びっくり館の殺人(講談社 2006)綾辻 行人
耳ラッパ(工作舎 2003)レオノーラ・キャリントン
君はフィクション(集英社 2006)中島 らも
目白雑録2(朝日新聞社 2006)金井 美恵子
噂の娘(講談社 2002)金井 美恵子
ケルベロス第5の首(国書刊行会 2004)ジーン・ウルフ
白い果実(国書刊行会 2004)ジェフリー・フォード
ラピスラズリ(国書刊行会 2003)山尾 悠子
獏園(平凡社 2004)澁澤 龍彦
狐媚記(平凡社 2004)澁澤 龍彦
鼻行類(平凡社 1999)ハラルト・シュテュンプケ
ルーとソロモン 1(白泉社 1998)三原 順
トムは真夜中の庭で(岩波書店 1967)フィリパ・ピアス
雪紅皇子(小学館 1998)木原 敏江
綿の国星 1(白泉社 1994)大島 弓子
タンゲくん(福音館書店 1992)片山 健
夢先案内猫(工作舎 1980)レオノール・フィニ
モレルの発明(書肆風の薔薇 1990)アドルフォ・ビオイ=カサーレス
ロクス・ソルス(平凡社 2004)レーモン・ルーセル
ヴィーナス・プラス X(国書刊行会 2005)シオドア・スタージョン
少年少女向け探偵小説シリーズ「ミステリーランド」の1冊。殊能将之、小野不由美、森博嗣‥‥この書き下ろしシリーズは凝った装幀ほどには「中身」が伴わないけれど、『びっくり館の殺人』は作者が館シリーズ第8作と位置づけるだけのことはある。単なる謎解きに終わらない展開、不気味な道具立て(老腹話術師と金髪少女人形)、ダークな色彩、結末の意外性!‥‥かつて少年少女だった読者も幻想的な余韻に浸れます。ノベルス版(2008)や文庫本(2010)も出ました #20
妖精文庫『耳らっぱ』(1978)の新訳本。マリオンは99才。曾孫のガラハット、玄孫のロバート(25才)、嫁のミリュエルたちの計略で、老人ホームに入れられてしまう。「ドローニャ・ロサリンダの記録」 を挿入。ホームの仲間、友人のカルメラたちと共に「99才のアリスの冒険」が始まる。レオノーラ・キャリントンはシュルレアリスム画家ですが、『「美妙な死体」の物語』(月刊ペン社 1979)や『恐怖の館』(工作舎 1997)などの小説も、彼女の絵画に負けず劣らず面白いのだ #19
2004年7月26日に急逝した中島らもの遺作短篇集。「山紫館の怪」 「君はフィクション」 「コルトナの亡霊」 「DECOーCHIN」 「水怪はん」 「東住吉のぶっこわし屋」 「結婚しようよ」 「ねたのよい」 「狂言 「地籍神」」 「バッド・チューニング」 の10篇を収録。らも娘の巻末「感想文」はネタバレ大会なので未読の読者は要注意(らも様も〈哀愁のブルーマ〉が大好きだったのね)。ロック・フリークス讃歌の「DECOーCHIN」はサイコーです。主人公が自分の額に下半身のチ***を移植しちゃうなんて #18
朝日新聞社のPR月刊誌 「一冊の本」 に連載されていた人気毒舌エッセイ集の第2弾。村上龍、筒井康隆、高橋源一郎、島田雅彦など、彼女に「バカ野郎」呼ばわりにされた著名人は数知れず。「小説・エッセイ」 「新聞・TV」 「映画」 「愛猫トラー」 「サッカー」 (意外にサッカー通だったのだ!)などについて縦横無尽に書き綴る。Jリーグは缶蹴りレヴェル。ヒデの目は「引退した牧羊犬」など‥‥W杯ドイツ大会(2006)の1年前に中田英寿の引退を見抜いていたとは、金井美恵子恐るべし #17
いわゆる通俗小説の〈目白4部作〉ではない、金井美恵子本来の長編小説。長いセンテンスのアクロバッティックな文体が駆使されているが、読者の馴れか作者の技量か、意外なほどにリーダブル。ヒロイン少女に弟がいることを考えれば「自伝的」という形容は的外れ。少女期の記憶は夢のように記述される。読者は最後の1行で「現実」に引き戻されて、狼狽える。《私たちは,たった今、母の葬式をすませて来たのだ、と書こうとして、指はためらいに痙攣し、痙攣しつづける》のだ #16
