F A V O R I T E ー B O O K S 5 [f a v o r i t e s]
X Day(白泉社 1985)三原 順
「Die Energie 5.2☆11.8」(1982)は電力会社で起こった事件(低濃縮ウラン盗難による原子炉停止の脅迫〜爆破)を扱った中編だったが、続編は1978年にカナダ北西部に墜落したソ連の原子炉衛星の破片を回収した「モーニングライト作戦」が背景にある。原子炉衛星の破片を拾って被曝した少年ニュート。会社を辞めた後、詐欺紛いの株操作で大金を得た主人公ダドリー。学生時代からの親友ルドルフ。看護婦のロザリン。13歳年上の兄クリント。クリント&ナンシー夫妻の子供、姉アデールと弟スコットなどの確執や対立が複雑に絡み合う 100
ごきげんタコ手帖(毎日新聞社 2010)中野 翠
週刊サンデー毎日に連載中の「満月雑記帳」(2009.11〜2010.11)を纏めたエッセイ集。「あとがき」に25年目とあるので、シリーズ25冊目ということになる。『私の青空』(1991)というタイトルに惹かれて読み始めてから20年。『偽隠居どっきり日記』(1995)、『へなへな日記』(1999)、『ほぼ地獄。ほぼ天国』(2001)、『甘茶日記』(2005)、『ラクガキいっぷく』(2008)など巫山戯た題名が付いている。この本を読んで前年を振り返らないと居心地が悪い。著者の意見に必ずしも賛同するわけでもないし趣味嗜好も異なるけれど、タコのパウル君に深く共感したという感覚は共有出来るのだ #99
エミリーの記憶喪失ワンダーランド(理論社 2010)ロブ・リーガー
絵本『エミリー・ザ・ストレンジ』の小説版。記憶喪失に陥った少女ハサミムシ(エミリー)はブラックロックという不思議な町のカフェ〈エル・ダンジョン〉で働くことに‥‥住処は冷蔵庫の段ボールハウス。雇われ女主人カラス、超能力少年ジェイキー、〈危ない人形劇〉のアッティコルなど怪しげな人物たち。4匹の黒ネコちゃんも登場。ゴスロリ少女エミリーの綴ったノートが「本」になったという1人称視点の叙述ミステリ仕立てで、ネタバレ部分の頁は予め破かれている(巻末に収録)。ファンタジーというよりはゴシック風SFなのだ #98
猫の一年(文藝春秋 2011)金井 美恵子
「別册文藝春秋」に4年間連載されたネコとフットボールについてのエッセイ集。表題は4年に1度開催されるW杯と「猫の1年」(ネコの加齢は人間の4年に相当する)が似ていることから。「A Year Of The Cat」というわけ。2度のW杯(ドイツと南アフリカ大会)やトラーの秘密だけではなく、デニス・ベルカンプの引退記念試合、右眼の手術と煙草、ヒデさん(中田英寿)の引退、イモ・ジュリー(沢田研二)の還暦、マイケル・ジャクソンの死、買物袋など多岐に渡る。姉・久美子の猫や兎やリスをモチーフにしたカラー装画も可愛い #97
サキ短編集(新潮社 2007)サキ
「狼少年」「運命」「開いた窓」「おせっかい」「ラプロシュカの霊魂」など‥‥切れ味鋭い「黒いユーモア」で決めるサキのショート・ショート全21篇。大鼬の「スレドニ・ヴァシュター」、人語を流暢に喋るネコの「トバモリー」、ニコラス少年が意地悪い伯母を出し抜く「物置小屋」、ブチネコを殺した男ラトルが飼主の子供たちから罰せられる「贖罪」などが未収録なのは残念だが、サキ入門編としては愉しめる。食い足らない読者には『サキ傑作集』(岩波書店 1981)や『ザ・ベスト・オブ・サキ I・II』(筑摩書房 1988)もある #96
猫毛愛 ── 毛から気づいた50の猫のおきて(幻冬舎 2010)蔦谷 香理
飼いネコの抜け毛で作る「猫毛フェルト」を提唱する猫毛フェルターのエッセイ集。一緒に暮らしていた黒猫「ち」(今は実家に引っ越した)や蔦谷家に通って来る「ヘディ猫」などから考察した「50のおきて」。パウル・ライハウデン博士、マイケル・W・フォックス、デズモンド・モリス、岩合光昭、大島弓子、町田康など‥‥「猫たわけ」な動物行動学者や作家たちの主張や意見を引用しながら洒脱な文章で謎を解く。ネコ写真(カラー32頁)、「世界の毛フェル座」の歌(楽譜付き)、ショート・ショート「三毛猫プミーの九生」を併録!#95
三毛猫がくれた幸福 ── ボクを癒してくれた「役立たず」のナッコ(講談社 2010)矢口 高雄
