを発見した。「翼」の一部らしきものが刻まれた古いメダルの欠片だった。五輪調査委員会が鑑定した結果、第6回ロンドン大会(1908)の時のメダルの一部ではないかということが判明した。しかも不思議なことに、新スタジアムを建設中のリオデジャネイロでも同じようなメダルが発掘されたというのだ‥‥ちょっと待って。この話、変じゃない。リオは初の五輪開催地だし、ロンドンの事故も起こってないし、と疑問が湧いたところで、夢から目が覚めた。

    □ ロベルト・カメレオン跳ぶ三段、座布団折れ目、蚊取るベロ
    人間と同じようにネコも蚊に刺されるが、蚊を捕ったりなしない。牝猫ロベールに1匹の蚊が纏わりついている。 長い尻尾を振って追い払おうとするけれど、蚊は全く逃げる気配がない。2折りした座布団を枕にして寝転んでいた女飼主は、その様子を隔靴掻痒の思いで眺めていた。両手をバシッと叩いて殺してやりたいんだけど、大きな音でロベールを驚かせてしまうことになるから自重するしかない。どうしてネコは蝶々やバッタを追い回すように吸血蚊を捕まえないのかしら?‥‥その時、ペットのカメレオンがホップ、ステップ、ジャンプと三段跳びして近づき、長い舌先を伸ばした。座布団の折れ目に止まっていた蚊をベロで絡め捕ったのだ。ロベルトの電光石火の早業に文字通り舌を巻いた女飼主は決定的な瞬間を誰かと共有したくなって、ねぇ、今の見た?‥‥とネコを振り返った。しかし、ロベールは何事もなかったように尻尾を左右に振りながら微睡んでいた。

    □ 今夜シベリア、痛い!‥‥兵隊アリ、ペシャンコ
    ビョーク(Bjork)の〈Army Of Me〉(1995)が「私の軍隊」と和訳されていて違和感を覚えたことがある。直訳すれば「私の軍隊」になるが、「army of …」は「a lot of …」の意味で、手許の英和辞典にも「an army of ants アリの大群」という例文が載っている。歌詞は「私のことをパパラッチみたいに追い回したり、ストーカーみたいに付き纏ったりしていると、今に私の大群に襲われるわよ」という攻撃的な内容だった(ちなみにシングル盤のカヴァは「鉄腕アトム」のパロディ)。プッシー・ライオット(Pussy Riot)支援のためにシベリアの地に降り立ったビョークは凍てつく寒気に思わず身を震わせた。夜空には氷のような星々が煌めいていた。アイスランド生まれの彼女にしてもシベリアの寒さは想像を超えていた。しかし、ビョークの足許ではブルブルと震えるどころではない大惨事が起こっていた。折しも大移動中の「アリの大群」がビョークの足で踏み潰されていたのである。「アリの軍隊」も「私の大群」に太刀打ち出来なかったのだ。

    □ 未遂で事故死?‥‥奇面館。猫と5年間メキシコ・シティ住み
    東京郊外に建つ異形の屋敷「奇面館」の会合に招待された6人の客人たち。その中には迷宮探偵・綾取猫人と黒猫コロネの姿もあった(正確には6人と1匹と言うべきか)。6人の招待客は既に席に着いて、これから始まる晩餐会を待っている。しかし、予定の時刻を30分過ぎても主賓が姿を現わさない。食堂内に張りつめた異様な空気は主人や秘書、管理人だけでなく、招待客6人が面妖な仮面を被るという決まりによって増幅されていた。不審に思ったメイドの新月瞳子が主人のいる〈奇面の間〉へ向かう。数分後、奥の間から絹を引き裂くような悲鳴が聞こえて来た。仮面の男たちが〈奇面の間〉に駆けつけると首にロープが巻きついた死体が床に倒れていた。茫然自失状態で座り込んでいる瞳子。その傍には踏み台に使った思われる椅子が横倒しになっていた。誰もが息を呑む瞬間に、迷宮探偵が沈黙を破る‥‥「これは自殺未遂しようとして、誤って椅子から転落した事故死です。何故ならば、奇面館主人に自殺する理由が見当たらないし、ロープには予め切れ目が入っているし、不自然に倒れた椅子が事故死だと告げているから」。

