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ネコ・ログ #45 [c a t a l o g]

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  • 風邪で寝込んだ時、怖い本を蒲団の中で読めば、ますます熱に浮かされ、快感である。昔からの習慣だ。入院した時も岡本綺堂や夢野久作や日影丈吉の本を持参した。麻酔のまだ醒めきらぬ朦朧状態に、病室での不安な夜に、ぴったりの読書。/ 一部の女子学生の間で流行った心霊ものに惹かれたのは中学生か高校生の頃だ。金髪女性の大きく開けた口から吐き出された太く白い棒のようなものが長く宙に伸び、その先がもやもやした人型に膨らんでいる。エクトプラズム(死んだ人の霊体)である。他にも、悪魔崇拝いけにえ裸体美女だの、ブードゥー教のエロな踊りだの、顔からはみ出しそうに大きな眼が怖い霊能者だの、ちょっとインチキ臭い写真満載の本の数々。/ 霊が体に乗り移り、口から泡を吹き、衣の裾を乱しながら、のたうちまわったり踊り狂ったりしたら、いい気持ちかもしれない。美人霊媒師になってみたい。そう思い、ひとりでこっそり真似もしてみたが、美人ではない上、霊感もまったくないと気づき、すぐ諦めた。
    武田 花 「猫のお化けは怖くない」


  • #397│バル│飼い猫 ── 無修正・デカ目にゃんこ
    スコティッシュ・フォールドのミスちゃんの斜向かいの家で飼われている白茶ネコ。まるで片平なぎさやタマラ・テイラー(米TVドラマ「BONES」のカミール・サローヤン博士役)みたいに目がデカい。ヒトもネコも目を瞠ると瞳孔が開いて大きくなるけれど、バルちゃんは平常心でも天性のビックリ眼なのだ。少女マンガの主人公みたいなアイドル顔なのに人見知りする性格なのか、飼いネコにしては警戒心が人一倍強い。シャッター・チャンスも殆どない。間合いを詰めて少しでも近づこうとするや否や逃げ去ってしまうし、動作も高速フェイントでディフェンダを翻弄する俊足のストライカーのように機敏で素速い。ミス家の敷地内に入り込んだところを柵の外から撮った写真も被写体から遠く離れているし、ピントも甘い(これでもトリミング〜拡大している)。今まで出会った飼いネコの中でも最も撮り難い1匹である。いつかバルちゃんと仲良く昵懇になれる日が来るでしょうか。

    #398│ラン│ノラ猫 ── 凛々しい黒ネコ
    I袋駅前公園の植え込みから姿を現わした黒ネコ。顔(躰)と目、黒とオレンジ色のコントラストはココア・ビスケットとオレンジ果実が甘くほろ苦く融け合う「リッチビスケット」を想わせなくもない。凛々しい顔立ちからは高貴な気品も感じられる。駅からの入口と奥にある水天宮神社の中間に位置する細長い公園の植え込みには青い目の白ネコ(アオ)や可愛い三毛(アン)、黒と茶の二重面相、黒白チビなど‥‥数匹のネコたちが棲息している。植え込みの陰にはダンボール箱を横に倒したネコ小屋が設置され、金網の上は立体駐輪場、下の通路は絶好の避難場所になっている。公共トイレの傍から裏手に回って、木陰でキャットフードを与えている女性たちも見かけた。水天宮周辺をテリトリにしていた黒白ハチ割れネコ(シコちゃん)も時々出張って来る。

    #399│ユイ│ノラ猫 ── ここはネコロジアン
    「キャットウォーク」とは「高所にあるネコの通り道。転じて工場や舞台などの天井近くの狭い通路」のことだが、塀の上や建物と建物の狭い隙間などもネコが好んで通る路である。飲食店や商店、雑居ビルなどが犇めき合う駅前や繁華街では人が通り抜けられないような隘路が文字通りの「キャットウォーク」となる。民家が建ち並ぶ住宅地では駐車場や車庫、駐車中のクルマの下や民家と民家の狭い路地が隠れ場所である。格子状の紐と大きなポリバケツのある路地に逃げ込んだ初対面の黒白チビは好奇心溢れる目でカメラを見つめている。このまま立ち去ろうかどうか逡巡しているような表情にも見える。これ以上近づくと確実に奥へ逃げられてしまう分水嶺‥‥「ネコ歩き」していると現実世界から「ネコロジアン」(猫路地共和国)に迷い込んでしまったような気分になる。ネコ目線から見た世界に反転するのだ。ネコの目に世界はどのように見えているのかしら?

