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スはスニンクスのス [b l o g]



  • ぼくが今のアメリカに行って、人々と話して感じるのは、われわれが生きている今の世界というのは、実は本当の世界ではないんじゃないかという、一種の喪失感──自分の立っている地面が前のように十分にソリッドではないんじゃないかという、リアリティの欠損なんですね。/ もし9・11が起こっていなかったら、今あるものとは全く違う世界が進行しているはずですよね。おそらくはもう少しましな、正気な世界が。そしてほとんどの人々にとってはそちらの世界の方がずっと自然なんですよ。ところが現実には9・11が起こって、世界はこんなふうになってしまって、そこでぼくらは実際にこうして生きているわけです。生きていかざるを得ないんです。言い換えれば、この今ある実際の世界の方が、架空の世界より、仮説の世界よりアリティがないんですよ。言うならば、ぼくらは間違った世界の中で生きている。それはね、ぼくらの精神にとってすごく大きい意味を持つことだと思う。
    村上 春樹「monkey business vol.5」


  • ♭ ダリとリア〔art〕2007-05-11
  • 奇矯な言動で知られるサルヴァドール・ダリは「ダリ」というマス・イメージを意識して演じた芸術家の1人だった。ピンと跳ね上がったトレード・マークの口髭は今もポップ・アイコンとして周知されている。エキセントリックな行動だけがクローズ・アップされてしまったが、本当は内気で生真面目な性格だったと思う。それは恋人のアマンダ・リアと初デートで行った場所が「ギュスターヴ・モロー美術館」だったというところにも如実に表われている。ダリがリアに惹かれたのは、その男装の麗人のような容姿(長身)だけではなかった。彼女には芸術(絵画)を見る目があった。レオノール・フィニ、マルセル・デュシャン、パブロ・ピカソ、セルジュ・ゲインズブール、ジェーン・バーキン、ブライアン・フェリー、デイヴィッド・ボウイ‥‥などが徘徊する60年代後半のパリ。ゲイ・モデルだという噂を払拭するために独プレイボーイ誌でヌードを披露し、ディスコ・クイーンとして一世風靡したリア‥‥。Lottergirlsのアルバム《Right On》(2008)にゲスト・ヴォーカル参加して、健在なところを見せている。

  • ♭ 空を這う僕たち〔books〕2008-07-21
  • 「スカイ・クロラ」シリーズ(全6巻)は謎が最後まで解明されないミステリ。怠惰で空虚でアナーキーな世界。1人称視点で描かれていることも「スカイ・クロラ」の全体像を読者に見え難くしている。キルドレという永遠に大人にならない子供たちが薬害による奇形児なのか、遺伝子組換え実験による副産物なのか、それとも再生可能なクローン人間なのか‥‥その真相は良く分からない。すべては主人公(話者)たちの妄想であるかもしれないという疑惑も否定出来ない。「僕」や作中登場人物たちの言述の一体何が真実で、何が虚偽なのか見極める能力が読者に求められる(たとえば草薙瑞季は水素の娘ではなく妹だった)。しかし、キルドレの謎を解明することだけが「スカイ・クロラ」の主要テーマではない。「ベトナム観光公社」のようにショーアップされた「戦争」、「黒い時計の旅」のように今も終わることなく続いている「大戦」‥‥子供たち(キルドレ)が最新鋭の戦闘機を操縦して大空で闘い、撃墜されて死んで行く異世界は、飢餓や病気、戦争やテロ、児童虐待で殺され、イジメに遭って自殺して行く子供たちが生きる現実世界と通底している。森博嗣は「スカイ・クロラ」で燃え尽きてしまったのだろうか。

  • ♭ ムカデが手噛む〔palindrome〕2006-02-01
  • 回文シリーズ第2集のタイトルは確か「イタチごっこ地帯」だったが、収録作品の中の1篇を表題とした短篇集よりも、タイトル曲が収録されていない音楽アルバムの方が洒落ているのではないかと気づいて、回文集(全10篇)とは関係のないタイトルを付けることにした。〈名高いコスタリカで借りた凄い刀〉のストーリを書いている時に、物語が勝手に動いて行って驚いたり、〈桜の散る地の落差〉が出来て、回文の美しさに見蕩れたり‥‥でも、ストーリや回文は創作したというよりも、地面を掘って珍奇な化石や鉱石を発見したり、ある日突然、隕石や魚が空から降って来たような非日常的な感覚に近い。〈姉妹は恋仇、過ぎた悔悟、倍増し〉は気に入っている回文の1つ。19文字の中に短篇小説が1本書けるくらいのストーリが凝縮されているような気がする。美人姉妹に同時に恋して(恋されたら?)、どうしようかと主人公は悩むわけです。両手に花、それとも二兎を追う者は一兎も得ず?‥‥美人双子姉妹が入れ替わっていたとか、1人2役の多重人格者だったとか?

