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ルビー・ブルー(2 0 0 5) [r e w i n d]

  • ◎ FUNERAL(Merge 2004)Arcade Fire
  • タイトル名が『葬式』、グループ名が「アーケードの火事」というカナダの大所帯バンド(6人+α)。地球に墜ちて来た男がRoxy Musicを従えて歌ったような〈Neighborhood #1 (Tunnels)〉やDavid Byrneが〈Pretty In Pink〉をカヴァしたような〈#2 (Laika)〉に殺られる。クレイジー極まりない歌詞。アコーディオン、サキソフォン、ヴァイオリン、チェロ、ハープなどが鳴り響く分厚いサウンドが薄くなる瞬間に鳥肌が立つ。後期Talking Heads風アプローチの〈Haiti〉、逝去した肉親ヘの鎮魂歌の〈In The Backseat〉など強い印象を残す。現在のメンバーはドラマーが交替、新たに女性ヴァイオリニストを加えた7名。オリジナルUS盤は2004年9月のリリースだが、昨年2月にUK盤が出てから文字通り「火」が着いた。Animal Collectiveの新作と並ぶ、2005年屈指のアルバムである。

  • ◎ IN CITE(Casa 9)Lenine
  • 来日公演の際、「ナショナル・キッド」の主題歌を歌ったが誰も知らなかったという逸話の残るLenine兄貴のパリ・ライヴ盤。新曲中心、しかもトリオ編成(ギター、ベース、パーカッション)という少人数ながら、白熱したパフォーマンスを披露する。何よりもメンツが凄い!‥‥。ベースYusa(キューバ)、パーカッションRamiro Musotto(アルゼンチン)という強者揃い(2人とも単独アルバムを出している)。ブラジル、キューバ、アルゼンチン人の多国籍トリオがパリでライヴを行なうという趣向が洒落ている。ファンキー&パーカッシヴなギター、超絶フレットレス・ベース、奇妙なSEも奏でるパーカッション‥‥。1曲目の〈Do It〉は7拍子、Lenineのヴォーカルが超カッコ良い〈Rosebud〉、ブラジル内外のミュージシャン/アーティストの名前を歌詞に織り込んだ〈Todas Elas Juntas Num So Ser〉が圧巻。ラストの長過ぎるアンコール(拍手&歓声)は、ライヴ模様を完全収録した同名のDVDを視ろということなんでしょうか?

  • ◎ EL PLACARD(Asterisco)Ezequiel Borra
  • 帯つき紙ケース内にCDと9葉の歌詞カード。アルゼンチン音響派の歌姫Juana Molinaのライヴ・ツアーのギタリストに抜擢された若きマルチプレーヤのデビュー作。瀟洒なCDパッケージが主張する通りEzequiel Borraの音楽も一風変わっている。中性的な優しいヴォイス、夢見るようなサウンド、可愛いエレクトロニカ、無邪気なトイポップ、大胆なサンプリング、楽器以外の具体音(電話、雷鳴、ペットボトル、掃除機、ダンボール、机の引き出し、水の音、ホース、鳥の啼き声etc.)。Ezequiel君は歌、ギター、キーボード、ベース、パーカッション、プログラミング等を1人で楽々と熟してしまう。同レーベルのSebasian Escofetにも通じるナイーヴな感触‥‥。まだ23歳の若さだというのだから、これから先が楽しみだ。Juana MolinaやAlejandro Franovもヴォイスやシタールで客演している。

  • ◎ RUBY BLUE(Echo)Roisin Murphy
  • Roisin Murphyと言えば、男女2人組トリップホップ・ユニットMolokoの女性ヴォーカリスト。従ってソロ・アルバムというよりはプロデュースを手掛けたMatthew Herbert版モロコに近い。90年代、雨後のタケノコのように英国庭園に繁茂したトリップホップ・グループの多くはデビュー・アルバムこそ目新しかったが、2nd以降急速に失速して行った。Molokoの出世作《Do You Like My Tight Sweater?》(1995)も、その奇妙なジャケ画と共に変態的サウンドが素晴しかったが、2作目以降の印象は稀薄だ。今回のソロ作はデジタル音と生音、サンプリングと生楽器をブレンドしたHerbertのアレンジが秀逸。上品なハーバート特製ケーキ地と顔に似合わず甘いローシン印生クリームの絶妙なハーモニィ。リヴァーヴ音をカットした残響のないサウンドは、音響派ともエレクトロニカともポストロックとも違ったフロアで可憐に花咲く。

