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ブブゼラ・サッカー・ノイズ 3 [s o c c e r]



ドイツ西部オーバーハウゼン水族館のパウル君が注目を集めている。W杯対戦国の国旗が付いている2つの透明なエサ箱(好物の貝が入っている)のどちらの蓋を開けるかで勝者を予言する「タコ占い」。ドイツ戦6試合の勝敗を的中させたパウル君の予想は偶然という域を超えている。サッカーとタコの因果関係は良く分からないけれど(サッカー選手もタコも足技に優れる?)、敗戦国のサポータたちが逆恨みして、「パエリアにしろ」とか「今晩は家でタコサラダ」とか「サメを水槽に入れろ」とかいう八つ当たりは大人気ない。もちろんブラック・ジョークなのかもしれないが、過去には勝敗を巡って両国が戦争状態になったこともあるので、あながち笑ってばかりはいられない。特に決勝トーナメントでドイツに負けたアルゼンチンや、スペインに敗れたドイツのファンが怒っているらしい。偏狭な人間たちの罵詈雑言や脅迫には耳を貸さず、パウル君は3位決定戦と決勝戦の行方を占った。第3位はドイツ、優勝国はスペイン‥‥なかなか鋭い通好みの予想ではないか。もしパウル君の予言が的中したら、スペインは7月11日を「タコ断食記念日」にすべきでしょう。

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  • ○ オランダ 2 ─ 1 ブラジル(7/2 ポートエリザベス)
  • 準々決勝の4試合は各チームの主将が母国語で「SAY NO TO RACISM」を宣言するセレモニーが行なわれた。オレンジ色のオランダに対して、ブラジルがカナリア色ではなくブルー(アウェー)のユニフォームを着ていたのには嫌な予感がした。前半10分にMFフィリペ・メロの縦ロングパスをFWロビーニョがノートラップ・シュートして早くもブラジルの優勢となったが、後半8分に左からのFKをGKジュリオ・セザールと交錯したフィリペ・メロのオウンゴール(後日MFスナイデルの得点に変更された)で同点、同23分にはFWロッベンの右CKからのボールをMFカイトがヘッドで後ろに反らし、スナイデルがヘッドで合わせて逆転を許す。額を掌でペンペン叩いて喜び走るスナイデル(身長170cm)の姿が印象的だった。後半に失点してからのブラジルには王者らしくない焦りや苛立ちがあった。同28分にロッベンをスパイクで踏み突けて一発退場(レッドカード)になったフィリペ・メロが象徴しているように。反則行為を見逃さなかった西村主審のレフェリングも適切だった。同39分に放ったMFカカのシュートはGKステケレンブルフに阻まれた。

  • ○ ウルグアイ 0(PK 4 ─ 2)0 ガーナ(7/3 ヨハネスブルグ)
  • ブブゼラの音を味方にしたガーナが優勢に立つ。前半ロスタイム、MFムンタリの左にカーヴするミドルシュートがGKムスレナの前でワン・バウンドしてゴール右に決まった。しかし、後半10分にFWフォルランの左からの直接FKで同点にされる。1対1のまま延長戦に突入する。クライマックスは延長後半のロスタイムに用意されていた。終了間際に得たFKが右サイドから放たれると、ゴール前で混戦!‥‥ムンタリに代わって途中出場したMFアディエの決定的なヘディング・シュートをFWスアレスがゴールから両手で弾き出すという「珍プレイ」があったのだ。ガーナ選手やベンチだけでなく、観客席のサポータもTVの前の視聴者の誰もがガーナの勝利を確信した瞬間だったが、FWギャンのPKは無情にも(PK戦のDF駒野のように)クロスバーを叩いて失敗!‥‥項垂れてピッチを去るスアレスが歓声に振り返って小躍りする。九死に一生を得たウルグアイがPK戦を制する。スアレスの退場〜準決勝出場停止という高い代償を払って奪い取ったウルグアイの「ベスト4」だった。