    #400│アン│ノラ猫 ── 酉年(2017)もよろしくにゃん
    可愛い三毛ネコのアンちゃん。まだ出会ってから半年にも満たないけれど、数多く撮っている贔屓の被写体である。初対面の時にあった子猫の面影は今や跡形もなく消え、耳先カットしてからは美しい娘に成長した。それでも内面は未だ情緒不安定な思春期の少女というか、予測不能の挙動に翻弄される。膝に乗って懐いていたのに、近づこうとすると逃げ回る。ダンボール小屋で寛いでいたかと思うと、急に勢い良く外へ跳び出す。黒いゴム・パッキンに前肢で戯れて弄ぶ。木の根元で香箱を作って寛ぐ。危険な車道を横切って、向かいの店舗の路地に姿を消す‥‥まだまだ遊びたい盛りなのでしょうか。繁華街を彷徨いて、夜になっても家に帰らずに遊び続ける不良女子のイメージに重なってしまう。悪質スカウトに騙されてAV出演させられた女性や誘拐拉致されて殺害された少女もいるのだから、アンちゃんも悪い大人の誘いには乗らないように気をつけましょうね。

    #401│メイ│地域猫 ── 眺めの良い墓地
    東京外語大の跡地は「Nヶ原みんなの公園」(2010)として生まれ変わった。都電A川線「Nヶ原4丁目」から駒込方面へ歩いて行くと、左側の低地に広大な公園が見えて来る。災害時の防災・避難場所としての役割もあるようで、芝生広場に余計なものは一切ない。 周辺に人工池や児童遊具などもあるものの、公園というよりも広場のイメージに近い。ネコが棲息しているかどうかは未確認。広場を通り抜けてS井霊園へ行くと、無数の墓が並んだ迷路のような墓地の一劃に数匹のネコたちがいた。茶、白、黒ネコ‥‥その中でも一際大柄な白黒ネコが人目を惹く。カメラを構えて近づくと一定の距離を保つように墓石や石塀の上を馴れた動作で渡り歩く。夕陽に映える姿はS井霊園の守護神ネコのように優雅で堂々としていた。ちょうど夕食の時間なのか、ネコおばさんがゴハンを運んで来ると、更に多くのネコたちが集まって来た。今夜はネコの集会が開かれるのでしょうか?

    #402│ロン│ノラ猫 ── あたしもヴェジタリニャン
    毛繕いで飲み込んだ毛玉を吐くため、腸内環境を整えるため、ビタミン(葉酸)を摂取するため、ストレス解消のため?‥‥ネコが草を食む理由は諸説あるらしい。室内飼いのネコも飼主が猫草を与えているかどうかは分からないが、ネコが道端で雑草を食べることは珍しくない。J造試験所跡地公園で出会った黒ネコ(ヤマちゃん)も草を食べていたし、長毛種のロンちゃんも好んで雑草を食べる。いつも食べる草の種類が決まっているのか、それともランダムなのかは分からない。脇目も振らず一心不乱に食べているロンの姿からは草を摂らなければならない必要性が強く感じられる。決して一時の気まぐれや気晴らしで食べていないことだけは確かである。大島弓子の猫エッセイ・マンガのタイトルにもなっている「キャットニップ」(Catnip)はネコの好むハーブで「猫草」とは異なる。木天蓼(マタタビ)や荊芥(ケイガイ)などと同じく、ネコを興奮させる物質が含まれているという。

    #403│マジ│飼い猫 ── リル・バブの仲間かしら?
    バブアブバブ星から宇宙船を操縦して地球に不時着したリル・バブ(Lil Bub)ちゃん。お魚を探しているところを男の人に保護された。2011年11月、ネットに登場する否や、世界一有名なネコとなった。TVトーク・ショーや映画に出演し、写真集やアルバムまで出す超人気者。彼女は未来を予知したり、宇宙の果てまでメッセージを送れる「マジカル・スペース・キャット」なのだ。リル・バブに良く似たネコと駐輪場で出遭った。自転車のタイヤに御執心だった。自由気儘に徘徊するネコの後を尾いて歩く。民家の玄関前や塀の前で数枚撮った。茶トラ縞に薄緑色の大きな目‥‥ピンク色の舌は出していないけれど、首輪の赤い鈴がチャーム・ポイント。リル・バブちゃんの仲間ではないかしら。甘えているのかのか怒っているのか分からない奇妙な鳴き声(バブアブバブ語?)もネコ離れしている。リル・バブの後を追って、宇宙から地球に落ちて来たのかもしれません。