  • ◎ ILLINOISE(Asthmatic Kitty)Sufjan Stevens
  • アメリカ50州をテーマにしたアルバムの第2弾。衝撃度ではシリーズ1作目の《Michigan》(2003)──2004年1月に輸入盤を入手して以来、愛聴して来た──に譲るものの、より稠密なコンセプト・アルバムになっている。地理的な横断旅行だけでなく、古地図を重ね合わせるような過去への重層的な探索が素晴しい。ピアノやバンジョー弾き語り、奇数拍曲や「1人ステレオラブ状態」というように、今作も20種類以上の楽器を器用に弾きこなすSufjan Stevensのパノラマ・ワールドを堪能出来る。新しいSSWという観点から後述のDevendra Banhartと比較されることもあったが、新作は奇しくも両者共に「全22曲・74分」対決と相成った。国内盤も1作目と併せて同時リリースされたので、より多くの洋楽ファンに愛聴されることになるでしょう。レーベル名が 「喘息持ちの仔猫ちゃん」、タイトルが 「ILLINOIS」 ではなく「ILLINOISE」となっていることにも注目。あと48州‥‥このペースだと全50作完結するのに約100年かかる計算になるんですけれど‥‥。

    ◎ CRIPPLE CROW(XL)Devendra Banhart
    2004年にリリースした2枚のアルバムが共に高い評価を得る。特に《Rejoicing In The Hands》は英THE WIRE誌の年間ベスト第6位に選出された──ちなみに第5位がAnimal Collectiveの《Sung Tongs》、第7位はWolf Eyesの《Burned Mind》──Devendra Banhartの新作は全22曲74分の大作になった。基本的にアクースティク・ギター弾き語りのSS&Wで、その浮世離れした風貌、ドリーミィな曲調、吟遊詩人的な歌唱が単色のサウンド面を凌駕している。最新作はスペイン語曲やバンド・サウンド的な展開をみせるなど、長丁場を飽きさせない。引きこもり(?)双子姉妹のCocoRosieやゲイ青年のAntony、昨年35年振りの新作をリリースした伝説の女性歌手Vashti Bunyanや、今の時代を象徴するアニコレとも繋がるフリー・フォーク / ネオサイケ派の旗手である。

  • ◎ LOVE(Birdman)Foetus
  • いつの間にかDVDは雑誌の付録になり、音楽CDのオマケ(DVD付き限定盤)と化してしまった。それらの多くはPVやライヴ映像、レコーディング風景を撮ったメイキング等で、これまでのボーナス・トラックやエンハンスド仕様に比べれば嬉しいものの、その分値段が高くなるのが悩みどころ。音楽ヴィデオ(DVD)はCDのように何10回も繰り返して視る/聴くことは稀だし、こう初回限定盤(CD+DVD)が新型肺炎のように蔓延して来ると、寧ろ有りがた迷惑という気もする。限定盤と通常盤を同時に発売して、音楽リスナーが好きな方を選択出来るようにすべきだろう。限定盤を先行リリースするのなら未だしも、通常盤を出した数週間〜1ヵ月後に限定盤を流通させるヤリ口は音楽ファンに同じアルバムを2枚買わせる悪どい商法と誹られても仕方がない。Foetusの新作は特に「初回限定盤」という訳ではなく、デフォルトでDVDが付くらしい。しかし、その分だけ価格が高い。「フィータスよ、お前もか!」と言いたくもなるのだ。

  • ◎ FEELS(Fat Cat)Animal Collective
  • 口腔や眼窩から紫色の血を流す少年少女。今まさに首を斬り落された少年の胴体部分から血が吹き出す‥‥。一見牧歌的な日常の奥に潜む猟奇性を表象したコラージュ・スリーヴが現実世界を逆照射する。「動物集団」の音楽は良くも悪くも今の時代とシンクロしている。個人的には前作《Sung Tongs》(2004)の〈Leaf House〉と『紙葉ののイメージの混淆が強烈だったが、新作はより幅広いリスナーの共感(仮令それが不吉なものであったにしても)を呼び起こすだろう。メンバー2人で作られた前作がフリー・フォーク的アプローチ作品だったのに対し、今作はギターとエレクトロニクス奏者を加えた本来のバンド編成(4人)で録音されている。狂躁的な祝祭空間と、その背後の暗闇で蠢く不気味な魔物たち。音楽が一早く現実社会を映し出す抽象的な「鏡」だとしたら、この歪んだ世界は果して大人〜子供たちにとって好ましいものかどうかと考え込んで、頭を垂れる。首を斬り落された少年みたいに‥‥。