1989年の深夜、庭に迷い込んで来た三毛猫。紅鮭缶で釣って招き入れた子ネコは矢口家の飼い猫ナッコとなる。後半の13年間は隣家のミーコとして暮らし、2010年1月29日に生涯を全うした(享年23歳)。「ペットロス」の悲しみと虚脱感に襲われた著者がナッコとの出会いから別れまでを綴った「愛猫記」。マンガ家らしくナッコの写真は1枚も使用せず、イラストや1コマ・マンガで表現している。猫マンガ『ふるさと「タマの失踪」』(24頁)を併録。「あとがき」では『猫語の教科書』を引用。「釣りキチ三平」は学校へ通っていたのね #94
愛猫チロの最期を看取った写真集。時系列に並んだ写真の多くは右下に年月日が記されたスナップ・ショットで、フラッシュ撮影では緑目になっているし、猥雑なヌード写真も挿入されている。痩せ細って行くチロ、青いマットの上で横たわるチロ、荼毘に伏されて骨になったチロ‥‥死後もベランダから撮ったと思われる風景(空)写真が30頁余り続く #93
楳図かずお画業55th記念の文庫シリーズ。雑誌(少女フレンド・少年マガジン)掲載時を再現したオリジナル版作品集1は出世作「ねこ目の少女」「百本めの針」「呪われたやしきの少女」「ゆうれいがやってくる」「悪魔の手をもつ男」など全9篇を収録。表題作「まだらの少女」は「ママがこわい!」の第2部だった。デカ目の瞳の中に星が煌めく少女マンガながら、つい何度も読み返してしまうのは構成力が卓越しているから。ある日、同級生の女子が学校に持って来た怖いマンガ、口が耳まで裂けた「へび女」の衝撃は今でも忘れられない #92
ハンニバル・ライジング 上・下(新潮社 2007)トマス・ハリス
ハンニバル・レクターの幼年期から青年時代の物語。「怪物くん」ではなく美少年として描かれる。独対ソ連の戦闘に巻き込まれて両親を失い、妹ミーシャの死によって失語症になったハンニバルは、叔父ロベール・レクターに引き取られ、紫夫人(日本人妻)の許で庇護される。忌わしい記憶を取り戻した医学生ハンニバルがミーシャを殺した対独協力者たちに復讐する。少年ハンニバルの姿がエドガー・ポーツネルと重なったりして?‥‥血と肉の違い、バンパネラとカニバリストは似ていないだろうか。ハンニバルとバルテュスは従兄弟関係 #91
殺傷事件を起こして消息不明の兄・森崎大樹は「英雄」に魅入られて召還者となった。妹・友理子はオルキャスト(印を戴く者)のユーリとなって兄を救いに行く。ユーリは古本コレクターの水内一郎(大伯父)の図書室の辞書アジュ、無名の地の少年無名僧ソラ、『ヘイトランド年代記』の灰の男アッシュ(狼)と共に「物語」の中へ入る‥‥ファンタジーなのに、「黄衣の王」を倒す勧善懲悪の物語になっていないし、ユーリの兄も還って来ない。ミステリ風の仕掛けもある。小説はアニメやゲームよりも危険で複雑怪奇で奥深い(罪深い?)#90
TRUCK & TROLL(TOKYO FM 2010)Mori Hiroshi
有料携帯サイトに連載された音楽エッセイの第2集。第1集の『DOG & DOLL』(2009)と同じく横長本に横書きで51篇のエッセイが収録されているが、意地の悪い書き方をしているので心良く思わない読者もいるでしょうね(最後のエッセイだから?)。Bob Dylan、Patti Smith、Doobie Brothers‥‥よしもとばなな、浦沢直樹、京極夏彦とのスペシャル対談。表紙の「パスカル戦車」はELP《Tarkus》のパロディです #89
書店員のネコ日和(ポプラ社 2010)田口 久美子
ネコ嫌いの老母(87歳)と同居しているヴェテラン女性書店員がノラコ(三毛ネコ)を内ネコとして飼うまでの顛末を綴ったネコ・エッセイ集。ネコと書店と書籍とサッカー‥‥近所のネコたちの生態と出版小売業界の内輪話と「ネコ本考察」とジェフ市原・千葉の応援。外ネコたちの縄張りは一定ではなく、その時の力関係で勢力地図も少しずつ塗り変えられて行くことが分かる。池袋ジュンク堂(3F)にネコ本の特設コーナーがありましたね。《メモに書かれた「情事OLの1984年」は口にいったん出さないと、今でも探せないだろう》という #88
シャナ物語(未知谷 2010)長嶺 ヤス子
ネコの国のシャナは踊りの名手だった。秋の全国ダンス・コンクールを前にして、シャナはライヴァルの同級生ルナを国境沿いの川に突き落とそうとして失敗!‥‥川に落ちて不思議な渦の中に巻き込まれてしまう。原宿の路上でクルマのヘッドライトに目が眩んで撥ね飛ばされたシャナはマミーの西洋館で看病される。愛犬ピピとマミーの死。マミーの遺志を継いだシャナは数多くのネコたちを西洋館に引き取って共に暮らす。ネコを捨てて行く人間の身勝手さ、捨てられたネコの死を寓話的に描く。著者による描き下ろしイラスト35点を収録 #87
