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ゾンビ・デラックス [m u s i c]



  • ジャズを発見したこの若き友人たちはアブスクラクトな感情的表現主義のその狂暴性、高潔で知的な切れ味、壮大な野望に興奮した。技術、そして音楽的な素養の欠如に足を止められることなく、ザ・ポップ・グループは即興に身を投じた。スチュアートの吼えるヴォーカルとギャレス・セイガーのサックスの爆発は,その大きな渦のなかで最も明白に「フリー」な要素だった。「自分たちの演奏で覚えているのは、ものすごく特別か相当酷いかのどっちかだったってことだね」とスミスは笑う。「中間はあんまりない!」。ザ・ポップ・グループはジャズを取りまくビート文化のことも信奉していた。ギンズバーグ、ケルアック、バロウズといった詩人や作家たち。スチュアートがはじめに夢想した段階では、グループはバロウズの小説にちなんで「ザ・ワイルド・ボーイズ」と名づけられていた。青い目のファンカティアーズ、白いラスタ・ランターズ、「明日のビートニクス」──ザ・ポップ・グループはひとつのアイデンティティを選ぶことを拒否した。
    サイモン・レイノルズ 『ポストパンク・ジェネレーション』


  • ロックが真に革新的で面白かったのは60年代後半と80年代前後(90年代初頭のグランジとシューゲイザーを加えても良いかもしれない)、前者はサイケデリックとラヴ&ピース、後者はニュー・ウェイヴ〜ポスト・パンクと呼ばれる時代である。パンクという初期衝動の大爆発の後に数多くのバンドがニュー・ウェイヴの波に乗って擡頭した。ポスト・パンクを体現した象徴的なバンドがPiLだったとしたら、その陰で異彩を放っていたオルタナティヴ一派がJoy DivisionとThe Pop Groupだった。Ian Curtisの死後、バンド名を変えて奇蹟的に甦生したNew Orderとは対照的に、ザ・ポップ・グループ(The Pop Group)は求心力による反作用で空中分解した。短命に終わったThe Pop Groupの復活はないと誰もが思っていたけれど、2010年に再結成された後、《We Are Time》(Radar 1980)の再発と編集盤《Cabinet Of Curiosities》(Freaks R Us 2014)のリリースを経て、2015年に35年振りの3rdアルバムを発表した。

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  • ◎ We Are Time(Freaks R Us 2014)The Pop Group
  • デモ・ヴァージョンやライヴ音源、未発表曲などを集めたコンピレーション盤(Y, Rough Trade 1980)のリマスターCD。本来は3rdアルバムとなるはずだったのに、バンドの分裂によって編集盤としてリリースせざるを得なくなってしまったと思われる。黒地に白いレーベルという12インチ・ヴァイナルを模した素っ気ないアルバム・デザインをCDでも忠実に再現‥‥輸入盤はレーベル面にレコードのような溝が刻まれ、裏の信号面も黒くなっている。〈Thief Of Fire〉〈We Are Time〉は1stアルバム《Y》(Radar 1979)に収録された曲のライヴ。〈Trap〉〈Colour Blind〉〈Sense Of Purpose〉の3曲は初期デモ。〈Kiss The Book〉はBBCラジオ 1(John Peel Show 1978)の音源。〈Amnesty Report II〉やMark Springerがピアノを弾いている〈Springer〉は幻の3rdアルバム収録曲だろうか。アルバムとしての統一感には欠けるけれど、バンドの熱気は感じられる。ラストの7分に及ぶ〈We Are Time〉は圧巻である。

  • ◎ Cabinet Of Curiosities(Freaks R Us 2014)The Pop Group
  • 《Citizen Zombie》(2015)に先駆けてリリースされた編集盤。盟友The Slitsとのスプリット・シングルの〈Where There Is A Will〉を除き、すべて未発表音源で構成されている。〈She Is Beyond Good And Evil〉はAndy Mackay(Roxy Music)によるミックス・ヴァージョン。〈Colourblind〉〈Abstract Heart〉は白ブリュッセル、〈Don't Sell Your Dreams〉は英ブリストル、〈Karen's Car〉は芬ヘルシンキでのライヴ。〈Words Disobey Me〉〈We Are Time〉はBBCラジオ 1(John Peel Show 1978)のスタジオ・ライヴ。アルバム・タイトルの「驚異の部屋」(Cabinet of Curiosities)はドイツ語「ヴンダーカンマー」(Wunderkammer)の訳語で、大航海時代にヨーロッパの王侯貴族や学者たちの間で流行した古今東西の珍品を集めた博物陳列室のこと。The Pop Group自らが蒐集した珍奇な初期音源集は35年前の録音とは思えないほどの輝きを放つ。アルバム・カヴァには多人頭獣身モンスターと闘う兵士たちの白黒イラストが使われている。

  • ◎ For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?(Freaks R Us 2016)The Pop Group
  • 《We Are Time》(Freaks R Us 2014)に引き続いて、2rdアルバムがリマスター&リイシューされた。過去に何度か再発されているけれど、今回が決定版になりそうだ。しかし、腑に落ちないことが2つある。1つはオリジナル・アルバム(Rough Trade 1980)の3曲目〈One Out Of Many〉が〈We Are All Prostitutes〉に差し替えられてしまったこと。当初収録予定だった後者のマスタリングが間に合わず、The Last Poetsとの共演曲を入れたそうだが、Dennis Bovellがプロデュースしたシングル曲は追加収録にしても良かった。もう1つはアナログ盤(Rough Trade 1980)に封入されていた大型ポスター4枚(表・裏8頁)を縮小復刻したためか、輸入CD盤が三面見開きデジパックになってしまったこと(国内盤は紙ジャケ仕様)。着膨れした分厚いパッケージは贅肉を削ぎ落したThe Pop Groupのソリッドなサウンドに合っていないと思います。