  • ◎ AERIAL(EMI)Kate Bush
  • 英Q誌に「2002年ニュー・アルバムが出るかも?」という独占インタヴューが載ってから4年‥‥Kate Bushの12年振りの新作はCD2枚組でリリースされた。しかし、総演奏時間は80分強‥‥数10秒削ればCD1枚に収まる長さである。何故彼女は2枚組に拘泥ったのか。A Sea Of Honey(Disc1)がシングル曲、A Sky Of Honey(Disc2)が組曲という構成は明らかに《Hounds Of Love》(1985)の踏襲〜拡大版だ。A面(前半)にシングル曲、B面(後半)が組曲構成のオリジナルは言うまでもなく《Abbey Road》(1969)だが、レコード盤を引っくり返すアナログ時代と違ってA→B面(前→後半)がシームレスに連続再生されるCDには馴染まないと考えたのかもしれない。ファンとしては12年も待たされずに、6年に1枚ずつ出して欲しかったけれど‥‥。その間、彼女にもプライヴェートな事情(男児出産)があったのだろう。2枚組仕様にケチをつけるよりも英EMIから非CCCDで出たことの方を評価したい。

    先行シングル〈King Of The Mountain〉はElvis Presleyを歌ったもので、象徴的な歌詞だけでは分かり難いが、後期Elvisの代名詞となった「白いコスチューム」が《千と千尋》の式神のように空を翔るPVを視ると、今でも彼の亡霊が世界を彷徨っている理由も頷ける。この曲以外のDisc1は平板、Disc2もタイトル曲を除きインパクトに欠ける。嘗ての「魔少女」今いずこ?‥‥。すっかり憑きものが落ちて解脱した「母親」の姿が浮かぶ。流石に12年のブランクは長かったのか、それでも復帰作としては及第点?‥‥『ライオンハート』の恩田陸さんのような長年のファンは必ず買うだろうけれど。シングル盤のスリーヴや、彼女の公式サイトを飾るキング・エルヴィスが山頂で風見鶏のようにクルクル回る(愛息の描いた)イラスト画は、壁紙やスクリーンセーヴァとしてHPから無償ダウンロード可能だ。

  • ◎ ?(Tigersushi)Sir Alice
  • Emilie SimonとNumbersを掛け合せたような感じでしょうか(Marianne Nowttonyも少し入っているかもしれない?)‥‥Sir AliceことAlice Daquetはフランスの女パンク〜エレクトロ・クラッシュ・ギャル。デビュー・アルバム《?》(“?”というのがタイトル名)はパンク、エレクトロニカ、ディスコ、テクノ、音響、ノイズ、ヴォイス・パフォーマンスが混然一体化した異色作。仏語なので意外とオドロオドロしくないし、舌っ足らずの可愛いラップ曲もある。輸入CDショップで偶然見つけてジャケ買いしたのだが、〈DIGITAL ART FESTIVAL TOKYO 2005〉(12/9ー13)の関連イヴェントに招かれてEmilie Simonらと共に昨年12月に来日していたらしい。フランス大使館と東京都写真美術館の主催で開かれたライヴ・パフォーマンスは残念ながら見逃してしまったけれど、アルバムの方は最高です。

                        *

    • ◎ 輸入盤リリース→入手順 ● Compact Disc規格外のCCCDは除外しました

    • 〈ルビー・ブルー〉の閲覧数が2000pvを越えました(2006/12/07)。読者の皆さん、御愛読ありがとうございます

    • 普段、洋楽を聴いていない人にとってはチンプンカンプンな内容ですが、紹介したアルバムの中から1枚でも興味を持ってくれたら幸いです。◎アルバム名のリンクはジャケ写真&視聴ためのもので、Amazon.co.jpに画像やサンプル曲のない場合はAmazon.com他へリンクさせています。アーティスト / グループは公式サイトへのリンク(Arcade FireSufjan StevensのHPが面白い)。洋楽には全く興味がないという人は「ネコ写真」だけ見て行って下さい