  • ♭ さようなら WAVE〔culture〕2009-01-11
  • WAVE池袋の閉店セールでは70枚くらいアルバム(CD)を買った。CDが売れなくなったのと同時に輸入CD(旧譜)の価格崩壊も起こっている。売れ残ったCDを在庫として抱え込まずに、出来るだけ早く売り捌いてしまおうということらしいが、そのサイクルが年々早まっている。HMV渋谷の閉店セールは在庫そのものが少なかったので、掘り出し物も僅かで面白味に欠けるものの、「100円」という超低価格には目を瞠った。近い将来にCDは消えてなくなるのではないかという危惧さえ抱かせるものだった。街から書店が消えて行ったように、レコード店も消えて行く。本やCDというメディアもなくなる運命なのだろうか。アナログ・アルバムの中に同内容のCD盤が同梱されているという悪い冗談のようなリリース形態があったけれど、最近はアナログ盤の中にDL(ダウンロード)カードが入っているというスタイルが増えて来た。音楽ファイルを公式サイトから無料DLすることで、CD盤をリリースしないという逆転現象も生じているのだ。アナログ盤の復活?‥‥「さようならタワレコ」の前に「さようならCD」という記事を書くことになるかもしれない。

  • ♭ ファンカデリックな子供たち〔archives〕2007-02-21
  • アーカイヴス・シリーズ‥‥過去の手書き原稿を改稿・加筆した記事は音楽(洋楽)と少女マンガという異種メディアを同等に並べてレヴューすることで一種の化学反応〜異化作用を読者に誘発させる意図で書かれている。今から思えば無謀な試みで、とても成功しているとは言い難い。その無理が祟ってか短命(全9篇)に終わってしまった。「ファンカデリックな子供たち」というタイトルから、Was (Not Was) と「はみだしっ子」を思い浮かべる読者は皆無だと思う。洋楽を聴きながら(BGMにして)少女マンガを読んでいたという同時代性はあるものの、それ以上の密接な関係がWas (Not Was) と「はみだしっ子」の間にあるのかどうかは難しいところである。その一方で、洋楽と少女マンガは地中の奥深い地下茎で繋がっているという確信も捨て切れない。音楽が少女マンガ(少女マンガ家)に与えた影響というテーマで研究論文が書けるかもしれない。少女マンガ好きの女子大生が卒論で取り上げていたりして?

  • ♭ 1Q84年のリトル・ピープル〔books〕2009/10/26
  • 『1Q84』(新潮社 2009)は2巻(Book1&2)で完結している。異界ファンタジーと化した「Book3」は読者サーヴィスという感じもなくはない。『モンキー・ビジネス』(ヴィレッジブックス 2009 vol.5)のインタヴューの中で作者は『スプートニクの恋人』(講談社 1999)の冒頭部分が3人称で書かれていると認めている。3人称小説ならば「すみれ」とミュウの会話の描写に異和感を覚えることもなかったかもしれないが、その後、1人称視点に変更されてしまうのは小説技法上の仕掛けならば兎も角、小説としては反則技ではないかしら。村上春樹は神の視点に立つ3人称小説を書くことが恥ずかしいとも語っている。しかし、3人称でも主人公の内面を描くことで限りなく1人称化しているし、必ずしも客観描写になるとは限らない。「人称問題」は難しい。『1Q84』は青豆→「私」、天吾→「僕」と置き換えても異和感なく読み進められるのではないか。ミュウが観覧車から自分の部屋の中にいるドッペルベンガーを目撃するシーンは、公園のスベリ台の上で2つの月を見つめている天吾をマンションのベランダから青豆が発見する場面に酷似している。天吾と青豆が同一人物だと言いたいわけではないけれど。

  • ♭ 少年ヴィーナス〔music〕2007-05-01
  • Bjorkのソロ・アルバム《Debut》(1993)については語り尽くした感がある。サイキック少女がアストロ・ビョーク(鉄腕ビョーク)に変身して、サイビョーク(Cyborg+Bjork)となる過程も、摩天楼崩壊のイメージを幻視したことにも触れたつもりだ。《Vespertine》(2001)はエレクトロニカの傑作だあるだけでなく、ゼロ年代を代表するアルバムとなった。飼いネコの恋人(亭主?)と一緒に踊る〈Triumph of a Heart〉のプロモーション・ヴィデオもネコ好きには堪えられないものだった(《Homogenic》(1997)のアルバム・カヴァを手掛けたアレキサンダー・マックイーンの突然の死はショックだったけれど)。ところが《Volta》(2007)は散漫な感じで、感情移入出来ない。そのライヴ版とでも言うべき《Volaic》(2009)のことも忘れていた。CD、CD+DVD、2CD+2DVD‥‥など、4種類もリリースされているアルバムの一体どれを購入すべきなのか迷っている。やっぱり4枚組の限定スペシャル盤でしょうか?