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  • ◎ Citizen Zombie(Freaks R Us 2015)The Pop Group
  • Mark Stewart(ヴォーカル)、Gareth Sager(ギター、サックス、キーボード)、Dan Catsis(ベース)、Bruce Smith(ドラムス、パーカッション)という4人のオリジナル・メンバーによる35年振りの3rdアルバム(John Waddingtonは不参加)。口髭を蓄えた軍人らしき男が右手の人差し指を突きつけて「お前が市民ゾンビだ!」と非難するかのようなアルバム・カヴァは挑発的だが、Paul Epworthがプロデュースしたニュー・アルバムは意外にもポップで聴きやすい。「バイオハザード」 の新主題歌みたいな〈Citizen Zombie〉、Mark Stewartが身悶えして歌うダンサブルな〈Mad Truth〉、女性コーラスを交えたダウナーなバラード〈Nowhere Girl〉、ファンカデリック風のダンス・ミュージックで弾ける〈S.O.P.H.I.A.〉、テクノ・ビートにナレーションが流れる〈Nations〉、PiL風のダブが炸裂する〈St. Outrageous〉、ピアノの伴奏で切々と歌う〈Echelon〉など全11曲、40分。

    Mark Stewartの咆哮ヴォイスは健在で、ギターやキーボードや女性コーラスなどが黒いダブ〜ファンクにポップな彩りを添えている。白黒を反転したアルバム・カヴァの「デラックス・エディション」(2CD BOX SET)にはスリップ・ケースに入ったアルバム《Citizen Zombie》と《Versions Galore EP》にパッチ、アート・カード(2種)、ポスト・カード、パッチ(白地に「THE POP GROUP」のロゴ入り)、ステッカーのアクセサリー全6点を同梱。EPは〈Citizen Zombie〉〈The Immaculate Deception〉〈Shadow Child〉のダブ・ミックスと〈Echelon〉のインスト・ヴァージョンの4曲を収録(CDシングルは未発だが、12インチ・アナログ盤が「Record Store Day」にリリースされた)。限定盤の付録には余り期待していなかったけれど、「CITIZEN ZOMBIE」 のパッチ(黒と金の刺繍)はダメージド・デニムなどに貼れば「市民ゾンビ」として怖れられるかもしれません。

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    • 《We Are Time》《Cabinet Of Curiosities》とブックレット(36頁)などを同梱した《Curiosities》(Freaks R Us 2014)が僅かしか入荷しなかったのは残念!

    • 《We Are Time》の国内盤もレコード(黒い盤面)を模した作りになっているの?

    • 引用者の判断で表記を修正しました(ポップ・グループ→ザ・ポップ・グループ)

    • 《For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?》を追記(一部加筆・改稿)、本文中のリンクをAmazonから 「bandcamp」 に変更しました(2023・4・24)
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    Citizen Zombie

    Citizen Zombie

    • Artist: The Pop Group
    • Label: Freaks R Us
    • Date: 2015/03/03
    • Media: Audio CD
    • Songs: Citizen Zombie / Mad Truth / Nowhere Girl / Shadow Child / The Immaculate Deception / S.O.P.H.I.A. / Box 9 / Nations / St. Outrageous / Age Of Miracles / Echelon


    Versions Galore EP

    Versions Galore EP

    • Artist: The Pop Group
    • Label: Freaks R Us
    • Date: 2015/04/18
    • Media: Vinyl(RSD)
    • Songs: Zombie [Land] / The Immaculate / Shadow [Master] / Echelon [Instro Mental]


    We Are Time

    We Are Time

    • Artist: The Pop Group
    • Label: Freaks R Us
    • Date: 2014/10/21
    • Media: Audio CD
    • Songs: Trap / Thief Of Fire / Genius Or Lunatic / Colour Blind / Spanish Inquisition / Kiss The Book / Amnesty Report / Springer / Sense of Purpose / We Are Time


    Cabinet Of Curiosities

    Cabinet Of Curiosities

    • Artist: The Pop Group
    • Label: Freaks R Us
    • Date: 2014/10/21
    • Media: Audio CD
    • Songs: Where There Is A Will / She Is Beyond Good And Evil / Colourblind / Words Disobey Me / Don't Sell Your Dreams / We Are Time / Abstract Heart / Amnesty Report III / Karen's Car


    For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?

    For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?

    • Artist: The Pop Group
    • Label: Freaks R Us
    • Date: 2016/02/19
    • Media: Audio CD
    • Songs: Fores Of Oppression / Feed The Hungry / We Are All Prostitutes / Blind Faith / How Much Longer / Justice / There Are No Spectators / Communicate / Rob A Bank


    ポストパンク・ジェネレーション 1978-1984

    ポストパンク・ジェネレーション 1978-1984

    • 著者:サイモン・レイノルズ(Simon Reynolds)/ 野中 モモ・新井 崇嗣(訳)
    • 出版社:シンコーミュージック・エンタテイメント
    • 発売日:2010/06/01
    • メディア:単行本
    • 目次:パブリック・イメージは俺のもの / すべての外側で / 制御不能衝動 / コントート・ユアセルフ~芸術と反芸術の狭間で身をよじる / トライバル・リヴァイヴァル~黒人音楽へのアプローチ / 自主制作疾風怒濤 / 戦闘のエンターテインメント / アート・アタック~英米アート・スクール出身バンドの心意気 / 未来に生きる / 一歩踏み出せ / メスゼティックス~ごちゃ混ぜ知的理論派の周辺 / さかさま産業革命 / フリーク・シー...

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