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さようなら WAVE 2 [c u l t u r e]



  • この曲〈Hymnformation〉は、猥褻なゴシップ、偽の道徳上の憤り、そして時事問題を混ぜ合わせた、ルパート・マードックの拡大する有害な「ニュース」産業をテーマにしている。そして、アメリカの企業がサダム・フセインに炭疽菌を売ったのに、イラクが細菌兵器を開示しなかったときに、アメリカとイギリス政府はイラクを爆撃し始めた。〔‥‥〕車に安いガソリンを入れるための、これはフェアな駆け引きと言えるだろうか? マデレーン・オルブライトはそう思っているようだ。僕はそうは思わない。どっちみち、僕らは自転車に乗るべきだ。この曲の中間で、ルワンダの人々の殺戮を西洋諸国が防げなかったことを指摘している。テレビや映画でユダヤ人のホロコーストについて聞くことは多いが、5年前に、100万人以上の人々が、中国によって供給されたマシェティ、フランスによって供給された機関銃によって殺された。アメリカはこの問題の解決を拒否し、国連からこの大量殺戮の防止を強いられないように、連邦議会で「ジェノサイド」という言葉の使用を禁止した。
    Matthew Herbert 「Doctor Rockit 1994-2004」


  • 黒地の表紙に白ヌキ文字の「WAVE」、その下に黄色い文字で「30th Anniversary」‥‥フリー・ペーパー「WAVE」(2007 vol.032)は30周年記念号だった。WAVE六本木店のオープン(1983)からでは計算が合わないなと不審に思ってページを捲ると、前身の「ディスクポート西武」設立(1977)から数えて30年ということらしい。別に30周年でも24周年でも良いけれど、WAVE六本木も渋谷店も消えてしまった実体の伴わない掛け声だけのアニヴァーサリー祭は虚しく響く。店鋪だけではなく、ソフト(CD)の方も輸入盤から国内盤中心になってから、WAVEが放つ輝きは失われてしまった。「WAVE collection」という見開き頁に、映画『黄金の7人』のサントラ盤《Sette Uomini D'Oro》(Cam 1993)から、Pascal Comeladeの《Ragazzin' The Blues》(Virgin 1991)まで、過去24年に渡ってWAVEの店頭を飾ったアルバムの一部(21枚)が紹介されている。

    80年代のバブル景気に乗ったセゾン・グループの「文化戦略」もバブル崩壊と共に急速に萎み、WAVEバイヤーのヘッドハンティング、輸入CDショップのオーナーとして独立、ミュージシャンや音楽評論家への転身‥‥など、貴重な人材も流出した。たとえ莫大な資本と広いスペース(売り場面積)があったとしても、世界中で毎日リリースされている音楽ソフトを網羅することは到底不可能である。膨大な輸入盤を取捨選択する優れた耳を持つバイヤーの存在がクローズアップされる。WAVEの店頭に並んだアルバムだけではなく、それらの音楽を選んでいるバイヤーに価値があったのだ。某ホラー映画のロケ地にもなった宮益坂の幽霊マンション内にある「EL SUR」、西新宿の粱山泊「Los Apson?」、オシャレな代官山の「bonjour」‥‥などへ脚を運べば、かつてのWAVEに立ち籠めていた匂いを感じることが出来るかもしれない。

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    ◎ Llovessonngs(Thrill Jockey 1999)Bobby Conn
    シカゴの奇人、Bobby Connの4曲入りミニ・アルバム(オリジナル2曲+カヴァ2曲)。ラヴ・ソングスというよりも「失恋ソング集」の色合いが濃い。トランペットやトロンボーンが鳴り響く騒がしいブラス・ロックの〈Free Love〉。〈Virginia〉はファンク風のデュエットで始まるが、後半はラップ調の女性ヴォイスに変わり、ノイズ・ギター・ソロで終わる。カヴァ2曲も意表を衝く。Harry Nilssonの絶唱で有名な〈Without You〉(1970)はトイ・ピアノとギター、フルート、ストリングスをバックに切々と歌われる。〈Maria B〉とは〈Maria Bethania〉(1971)のことで、オリジナルは当時の軍事政権に破壊分子と看做されて国外追放の憂き目に遭ったCaetano Velosoが遠く離れたロンドンからブラジル国内の妹へ「僕に手紙を送って欲しい」と英語で歌った曲。カヴァはプリンス風のファルセット・ヴォイスとテープの逆回し音が効果的。Bobby Connには妹がいないので、コーラス部分の歌詞を「Maria Bethania」から「Oh Maria」に変更している。

