皆川博子随筆精華 II 書物の森への招待(河出書房新社 2021)皆川 博子
トマト・ゲーム(早川書房 2015)皆川 博子
一人称単数(文藝春秋 2020)村上 春樹
あたしの一生 猫のダルシーの物語(小学館 2016)ディー・レディー
インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー(早川書房 2021)皆川 博子
夜想#山尾悠子(ステュディオ・パラボリカ 2021)山尾悠子特集編集委員会(編)
三毛猫ホームズの推理(光文社 2006)赤川 次郎
愛と髑髏と(KADOKAWA 2020)皆川 博子
ゆめこ縮緬(KADOKAWA 2019)皆川 博子
一度きりの大泉の話(河出書房新社 2021)萩尾 望都
たまご猫(早川書房 1998)皆川 博子
伯林蠟人形館(文藝春秋 2009)皆川 博子
昨日がなければ明日もない(文藝春秋 2018)宮部 みゆき
扉はひらく いくたびも(中央公論新社 2021)竹宮 惠子
猫は知っていた(ポプラ社 2010)仁木 悦子
山の人魚と虚ろの王(国書刊行会 2021)山尾 悠子
Another 2001(KADOKAWA 2020)綾辻 行人
猫と東大。(ミネルヴァ書房 2020)東京大学広報室(編)
ネコの博物図鑑(原書房 2020)サラ・ブラウン
文学の中の「猫」の話(集英社 1995)お茶の水文学研究会
皆川博子エッセイ集第2弾は「解説&書評集成」。全63篇を 「ミステリ」 「時代小説」 「海外文学・コミック・現代文学・ノンフィクション」 「幻想・SF・ホラー」の4ジャンルに分類して、前・後半の幕間に本の腰巻きに寄せた「推薦文」9本を挿み込んだ構成。著者には『辺境図書館』(講談社 2017)、『彗星図書館』(2019)という読書エッセイ・シリーズもあるけれど、皆川博子が偏愛する「辺境」は幅広い。つのだじろう、坂田靖子のコミック、吉田良一(吉田良)の人形写真集の解説や伊豫田晃一の画集(別冊小冊子)にも書いているのだ 340
70年代に発表した第1短篇集。犯罪サスペンスやミステリの衣裳を纏 っているが、裂け目から作家の目指す「華麗な狂気」が漏れ出す。単行本(講談社 1974)は 「トマト・ゲーム」 「アルカディアの夏」 「獣舎のスキャット」 「漕げよマイケル」 「蜜の犬」 の5篇、文庫(1981)は 「獣舎のスキャット」 「蜜の犬」 を 「アイデースの館」 「遠い炎」 「花冠と氷の剣」と差し替えた6篇、ハヤカワ文庫は割愛された2篇を増補・加筆修正した8篇を収録。「獣舎のスキャット」 にピンク・フロイド、「アルカディアの夏」 に頭脳警察のパンタ(パンダじゃないよ)が登場 339
「私小説」は作家本人と思しき人物が主人公として描かれる。短篇集の語り手(僕・ぼく・私)も作者本人だと思われる。「ヤクルト・スワローズ詩集」 には「一九六八年、この年に村上春樹がサンケイ・アトムズのファンになった」という記述がある。現実に起きたようなことを一人称視点で描いた小説はエッセイと見分けがつき難い。8篇中、群馬県M*温泉の鄙びた旅館で従業員の猿と会話を交わす 「品川猿の告白」 だけはリアリスムの範疇から逸脱している。バーで女性客に詰られる 「一人称単数」 も相手は「私」を村上春樹と認識している 338
生後7週目に 「あたし」(ダルシー)は 「あたしの人間」(著者)の飼い猫となる。彼女が「あたし」を所有しているのではなく、「あたし」 に従属しているという母猫ナターシャの教えを実践する。一人称視点の自伝だが、漱石の猫(吾輩)のように読心術に長けているわけではないので、「あたしの人間」 の私生活が具体的に描写されることは殆どない。クルマに轢かれて失った尻尾、妊娠と流産、「神様からの贈り物」 だった子猫バートルビーの病死、性悪子猫タイバルトとの確執、肝臓病による食事制限。1989年7月6日の朝、ダルシーは永眠 337
18世紀ロンドンを舞台にしたバートンズ・シリーズの最終作。『アルモニカ・ディアボリカ』(2013)のラストで新大陸に渡ったエドワード・ターナーはアシュリー・アーデン(先住民族モホーク)の殺害容疑で投獄されていた。殺人の理由を訊くようにモーリス・ウィルソン(アシュリーの友人)から依頼されたロデリック・フェアマン(俺)が囚人エドと面会する「調査」、英国兵となったエドとクラレンス・スプナーたちが遭遇した怪事件をアシュリー(私)が語る「犯行」の2つの章を交互に挿み込む構成。囚人が「安楽椅子探偵」なのだ 336
