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F A V O R I T E ー B O O K S 6 [f a v o r i t e s]

  • 犬のことば(青土社 2012)日高 敏隆


  • 「犬」なのに「猫」なの?‥‥と読者を戸惑わせるタイトルと表紙カヴァ。白ネコとセーラー服の少女が肩を組むイラスト(セーラー服の胸に子犬のアップリケがついている)も素敵な動物行動学者のエッセイ集。生物学や科学への総論的なものもあるけれど、チョウ、チンパンジー、ミツバチ、ハリネズミ、フクロウ、ガガンボ、オタマジャクシ、アメンボ、雪虫、ホタル、コオロギ、ゴキブリ、アリなど、昆虫や動物の具体的な実験や研究成果の方が面白い。「ネコの時間」「ネコの家族関係」など、ネコ・エッセイも数篇収録されているのだ 120



  • ふくろう模様の皿(評論社 1972)アラン・ガーナー


  • ウェールズの神話「マビノギオン」を下敷きにしたファンタジー。北ウェールズの古い屋敷へ避暑に来た義兄妹ロジャとアリスン一家、調理人・ナンシイの息子グィン。下働きのヒュー・ハーフベイコン。ある日、アリスンの寝室の天井から怪しい物音がする。天井裏に昇ったグウィンが発見した食器(皿)に描かれた図案をアリスンが紙に写し取ると、フクロウの模様が現われた。フクロウの呪いに取り憑かれたアリスン。ロジャが牧草地で見つけた穴の空いた岩。花模様がフクロウに見えたことから封印された過去の忌まわしい事件が復活する 119



  • つぶやきのクリーム(講談社 2011)森 博嗣


  • 100篇の「呟き」に補足的文章(見開き2頁)を加えたエッセイ集。「何から手をつけたら良いのかわからない状態とは、なんでも良いから手をつけた方が良い状態である。」から始まる「目次」を読むだけでも分かるように、「呟き」よりも「箴言」や「格言」に近いものも少なくない。もちろん「Twitter」とは全く無関係。著者の歯に衣着せぬ「呟き」に共感する人も、逆に反感を憶える人もいるでしょう。表題の「cream」には「最良の部分・精髄」という意味もある。「森博嗣の言うことは身も蓋もない、というが、そうかもしれない」118



  • もっと知りたい バーン=ジョーンズ 生涯と作品(東京美術 2012)川端 康雄 / 加藤 明子


  • 「最後のラファエル前派」と称されるエドワード・バーン=ジョーンズの入門書。80頁足らずの大型本だが、カラー図版(絵画や写真)も豊富で、画家の「生涯と作品」をコンパクトに纏めている。師匠ロセッティや盟友モリスとの親交。モデルになった女性たち。「聖ゲオルギウスと龍」 「クピドとプシュケ」 「ピグマリオンと像」 「トロイ物語」 「ペルセウス」 「いばら姫」 「聖杯伝説」 など絵画のテーマとなった物語。作品解説は「バーン=ジョーンズ展」(三菱一号館美術館 2012)のキュレーターなので、副読本としても重宝する 117



  • 奇面館の殺人(講談社 2012)綾辻 行人


  • 中村清司の設計した屋敷で起こる殺人事件の謎をミステリ作家・鹿谷門実が解く「館」シリーズ第9作。奇面館主人・影山逸史に招待された6人の男たち。創馬社長、忍田天空(奇術師)、算哲教授、ミカエル氏(建築士)、ヤマさん(元刑事)、怪奇幻想小説家・日向京助に成り済まして参加した鹿谷門実。主人や秘書、使用人だけでなく、招待客全員が仮面を被っているという異常な会合。「4月の吹雪」で外界から閉ざされた館。〈奇面の間〉で発見された首なし指なし死体。鍵がかけられて脱げない仮面を被った6人の招待客の中に殺人犯がいる?‥‥「登場人物表」を載せていないことが大トリックの布石 116



  • 黒猫オルドウィンの冒険(早川書房 2010)A・J・エプスタイン&A・ジェイコブスン


  • ロラネラ女王に拉致されてしまった老魔法使いカルスタッフの弟子、ジャック、ドルトン、メアリアン。3人の相棒を救いに旅立つ3匹のファミリア(使い魔)たち。オルドウィン(黒猫)、ギルバート(アマガエル)、スカイラー(アオカケス)の活躍する冒険ファンタジーだが、主人公のオルドウィンはファミリアではなかった。念力の使えないノラ猫だとバレずに灰色の髪の魔女や洞窟のトロールやマクリートのヒュドラと闘えるのか?‥‥終盤には幾つかのドンデン返しもある。「The Familiars」の1作目で、アニメ映画化の予定もある 115



  • 山のトムさん ほか一篇(福音館書店 2011)石井 桃子


  • 戦後、北国の山間で開墾生活を始めたトシちゃんとお母さん、友達のハナおばさん、甥のアキラさんの同居する家へネズミ退治のために貰われて来た牡ネコ、トムの物語(1957)。雑誌記者時代、知人の子供たちに「プー横町にたった家」を英語から日本語に訳しながら読み聞かせたという逸話もある石井桃子の体験に基づく話で、作者自身が「ハナおばさん」として登場する。改訂版(1968)の「あとがき」には「トムを哀惜する気もちで、心臓は重たくなったと思えた」と書いている。逃げたトムを探す山の中の場面は涙なしには読めない 114



