ヤング・ゴッド・レコーズ

Micheal Gira（Swans）が創設した「Young God Records」（YGR）はエクスペリメンタル〜アヴァギャン系のレーベルだが、アルバムのアート・ワークからも、その魅力が視覚的に伝わってくる。光沢のない紙質、デジパック仕様、イラスト・カヴァ‥‥裏ジャケは右端に「YOUNG GOD RECORDS」という帯文字、下部に収録曲と演奏時間を表記、背表紙は「YG00｜アーティスト名・タイトル名｜YG00」というレイアウト、CD盤面も背表紙と同じ色合いのデザインで統一されている（通常のデジパックよりも少し幅が広いので潰れやすい！）。そのシンプルでスタイリッシュなパッケージは夥しいレーベル、アルバムの中にあっても、YGRであることを爽やかに主張する。たとえ手許にYGRのアナログ盤やCDが１枚もなくても、オフシャル・サイトを覗けば洗練されたデザインに魅了されるはずである。Swans、Angels Of Light、Akron/Family、Devendra Banhart、Lisa Germano‥‥など、YGRはMicheal Giraのバンドと彼の目（耳）に適ったアーティストたちのアルバムをリリースし続けている。

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◎ Rejoicing In The Hands（Young God 2004）Devendra Banhart

フリー・フォークの旗手、Devendra Banhartの生ギター弾き語りアルバム。英米音楽メディアの年間ベスト・アルバム（2004）に選出されて、彼だけでなくYGRも人口に膾炙した。〈Pughkeepsie〉で Elvis Presleyの曲名を歌詞の中に折り込み、〈This Bead Is For Siobhan〉の後半でパーカッションが入り、〈When The Sun Shone On Vetiver〉でスライド・ギターが優雅に滑り、〈Fall〉で軽快にフォーク・ロックして、〈Rejoicing In The Hands〉では伝説のフォーク歌姫Vashti Bunyanとデュエットする。ピアノ、チェロ、ヴァイオリン、ドラムスなども入っているが、殆どの楽器（ギター、ピアノ、ベース）を１人でプレイしている。〈Todo Los Dolores〉の歌い出しで失敗して歌い直す本来アウト・テイクになるべきNGからも一発録りだということが良く分かる。中性的なヴォイスとメランコリックなメロディと繊細なアルペジオの響き。全16曲中、２分未満が４曲、３分未満が８曲と、比較的短めの曲が多い中で、ブルーズ調の〈Insect Eyes〉は５分もある。ラストのピアノ曲〈Autumn's Child〉も余韻を残す。

◎ Akron/Family（Young God 2005）Akron/Family

アルチンボルド風のトロンプ・ルイユ（貝殻で作った顔）、奇妙な形態の植物、図案化した蛇‥‥NY出身の４人組Akron/Familyのデビュー・アルバムはオランダの薬剤師・動物学者アルベルトゥス・セバ（Albertus Seba）のイラストで飾られている。Dana Janssen（ドラムス）、Seth Olinsky（ギター、ヴォーカル）、Ryan Vanderhoof（ギター）、Miles Seaton（ベース）‥‥という編成で、１つの楽器に囚われず各メンバーが自由にピアノやギターを演奏する。レーベル・メイトだったDevendra Banhartにも通じるフリー・フォーク系の楽曲が多いけれど、バンド・スタイルで構築されるサウンドにはエクスペリメンタルで捉えどころのないもある。生ギター弾き語りの〈Before And Again〉、メローなギター・ソロが響き渡る〈Suchness〉、カントリー・ワルツからレイドバックしたロックへと転じる〈Italy〉、５拍子で始まる〈Running, Returning〉‥‥全14曲（シークレット・トラックを含む）、60分。2ndアルバム（2007）のリリース後にRyan Vanderhoofが離脱して、Dead Oceansへレーベル移籍。現在のAkron/Familyはトリオ編成で活動している。

