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音速戦隊エスパーズ [m u s i c]



「エスパーズ」(Espers)とは大胆不敵なネーミングではないか。My Cat Is An Alienという名前の兄弟ユニットも気になっていたが、「Espers」はシンプルなだけにインパクトも強い。『ミュータント・サブ』や『幻魔大戦』など60年代の超能力少年マンガ、「なぞの転校生」や「七瀬ふたたび」など70年代のNHK少年ドラマ・シリーズを想い起こさせる懐かしさもある。米フィラデルフィアのEspersの音楽はサイケ・フォークとも、アシッド・フォークとも、フリー・フォークとも称される(エレクトロニカの趣きもある)。その最大のポイントはドラムレスの編成で、彼らが「〜フォーク」と呼ばれる根拠にもなっている。清冽なアクースティック・サウンドとサイケデリックなノイジー・ギターとの共存。男女混成バンドならではの男女デュエットで魅了する。Meg BairdのヴォイスがEspersに幻想的な彩りを添える。アメリカとアルゼンチン、フィラデルフィアとブエノスアイレス‥‥地理的には遠く離れていても、世界音楽地図ではMeg BairdとJuana Molinaの距離はとても近い。

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抽象化された植物のイラストと「ESPERS」の花文字、CD盤に描かれた花の図案、ギター(bowed gtr)、オートハープ、ダルシマを手にしたメンバー3人の写真‥‥デビュー・アルバム《Espers》(Locust 2004)はMeg Baird、Brooke Sietinsons、Greg Weeksのトリオ編成だった。Meg Bairdが歌う〈Flowery Noontide〉は幽玄なフォーク・ソングとしか言いようがないけれど、Greg Weeksとのデュエット曲〈Meadow〉、ノイズ・ギターが牧歌的な静寂を破る〈Riding〉‥‥と次第に雲行きが怪しくなって、花曇りの空に暗雲が立ち籠める。黒い雲に覆われた天空から何か不吉なものが現われて来そうなダーク・ファンタジーの異世界へ導く。花畑に黒い影が落ちると、パステル・カラーの花々が色褪せる。魔法のクスリによって脱色されたフォーク・ソング。8分にも及ぶデュエット曲〈Hearts & Daggers〉の後半はノイズの竜巻きによって捩じれ千切れた花びらが不穏な空に舞い上がる。Meg Bairdの〈Daughter〉が聴こえて来る時、旅人たちはエスパーズの不思議な森の中に迷い込んだことに気づくだろう。

《The Weed Tree》(2005)は7曲入りのミニ・アルバムという体裁だが、デビュー・アルバムも全8曲(40分)だったし、Espersの曲は比較的長いので収録曲数や演奏時間(37分)を考慮すれば「カヴァ集」という性格が強い。花が咲いているようにも球根を付けた根のようにも見える木の黄色と背景の赤が鮮やかなコントラストを放つアルバム・カヴァは、デビュー・アルバムのクリーム色の植物とバックのモスグリーンと対比することで、よりEspersの意図が明確に伝わる。〈Tomorrow〉はDurutti Column、〈Afraid〉はNico、〈Blue Mountain〉はMichael Hurleyのカヴァという通好みの選曲でリスナーを心を掴んだかと思うと、10分にも及ぶBlue Oyster Cultの〈Flaming Telepaths〉で意表を衝く。トラッド・フォーク風の静寂に始まり、男女デュエット〜ノイズ・ギターが暴れるロックの混沌へ(初めてドラムが入っている!)‥‥。牧歌的な日常からサイケデリックな世界へトリップする彼らの本領が発揮されている。トラッド2曲、カヴァ4曲、オリジナル1曲という絶妙なバランスで聴かせるアルバムである。

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Locustからレーベルを移籍しての2ndアルバム《Espers II》(Drag City 2006)は全7曲、50分という構成。前作のミニ・アルバムからEspersはMeg、Sietinson、Weeksのトリオに新たにメンバー3人を加えた6人編成(アルバム・カヴァの6枚の葉っぱが象徴している)になっていたこと、使用楽器に「drum kit, Fender Jazz Bass」と記されているように、正式にドラム&ベースが導入されたことでロック色が濃くなった。8分以上の長尺曲が3曲もあり、後半のインスト・パートが拡大されている。Sigur Rosみたいな〈Widow's Weed〉や唯一のオリジナル曲だった〈Dead King〉の再演など、《The Weed Tree》の延長線上にあることが窺われる。Meg Bairdの切ないワルツ〈Cruel Storm〉、Marianne Faithfullもカヴァしているデュエット曲〈Children Of Stone〉‥‥ちょっと大人っぽくなった感じや既存のロック・フォーマットに収まってしまったところもあるけれど、もの哀しく美しい世界は鬱蒼と繁った森のように神秘的で奥深い。