歪み真珠(国書刊行会 2010)山尾 悠子
『ラピスラズリ』で23年振りに復活した山尾悠子の掌篇集。蛙の王の獅子奮迅孤軍奮闘も虚しく絶滅してしまった蛙王朝を蛇の女王が哀悼する「ゴルゴンゾーラ大王あるいは草の冠」。大理石の台座に乗った女神がエティン荒れ野に降臨する「美神の通過」。北極星の真下にあるという死火山の海辺の娼館で繰り広げられる船乗りと娼婦と人魚たちの伝説「娼婦たち、人魚でいっぱいの海」など全15篇を収録。「ドロテアの首と銀の皿」 は『ラピスラズリ』、「影盗みの話」 は『仮面物語』と 「ゴーレム」、「火の発見」 は「遠近法」の番外編である #86
文藝別冊 萩尾望都 ── 少女マンガ界の偉大なる母(河出書房新社 2010)
2009年にデビュー40周年を迎えたモーさまのムック本。2万字ロングインタヴュー、作家対談(長嶋有)、マネージャー(城章子)と家族インタヴュー(父母姉妹)。マンガ家(松本零士、ちばてつや、永井豪、安彦良和、里中満智子、山岸凉子、青池保子、庄司陽子、赤石路代、清水玲子、宮脇明子、羽海野チカ)や作家(小松左京、夢枕獏、三浦しをん、恩田陸)からの特別寄稿。デビュー作の「ルルとミミ」、レア短篇「彼」「お葬式」「月蝕」や初期未完作品「妖精」「サムが死んでいた」。評論、主要47作品ガイド。仕事場や愛猫(タマ姫様、おぼろ、マイ、レオくん)写真も公開! #85
澁澤龍彦 ドラコニア・ワールド(集英社 2010)澁澤 龍彦
髑髏、絵のある石、トスカナ石、石笛、三葉虫、宝石、オパール、プラトン立体、琥珀のネックレス、オウム貝、アンモン貝、貝殻、子安貝、海胆、玉虫、玉虫の廚子、標本、ムクロジの実、アストロラーブ、時計、凸面鏡、仮面と人格、貞操帯、パイプの心理学、パイプ礼讃、地球儀、ルーペ、花札、拳玉、輪鼓、唸り独楽、四谷シモン、ベルメール、加山又造、スワーンベリ、声、日時計‥‥澁澤龍彦が鎌倉の海辺で拾ったり、友人から貰ったり、海外旅行で購入したオブジェを集めたヴィジュアル版ドラコニア・コレクション。澁澤龍子のエッセイを併録。文章は再録ですが、写真は沢渡朔の撮り下ろしです #84
猫の目散歩(筑摩書房 2010)浅生 ハルミン
隅田川、横浜山手、泪橋、吉原、小石川後楽園、上野、谷中、根津、山手通り、浅草、清澄、雑司ヶ谷、千束‥‥など都内・近郊の町を猫の目になって散歩する。いわゆる名所旧跡やネコ探訪ルポではない。人とネコ、ハルミンさんと「私の中の猫」ペスが会話しながら散策する。「灰猫」になって隅田川を下ったり、横浜へ行けば藤竜也に会えると思ったり、猫旅行社の添乗員になったりする。ペスが1人称(あたし)で語り通す「私の中の猫、生まれ故郷へ帰る」はメタ・フィクション風。ハルミン流『目まいのする散歩』なのかもしれない #83
きりひと讃歌(講談社 2010)手塚 治虫
全身が犬のように「変身」してしまう奇病モンモウ病。M大医学部付属病院に勤務する小山内桐人は第一内科医長・竜ヶ浦教授の指示で、多数の患者が発生している徳島県犬神沢へ調査に赴くが、それは陰謀だった‥‥モンモウ病を発症した桐人に4人の女性が絡む。婚約者の吉永いずみ、犬神沢村の娘たづ、秘密クラブの芸人・麗花、モンモウ病患者の修道尼ヘレン・フリーズ。同僚の占部医師はフリーズといずみへの愛と贖罪の間で苦悶する。手塚治虫が「火の鳥」(COM)と同時期に青年マンガ誌(ビッグコミック)に連載した「劇画」作品 #82
85枚の猫(新潮社 1996)イーラ
『85 Chats』(1952)は女流写真家イーラ(Ylla 1911-1955)のモノクロ写真集。タイトル通り85枚のネコ写真である。ウィーン生まれのカミーラ・コフラー(Kamilla Koffler)はブダペストのドイツ人寄宿学校〜ベオグラード〜パリ〜アメリカへ渡り、写真家として活躍した。ペルシャ、アメショー、シャム、アビシニアン、チンチラ、路地裏のノラネコ‥‥イーラが撮ったネコの目は爛々と輝いている。彼らは一体何を見つめているのだろうか。日本語版は岩合光昭の「イーラの猫からはじまった」を収録 #81
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