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鉛の飛行船 [m u s i c]



  • 信じられない化学反応が起こった曲。ペイジとクレイマー渾身のプロダクション。オフ・マイクで聞こえるプラントの咳から "Keepa coolin' baby" の叫びまで、聴覚上の官能を伝える5分33秒。もともとはペイジの必殺スリー・ノート・リフと、ミッキー・モストのセッションで初めて使った逆回転エコーをかけた下降コードだったのを膨らませてできた曲。自作の歌詞はなく、ウィリー・ディクソンの「You Need Love」から頂いている。しかしクレジットをしなかったため、当然ながら訴訟問題となりバンド側は示談に持ち込んだ。/ とはいえこの曲の一番の魅力はウィリー・ディクソンとは無関係である。それはペイジがありとあらゆる狂気のようなサウンド・エフェクトを詰め込んだ、世界の終わりのような中間部分だ。歪みまくったサウンド、サイレン、破壊ノイズが、地の底から沸き上がって来るようなロバートの歓喜に満ちた雄叫びと混じり合い、左へ右へと激しくスピーカーを飛び交うぶっ飛びのシーケンスになると、まさに混乱状態へと突入する。
    デイヴ・ルイス 「胸いっぱいの愛を」


  • Led Zeppelin(Zep)のオリジナル・アルバムがJimmy Pageによる最新リマスターで再発されている。2014年6月にリイシューされた第1弾の3枚(1st〜3rdアルバム)は「スタンダード・エディション」(1CD、1LP)、「デラックス・エディション」(2CD、2LP)、「スーパー・デラックス・エディション・ボックス」(2CD+2LP)の5種類。どこかの抱き合わせリマスター・デラックス盤(2CD)ではなく、ゼップ・ファンの懐具合やマニア度によって自由に選べるところが好ましい。ハイレゾ音源(96KHz/24bit)DLカードや豪華ブックレット(ハードカヴァ 72~88頁)を同梱したコレクターズ・ボックスには手が届かないので、未発表音源を収録した「コンパニオン・オーディオ」付きの2CDを買ってみた。3つ折り紙ジャケの左右にCD、中央にブックレット(16頁)を挿んだパッケージで、2枚組デジパック仕様のように分厚くない。肝腎のサウンドは音圧が低めで耳に優しく、音量を上げても空気感のあるアナログ寄りの音になっている。

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  • ◎ Led Zeppelin(Atlantic 1969)
  • 1968年夏、空中分解したThe Yardbirdsのバンド継承権を得たJimmy Page(ギター)はセッション・ミュージシャンのJohn Paul Jones(ベース)、無名のRobert Plant(ヴォーカル)とJohn Bonham(ドラムス)を迎えて北欧ツアーを続けた。The New Yardbirdsというバンド名を重くて軽いジョークみたいな「鉛の飛行船」に変えたことで、図らずもZepが誕生したのだ。僅か36時間で録音したデビュー・アルバムはバンド名の通り「ヒンデンブルク号爆発事故」のモノクロ写真をカヴァに使用している。A・B面としてシングル・カットされた〈Good Times Bad Times〉〈Communication Breakdown〉はオリジナル曲だが、〈You Shook Me〉はMuddy Waters、〈 I Can't Quit You Baby〉はOtis Rushのカヴァ(作詞作曲はWillie Dixon)、Joan Baezの〈Babe I'm Gonna Leave You〉とThe Yardbirdsの〈Dazed And Confused〉は米SSWのAnne BredonとJack Holmesが元歌、変則Dチューニングの〈Black Mountain Side〉も米フォーク・シンガーAnne Briggsの〈Black Waterside〉が原曲というように、オリジナルとカヴァが奇妙に混在している。

    36時間という短いレコーディング時間のためにアウトテイクも殆ど残っていないのか、Disc 2にはスタジオ録音の未発表音源集ではなく、1969年10月10日、パリ・オリンピア劇場のライヴ・パフォーマンスが収録されている(1969年11月2日、仏ラジオ局で初放送)。メドレーを含めて全10曲のライヴ・アルバムだが、〈Dazed And Confused〉〈You Shook Me〉〈How Many More Times〉は10分以上もある長尺曲なので、「デラックス・エディション」のアナログ盤は3枚組になっている。「II」のリリース直前のライヴということもあってか、〈Heartbreaker〉と〈Moby Dick〉の2曲も披露している。〈Good Times Bad Times〉のイントロから〈Communication Breakdown〉へ繋ぎ、ブルーズやロックンロールなどを引用する〈How Many More Times〉で終わる怒濤の71分。ブートレグでは有名なライブ音源らしいが、今回正式にリリースされたことを喜びたい。