    客人の1人、元刑事のヤマさんが異議を唱える。「そもそも仮面を被った死者が奇面館の主人とは限らない」と言って、死体の仮面を脱がそうとするが、頑丈な鍵が掛かっていて外れない。奇妙なことに招待客6人の仮面も取れないのだった。これじゃ、誰が誰だか全く分からない。6人の中に死んだはずの館主が紛れ込んでいる可能性も否定出来ない。まぁ、私を除けば容疑者は5人ということになりますが。「僕も除けば4人ですね」と〈哄笑の仮面〉を被った探偵は足許に寄り添っていた黒猫コロネを抱いて微笑む。館主は奇面館に移り住む前に5年間メキシコ・シティで猫と一緒に暮らしていたんです。僕とコロネも1度だけ「黒猫館」を訪れたことがありますが、主人は近々日本へ帰国してメキシコや中南米で集めた珍しい仮面コレクションを所蔵・陳列するための館を建てたいと仰っていたんです。館が完成した暁には仮面晩餐会を催して招待客を驚かすつもりだと聞いていました。「自殺」はパーティの余興、つまりブラック・ジョークだったはずなんです。でも、仮面を脱げない異常な状況から鑑みると、「自殺未遂」に失敗した「事故死」でない可能性も出て来ますね。

    □ 虐め目敏く裏切り嫌う諄(くど)さ女々しい
    「イジメ」を苦に自殺する生徒が後を絶たない。小学校時代にイジメられたことは今でも忘れられないトラウマとして癒えない傷痕のように心の奥に残っているが、少なくとも自殺する児童はいなかった。恐喝脅迫、暴行傷害、自殺教唆、万引き強要‥‥というようにエスカレートする今日の「イジメ」は犯罪ではないかと思うほどに度を超えている。「イジメ」と自殺の間に因果関係は認められないとか、全校アンケート調査の結果、「イジメ」の事実は確認出来なかったとする学校や教育委員会の会見も醜悪の極みだ。青学中等部で起こったという「セレブ子女」によるイジメ事件は保護者が「大物女優」と「電通夫」のせいなのか、TVでは一切報じられていない。毎週金曜日に首相官邸前で行なわれている10万人規模の「反原発デモ」もNHKは仏ル・モンド紙に揶揄されるまで無視し続けた。敢えて報道しないのも1つの見識だが、外部からの圧力に屈して報道出来ないのだとしたら、旧マス・メディアの体質は腐り切っている。子供たちは良くも悪くも大人社会を見て育つ。

    □ 地獄垣間見、余震去る。残暑見舞い書く孤児
    東日本大震災の津波で家を流された僕は同時に両親も失った。僕が救かったのは担任先生の引率で校舎の屋上に避難したからだが、濁った海水は足許まで逼って来た。屋上から見た光景は一生忘れられない。大津波に襲われた町並みは一瞬にして、SF映画で見たような荒涼とした世界に変わり果ててしまった。まるで未来の地獄図のようだった。3・11から1年半後の現在、僕が親戚の家に引き取られて、新しい学校へ通っている。夏休みには1度故郷へ帰って、避難した場所から復興した町並みや太平洋も見たかったが、恐怖の方が勝って戻れなかった。その代わりに、かつてのクラスメートたちに残暑見舞いを書くことにした。生き残った友人、亡くなった友人へ向けて‥‥。もちろん宛先が変更されて届かない葉書や宛名不明で戻って来る葉書もあるかもしれない。でも書かずにはいられない。ペン先が震えてしまうのは決して余震のせいだけではない。

    □ 新婚リクルート、たまにマタドール(闘牛士)、クリンゴン氏
    クリンゴンのウォーフ(Wolf)少佐はエンタープライズ号の乗組員(保安主任)の1人として数多くの任務を遂行し、予期せぬ怪事件や怪現象や異星人に遭遇〜解決して来たが、結婚を機に地上勤務へ転職した。もちろん、殉職したケーラー(クリンゴンと地球人のハーフ)との間に生まれた1人息子アレキサンダーも引き取るつもりだ。地球では連邦軍の関連機関で働くつもりだったが、その輝かしい経歴のためか、防衛大学の主任教授という上級役職になってしまった。退屈な会議や単調な講義の毎日で躰が鈍ることを懸念したウォーフは素晴しいアイディアを思いつく。赴任地のスペインには数100年以上も続く伝統文化、マタドールという彼に相応しい職があったではないか!‥‥。週末のウォーフはクリンゴン一族を代表する誇り高き「闘牛士」として大観衆の喝采を浴びている。クリンゴンの血が騒ぐ?

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    美少女戦士セーラームーン 5

    美少女戦士セーラームーン 5

    • 出演:沢井 美優 / 浜 千咲(泉 里香)/ 北川 景子 / 安座間 美優 / 小松 彩夏
    • メーカー:バンダイビジュアル
    • 発売日:2004/07/23
    • メディア:DVD
    • 収録時間:108分


    実験的経験 Experimental experience

    実験的経験 Experimental experience

    • 著者:森 博嗣
    • 出版社:講談社
    • 発売日:2012/05/24
    • メディア:単行本
    • 目次:Chapter 1 / Chapter 2 / Chapter 3 / Chapter 4 / Chapter 5 / Chapter 6 / Chapter 7 / Chapter 8 / Chapter 9 / Chapter 10

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