山尾悠子特集号。書きおろし 「年譜に付け足す幾つかのこと」。掌篇「「薬草取」 まで」「薔薇色の脚のオード」。インタヴュー 「岡山発、京都経由、幻想行」。講演録 「泉鏡花文学賞受賞記念スピーチ」。エッセイ「入子話」金井美恵子、「薔薇色の結晶」 川上弘美、「山尾悠子のロマネスク、或いは言葉のマニエリスムについて」 時里二郎。写真 「山尾悠子 1979」(沢渡朔)。人形(中川多理)。沼野充義、高柳誠、東雅夫、礒崎純一、金原瑞人などの評論・エッセイ。 座談会(山尾悠子+中川多理+編集部)。書誌 「山尾悠子ビブリオグラフィ」 収録 335
友人のアパートで売春をしていた羽衣女子大の学生が刺殺された。三田村茂警視に調査を命じられた刑事・片山義太郎は学部長・森崎智雄の飼猫ホームズと出会う。その夜、プレハブ小屋(食堂)で森崎が殺害される。恋人の吉塚雪子、弟の富田和生、阿部俊三学長、片山の妹 ・晴美、同僚の林刑事などが複雑に絡み合う。新校舎建設に関わる賄賂疑惑、売春斡旋グループ、密室トリックの謎、女子大生連続殺人犯の正体‥‥主人を失って片山兄妹に飼われることになった「名探偵ホ ームズ」が事件解決のヒントを片山に示すシリーズ第1作愛蔵版 334
「庭は、寝がえりをうって、背をむけた」 という冒頭の一文が読者への試金石となる掌編 「風」。檻に入れられた「私」が移動動物園の犬狼のように見世物にされる 「悦楽園」。時計犬の世話係をしている「私」が闖入して来た猫と騒動を起こす 「猫の夜」。小学生の貝沢蕗子が3歳の妹(優子)に殺意を覚える 「人それぞれに噴火獣」。書店員の越野治代が年下の恋人・野沢恒介の見合い相手に仕返しされる 「復讐」。弓子と天才少年詩人の伊谷充が睡眠薬を飲んで心中する 「暁神」など全8篇。角川文庫は集英社文庫(1991)の「解説」(服部まゆみ)を転載 333
大正から昭和初期の中州を巡る幻想小説集。中州の病院に入院している友人・弓村を見舞いに来た書生・時夫が煙草屋の舅と年増の嫁、若い女(珠江)の仁侠沙汰に巻き込まれる 「文月の使者」。ある寺の天井画を描く仕事を知人から紹介された絵師が道に迷い那須野の旅宿に泊まり、部屋の板戸越しに女と「玉藻前」を語り合う 「影つづれ」。ねえや(初江)に連れて行かれた九段招魂社の見世物小屋で見た綱渡り女(桔梗)が周也の家に来る 「桔梗闇」 など全8篇。文庫版は 「皆川博子には足がない」(久世光彦)、「解説」(葉山響)、編者改題を収録 332
『少年の名はジルベール』(小学館 2016)の出版以降、大泉時代のことを聞きたがるメディアからの接近を封じるために執筆した手記。竹宮惠子と増山法恵が入れ込んでいた 「少年愛」 「少女漫画革命」 が分からなかったこと。「風と木の詩」 に先んじて、「小鳥の巣」 を描いてしまい、2人に呼び出されて詰問された夜のこと。下井草のアパートに来たケーコタンから手渡された手紙。貧血と目の痛み。「大泉サロン」 に集まって来た少女マンガ家たち‥‥未発表のスケッチ絵(23枚)と英国滞在中に描いた 「ハワードさんの新聞広告」(1974)を併録 331
10冊目の短篇集は 「春の滅び」 「朱の檻」 「おもいで・ララバイ」 「雪物語」 「水の館」 など10篇を収録。自殺した姉の部屋のベッドで、内部に空洞の猫を彫り込んだ「卵形の透明な球体」を妹(わたし)が見つける「たまご猫」。妊娠中の麻子(わたし)がアンティークショップの店主(恋人の連れ子姉弟)から未来を変えるように警告される「骨董屋」など、作中人物の死によって濃密で妖しい幻想が誘発される。「結ぶ」 のゲラ刷りを見て、「アルマジロ!? アルマジロ!!」 と仰天驚喜して呟いた東雅夫の「解説」と「皆川博子著作リスト」付きの文庫版 330
1920年代ドイツを舞台にした歴史ミステリ。アルトゥール・フォン・フェルナウ、ナタリーニャ・コルサコヴァ、フーゴー・レント、ハインリヒ・シュルツ、マティアス・マイ、ツェツィリエ‥‥主要登場人物6人の異なる視点で描かれる短篇は主観・幻想的な描写を含む前半部と客観的な記述の「作者略歴」で構成されている。敗戦後の混乱を生きる登場人物の死を巡る物語。『薔薇密室』(2004)のエピグラフに引用された詩人ヨハンネス・アイスラーが主要人物の1人として登場する。文庫版は解説者(瀬川裕司)が作成した詳細「年表」付き 329
私立探偵・杉村三郎シリーズの3作品を収録した中短篇集。中編 「絶対零度」(178頁)は "黒宮部" というか、久々の「鬼畜」もの。「体育会系俺様マッチョ男」 のミソジニーは悍ましい。「華燭」は新婦の姪、姉の代理で出席した竹中夫人と付き添いの杉村三郎(私)が結婚式場で起きた2組の狂騒劇に遭遇する。『スナーク狩り』のように作者の描く結婚式は荒れ模様。「昨日がなければ明日もない」 は自己中のシングル・マザーから「息子が殺される」というトンデモ依頼を請ける‥‥「"ちょっと困った" 女たち」 の裏に横暴で無責任な男たちの影あり 328