  • ◎ Led Zeppelin II(Atlantic 1969)
  • 第1次大戦中に名を馳せたという「ドイツ空軍部隊のポートレイト」にメンバー(Jimmy Page、Robert Plant、John Paul Jones、John Bonham)をコラージュ。1stアルバムに使われた爆発〜炎上するヒンデンブルク号を背後にイメージしたカヴァ。真っ白い飛行船のシルエットは巨大なジェット風船のようで重量感に欠ける。メンバーの名前が刻まれた神殿の上に浮游し、サーチライトを浴びて金色に輝く飛行船も現実感に乏しい。〈Whole Lotta Love〉のギター・リフ、ベース、ヴォーカル、ドラムス。中間部分のダブ的な音像、逆回転エコー、重い扉を開くような軋み音(女体の門?)、喘ぎ声や叫び声、ギター・ソロ‥‥全てがクールでカッコ良い。Jimmy Pageの強靭なリフは後半の〈Heartbreaker〉〈Living Loving Maid (She's Just a Woman)〉でも堪能出来る。スローテンポのブルーズからロックへ高速ギア・チェンジする〈The Lemon Song〉。Robert Plantの美しいラヴ・ソング〈Thank You〉。John Paul Jonesのメロディアスなベースが反復される〈Ramble On〉。John Bonhamのドラム・ソロをフィーチャした〈Moby Dick〉‥‥。

    「コンパニオン・オーディオ」と名付けられたDisc 2には〈The Lemon Song〉と〈Bring It On Home〉の2曲を除く、4曲のラフ・ミックスと3曲のバッキング・トラックなどが収録されている。間奏部分が未完成の〈Whole Lotta Love〉。〈Thank You〉と〈Living Loving Maid (She's Just a Woman)〉のインスト・ヴァージョンはカラオケとして使えるかもしれない。〈Moby Dick〉のバッキング・トラックは1分半と短い。最後に入っている〈La La〉だけはインストながら完全未発表曲である。未発表音源集は再編集したリミックスではなく、完成中途の「試作品」という感じ。左右の音の定位に難があるけれど、Disc 1と比べても音質的に遜色ない。未完成品は聴くに及ばないと思うのならば「スタンダード・エディション」を購入すれば良い。オリジナル、未発表音源、LP、CD、ハイレゾ‥‥最新リマスター盤の選択肢はリスナーに委ねられている。

  • ◎ Led Zeppelin III(Atlantic 1970)
  • 3rdアルバムのタイトルは「III」と素っ気ないけれど、アートワークは凝っている。カヴァ裏にある「円盤」を回転させることで、刳り抜かれた中小11の円形の穴からメンバーの顔や飛行船、小鳥、蝶々など色々なイラストが現われる仕組み。ZepらしくないカラフルなデザインはCDサイズに縮小されることで可愛らしさが増した。奇抜なカヴァが示唆するように、アクースティック色の濃いアルバムになっている。それも生ギター弾き語りのフォーク・ソングではなく、CSN&Yのように変則チューニングを駆使したサウンドである(〈Friends〉はオープンC、〈Bron-Y-Aur Stomp〉はオープンF)。ラウドでヘヴィなZepサウンドも健在で、ターザンやインディアンの雄叫びみたいな野性的ヴォーカルが鮮烈な〈Immigrant Song〉は戦いの歌のように聴こえる。もちろん原住民が闘うのは新天地アメリカへ移民して来た侵略者たちでしょう(4弦4フレットを小指、6弦2フレットを押さえた人差し指で5弦をミュートするリフはギター少年ならば誰もが1度は弾いたことがあるはず)。〈Since I've Been Loving You〉のギター・ソロが演歌調になってしまったのは御愛嬌ですが。

    Disc 2にはオリジナル曲のオルタネート・ミックスやインスト・ヴァージョン、ラフ・ミックスなど9曲が収録されている。〈Immigrant Song〉〈Celebration Day〉のミックス違い。未発表タイトルの〈Bathroom Sound〉は〈Out On The Tiles〉のインスト・ヴァージョン、〈Jennings Farm Blues〉は〈Bron-Y-Aur Stomp〉の元歌、ラストの〈Key To The Highway/Trouble In Mind〉は古典ブルーズ2曲のカヴァである。アクースティックなサウンドに変化したのはライヴ・ツアーを終えて遠く離れたウェールズ・南スノウドニアの「ブロン・イ・アー」というコテージで休暇を過ごしながらギターで曲作りをしたという事情もあるのかもしれない(〈Bron-Y-Aur Stomp〉の邦題が〈スノウドニアの小屋〉になっているのは地名からの命名)。ブリティッシュ・トラッドやアメリカン・フォーク調の曲を演奏してもブルーズっぽい土臭さや翳りのあるところがZepらしい。