    • 《ILLINOISE》のジャケ写真は米Amazon.comに行くと4種類の画像を見れます。オリジナル画は中央に空飛ぶスーパーマンが描かれていて、国内&UK盤もそれに準拠していますが、US盤は著作・肖像権がクリア出来なかったのか消されてしまった。ところが、手許のUS盤はスーパーマンの代わりに何故か3つの風船が浮かんでいる!‥‥謎です

    • ヒラタジュンコさんがSir Aliceのライヴ評を書いています。興味のある方はコメント欄を参照して下さい

                        *



    Ruby Blue

    Ruby Blue

    • Artist: Roisin Murphy
    • Label: Echo
    • Date: 2005/06/13
    • Media: Audio CD
    • Songs: Leaving The City / Sinking Feeling / Night Of The Dancing Flame / Through Time / Sow Into You / Dear Diary / If We're In Love / Ramalama (Bang Bang) / Ruby Blue / Off On It / Prelude To Love In The Making / The Closing Of The Doors


    FuneralIn CiteEl Placard

    IllinoiseCripple CrowLove

    FeelsAerial?

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    コメント 4

    ヒラ夕ジュンコ

    こんばんは、先日はblogご来訪ありがとうございました。
    トラックバックの付け方が分からないので(汗)
    コメントに書き込ませていただきました。
    SIR ALICEのライヴ見ると、CDでの音楽の印象とガラリと変わって楽しいですよ!

    ちなみに先日G3にTigerを入れる場面に遭遇しましたが、
    通行禁止(○の中に/が入っている)マークが出たまま
    立ち上がらなくなってました(笑)。ぜひトライしてみてください。

    http://pinktank.at.webry.info/200512/article_1.html
    by ヒラ夕ジュンコ (2006-01-20 23:40) 

    sknys

    ・ヒラ夕ジュンコさん、コメントありがとう。
    Sir Aliceのライヴ記事は貴重だと思います。
    彼女のパフォーマンスはLaurie AndersonやMeret Beckerに近いのかな?

    フランス政府は自国のアーティストに理解がありますよね。
    以前クアトロで観たMano Megraのライヴにも、
    仏大使館〜文化省関係の人が来ていました。

    Mac OS XはTigerに限らずHDDを初期化してインストールした方が
    トラブルが少ないそうです。
    でも、G3では力不足かも‥‥成功したら動作具合等、教えて下さい。
    それまでトライはしません(笑)。

    男性だと思い込んでいたので、ビックリです!
    by sknys (2006-01-21 13:22) 

    モバサム41

    うちは、洋楽一直線blogなんだけど、最近のもの(90年代後半以降)は守備範囲外(笑)
    ケイト・ブッシュさえ聞いてないからコメントできないや。
    でも、悔い改めて(=blogのネタにするために)、sknysさんの記事をヒントに少しずつリハビリ、新作も聞いてくことにします。
    by モバサム41 (2006-07-04 22:38) 

    sknys

    モバサムさん、読んでなかったのね(猫のムトンさまも泣いている?)。
    最新型の洋楽が必ずしも優れているとは思いませんが、
    今の潮流だけは一応押さえています。

    9・11以降の交戦〜反戦の揺れ戻し‥‥モヤモヤしていた
    内省的なサイケ〜フリーフォークの流れが爆発した2005年。
    Devendra BanhartやAnimal Collectiveは、その代表者。

    10枚の中から1枚推薦するとしたら《ILLINOISE》かな?
    全米50州をテーマにしたアルバム50枚をリリースするという
    「大風呂敷」が笑えるでしょ。

    〈favorites〉シリーズは1年ずつ遡って91年頃まで辿り着けたら良いなぁ
    と目論んでいるけれど、ストレートな「洋楽ブログ」って人気ないし
    (付くのはスパムコメントだけ?)、なかなか筆が進みません。

    サイドバーの「FAVORITE ー ALBUMS」をクリックすると、
    過去に掲げたアルバムが一覧出来るように細工しているよ。
    by sknys (2006-07-05 20:33) 

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