  • ♭ 奇抜な花椿〔palindrome〕2008-06-01
  • 回文シリーズ第13集のタイトルは資生堂のPR誌「花椿」の読者投稿欄に載った回文から採っている。「よむ」と「みる」という2つの異なるタイプ(活字とグラビア)を交互に発行している現在の「花椿」ほど「奇抜」という言葉が相応しい雑誌はないだろう。実写版『スカイ・クロラ』のアクロバット体験飛行に同乗して悶絶した真木よう子、ネクラ女を抱く浮気なパパ、腐女子姉妹が裏庭で育てていた大麻を奪い、家屋に放火して逃げた男、江戸時代にもいた丸出ダメ夫な岡っ引き(目明かし)、ネコ回文、「羊たちの沈黙」風のサイコ・スリラー、アート回文、淋しい刑事のクリスマス‥‥など、第13集はヴァラエティに富んでいる。その「花椿」(no.694)の中でも紹介されている回文の達人、土屋耕一さんが2009年3月に亡くなった。「軽い機敏な仔猫何匹いるか」はネコ回文の傑作である。不束ながら、「奇抜な花椿」を先達に捧げたいと思う。合掌。

  • ♭ PS I LOVE 2〔game〕2008-10-26
  • 最近はTVゲームで遊んでいないなぁ‥‥旧アナログTVの隣に立っているPS2もDVD再生機と化している。PS3の現行機種がPS2ソフトに非対応なので未だに買い替えられない。PS3はBD(Blu-ray Disc)に対応し、別売の地デジ・チューナーと組み合せることでデジタルTV録画が可能になるらしいけれど、ハード・ディスクに溜めるだけでBDに焼けないのでは録画機として意味がない。2010年12月からエコ・ポイントが半減するためか、家電量販店には地デジ対応TVを駆け込み購入する人たちで賑わっている。まるで石油ショックでトイレット・ペーパー買い占めにスーパーに殺到した主婦たちの再現フィルムを見ているような気分になる。そもそも今売られている地デジ対応TVには2011年7月以降(延期される可能性も高い)に不要なものとなるアナログ・チューナーが入っているし、リモコンにも「地上A」という無用なボタンが付いている。最新機種には8ヵ月後に「ゴミ」と化す無駄な機能が付いているのだ。このTVの一体どこが「エコ」なのでしょうか。アナログ・チューナー非内臓の新機種が出るまで待つのが賢い消費者というものではないかしら?

  • ♭ デジカメ貸して〔palindrome〕2006-04-01
  • 回文シリーズ第3集にはエロ回文が2つ入ってしまった。「弘兼回文塾」の下品で下世話な投稿作品に感化されてしまったのだろうか。でも、村上春樹だって下ネタっぽい回文を作っているし‥‥。自動筆記風の言葉遊びは意識下で抑圧された欲望が顕在化するようで、必然的に下ネタ→エロ回文化してしまうらしい。その深層心理を探ると、〈下着穿かずにミニスカ穿きたし〉は「女装してミニスカを穿きたい」という願望の顕われと看做すことが出来るかもしれない。『またたび浴びたタマ』(2000)の中で作者は《僕は好きでこういう回文を作っているわけではなくて、あれこれ考えているうちにたまたま、またまた(回文)こういう下ネタっぽいのができちゃうということなんです。潜在人格と言われてしまうとそれまでなんですが‥‥》と書いている。個人的にはB級ホラーの〈雨と稲妻が増すナイトメア〉やレコバの兄がタクシーの運転手をしているという新聞記事から思いついた〈ここの兄と「蹴鞠」蹴り、マケドニアの午後〉も気に入っています。

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    祝300回!‥‥100回記念の時は「アクセス・ランキング・ベスト10」、200回記念の時は「アクセス・ランキング・ベスト20」の記事について「自作解説」したので、今回は30位以内に入った記事の中から前回、前々回と被らないように11本(新たにベスト20入りした〈ダリとリア〉〈FAVORITE ー ALBUMS 1〉〈空を這う僕たち〉+ベスト30の8本)を選んで自作コメントしました。1つの記事は10枚(400字詰め原稿用紙)を目安にしているので、トータルで約3000枚近く書いたことになります。41字×10行の段落を10ブロック並べるのが「スニンクス・スタイル」の基本型(サイドバーの長さに乗じて記事も長くなる傾向にありますが)。「アクセス・ランキング・ベスト5」をサイドバーに設置。タイトルが記事別総閲覧数の一覧表「ACCESS RANKING 30」へのリンクになっています。ちなみにトップ写真は30年振りに購入したヘッドフォン(ULTRASONE Zino)とハローキティ・マルマルクッション(TEMPUR 10th)です。

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    • Author: sknys
    • Articles: 300
    • Provider: So-net
    • Date: 2010/11/21
    • Media: Internet


    m o n k e y b u s i n e s s 2009 Spring vol.5

    m o n k e y b u s i n e s s 2009 Spring vol.5

    • 責任編集:柴田 元幸
    • 出版社:ヴィレッジブックス
    • 発売日:2009/04/20
    • メディア:単行本
    • 目次:村上春樹インタビュー / 川上弘美・小川洋子対談 / うたの猿山 / 校長先生 / 死のメッセージ──警官への指示/別の電気 / の子と人の子ら / 9月 部屋 / バケツの騎士 / ドクター・ナカムラ / 象を撃つ / 池を掘る/赤とピンクの世界 / 隠された棘 / 黒い空間 雨の音 / 屋上霊園 / ダニイル・ハルムス 指物師クシャコフ ほか / 猿の仕事

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