読売新聞朝刊に連載された「時代の証言者・マンガで革命を」全27回を大幅に加筆・再構成。『少年の名はジルベール』(小学館 2016)と重複する部分もあるけれど、聞き書き(聞き手・知野恵子)なので客観性に優れる。少女マンガ家として30年、大学教師として20年と総括する。最も興味を惹くのは「大泉サロン」の萩尾望都との複雑な関係。1970年に同居して「萩尾さんとなら結婚してもいいと思う」と告白したのに何故2年後に同居を解消して 「距離を置きたい」(それ以来没交渉)という決別に至ったのか。彼女の苦悩は痛いほど分かる 327
入院患者の失踪、院長夫人の母親と看護婦の殺害‥‥箱崎医院に間借り下宿することになった植物学専攻の大学生・仁木雄太郎と音大生・悦子(私)の凸凹兄妹が引っ越し先で起こった連続殺人事件を解明する。1957年に発表されたミステリなので、作中にラジオ、電話、テ ープレコーダは登場するが、TV、携帯電話、ヴォスレコーダは出て来ない。事件のトリックや犯人の動機には普遍性がある。院長の娘(園児)の可愛がっている黒猫チミも不本意ながら重要な役割を担っているけれど、三毛猫ホームズのように事件を解決するわけではない 326
「われわれの驚くべき新婚旅行の話」。初秋、「私」と若い妻(トマジ)は〈山の人魚〉と呼ばれた伯母の葬儀に出席するため、高原列車で機械の山の屋敷へ向かう。「旅牛の通過」 で長時間の停車、妻が気に入って購入した模造毛皮の襟巻、駅舎ホテルで目撃した深夜の決闘、〈夜の宮殿〉の降霊会(妻の空中浮揚)、伯母の主宰する舞踏集団〈山の人魚団〉の追悼記念公演‥‥「私」の長い夢のような回想がアトランダムに綴られるが、ラスト近くで「列車の事故がありましたの。あなたは重傷を負い、意識不明なのですわ」と妻に明かされる幻想譚 325
夜見山北中学校3年3組で起こる〈災厄〉。新学期の教室に〈死者〉が紛れ込むことで、多くの関係者(クラスの成員とその二親等以内の血縁者)が死ぬことになる。記憶の改変と記録の改竄。増えた〈もう一人〉を中和する〈いないもの〉になった比良塚想(ぼく)と左の義眼で〈死者〉を見分けることが出来る見崎鳴が 「超自然的な自然災害」 に挑む。「〈死者〉を "死" に還す」 ことで、3年前と同じように〈災厄〉は止まったかと思われたが、2学期に再び〈災厄〉が始まる。まるでコロナ禍のクラスターを預言したようなホラー長編(800頁)324
東京大学の広報誌 「淡青」(vol.37 猫号)をヴァージョン・アップしたムック本。「猫好き4教授座談会」 「猫と学問 その1」(獣医内科学、動物行動学、医科学、獣医病理学、ゲノム遺伝子学、ソフトロボット学、応用獣医学、獣医外科学)、「猫とキャンパス」 「猫と学問 その2」(日本文学、歴史学、社会学、美術史学、経済史学、考古学、教育プログラム)など全5章で、ネコの世界を深く掘り下げる。残念なのは東大構内に棲息するネコ写真の多くがロング・ショットで、表情豊かに写っていないこと。岩合さんに「東大のネコ」を撮って欲しい 323
イエネコの起源と歴史、進化の過程、人間とのコミュニケーションなどを最新の遺伝子解析や行動学、解剖学や生態学などから解明する大型本。「進化と家畜化」 「解剖学と生理学」 「生態学、社会構造、行動」 「ネコと人間」 「現代のネコ」 、ベンガル、トイガー、アビシニアン、ソマリ、シャム、バリニーズ、ハバナなど、46種のネコたちの基本情報を写真と共に紹介した 「さまざまなネコの品種」 の全6章で構成。本文中にレイアウトされた300点に及ぶカラ ー図版や写真も魅惑的で、ページからネコへの愛が溢れ出る 322
おしゃべりな猫、恋人以上に愛される猫、都会の猫、変身する猫、いつもいっしょの猫、謎をにぎる猫、不思議な猫。名作古典、純文学、SF、ミステリ、ファンタジー、絵本、児童書、エッセイ。夏目漱石、谷崎潤一郎、向田邦子、大江健三郎、村上春樹、ルイス・キャロル、ホフマン、コレット、ポー、ポール・ギャリコ、ハインライン、ル=グウインなどの猫文学作品約100点を紹介する 「文庫オリジナル猫文学ガイド」。四半世紀前の文庫本なので、1995年以降の「猫本」は未紹介だが、巻末リストの「猫が出てくる作品」は充実している 321
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