    #404│クリ│飼い猫 ── 空の色に似ている
    元クリーニング店の看板ネコ。シャム系なのか、白と灰色の気品あるグラデーションと青い目のコントラストが見目麗しい。綺麗な目の色なのに、なかなか大きく瞠らない。サッカー選手が主審の判定に抗議する時に行なう動作‥‥両手の指を自分の目の前で瞬きするように開いたり閉じたりしてみるのだが、審判は兎も角、ネコには全く効果がない。この日は飼主がカメラの背後で白いレジ袋を振ってクリちゃんの気を惹いてくれたので、生き生きとした表情が撮れた。ネコの気を惹いたり、レフ板を持ったり‥‥1人よりも2人で協力した方が良いネコ写真が撮れるというわけだ。カメラ目線では険のあるキツい目つきになってしまうが、視線が主人の方に外れているので自然な表情に近づけた。その後、I袋駅前公園でも青い目の白ネコを撮ったので、期せずして「青い目の水曜日」となった。

    #405│モン│飼い猫 ── スカーフ巻いているの?
    K浜東北線沿いを歩いていて1匹の茶トラと出遭う。ネコの後に尾いて行くと、通りかかった家族連れがネコを見つけて子供たちが駆け寄る。突然の襲撃に驚いたネコは塀の隙間から民家の敷地内へ逃げ込む。父親らしき人が「仕事の邪魔をして済ません」と謝る。岩合さんのような写真家だと思ったらしい。子供たちがネコを怖がらせてしまうのは良くあることなので怒りも落胆も余りない。ところが車道に面した塀の前に子供たちの蛮行にも動じない茶トラがいた。暖かい西陽を浴びて気持ち良さそうに微睡んでいる。青い唐草模様(?)の首輪がネッカチーフを巻いているように見える。写真を撮るのには陽射しが強すぎるけれど、電車が通過する間だけ被写体が影に入る。この瞬間を狙ってシャッターを押した。なぜか股旅時代劇を想わせるニヒルな容姿なのでモン(紋)ちゃんと呼ぶことにした。木枯らし紋次郎には長い爪楊枝、ネコにはマタタビが良く似合うにゃん。

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    各記事のトップを飾ってくれたネコちゃん(9匹)のプロフィールを紹介する「ネコ・カタログ」の第45集です。サムネイルをクリックすると掲載したネコ写真に、右下のナンバー表の数字をクリックすると該当紹介文にジャンプ、ネコ・タイトルをクリックするとトップに戻ります。ノラ猫や地域猫、飼い猫を差別しない方針で、これまでに延べ400匹以上のネコちゃんを紹介して来ましたが、こんなにも多くのネコたちが棲息していることに驚かされます。第45集の常連ネコはロンちゃん。バル、ユイ、メイ、マジ、モンちゃんは初めて出会ったネコたちです。『猫のお化けは怖くない』(平凡社 2016)は24篇のエッセイにモノクロ写真(ネコや風景など)を添えたエッセイ集で、タイトルは2011年3月に亡くなった飼いネコ(くもちゃん)に由来する‥‥「人間のお化けは出ないでほしいわ。でも、猫のお化けなら怖くないから、しょっちゅう出て来てもらいたい」。

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    • 記事タイトルの右に一覧リストのリンク・ボタン(黒猫アイコン)を付けました^^

    • オリジナル写真の縦横比は2:3ですが、サムネイルは3:4にリサイズしています

    • 「Catnip」「イヌハッカ」「猫草」などについてはウィキペディアを参照しました
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    猫のお化けは怖くない

    猫のお化けは怖くない

    • 著者:武田 花
    • 出版社:平凡社
    • 発売日:2016/10/07
    • メディア: 単行本
    • 目次:雲 / 墓地 / 船で / 茶店 / 池の男 / 湖畔で / 植物園で / 川沿いの町 / ホテル / 声 / 夜霧 / 本 / 夏休み / 石 / 曲がり角 / 傘 / 音 / ヒゲ / 埠頭 / 旅 / 深夜に / T先生 / 病室 / ぬいぐるみ


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