  • キャット・アート ── 名画に描かれた猫(求龍堂 2012)シュー・ヤマモト


  • 名画の中に描かれた猫ではなく、人物をネコに変えたパロディ画集。〈ニャスコー壁画〉(紀元前18000)からルネ・マグニャットの〈猫の子〉(1964)まで、古今東西の名画、全124点を収録。猫美術評論家・ウィスカー・キティーフィールドのコメントも面白い。「日の目を見るかもお金になるかもわからない」猫プロジェクトに約5年の歳月と労力を費やしたシュー・ヤマモトに脱帽する。表紙カヴァになっているヨハネス・フェルネーコの〈真珠のイヤリングをした少女猫〉(1665)は武井咲が扮した〈真珠の耳飾の少女〉よりも可愛い 113



  • ページをめくる指(平凡社 2012)金井 美恵子


  • 単行本(河出書房新社 2000)の平凡社ライブラリー版。雑誌「母の友」に連載された「絵本」についてのエッセイを纏めたもので、親本に比べるとサイズも小さく、本文にレイアウトされた表紙やイラストなどのカラー図版も省かれているが、カラー口絵8頁を付け、新たにエッセイ7篇と「石井桃子インタヴュー」(48頁)を加えた増補版になっている。「ピーター・ラビット」やモーリス・センダック、マーガレット・W・ブラウンだけでなくバルテュスの『ミツ』も紹介。冒頭の「タンゲくん‥‥」に共感出来ない偏狭な読者には不向きかも 112



  • 金魚のひらひら(毎日新聞社 2011)中野 翠


  • 「サンデー毎日」の連載コラム1年分を纏めた単行本。このシリーズを毎年読むことが恒例化して久しい。今回の読みどころは東日本大震災と原発事故(放射能汚染)だが、「あとがき」でも触れているように、3・11の後遺症で少々元気がない。その時、居間のソファで本を読んでいた著者は膝掛け毛布を頭に被り、3分の1ほど開けた玄関のノブを掴んで丸く蹲った。築35年のマンション12階の「室内は一瞬にして文字通り「足の踏み場もない」ゴミ屋敷と化した」。タイトルは幼い妹が母に買ってもらった朱赤のフリル付き吊りスカートから 111



  • Magical Mysterious Mashroom Tour(東京キララ社 2010)飯沢 耕太郎


  • きのこ文学研究家による 「マジカル・ミステリー・ツアー」。絵本の中のきのこ、アリスときのこ、きのこグッズ(切手、ポストカード、リボンとボタン、ワッペン、ファブリック、マトリョーシカ、ファッション、ステーショナリー、ゲーム、フィギュア、キャンドル)、赤地に白斑の妖しい毒茸・ベニテングダケの図譜を紹介。いしいしんじの小説 「きのこ狩り」(2009)、ジョン・ケージの稀覯本『マッシュルーム・ブック』(1972)。R・ゴードン・ワッソンの記事 「魔法のきのこを求めて」(LIFE 1957)を全訳収録 110



  • フクロウ ── その歴史・文化・生態(白水社 2011)デズモンド・モリス


  • 1942年、14歳の少年だった著者は英ウィルトシャー州の野原で血塗れになって立っていた瀕死のフクロウの頭に大きな石を打ちつけて殺す。苦しみから解放させるための処置とはいえ、最悪の気分だった。この本を書いたのは、《あの時の傷ついたフクロウに対する償いの気持ちによるところが大きいように思う。フクロウが生物学的にどれほど魅力的な存在であるか、フクロウが象徴してきたものやフクロウに纏わる神話がどれほど多様で豊かであるかといったことを紹介し、フクロウのために何かすることで罪滅ぼしをしたいと思ったのだ》109



  • 小暮写眞館(講談社 2010)宮部 みゆき


  • 700頁を超える書き下ろし長編はミステリの要素はあるものの、殺人事件も犯罪も起こらない。結婚20周年を機にマイホーム(廃業した写真館の店舗部分を残してリフォーム)を購入した花菱夫妻。花菱家の長男・英一(花ちゃん)を主人公にした3人称小説だが、1人称視点で描写される4連作。「小暮写眞館」「世界の縁側」で心霊写真探偵ものと想わせ、「カモメの名前」で転じ、「鉄路の春」で意外な場所に着地する。表紙カヴァに桜と菜の花の咲く小湊鐵道・飯給駅と二両編成電車の写真が使われた理由は最後まで読まないと分からない 108