《Espers III》(2009)もGreg Weeksの録音、Brooke Sietinsonsのデザインによるものだが、外面的な大きな相違は今までの花や木を図案化したイラストから一転して、ザヴィエル・シパーニ(Xavier Schipani)という女性画家(25歳)のドローイングを「アルバム・カヴァ」に使っていること。モザイク風の細密画には中南米の古代遺跡から出土した土偶、フェンシングの防具マスクや剣道の面、プロレスの覆面を被った宇宙人みたいな人物が描かれている。シュルレアリスティックなアルバム・カヴァに呼応するように、カルテット編成となったEspersの音楽も変化を遂げていた。Meg Bairdが歌う変則6拍子の〈I Can't See Clear〉、デュエット曲の〈The Road Of Golden Dust〉や〈Caroline〉‥‥。ドラムとベースによるビート強化、緻密で構築的なサウンド‥‥ここまでロック色に彩られると、アシッド・フォークというよりもサイケ・ロックと呼んだ方が相応しいかもしれない。200Q年の空に浮かぶ2つの月を想わせる〈Another Moon Song〉という曲もあります。

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Meg Bairdの初ソロ・アルバム《Dear Companion》(Drag City 2007)は純正フォーク・ソング集だった。アクースティック・ギター(アルペジオ)を中心にしたドラムレスのシンプルなサウンド。暗雲立ち籠めるサイケデリックなEspersとは対照的に、暖かい陽射しが降り注いでいる。清純な乙女のようなヴォイスが躰の中に沁み込む。全10曲‥‥トラッドとカヴァが4曲ずつ、オリジナル2曲という構成。〈Do What You Gotta Do〉は Jimmy Webb、〈All I Ever Wanted〉はNew Riders of the Purple Sageのカヴァ曲。アルペジオの〈Riverhouse In Tinicum〉と3フィンガーズの〈Maiden In The Moor Lay〉は自作曲。11曲目に隠しトラックとしてアルバム・タイトル曲(1曲目)のアカペラ・ヴァージョンが入っている。Meg Bairdは実妹のLauraと組んだデュオ、The Baird Sistersとしても活動していて、2枚の自主制作アルバム(CD-R)をリリースしている。

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  • The Baird Sistersの自主制作アルバム《At Home》(2003)は「猫ジャケ」です

  • Marianne FaithfullとRufus Wainwrightのデュエット曲〈Children Of Stone〉がフル試聴出来るのは嬉しいなぁ^^
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Espers

Espers

  • Artist: Espers
  • Label: Wichita
  • Date: 2004/01/20
  • Media: Audio CD
  • Songs: Flowery Noontide / Meadow / Riding / Voices / Hearts & Daggers / Byss & Abyss / Daughter / Travel Mountains


The Weed Tree

The Weed Tree

  • Artist: Espers
  • Label: Locust
  • Date: 2005/10/18
  • Media: Audio CD
  • Songs: Rosemary Lane / Tomorrow / Black Is The Color / Afraid / Blue Mountain / Flaming Telepaths / Dead King


Espers II

Espers II

  • Artist: Espers
  • Label: Spunk
  • Date: 2006/05/16
  • Media: Audio CD
  • Songs: Dead Queen / Widow's Weed / Cruel Storm / Children Of Stone / Mansfield And Cyclops / Dead King / Moon Occults The Sun


Espers III

Espers III

  • Artist: Espers
  • Label: Drag City
  • Date: 2009/10/20
  • Media: Audio CD
  • Songs: I Can't See Clear / The Road of Golden Dust / Caroline / The Pearl / That Which Darkly Thrives / Sightings / Meridian / Another Moon Song / Colony / Trollslända


Dear Companion

Dear Companion

  • Artist: Meg Baird
  • Label: Wichita
  • Date: 2007/05/22
  • Media: Audio CD
  • Songs: Dear Companion / River Song / Cruelty Of Barbary Allen / Do What You Gotta Do / Riverhouse In Tinicum / Waltze Of The Tennis Players / Maiden In The Moor Lay / Sweet William And Fair Ellen / All I Ever Wanted / Willie O' Winsbury / (Untitled)

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