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F A V O R I T E ー B O O K S 4 [f a v o r i t e s]

  • 湯ぶねに落ちた猫(筑摩書房 2008)吉行 理恵


  • 2006年に急逝した吉行理恵の文庫版オリジナル・アンソロジー集。処女詩集『青い部屋』(1963)から「流れ星」、エッセイ集『雲のいる空』(1977)、『猫の見る夢』(1991)から54篇を抜粋し、単行本未収録作品2篇と未発表エッセイ1篇を加え、小説「小さな貴婦人」(1981)と「黄色い猫」(1989)を再録、親交のあった河野多惠子氏宛ての手紙5通を併録している。編者は元「新潮」の編集者・小島千加子。表紙カヴァ・イラストは浅生ハルミン。ハルミンは解説「気になるあの子」の中で「人は猫を超えられない」と書いている #80



  • 喪の日記(みすず書房 2009)ロラン・バルト


  • 1977年10月25日、母親アンリエットが逝去する。最愛の人を失って悲嘆に暮れたロラン・バルトは、2年近くに渡って320枚のカードに「喪の日記」を書く。その生涯を共に暮らしたマムはバルトに1度も小言を言わなかった。「平静をよそおう荒廃した主体」が綴る内面の記録。1977年10月26日から1979年9月15日まで、《新婚初夜という。/ では、はじめての喪の夜は?》で始まり、《とても悲しい朝がある‥‥》で終わる断章。歿後30年を前にして初公刊された『喪の日記』は、写真論『明るい部屋』(1980)への苦悩の軌跡である #79



  • パリにゃん〔Parinien〕(産業編集センター 2009)酒巻 洋子


  • 直感的なタイトルが可愛いネコ写真集。パリに棲むネコたちを約70匹以上紹介している。アパルトマンの中庭や室内で飼われているネコなど、観光客には出逢えない貴重なネコ写真を撮れたのは、撮影者がパリ郊外在住のフリー編集ライターだから。パリの街を区分けして紹介しているところは、実録版「猫町ナーゴ」を想わせなくもない。カメラ目線のネコ多し。飼い猫もノラ猫も地域猫も室内のインテリアや街中の人々や風景と馴染んでいるのは、お洒落な町パリだから? #78



  • Another(角川書店 2009)綾辻 行人


  • 座敷童子のように、いつの間にか仲間が「もう1人」増えているのに誰だか分からない怪現象。26年前、夜見山北中学3年3組で行なわれた、あることが禍いして「死」を呼び寄せてしまう。1998年5月に転校して来た榊原恒一の視点(1人称)で描かれているので、同世代の少年少女にも読める。左目に眼帯をした美少女ミサキ・メイ(綾波レイ?)の妖しい魅力。周到な伏線と謎解き、犯人(死人)探し、スプラッタ、叙述トリック‥‥。見崎鳴の左右の目のように、ホラーとミステリの目で見た「アヤツジ・ワールド」が綺麗な立体像を結ぶ #77



  • MORI LOG ACADEMY 13 ── ウは宇宙のウ(メディアファクトリー 2009)森 博嗣


  • 2005年10月1日から2008年12月31日まで毎日書き続けられた「ブログ日記」の13巻目。横書き、写真(文庫版はモノクロ)というレイアウトはブログと同じだが、時系列ではなく「HR、国語、算数、理科、社会、図工」の順にカテゴライスされている。最終巻ということで、『スカイ・クロラ』を読み解くためのヒントや、今後書かれる予定の長編14作(『トーマの心臓』を含む)の内訳など、貴重な情報多し。森博嗣×萩尾望都の対談を巻末に収録。カヴァ・イラストは羽海野チカ。3年3ヵ月分のMLAはファン倶楽部・森ぱふぇに寄贈された #76



  • 思い出を切りぬくとき(あんず堂 1998)萩尾 望都


  • 著者が20代後半の頃、「グレープフルーツ」「ペーパームーン」「ストロベリーフィールズ」などに発表した文章27編を収録したエッセイ集(1976~86)。マンガ作法、バレエ観賞、ヨーロッパ旅行、映画、アニメ、日本語、紅茶、飼い猫(白ケムシ)など‥‥テーマは多岐に渡るけれど、連載3回目にして「トーマの心臓」の連載打ち切りを打診する「週刊少女コミック」編集長と作者の攻防を綴った「しなやかに、したたかに」が面白い。カラー口絵8頁、イラスト26葉入り。デビュー40周年記念の河出文庫版『思い出‥‥』も出版されました #75



  • トーマの心臓(Lost heart for Thoma)(メディアファクトリー 2009)森 博嗣


  • 森博嗣がノヴェライズした『トーマの心臓』には原作(萩尾望都)との相違点が幾つかある。1つは物語の舞台をドイツから戦前の日本へ移したこと。学校もギムナジウム(高等中学)から大学に変更されている。登場人物の多くは日本人だが、日本名ではなくユーリやエーリクなどの渾名で呼ばれる。2つ目は3人称多視点ではなく、オスカーの1人称視点で描かれていること。3人称のように世界を俯瞰出来ないために、オスカーの知り得ないことは描かれていない。オスカーを主人公にした新たな物語「森版トーマ」に書き換えられたのだ #74



  • 夢うつつ ── ドラッグ・ポエトリー(晶文社 1989)ジム・キャロル


  • 2009年9月11日に亡くなったNY生まれの詩人、ロックンローラー、ジム・キャロル(Jim Carroll)の第4詩集。原題『The Book of Nods』(1986)の「nod」とはドラッグによる「意識朦朧とした陶酔状態」のこと。「夢うつつの本」「ニューヨーク・シティ・ヴァリエーション」「カリフォルニア・ヴァリエーション」「詩篇 1973 - 1985」の4パートで構成されている。「夢うつつの本」は「散文詩」というよりも、ボルヘスやカフカの幻想的な「短篇」を想わせる。パティ・スミスと親交があったことでも知られる。享年60歳。合掌 #73



  • レオくん(小学館 2009)萩尾 望都


  • 祝デビュー40周年を迎えたモーさまの最新刊は焦茶の縞ネコ(2歳)の活躍を描くアクロバティックな「猫マンガ」。レオくんは人語を話し、直立歩行するばかりではなく、小学校に入学したり、人間の女性と見合いしたり、少女マンガ家のアシスタントまでするけれど、登場人物の誰1人として不思議に思わない。ドジって叱られても、「ネコだもの」(ネコだから仕方がない)で許される愛すべき存在。『レオくん』は「ここではない★どこか」別の世界、現実と良く似たパラレル・ワールドの物語なのかも‥‥「レオくんの写真日記」も収録 #72



  • DOG & DOLL(TOKYO FM 2009)MORI Hiroshi


  • 携帯サイトに1年間連載された音楽エッセイ52篇に、西尾維新、ゆうきまさみ、山本直樹との3対談を併録した横書き横長本。歌が上手く、自作曲が100曲もある森博嗣の音楽エッセイ集が今までなかったのは不思議です。パンク・ロックが好き。「ROCK & ROLL」 をモジったタイトル。シェルティ犬とブライス人形の表紙はレッド・ゼッペリン『聖なる館』のパロデ ィ。初めて買ったLPは小林麻美の 「デビュー・アルバム」 #71



  • 性蝕記(虫プロ商事 1971)宮谷 一彦


  • 「太陽への狙撃」「性蝕記」「性葬者」「日蝕」「輪舞」「絶景! 富士山麓に鸚鵡鳴く」「摩訶曼陀羅華曼珠沙華」「黄金死篇」などを収録した初期作品集だが、いわゆるコミック本とは一線を劃す。巻頭を飾る宮谷一彦と直子夫人(妊娠5ヵ月)のヌード写真(8P)と、裏表紙から始まる野坂昭如・文、米倉斉加年・絵による大人の絵本「マッチ売りの少女」(カラー31P)が併録されているのだから。趣味で絵を描く役者は少なくないけれど、米倉斉加年の右に出る人はいないはず。デフォルメされた細身の躰と水彩の淡い色合いが妖美だなぁ #70



  • 岸辺のない海(河出書房新社 2009)金井 美恵子


  • 金井美恵子の処女長篇小説が33年振りに文庫版で復刊しました。原本(中央公論社 1974)の完本(日本文芸社 1995)を底本にしているので、単行本化した時に削除した部分を復原、10年後に書かれた「岸辺のない海・補遺」(1984)も収録されています。「岸辺のない海」とは陸地のない青い惑星、宇宙空間に浮かぶ水玉のイメージ。金井久美子の装幀(表紙カヴァ)も夏らしく爽やかで、緑陰・海辺の読書に相応しい。暇を持て余している中・高校生の皆さん、夏休みに読んでみませんか? 唯一の難点は文庫本にしては値段が高いことです #69



  • 猫座の女の生活と意見(晶文社 2009)浅生 ハルミン


  • ハルミンさんは「もし生まれ変われるのなら猫ではなく、猫の舌に毎日舐められる猫のごはんの皿になりたいと妄想にあけくれる」ほど猫好き。「文庫の棚に背の色がピンクで文字が白ヌキの金井美恵子の本をみつけると、自分の部屋の本棚にピンクの背の幅が約1センチ増える場面を想像して、ぽーっとなって」 しまうくらいの古本好き。小学生の頃、「将来何になりたいですか?」 というアンケートに「くノ一」と書いたそうです。「プレイガール」 と由美かおるが出演しているTV番組が一番好きだったとか。「萩の花髪に飾ったファム・ファタル」 #68



  • くノ一忍法帖(講談社 1999)山田 風太郎


  • 大阪城から救出された千姫は秀頼の胤を残すことで祖父・家康に復讐する。秀頼の子を身籠った千姫の侍女‥‥お奈美、お瑶、お由比、お眉、お喬。家康は服部半蔵に侍女5人の誅戮を命じる。伊賀鍔隠れ5人衆‥‥薄墨友康、雨巻一天斎、般若寺風伯、七斗捨兵衛、鼓隼人。伊賀忍法「くノ一化粧」 「穴ひらき」 「日影月影」 「鞘おとこ」 「百夜ぐるま」 「人鳥黐」 。信濃忍法 「天女貝」 「幻菩薩」 「やどかり」「筒涸らし」 「羅生門」 「夢幻泡影」 。千姫に怪力大女(長曾我部の後妻丸橋)が助太刀する。山田風太郎先生の傑作忍法帖、フェミニズム時代小説です #67



  • 月館の殺人 上・下(小学館 2005/2006)佐々木 倫子 / 綾辻 行人


  • 稚瀬布発月館行幻夜号 ── 「月館」へ招待された乗客7名。沖縄生まれで1度も鉄道に乗ったことのない雁ヶ谷空海(高3)と、6人の「テツ」(鉄道マニア)たち。列車内で起こる「密室殺人」、いわゆる「吹雪の山荘」。上巻のラストで、アッと驚く大トリックが明かされる。綾辻行人のオリジナル原作を佐々木倫子がコミック化した上下2巻本ですが、幻夜号も「月館」の一部と考えれば、「館シリーズ」の1つに数えて良いかもしれない。「解決篇」の前で真犯人が分かっちゃった。でも、どうして最初に窓から入らなかったのかしら? #66



  • 目白雑録 3(朝日新聞出版 2009)金井 美恵子


  • 月刊PR誌「一冊の本」に連載されている痛快毒舌エッセイ第3集には2006年7月から2009年1月までのエッセイ25篇(6回休載)が収録されている。この期間に網膜剥離、愛猫トラーの死、禁煙という3つの〈変化〉があったので、後半はシリアス・モードになっているが、小説、サッカー、芥川賞、「文藝著作権通信」、映画、オリンピック、新聞、TVなどへの批評眼は鋭い。俎上に載って斬られる人物は中田英寿、保坂和志、高橋源一郎、石原慎太郎、丸谷才一、茂木健一郎(モギケン)‥‥フットボールは「男根的であるより睾丸的である」#65



  • 酔郷譚(河出書房新社 2008)倉橋 由美子


  • 2005年6月に逝去した著者による最後の小説集。『よもつひらさか往還』(2002)の続編7篇が収録されている。慧君がバー「KUKI」の主人、九鬼さんのカクテル(魔酒)を飲んでトリップするという趣向で、倉橋キャラの桂子さんや入江さんも登場する。九鬼さんが消えてからは、真希さんのバー「MAKI」が舞台に‥‥。真っ黒な塊(渾沌)となった慧君が女体に変態して一休さんに弄ばれる「黒い雨の夜」。臨湖亭の白砂に転がっていた水を含む石を真希さんが研ぐ。現われた玲瓏たる玉の中の美女と慧君が交わって子を儲ける「玉中交歓」#64



  • 世界小娘文學全集 ── 文藝ガーリッシュ 舶来篇(河出書房新社 2009)千野 帽子


  • 近代日本文学篇『文藝ガーリッシュ ── 素敵な本に選ばれたくて』(2006)に続く海外篇。「文藝ガーリッシュ」はジャンルではなく、「志は高く心は狭い小娘(フイエット)のための」読書スタイル。お嬢さんや少女が主人公の小説のことではなく、小娘の読む行為に立脚したガイド本。主題別全10章の後にガーリッシュ的な考察コラム「文學少女の2冊目の手帖」を挿む構成。海外小説59作品の中には絶版や品切れ本も少なくない。レオノーラ・キャリントン、ヴァージニア・ウルフ、ジャネット・ウィンターソンの作品も紹介されています #63



  • 見送りの後で(朝日新聞社 2008)樹村 みのり


  • 80年代の2作に近作3作を収録した短篇集。老母の死を娘の視点で回想した表題作(2006)は版画家ケーテ・コルヴィッツにインスパイアされている。「星に住む人々」(2007)は別コミ11月号(1976)の完全リメイク。ページ数も増えて内容は深まったが、小綺麗になった絵は旧来のファンにとって賛否両論あるところ。隣家の幻聴に癒される「風のささやき」(1987)。高木萌(中2)が叔母の家で冬休みを過ごす「また明日、ネ」(1984)。隣家と野村家の年月の移り変わりを四女・友子の視点で描写する「柿の木のある風景」(2007)#62



  • 淋しいおさかな(PHP研究所 2006)別役 実


  • 幼児番組「おはなしこんにちは」(NHK 1971)のために書かれた22編の別役実童話集。「おはなしのお姉さん」田島令子(当時22歳)が朗読中に涙ぐんだり泣き出したりする哀しい不条理童話もあった。表題作は夢の中に現われる「淋しいおさかな」に逢いに遠いところにある海まで歩いて行った女の子が「淋しい」という気持ちを理解する物語。単行本(三一書房 1973)を底本としたPHP文庫版にも「空中ブランコのりのキキ」は残念ながら未収録(『黒い郵便船』に収録)ですが、著者による「はじめに」という前書きが新たに付いている #61



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    • 表紙画像を一回り大きくして字数を1行分増やしました^^
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    コメント 2

    蛇尾

    蛇尾です。
    今回も、おじゃまします。

    別役実は、フォーク少年だった頃の蛇尾君にとっては、
    小室等と六文銭との一連の歌で知ったものです。

    一時、三一書房版の別役の書籍が安価で出回っていました。
    それを何冊か購入して、どこかにツンドク状態であるはずです。

    地方に在住のため、なかなか別役の芝居を観る機会がなく、
    おもに、戯曲集を読み漁りました。(と、いってもそんなに読んでないのかなぁ)

    確か、この童話集も買ったはず、一度探してみよっと!
    by 蛇尾 (2009-05-26 10:21) 

    sknys

    蛇尾さん、コメントありがとう。
    小室と言えば「哲哉」ではなく「等」です。
    「♪しょうがない 雨の日はしょうがない 公園のベンチで1人‥‥」
    「♪空には飛行船 地上にはお祭り‥‥」
    〈雨が空から降れば〉や〈街と飛行船〉ですね^^;

    三一書房のHPにある『黒い郵便船』の紹介文には
    「小泉今日子が『淋しいおさかな』の大ファンとコメントして
    ミニブームのようになった」と書いてある。
    サリンジャーを読まずに絶賛した人に褒められても嬉しくないけれど。

    別役実の戯曲は余り読んでいませんが、
    「イヌ派か、ネコ派か?」という女性誌からの電話アンケートに、
    「イヌもネコも嫌いだ!」と答えて、女性編集者を絶句させた
    エッセイには爆笑しました^^
    「そよそよ族伝説」という長編ファンタジー(未完)もあります。
    天沢退二郎の「オレンジ党」第4部(完結編?)は出るのでしょうか。
    by sknys (2009-05-26 20:30) 

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