  • ● アルゼンチン 0 ─ 4 ドイツ(7/3 ケープタウン)
  • 前半3分、左サイドから放たれたMFシュヴァインシュタイガーのFKがゴールへ向かって弧を描く。MFミュラーが頭で触ってボールの角度を変えると、GKロメロは1歩も動けなかった。後半23分にFWクローゼ、同29分にはシュヴァインシュタイガーの左からのドリブル〜ラストパスをDFフリードヒが、同44分には再びクローゼがW杯通算14得点目を決めてゲルト・ミュラーと並ぶ歴代2にとなった。4対0という予想外のスコアでイケメン監督レーウの率いるヤング・ドイツがアルゼンチンに圧勝した。準々決勝もMFメッシは不発で、個人技に頼ったアルゼンチンはドイツの躍動するカウンター攻撃に歯が立たなかった。精魂尽きて意気消沈するマラドーナ監督や無言で立ち去るメッシの後ろ姿を見るのは辛い。CL準々決勝2回戦(2010/4/6)でメッシに4点も奪われて逆転負けした英アーセナルのベンゲル監督は、試合後の記者会見で「彼はプレステの選手だ」と脱帽した。メッシが輝くのはアルゼンチン代表ではなく、FCバルセロナの選手としてである。

  • ● パラグアイ 0 ─ 1 スペイン(7/4 ヨハネスブルグ)
  • 前半はパラグアイの攻守が目立った。スペインのパスは回るけれど、ゴールには結び着かない。試合の雲行きが俄かに怪しくなったのは後半14分のこと。FWカルドソのPKをGKカシージャスが防ぐと、その3分後にMFシャビ・アロンソのPKがGKビジャールに阻まれるという波乱の展開に‥‥しかもシャビ・アロンソは、ボールを蹴る前にPKエリア内に選手が侵入して、蹴り直しの失敗(1回目は成功!)だった。しかし、同38分、スペインにマジカルな得点が生まれる。ドリブルでヴァイタル・エリアに入ったMFイニエスタが右サイドのMFペドロにパス。ペドロのシュートが左ポストに当たって、FWヴィジャの前に跳ね返り、ヴィジャのシュートは右ポスト〜左ポストに当たってゴール内に吸い込まれるという、まるで2010年のピンボール・ゲームのような得点だった。GKのいないゴール前に立っていたDFはボールの軌跡を珍しいアクロバット競技を眺める観客のように目で追うだけだった。準々決勝も決勝点の起点になったのはイニエスタだった。

  • ● ウルグアイ 2 ─ 3 オランダ(7/7 ケープタウン)
  • 「神の手」によって準決勝に進んだウルグアイは、その代償としてFWスアレスを出場停止で欠く。前半18分、DFファン・ブロンクホルストの斜め左からのロングシュート(約40m)がゴール右上のポストに当たって入る。同41分、FWフォルランの左足でカーヴをかけたミドルシュートがGKステケレンブルフの左手を弾いて同点に追い着く。後半25分にはFWファンペレシーのパスをPKエリア内左で受けたMFスナイデルがシュートするとボールはDFに当たり、オフサイド・ポジションにいたファンペルシーをスルーしてゴール右へ入った。同28分にもMFカイトの左クロスをFWロッベンがヘディング〜左ポストに当たって入る。3対1でオランダの楽勝かと思えたが、同ロスタイムに得たFKをDFマキシミリアーノ・ペレイラのゴールで1点差に詰め寄られると、グラウンド内に緊張感が走る。いつの間にかブブゼラの音も鳴り止み、異様な静寂に包まれた。オランダの選手とサポータにとっては長いロスタイムではなかったか。

  • ● ドイツ 0 ─ 1 スペイン(7/8 ダーバン)
  • 本調子でないFWフェルナンド・トーレスが先発メンバーから外れ、累積警告でMFミュラーを欠く準決勝第2試合。前半のドイツは後半勝負という作戦なのかと思うほど慎重だった。スペインの素速いパス回しには適わないという苦手意識が芽生えたのだろうか。前半はボール支配率で上回るスペインのペースだったがスコアレスで折り返す。危うい均衡が崩れたのは後半28分、左CKに果敢に走り込んだDFプジョルのヘディングだった。素速いパス回しからの華麗なゴールではなく、DFとして決して長身とは言えないプジョル(178cm)の気魄の籠ったヘッドだったとは!‥‥失点後のドイツはパワープレイに転じるが、1点が遠かった。同36分、FWヴィジャに代わって途中出場したフェルナンド・トーレスに決定的なチャンスがあった(カウンター攻撃でMFペドロがゴール前でパスしなかったことに悔しがったF・トーレスと謝ったペドロ)。試合終了後、ピッチ上に跪いたMFシュヴァインシュタイガーは暫く立ち上がれなかった。