    ◎ Marrakech Emballages Ensemble 3*(Zonk 2002)Think Of One
    ベルギーのThink Of OneとモロッコのMarrakech Emballages Ensembleとの共演アルバム第3集。Think Of Oneには元X-Legged Sallyのメンバー(Bart Maris)が在籍していると書けば、興味を示すロック・ファンもいるかもしれない。グナワ・ミュージックの怪しげなハチロク(6拍子)と呪術的なヴォイスに幻惑される。第1集を試聴していて気分が悪くなったことがあったように、グナワには得体の知れない黒い沼や井戸のような底深さがある。怖いけれど奥を覗いてみたい誘惑に駆られる残酷メルヘンや暗黒ファンタジーの「禁断の部屋」みたいに。ラテン調の〈Ou Tu Vas?〉。7拍子のバラード〈Sidi Moussa〉。ドラムンベース風ポリリズム〈Shabi A L'aise〉。5拍子のレゲエ / ダブ〈Ti Joerar〉。6・4拍子のポリリズム〈J'etais Jetee〉‥‥など、最後まで悪酔いせずに聴けるのは、ベルギーの行列の出来る「モロッコ料理店」みたいに、西欧風の味付けが施されているからでしょう。怪しげな「エスニック料理」を食べた後のような痺れが舌に残ります。

    ◎ Ya - Rayi*(Wrasse 2004)Khaled
    「ライの帝王」と称されるKhaledが「ライ以外の音楽に挑戦した」アルバムだという。なるほど、ピアノのイントロとアコーディオンの音色で始まるバラード〈Mani Hani〉はライ・ミュージックとは趣きを異にする。しかし、Don Wasと共同プロデュースした〈Ya-Rayi〉や、同じくJacob Desvarieux(Kassav')による〈Zine Zina〉では、いつもの力強いコブシ回しのKhaledが戻って来る。シャアビ(アルジェリア伝統歌謡)の名曲〈El-H'mam〉は女声ヴォイスが艶かしい。強烈なファンク・ビート、巻き舌ヴォイス、渦を巻くオーケストレーション‥‥〈Lemen〉を聴いても躰が微動だにしない人は、そもそも音楽を聴く意味がない。50年代に活躍した「ライの父」Blauoi Houariとデュエットした〈H'mama〉。6拍子の〈Ensa El Hem〉。PV3曲、インタヴュー、メイキング映像などを収録したDVD付きの初回限定盤。

    ◎ Who Is This America?*(Ropeadope 2004)Antibalas
    「antibalas」とはスペイン語で「防弾」(bulletproof)という意味。NYブルックリンで結成されたAntibalasは大所帯の人種混合アフロ・ビート・オーケストラで、フェラ・クティの遺志をクールなブラス・サウンドとシニカルなヴァースで受け継ぐ。「アメリカって、誰なんだ?」と自国のアイデンティティを反語的に自問する〈Who Is This America Dem Speak Of Today?〉。ビッグマンとスモールマンの主従関係、米資本主義の「奴隷契約制度」を従順なるスモールマンが痛烈に褒め殺す〈Big Man〉。フェミニズムやジェンダーに対するアンビヴァレンスな感情を「妹」に告白する〈Sister〉。全8曲74分(国内盤は1曲多い)という収録時間が示しているように10分を越える長尺曲が3曲もある。濃紺スーツの覆面男が走るアートワークも洗練されている。防弾チョッキを着用していても、Antibalasのアフロ・ビートはリスナーの胸を貫くでしょう。

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    ◎ Future Noir(Fatal Recordings 2004)Hanin Elias
    アップル・ストア渋谷店(2007/12/19)で怪気炎を上げていたAlec Empireさまですが、Atari Teenage Riot(ATR)はメンバーCarl Crackの死(薬物過剰摂取)などによって、2000年から無期限活動停止状態に陥っている。ATRのメンバーの1人だったHanin Eliasも個人レーベルを立ち上げてソロ活動へ‥‥。《Future Noir》はオカルト映画に登場する魔女みたいな容姿に反して意外と可愛いヴォイスと、デジタル・ハードコアが奇妙に共存する3rdアルバム。〈In My Room〉ではThurston Mooreがギター・ノイズでゲスト参加。黒いドレスを身に纏い、ナイフを手で弄びながら歌うHanin嬢‥‥〈No Games No Fun〉のヴィデオにはギターを弾きまくるJ Mascisも出演している。2006年にレーベルが閉鎖されてしまったので、オリジナル盤(エンハンスト仕様)は入手困難かもしれません。

    ◎ Other Animals(Troubleman Unlimited 2001)Erase Errata
    Erase Errataは米サンフランシスコ出身の4人組女性バンド。EMI傘下となったMUTEレーベルからリリースされたアルバムが悉くコピーコントロール(CCCD)だったので忌避していたけれど、このUSインディーズ盤には「REMASTERED」というステッカーが貼ってある。ヴォーカルのJenny Hoysonがトランペット奏者でもあるところがユニークかもしれない。しかし、Erase Errataの屋台骨はThe Exを思わせるソリッドでノイジーなSara Jaffeのギターが背負っている‥‥と書けば分かるように、彼女たちはパンク〜エクスペリメンタル・バンドなのだ。オノ・ヨーコの怨霊が憑依したような〈High Society〉。ギターのテープ・ループから始まる変拍子の〈French Canadia〉、Sonic YouthのKim姐さんが歌っているような〈Fault List〉など、強烈なギター・リフの曲が続く。ギターが魅力的だっただけに、2004年にSaraが抜けたのは悔やまれる。現在は3ピース・バンドとして活動中。