◎ We Are Him（Young God 2007）Angels Of Light

Angels Of Lightの5thアルバムはAkron/Familyのメンバーと録音したものの、Micheal Giraにとっては納得の行くものではなかったらしい。そこで彼は旧友のミュージシャンたちにゲスト参加してもらうことで、アルバムを完成させたという。Christoph Hahn、Bill Rieflin（REM）、Eszter Balint、Julia Kent（Antony & The Johnsons）、Siobhan Duffy（God Is My Co-Pilot）、Larkin Grimm、Phil Paleo（Cop Shoot Cop）‥‥。〈My Brother's Man〉、〈We Are Him〉の後半など激しい曲もあるけれど、Micheal Giraの美声を生かしたメロディアスなロック・アルバムとなっている。イヌ少年がバースディ・プレゼントの骨（ピンクのリボンが巻かれている）を右手に握っているアルバム・カヴァや左手に警棒を携えたネコ警官とカラスとヒヨコが描かれている裏ジャケ、「赤頭巾ちゃん」を想わせるオオカミと少女などのインナー・スリーヴは特異な幻想画家、Deryk Thomasの手によるものである。暗黒メルヘンの世界の住人たちがキモ可愛い？

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◎ Parplar（Young God 2008）Larkin Grimm

ギター、ドブロ、バンジョー、ダルシマ‥‥などを弾きながら歌う女性SSWの3rdアルバム。レーベル・メイトのFire On Fireが演奏をサポート。Michael GiraやSiobhan Duffyもヴォーカルで参加している。ドブロ・ギター弾き語りと多重コーラスの〈They Were Wrong〉で始まり、アパラチアン民謡のような〈Ride That Cyclone〉で早くも妖しげなムードに‥‥。ヴィブラフォンが鳴り響き、メリーゴーランドのように回転する〈Blonde And Golden Johns〉には、Jesca Hoopに通じる眩暈や酩酊感もある。Dirty Projectorsとも親交があるというLarkin Grimmの音楽は土着〜未開的なフォーク・ソングと魔術的な実験性がブレンドされて、精霊やゴースツ、妖精や一角獣の棲む森へ誘う。早回しのKate Bushみたいな〈Mina Minou〉やウィスパー・ヴォイスの〈How To Catch A Lizard〉など、「高く舞い上がるだけでなく、低く土臭く旋回する」彼女のヴォイス・パフォーマンスに翻弄される。アルバム・カヴァのイグアナ（裏面は２匹のトカゲ）とインナー・スリーヴのイラスト画はLauren Beckによるものである。

◎ Glass Bead Game（Young God 2009）James Blackshaw

YGRはアルバム・カヴァに強い拘泥りがあるらしい。それがアーティスト側のアイデアなのか、レーベル・オーナーMichael Giraの意向なのか分からない。しかし、その殆どがイラストもので、しかも犬、猫、兎、鳥、昆虫、イグアナ、蜥蜴、蛇‥‥などの動物画が圧倒的に多い。James Blackshawのアルバム・カヴァにも天沢退二郎の『オレンジ党、海へ』に登場する「鳥の王」みたいなイラスト（裏面はフクロウ）が描かれている。Nicole Boitosの鳥たちは禍々しくも痛々しい。James Blackshawのインストルメンタル・アルバムは長い叙事詩や分厚いファンタジー小説を読むのにも似て、ドラマティックで美しい。女声コーラスやピアノ、チェロ、ヴァイオリン、クラリネット、ハーモニウム‥‥も聴こえて来るが、主役はオーケストラのように響き渡る荘厳で流麗な12弦ギターである。全５曲で49分というように長尺曲が多いのに（ラストの〈Arc〉は19分近い大作）、途中で飽きることはない。James Blackshawのアルバムは教会やクラシック・ホールに響き渡る音楽のようだ。

◎ Magic Neighbor（Young God 2009）Lisa Germano

Lisa Germanoの魅力はハスキーで可憐なヴォイスにある。ベースとバリトン・ギター、ペダル・スチールを除く全ての楽器を彼女自身が演奏している。最少限の編成にも拘わらず、そのサウンドは奥深く広がりがある。彼女のピアノとヴァイオリンにヴォイスが加わるとマジックが生まれる〈To The Mighty One〉、力強いギター・ストロークとサビで３拍子になる対比が鮮やかな〈Simple〉、可愛いインスト曲の〈Kitty Train〉、「私」に物語を聞かせて欲しいと歌う〈The Prince Of Plati〉、ワルツ曲の〈A MIllion Times〉‥‥深閑たる森の中の湖の底から湧き上がって来るようなLisa Germanoのヴォイスに心を奪われる。船乗りたちを誘惑して深海へ引き摺り込むセイレーンの歌声のように。YGRのアルバム紹介ページでは、Michael Giraが最大級の賛辞をLisa Germanoに贈っている。彼女の音楽に興味を持った人はアルバム収録曲の〈Snow〉（MP3フリー・ダウンロード）を試聴しよう。