「‥‥ケルベロスはもともと4つの顔があったんだ。知らなかった? 4つ目はメイデンヘッド(処女膜)、こいつはたちの悪い雌犬だったから、誰も処女を奪えなかったんだ」‥‥ギリシャ神話に登場するケルベロスは冥府の入り口を守護する三頭犬である。ジーン・ウルフのゴシック・ミステリSFは 「ケルベロス第五の首」 「ある物語」 「V・R・T」 の三篇が相互干渉する。双子惑星サント・アンヌとサント・クロアをめぐるアイデンティティ喪失の物語であるが、読者は惑星間に宙吊りされる #15
金原瑞人(某芥川賞作家の父)と谷垣暁美の下訳を山尾悠子(高校の同級生)が「翻訳」したダーク・ファンタジー。一級観相官のクレイは〈理想形態都市〉の支配者ドラクトン・ビロウの要請で、辺境の地〈アナマソビア〉ヘ赴く。「白い果実」 「スパイア石」 「石化する鉱夫」 「緑人」 「人狼」 など、不思議なアイテムや面妖キャラ多し。美女アーラの整形手術に失敗して「私の顔は相変わらず凶器のまま」なのが笑えます。見た者を石に変えるという妖女メデューサみたいな凶悪顔なのかしら?#14
『仮面物語』(徳間書店 1980)から、実に23年振りの復活連作集。秋の終わりから春にかけて冬眠する「異形の種族」の没落を描く5つの奇妙な物語。瀟洒な函に入った瑠璃色の美しい本。布装の表紙には別刷りの小さな絵、G. F. ウォッツの〈希望〉が貼ってある。幻想小説というよりも異界ファンタジーに近いかな(「山尾悠子インタヴュー」はリンク切れ)。表紙カヴァをグザヴィエ・メルリの〈秋〉に差し替えた文庫版『ラピスラズリ』(筑摩書房 2012)は補筆改訂されています #13
「ホラー・ドラコニア少女小説集成」 は澁澤龍彦と気鋭の画家による共著。【伍】は連作長編『高丘親王航海記』(1987)の第三話「獏園」の「挿絵」を山口晃が描く。親王一行を「高丘ゼミ研究旅行」に模した楽屋オチ、左手にカッターナイフ を持ってベッドの背に凭れる白ミニスカ・コギャル風のパタタ姫、様々な技法・スタイルでパタタ姫と獏少年の「愛の交歓」を描く連作7葉が冴え渡る。表紙カヴァの女戦士の腰に差した太刀の柄がファルスに見えてしまうのは目の錯覚でしょうか #12
ホラー・ドラコニア少女小説集成【肆】。「現代アートで読む澁澤龍彦」 と黒い腰巻きに謳っているように、このシリーズは若手画家の「挿絵」とコラボした全く新しい〈シブサワ・ワールド〉を愉しめる。「狐媚記」 は小説集『ねむり姫』(1983)の中の1篇。黒鉛筆やチャコールで丹念に描かれたモノクロ細密画に魅惑される。鴻池朋子の描く表紙カヴァの6本脚の6匹の獣は「キツネ」ではなく「オオカミ」のようですが、北の方が産んだ狐少女と鴻池のオオカミ少女に違和感はありません #11
《約200km先で爆発が起こった時、予想だにされなかった地殻の歪みによって、群島全体が海面下に没してしまった》‥‥1957年、海底核実験の影響で地球上から消えてしまった珍奇な絶滅種 「鼻行類」 の学術書(Bau und Leben der Rhinogradentia 1961)。ハイ・アイアイ群島だけでなく、「リヴリーアイランド」 にもハナアルキが棲息していたとは驚きです。幻の奇書『鼻行類』(思索社 1987)が平凡社ライブラリーで復刊されたのは嬉しいけれど、「ジェットハナアルキ」 が未収録 #10
ペットショップの抱き合わせ商法で厄介払いさせられた交配失敗犬のソロモン君。ウォーカー家の長女ピアに虐待される日々。次女のルーは懐いているのだが、イジケ駄犬のソロモンはルーちゃんの真意を汲み取れない。「ルーソロ」 はSMギャグマンガの金字塔である。ラストのぬいぐるみ「快適生活研究」は示唆に富む。マル秘情報 1:ピアの恋人イーノの髪の毛はヅラだった !?‥‥彼はカツラを5つも持っているのだった。若ハゲなのはモデルがブライアン・イーノだったからでしょうか?#9
英国庭園を想わせる箱庭的な「時間ファンタジー」の大傑作。「トムまよ」 を子供時代に読めなかったのは悔やまれる(トム少年のように過去へタイムスリップ出来れば良かったけれど)。宮部みