F A V O R I T E ー B O O K S 9 [f a v o r i t e s]
九尾の猫(早川書房 2015)エラリイ・クイーン
NYマンハッタンを5カ月間、震撼させた連続絞殺魔〈猫〉。9人の犠牲者の首に巻きついていた絹紐タッサーシルクの謎。なぜ殺された女性は全員独身なのか、なぜ電話帳に載っている人物だけが標的になるのか、なぜ被害者の年齢が若くなるのか。市民活動隊CAT(Citizen's Action Team)連合の大集会で起こった「猫暴動」。市長直属の特別捜査官に任命されたエラリイ・クイーンと父親のリチャード警視が第4の被害者モニカ・マッケルの弟マッケル、第5の被害者シモーヌ・フィリップスの妹セレストの協力を得てシリアル・キラーに挑む 180
ジム・オルーク完全読本 ~ All About Jim O'Rourke ~(Pヴァイン 2015)
14年振りのヴォーカル・アルバム《Simple Songs》(Drag City)に合わせて出版されたジム・オルーク特集号。ニュー・アルバムと現在の考えを語るロング・インタヴュー 、音楽評論家6人による新作レヴュー。坂田明、前野健太、バンド・メンバーの石橋英子、山本達久、須藤俊明、波多野敦子へのインタヴュー、ジムと五木田の対談などを収録。ソロ・ワーク、バンドへの参加、プロデュース、即興演奏、映画音楽、電子音楽。一見捉えどころのないジム・オル ークの音楽活動(1989~)を多面的に解明する。フジオプロが描き下ろしたジム・オルーク(赤塚キャラ化)のポストカード付き 179
女のいない男たち(文藝春秋 2013)村上 春樹
「女のいない男たち」をモチーフにした9年振りの短編小説集。接触事故を起こして免停になった俳優が女性運転手を雇う「ドライブ・マイ・カー」。大学生の僕と東京生まれなのに完璧な関西弁を話す浪人生、彼の女友達の奇妙な関係を描く「イエスタデイ」。美容整形外科医が人妻と恋に落ち、恋煩いで死んでしまう「独立器官」。妻の浮気を目撃した夫が会社を退職、別居してバーを開店する「木野」‥‥。「ドライブ・マイ・カー」と「イエスタデイ」はビートルズの曲名、表紙カヴァ(BARと灰色の猫と柳の木)は「木野」から採られた 178
競売ナンバー49の叫び(サンリオ文庫 1985)トマス・ピンチョン
1966年にピンチョンが発表した中篇小説。1964年夏、エリディパ・マーズは米カリフォルニアの不動産王ピアス・インヴェラリティの遺産執行人に指命されていることを知らされる。バーのトイレで喇叭の落書きを見つけたエディパは共同執行人の弁護士メツガーやロック・グループのザ・パラノイズなどから情報を得て、ピアスの偽造切手コレクションの裏に隠れている地下郵便組織「トライステロ」の存在に迫る。彼女とピアスがメキシコ・シティで観たレメディオス・ヴァロ展の〈大地のマントを織り紡ぐ〉(1961)も象徴的に使われる 177
島の猫(辰巳出版 2014)岩合 光昭
日本の島々で暮らすネコたちを撮った写真集。「世界ネコ歩き」の最後に展示されていた竹富島(沖縄県八重山郡)から、天売島(北海道苫前郡)まで、全32島を南から北上して行く。都会で飼われている家ネコやノラとも異なる島ネコ。海や湖が近いからなのか、島ネコは水を怖がらないという。砂浜、海岸、漁港、道端、階段、森林、堤防、河岸、甲板、桟橋、屋根、玄関、学校跡‥‥島のいたるところにネコがいる。島の人口よりもネコの数の方が多い青島(愛媛県大洲市)や田代島(宮城県石巻市)の島ネコに圧倒された 176
マグリット事典(創元社 2015)クリストフ・グリューネンベルク/ グレン・ファイ
テート・リヴァプールで開催された 「ルネ・マグリット快楽原則」 に合わせて編集された『Magritte A to Z』。ABC順に 「Absence 不在」 「Abstruction 抽象画」 「Alice in Wonderland 不思議の国のアリス」 「Anonymity 匿名性」 「Apple リンゴ」 「Appropriation 流用」 「Artifice 狡猾」 「Automatism and Automatic Writing 自動作用と自動筆記」 「Banality 凡庸」 「Georges Bataille ジョルジュ・バタイユ」 「Charles-Pierre Baudelaire シャルル=ピエール・ボードレール」 ‥‥マグリット関連のキーワードや人物名が羅列されている 175
不思議の国のアリス(亜紀書房 2015)ルイス・キャロル
原作(1985)刊行150周年記念出版。高山宏の新訳と佐々木マキの描き下ろしイラスト(2色刷り)によるコラボレーション。マーティン・ガードナーの『詳注アリス』『新注アリス』を訳したことのある高山宏は注釈の一切ない日本語に訳すことが長年の夢だったという。最大の難所(第7章)のタイトルは「気がふれ茶った会」。ジョン・テニエルの金髪少女やディズニー・アニメの美少女とも異なる、佐々木マキの眠たそうな半眼アリスも悪くない。白兎、チェシャ猫、三月兎、帽子屋なども佐々木マキ・ワールドのキャラとして描かれる 174
ネコ学入門(築地書館 2014)クレア・ベサント
英国を本拠とする慈善団体「インターナショナル・キャットケア」の最高責任者クレア・ベサントによる「ネコ本」。「違う世界」 「猫の言語」 「猫と暮らす」 「猫との関係」 「猫の性格」 「知能と訓練」 「問題解決法」 ‥‥「ネコ先進国」ならではの最新知識や研究成果、ネコの心理や行動原理を解説している。 《猫についてもっと知れば、あなたは猫がますます好きになるだろう》と著者が「プロローグ」に書いているように、学術的な「ネコ学」ではなく、これからペットとしてネコを飼おうと思っている人のための実践的な入門書にもなっている 173
アーティストが愛した猫(エクスナレッジ 2015)アリソン・ナスタシ
アニエス・ヴァルダからウィリアム・S・バロウズまで、ABC順に49枚のポートレイトが並ぶ。映画監督、美術家、マンガ家、写真家、画家、音楽家、彫刻家、絵本作家、イラストレータ、小説家、詩人、操り人形師、建築家、ミュージシャン、女優など、55人のアーティストと愛猫のアルバム(見開き2頁に写真と紹介文)。既存の写真から採集しているので、カラーよりも白黒写真が多い。サルヴァドール・ダリの愛猫はオセロット。アンリ・カルティエ=ブレッソンの撮った写真には妻フランクのシルエットが写っている。表紙はピカソ 172
総特集 三原順 少女マンガ界のはみだしっ子(河出書房新社 2015)三原 順
「三原順 復活祭」と連動した没後20年 メモリアル&ガイド本。「はみだしっ子」を中心にインタヴュー(ヤマザキマリ、手塚るみ子、小長井信昌、ヤマダトモコ)、対談(くらもちふさこ・笹生那実、ひこ田中・土居安子)、コラム・エッセイ(川原和子、村上知彦)、論考(ヤマダトモコ、立野昧、藤本由香里)、作品紹介、年表‥‥原画展に展示されていたカラー・イラストを多数掲載。番外編「音楽教室」も再録。『花とゆめ』に「はみだしっ子」、『LaLa』に「ルーとソロモン」を連載していた三原順は人気少女マンガ家の1人だった 171
晴れた日に永遠が…(毎日新聞社 2014)中野 翠
「サンデー毎日」の連載コラム1年分を纏めたエッセイ集。著者自身も「私の根本は、たぶん保守主義なんじゃないかと思う」と書いているように、ここ数年(3・11後)は往年の舌鋒鋭い切り口が減退して丸くなってしまった。それでもハゲロッペンに「爺様、走る!」と声援を送ったり、噛みつきスアレスにハンニバル・レクター博士の拘束マスク着用を提案するW杯ブラジル大会TV観戦記は笑える。「ガロ」の読者投稿欄に掲載されたことも、「ガロ」「COM」に刺戟されて未完のストーリ・マンガを描いたというエピソードも初耳だった。当たり障りのない「八方美人」にはならずに毒舌を吐いて欲しい 170
愛しの猫プリン(ポプラ社 2009)小手鞠 るい
1992年の夏、夫グレンと共に渡米した作家の猫エッセイ。NY州イサカに移り住んだ2人はSPCA(動物愛護協会)から1匹の猫を養子として引き取る。長毛種のノルウェジャン・フォレスト・キャットはプリン(Pudding)と名づけられ、夫妻と一緒に暮らすことになる。雪深い異国の地で友人もなく、英語も上手く話せず、引き籠りがちになった著者を救ったのは「猫」だった。1996年11月、一家はウッドストックへ引っ越す。『ノルウェーの森の猫』(出窓社 1998)を改題。文庫版あとがき「天使になったプリンへ」、解説・梯久美子 169
アリス殺し(東京創元社 2013)小林 泰三
ルイス・キャロルの「アリス」をモチーフにした新本格ミステリ。白兎、ハンプティ・ダンプティ、帽子屋、三月兎など、夢世界の住人が現実世界の人物の「アヴァタール」となり、2つの世界が交互に描かれる。夢の中の「殺人事件」が現実界にも反映されるというファンタジーのルールの上に成り立った異色ミステリ。作者が巧妙に仕掛けた叙述トリックは見破れない。堂々巡りのナンセンスな会話やグロい描写は「アリス」のパロディ。最重要容疑者のアリスと蜥蜴のビル、大学院生・栗栖川亜理と井森健の2組が邪悪な真犯人の正体を暴く 168
カラスも猫も(筑摩書房 1995)武田 花
武田泰淳・武田百合子夫妻の娘による第2フォト・エッセイ集。90年代前半に「シティロード」「東京人」「クロワッサン」「ちくま」などの雑誌に連載・掲載されたエッセイや写真が収録されている。海辺や廃屋、犬や馬、海猫などを撮ったモノクロ写真は全体の1/3程度で写真よりもエッセイの比重が大きい。タイトルに反してカラスと猫の出番は意外に少ない。ネコ写真やエッセイは後半の「猫の写真を撮りに行く」「谷中の猫」など。飾り気がなく直截的な文章は吉行理恵にも似た味わいがある。表紙カヴァと扉絵は安西水丸が描いている 167
アトムキャット(講談社 2009)手塚 治虫
「鉄腕アトム」のリメイク作品(1986-87)。ドラえもんと同じネコ型ロボット(サイボーグ?)である。「アトム・キャット」ではなく「ア・トムキャット」と読む。「アトムキャット誕生」の冒頭でアトム誕生のエピソードが描かれているように、自作パロディの色彩も濃い。つぎ夫が拾った子猫はアトムと名付けられるが、トビオと同じようにクルマに撥ねられて死んでしまう。クルマを運転していた夫妻は子供から記憶を引き出し、死んだ子猫を光子動力のスーパーキャットとして甦生させる。2人は地球を訪問していた異星人だったのだ 166
つげ義春 夢と旅の世界(新潮社 2014)つげ 義春・山下 裕二・戌井 昭人・東村 アキコ
芸術新潮 2014年1月号「デビュー60周年 つげ義春 マンガ表現の開拓者」を増補・再編集。「夢」 と「旅」で、つげの世界を読み解く。「ねじ式」 「紅い花」 「ゲンセンカン主人」 「外のふくらみ」 を原画で完全収録。山下裕二によるロング・インタヴュー「夢のリアリティを求めて」「初めての人のためのつげ義春Q&A」。戌井昭人のエッセイと東村アキコのオマージュ(談)。略年譜「つげ義春によるつげ義春」。「旅で撮る、旅を描く」 は写真と絵によるヴィジ ュアル版「貧困旅行記」。一覧「現在入手可能な 「つげ本」」165
猫本屋はじめました(洋泉社 2014)大久保 京
2013年「猫の日」に開店した猫本ネット書店「書肆吾輩堂」の店主によるエッセイ集。古物商許可証取得、古書組合加入、吾輩堂ロゴやホームページ作成、海外(パリ、ヴェネツィア、トルコ)への仕入れ旅など、開業するまでの経緯や開店後の日々が綴られている。巻頭カラー頁に「吾輩堂の猫本コレクション」「吾輩堂グッズと猫雑貨」。コレット、内田百閒、ポール・ギャリコなど「吾輩堂が案内する猫本ワールド」15冊。金井久美子・美恵子姉妹、桜井美穂子との座談会、横尾忠則との対談を収録。巻末に猫本リスト(809冊!)を併録 164
開店休業(プレジデント社 2013)吉本 隆明・ハルノ 宵子
月刊誌「danchu」に40回(2007.1~2011.2)連載された吉本隆明の「私の食物誌」。子供時代の回想記という意味では澁澤龍彦の『狐のだんぶくろ』にも相通じる味わいもある。「正月支度」「天草×東京」/「月見だんご狩り」「どろぼう自慢」/「猫の缶詰」「フランシス子と父」‥‥父のエッセイに娘の「追想」を挿む構成なので、実質的には2人の共著。交互に読んで行くと、どちらの書いた文章なのか混乱して来るが、頭脳明晰なのはハルノ宵子の方である。"最後の晩餐" が「きつねどん兵衛」だったというエピソードは笑えるなぁ 163
ポー怪奇幻想集 2[黒の恐怖](原書房 2014)エドガー・アラン・ポー
エドガー・アラン・ポーの原作にカラー・イラストを添えたヴィジュアル・ブック。第2集は「ひょこ蛙」「鴉」「黒猫」の3篇を収録。ポーの短篇や詩は今日的には「ゴシック&ホラー」と呼ぶべきものだが、スペイン生まれのイラストレータ、ダヴィッド・ガルシア・フォレス(David Garcia Fores)のイラストはグロテスクなのに余り怖くない。ブライス人形やティム・バートンのアニメにも通じるデカ目キャラがキモ可愛い。元々デジタル・ブックなので、サントラやアプリなどを公式サイト「iPoe Collection」からダウンロード可能 162
サイタ×サイタ(講談社 2014)森 博嗣
Xシリーズ第5作目。童謡の歌詞に擬えた犯行声明をメディアに送りつける「チューリップ爆弾魔」。匿名人物から依頼された素行調査。「SYアート&リサーチ」の小川令子とバイトの芸大生・真鍋瞬市、永田絵里子は対象者・佐曾利隆夫のアパートを24時間張り込み、尾行する。過去に同棲していた野田優花へのストーキング疑惑。佐曾利を尾行中に見失った永田絵里子と真鍋瞬市は野田のマンションの駐輪場裏で友人女性の絞殺死体を発見する。爆弾魔と連続絞殺犯は同一人物なのか、素行依頼主は誰なのか?‥‥主犯らしき人物は出頭するが、真犯人も動機も推測の域を出ない。Xシリーズは次作で完結する? 161
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