    ◎ The Unnecessary History Of Doctor Rockit*(Accidental 2004)Doctor Rockit
    あのDoctor Rockitが空の彼方へ飛び去ってしまった !?‥‥ロケット型の柩に花輪が添えられているカヴァ・アートが可笑しい。《Dr. ロキットの不必要な歴史》はDoctor Rockit名義の2枚のアルバム《The Music Of Sound》(Clear 1996)と《Indoor Fireworks》(Lifelike 2000)から2曲ずつ、Cearレーベル時代のアナログ盤に収録されていた初期レア・トラックや映画のサントラ曲など全14曲をコンパイルしたベスト〜ラスト・アルバム。ヴォーカル入りの2曲、初めて試みた政治的な歌〈Hymnformation〉と、Dani Sicilianoとデュエットした〈I Wish I Was〉が胸を打つ。国内流通盤に付いているライナー・ノーツ(追悼文&自作解説)も面白い。Matthew Herbertの変名の1つ「Doctor Rockit」は冴えない成績の競争馬の名前から採ったという。「Doctor Rockit 1994-2004」の御冥福をお祈りします。安らかに永眠して下さい。合掌。

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    一体どこの倉庫に眠っていたのか?‥‥と目を疑うほどの、とんでもない量のCDが放出されていた。玉石混淆、一獲千金。思いも寄らない掘出し物を発掘して狂喜錯乱。金銀財宝目当ての墓掘り人や埋蔵金ハンターの気分でした。セール品(¥525 → 263)と30%OFFのCDを含めて全部で70枚ほどを購入。100枚買っても懐は痛まなかったけれど、ポイントカードの残点も「0 Point」になったので、ちょうど良かったのかもしれません(全国のWAVEで利用出来るといっても、一番近い大泉や汐留WAVEへ行く用事もないしね)。残念だったのは最後まで一部のCDが30%OFFのままだったこと。確か六本木も渋谷WAVE閉店セールも最終的には70%OFFになったはず。狙っていたアルバムが結構あったのに!‥‥。レコード棚やワゴン内の売れ残ったCDたちは一体どこへ行っちゃうのかしら。現在改装工事中の池袋WAVE跡(西武12F)に新たなCDショップが入る予定はないという。

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    Llovessonngs

    Llovessonngs

    • Artist: Bobby Conn
    • Label: Thrill Jockey
    • Date: 1999/12/13
    • Media: Audio CD
    • Songs: Free Love / Virginia / Without You / Maria B


    Who Is This America?

    Who Is This America?

    • Artist: Antibalas
    • Label: Ropeadope
    • Date: 2004/05/21
    • Media: Audio CD
    • Songs: Who Is This America Dem Speak of Today? / Pay Back Africa / Indictment / Big Man / Obanla'e / Elephant / Sister / Na Fo Iyawo Mi


    Other Animals

    Other Animals

    • Artist: Erase Errata
    • Label: Tsk! Tsk
    • Date: 2002/08/12
    • Media: Audio CD
    • Songs: Tongue Tied / Billy Mummy / Delivery / 1 Minute / Marathon / Other Animals Are #1 / High Society / French Canadia / How to Tell Yourself From a Television / Fault List / C. Rex / Walk Don't Fly / Dexterity Is #2 / Untitled 2


    The Unnecessary History Of Doctor Rockit

    The Unnecessary History Of Doctor Rockit

    • Artist: Doctor Rockit
    • Label: Accidental
    • Date: 2004/06/01
    • Media: Audio CD
    • Songs: Cameras And Rocks / How Do You Do? / Hi-Speed Rockit / The S The E the 2 And The 3 / Veselka's Diner / Tape Measure / Runner On Hastings Beach / Café De Flore / Hymnformation / Nicotine / Photos And Pebbles / Looprode / I Wish I Was / Granny Delicious


    Marrakech Emballages Ensemble 3

    Marrakech Emballages Ensemble 3

    • Artist: Think Of One
    • Label: Zonk
    • Date: 2004/07/26
    • Media: Audio CD
    • Songs: Sable D'or / Visas Et Passeports / Ou Tu Vas? / Sidi Moussa / Shabi A L'aise / Ti Joerar / Sharki Veut Fumer / J'etais Jetee / Mahloume Al Riba

    タグ:culture Music wave
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