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    「デラックス・エディション」の裏面はMac OS Xの「ユニヴァーサル・アクセス機能」のようにオリジナル・カヴァの色彩をネガ反転させたアートワークになっている。しかし仔細に見ると、1stアルバムのヒンデンブルク号(モノクロ写真)の下の部分は白から黒へ反転しているのに、飛行船の底部は黒いままで、「LED ZEPPELIN」というロゴと「ATLANTIC」レーベルのマークはオレンジから赤に変化している。セピア調のブラウンからラヴェンダー系の青色に変色した2ndアルバムは飛行船の噴煙もカラフルで、ネガ・フィルムというよりもサイケなソラリゼーションに近い。ライヴやバック・ステージなどの写真を収録したブックレット(16頁)には曲目やクレジットはあるものの歌詞は記載されていない。最新リマスターはアナログ盤が高音質と漏れ聞くが、ヴァイナル盤(LP)には内周に進むほど音が劣化して行くという致命的な欠陥がある。LPとCDは別のメディアなのだから同じ音質を求めるのは筋違いという意見もあるけれど、40年以上前にLPで聴いていた音楽のリイシューCDがアナログっぽい音にリマスターされることに異論はない。

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    • 国内盤より千円以上安い輸入盤CD(Atlantic 2014)がお買い得にゃん^^

    • 「デラックス・エディション」のアルバム・カヴァは反転した裏面の画像です
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    Led Zeppelin(2CD Deluxe Edition)

    Led Zeppelin(2CD Deluxe Edition)

    • Artist: Led Zeppelin
    • Label: Atlantic
    • Date: 2014/06/24
    • Media: Audio CD
    • Songs: Good Times Bad Times / Babe I'm Gonna Leave You / You Shook Me / Dazed And Confused / Your Time Is Gonna Come / Black Mountain Side / Communication Breakdown / I Can't Quit You Baby / How Many More Times // Good Times Bad Times/Communication Bre...


    Led Zeppelin II(2CD Deluxe Edition)

    Led Zeppelin II(2CD Deluxe Edition)

    • Artist: Led Zeppelin
    • Label: Atlantic
    • Date: 2014/06/24
    • Media: Audio CD
    • Songs: Whole Lotta Love / What Is And What Should Never Be / The Lemon Song / Thank You / Heartbreaker / Living Loving Maid (She's Just A Woman) / Ramble On / Moby Dick / Bring It On Home // Whole Lotta Love (Rough Mix With Vocal) / What Is And What Should Nev...


    Led Zeppelin III(2CD Deluxe Edition)

    Led Zeppelin III(2CD Deluxe Edition)

    • Artist: Led Zeppelin
    • Label: Atlantic
    • Date: 2014/06/24
    • Media: Audio CD
    • Songs: Immigrant Song / Friends / Celebration Day / Since I've Been Loving You / Out On The Tiles / Gallows Pole / Tangerine / That's The Way / Bron-Y-Aur Stomp / Hats Off To (Roy) Harper // The Immigrant Song (Alternate Mix) / Friends (No Vocal) / Celebration Day (Alternat...


    レッド・ツェッペリン セレブレーション

    レッド・ツェッペリン セレブレーション

    • 著者:デイヴ・ルイス(Dave Lewis)/ 上西園 誠(訳)
    • 出版社:シンコーミュージック
    • 発売日:2007/03/01
    • メディア:大型本
    • 目次:ギター・マエストロとその芸術 ジミー・ペイジ / 若き日の音楽修業 ロバート・プラント / レッド・ツェッペリン・イン・ザ・スタジオ「テープを回そうか、ジミー」/ レッド・ツェッペリン・ライヴ! あり得たかもしれない夢のセット・リスト / 10枚のアルバムが残したもの レッド・ツェッペリン・オフィシャル音源の全曲分析 / レッド・ツェッペ...


    解読 レッド・ツェッペリン

    解読 レッド・ツェッペリン

    • 編集:ユリシーズ
    • 出版社:河出書房新社
    • 発売日:2014/06/27
    • メディア:単行本(ソフトカバー)
    • 目次:邪悪なまでに崇高な音楽の理想 / レッド・ツェッペリンとその磁場 / レッド・ツェッペリンの作品 / レッド・ツェッペリンと300枚のアルバム


    rockin'on BOOKS vol.2 LED ZEPPELIN

    rockin'on BOOKS vol.2 LED ZEPPELIN

    • 著者:天辰 保文 / 伊藤 政則 / 内田 亮 / 遠藤 利明 / 大鷹 俊一 / 大貫 憲章 / 小川 智宏 / 小池 宏和 / 粉川 しの / 小島 由紀子 / 坂本 麻里子 / 高橋 智樹 / 高見 展 / 古川 琢也 / 松村 雄策 / 宮嵜 広司 / 山崎 洋一郎
    • 出版社:ロッキング・オン
    • 発売日: 2010/01/01
    • メディア: 単行本
    • 目次:ジミー・ペイジ20000字インタヴュー / レッド・ツェッペリン / レッド・ツェッペリン II / いかにしてツェッペリンは生まれたのか? / レッド・ツェッペリン III / レッ...

    タグ:Music Zep Remaster
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