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◎ My Father Will Guide Me Up A Rope To The Sky（Young God 2010）SWANS

NYのポスト・パンク〜エクスペリメンタル・バンド、Swansの14年振りの復活アルバム。Micheal Gira（ギター、ヴォーカル）、Norman Westberg（ギター）、Phil Puleo（ドラムス）、Christoph Hahn（ベース）、Chris Pravdica（ギター）Thor Harris（ドラムス）、というメンバー６人に、Devendra Banhart（ヴォーカル）やGrasshopper（マンドリン）、Bill Rieflin（ドラムス、ピアノ、ギター、シンセ‥‥）などがゲスト参加している。重低音の音塊が一丸となって襲いかかる戦慄と覚醒を促す静寂。Angels Of Lightの成果を継承した視覚的なサウンドは重戦車や爆撃機が交戦する「戦争映画」をワイドスクリーンの観ているような錯覚に陥る。ジャケ違いの「Special Edition」（2CD）にはアルバムの生素材を解体〜再構築して、ストリングスやホーン、ギターを新たに加えた長尺曲〈Look At Me Go〉（46分）が付いている。凡百のダブ・ヴァージョンやリミックスとは別次元のエクスペリメンタル〜アンビエントの一大絵巻に圧倒されます。

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• オフィシャル・サイト「Young God Records」でSwansやAngels Of Lightのアルバムを買うと、Michael Giraの直筆サインが入っている＾＾

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　 young god records / sknynx / 301

Rejoicing In The Hands

• Artist: Devendra Banhart
• Label: Young God Records
• date: 2004/05/04
• Media: Audio CD
• Songs: This Is The Way / A Gight To Behold / The Body Breaks / Poughkeepsie / Dogs They Make Up The Dark / Will Is My Friend / This Beard Is For Siobhan / See Saw / Tit Smoking In The Temple Of Artesan Mimicry / Rejoicing In The Hands / Fall / Todo Los Dolores / ...

Akron/Family

• Artist: Akron/Family
• label: Young God Records
• Date: 2005/03/22
• Media: Audio CD
• Songs: Before And Again / Suchness / Part Of Corey / Italy / I'll Be On The Water / Running, Returning / Afford / Interlude: Ak Ak Was The Boat They Sailed In On / Sorrow Boy / Shoes / Lumen / How Do I Know / Franny/You're Human / (untitled)

We Are Him

• Artist: Angels Of Light
• Label: Young God Records
• Date: 2007/08/28
• Media: Audio CD
• Songs: Black River Song / Promise Of Water / The Man We Left Behind / My Brother's Man / Not Here/Not Now / Joseph's Song / We Are Him / Sometimes I Dream I'm Hurting You / Sunflower's Here To Stay / Good Bye Mary Lou / The Visitor / Star Chaser

Parplar

• Artist: Larkin Grimm
• Label: Young God Records
• Date: 2008/10/28
• Media: Audio CD
• Songs: They Were Wrong / Ride That Cyclone / Blond And Golden Johns / Dominican Rum / Parplar / Durge / Be My Host / Mina Minou Final / My Justine / Anger In Your Liver / All The Pleasures In The World / Fall On My Knees / How To Catch A Lizard / The Dip / Hope ...

Glass Bead Game

• Artist: James Blackshaw
• Label: Young God Records
• Date: 2009/05/26
• Media: Audio CD
• Songs: Cross / Bled / Fix / Key / Arc

Magic Neighbor

• Artist: Lisa Germano
• Label: Young God Records
• Date: 2009/09/22
• Media: Audio CD
• Songs: Marypan / The Mighty One / Simple / Kitty Train / The Prince Of Plati / A Million Times / Magic Neighbor / Suli-mon / Snow / Painting The Doors / Cocoon

My Father Will Guide Me Up A Rope To The Sky

• Artist: Swans
• Label: Young God Records
• Date: 2010/09/21
• Media: Audio CD
• Songs: No Words/No Thoughts / Reeling The Liars In / Jim / My Birth / You Fucking People Make Me Sick / Inside Madeline / Eden Prison / Little Mouth

タグ：young god Music michael gira