  • ● ウルグアイ 2 ─ 3 ドイツ(7/11 ポートエリザベス)
  • W杯南アフリカ大会(2010 FIFA WORLD CUP)はNHKが44試合を放送するが、全64試合をハイヴィジョン生中継する「スカパー!」の独占中継が20試合ある。その中に3位決定戦が含まれている。準決勝で敗れた2チームが試合することに意味があるのかという批判もあるけれど、単独3位の座を争うことでスッキリ晴れやかな気持ちになることもあるだろう。しかし、地上波では3位決定戦がTV観戦出来ないのだ。もしW杯の決勝戦が「スカパー!」の独占中継だったら、苦情や電話や抗議のメールが「スカパー!」やNHKに殺到するだろう。注目度の低い3位決定戦ならサッカー・ファンの批判に曝されることも少ないという政治的な判断なのかしら?‥‥でも万が一、奇蹟が起こって「ベスト4」に進出した日本が準決勝で涙を呑んだ時も、3位決定戦は「スカパー!」の独占中継になったのだろうか。仮定の話は兎も角、ドイツのモチヴェーションが落ちていなければ、パウル君の予想通りの結果になるはずだ。

  • ● オランダ 0(延長 0 ─ 1)1 スペイン(7/12 ヨハネスブルグ)
  • 閉会式の最後にネルソン・マンデラ元大統領が登場すると、場内は大歓声に包まれた。決勝戦は前半14分にFWファンペルシー、同16分にDFプジョル、同21分にMFファン・ボメル、同27分にMFデ・ヨング(MFシャビ・アロンソの胸を右足で突いたファウルはレッドカードが出てもおかしくなかった)‥‥と、序盤からイエローカードが頻出する過酷な試合になった。オランダは反則覚悟の激しいプレスで中盤のパスの出所を潰す。それでもスペインはパスを回す。後半15分、MFペドロに代えてMFヘスス・ナバスを入れ、右サイドからのドリブル突破で変化をつける。同17分、FWロッベンの決定的なシュートをGKカシージャスが右足で防ぐと、同38分には身を挺してロッベンにシュートを打たせなかった。同42分、シャビ・アロンソに代えてMFフランセスク・ファブレガスを投入。後半はスペインの優勢だったが、スコアレスのまま延長戦に突入した。

    延長後半、FWフェルナンド・トーレスがFWヴィジャに代わって出場する。同4分にDFハイティンハがMFイニエスタを倒して退場(2回目の警告)すると、ゲームの流れは一気にスペイン優位に傾いた。同11分F・トーレスの左からのクロスがDFに当たってセスク・ファブレガスの前に零れる。セスクのパスをトラップしたイニエスタのボレーシュートがGKステケレンブルフの右手を弾いてゴール・ネットを揺らす。イエローカードの枚数が(オランダ9、スペイン5)が試合の行方を示唆していた。スペインの素速いパス回しを反則でしか止められなかったことがオランダの敗因の1つだと思う。オランダは「美しくないサッカー」をして負けたのだ。決勝ゴールを決めたイニエスタはユニフォームを脱いで、胸に秘めていたメッセージ「DANI JARQUE SIEMPRE CON NOSOTROS」を公にする。カシージャスは顔を両手で覆って泣いていた。W杯南アフリカ大会はオランダの3度目の準優勝、スペインの初優勝で幕を下ろした。おめでとう、スペイン。良かったね、パウル君。

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    • パウル君については「的中しすぎ タコの憂鬱」(朝日新聞 2010.7.9)を参照^^

    • 決勝戦「オランダ対スペイン」を追記しました(2010.7.13)
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    After Robots

    After Robots

    • Artist: Blk Jks
    • Label: Secretly Canadian
    • Date: 2009/09/08
    • Media: Audio CD
    • Songs: Molalatladi / Banna Ba Modimo / Standby / Lakeside / Taxidermy / Kwa Nqingetje / Skeleton / Cursor / Tselane

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