  • 私は猫ストーカー(洋泉社 2005)浅生 ハルミン


  • 女性や男性に付き纏い、執拗に追い回すと「ストーカー規制法」に触れてしまうが、尾行する相手が人ではなくネコならば大丈夫。フィニのオネイロポンプみたいな「夢先案内猫」が素敵な宮殿へ連れて行ってくれるかもしれません。著者のハルミンさんも猫ストーキングの実践者。井の頭公園、目黒川、池袋、駒沢通り、神保町、阿豆佐味天神社(猫返し神社)、豪徳寺、谷中墓地、八丈島、不忍池など日本国内では飽き足らず、ネコを追い求めて地中海のマルタ島(猫の聖地)まで海外遠征に行ってしまう。岩合先生の『ネコを撮る』(朝日新聞社 2007)と併せて読めば、あなたも立派な猫ストーカーになれる? 107



  • 夢見るビーズ物語(ポプラ社 2009)萩尾 望都


  • ポプラ社のPR誌「asta*」に連載していたビーズ・アクセサリーを題材にしたカラー・イラスト(見開き2頁)5枚とコミック・エッセイ(6コマ×4頁)9篇を収録した趣味のビーズ本。単行本化する際にコミックをカラー化して、新たに4篇を描き下ろしている。巻末に著者インタヴュー、オリジナル・ビーズ・アルバムと制作ノートを併録。「ケチな私はリッチな気分になれないのが悲しい」「脳の欲望は無限大」「かたづけられない女」など、著者の私生活が垣間見れるコミックも面白いし、『11人いる!』のビーズ人形も可愛い 106



  • 銀の船と青い海(河出書房新社 2010)萩尾 望都


  • 70年代、少女マンガ誌「LaLa」や小学校教員向け雑誌「小三教育技術」に掲載されたイラストや物語を中心に纏めた童話集。カラー・イラストに文章を添えた詩画集が全体の1/3を占める。「カーテンコールのレッスン」「ストロベリーフィールズ」など「萩尾望都原画展」に展示されていた美しいイラスト画も多数収録。後半はエッセイ風の「オルゴール」、童話「ハピーオニオンスープ」、リアリスティックな「賞子の作文」、ファンタジックな「人形の館」、未来SFの「アフリカの草原」など‥‥多種多彩な世界が愉しめる 105



  • 日々のあれこれ 目白雑録 4(朝日新聞出版 2011)金井 美恵子


  • 「目白雑録」の最終巻はタイトルとサブ・タイトルが逆になり、ソフト・カヴァになった。「1冊の本」で毎月読んでいた時は散漫な感じもあったが、2年分を纏めて再読すると超面白い。荒川洋治、中村光夫、サザエさん、壁と卵、内田樹、風邪とマスク、『新潮100年』、天声人語、ヒロポン、ゴダール、チョン・ジェウン、矢作俊彦、タバコ、ジャック・ロジェ、『男と女』、ジャコメッティ、ピカソ、『一眼国』、W杯日本惜敗、乙女と月経、老婆心、タイガーマスク‥‥毒舌エッセイは「小さいもの、大きいこと」と題名を変えて連載中 104



  • 一瞬と永遠と(幻戯書房 2011)萩尾 望都


  • 『思い出を切りぬくとき』(あんず堂 1998)以来、実に13年振りのエッセイ集。文章も研ぎ澄まされているし、テーマや内容も深化している。小中学生時代の思い出やマンガ、SF 小説、映画などについて。「季刊へるめす」「キネマ旬報」「ユリイカ」などに連載・掲載されたエッセイや書評(文庫解説)を収録。興味深いのは少女時代の著者が少女マンガだけでなく、少年マンガを読んで育ったこと。奈良・興福寺へ阿修羅像を見に行って、壁際のソファで30分も睡ってしまったという仰天エピソードもある。はぐれ角川の幻戯書房からの上梓 103



  • コブラ(晶文社 1975)セベロ・サルドゥイ


  • 抒情的人形劇の女王コブラ、女夫人(セニヨラ)‥‥2人はコブラの脚(踵)を短縮掻爬する過程でミニアチュール化してしまう。コブリタ(コブラちゃん)と小夫人に。コブラの分身パップ。嫉妬深い女中キャデラック。コブラ(パップ)は超ドクター・クタツォーブの手術を受ける。後半の「コブラ II」はコブラとツンドラ、さそり、トーテム、とら‥‥5匹のインド珍道中。奇妙奇天烈なストーリを追うよりもイメージやメタフォール(暗喩)の奔流に身を任せた方が愉しい。ヌーヴォー・ロマンとラテン・アメリカの異種混合言語実験小説 102



  • 狐のだんぶくろ ── わたしの少年時代(河出書房新社 1997)澁澤 龍彦


  • サブ・タイトルに「わたしの少年時代」とあるように、少年時代を回想したエッセイ集。チョロギ、滝野川中里、チンドン屋、大相撲(両国国技館の大鉄傘)、童謡「チュウリップ兵隊」、蘆原将軍、漫画、野球、替え歌、ラ・パロマ、競馬場、花電車、東京大空襲‥‥昭和十年代前半の光景が「のぞき眼鏡」を覗くように記憶の彼方からクローズ・アップされる。50代の著者が語るシブサワ少年は「記憶力が抜群で、級友たちからも一目置かれていた」。表題の「狐のだんぶくろ」とは幻の童謡で、ケシ科の植物、もしくはキノコの一種だという 101


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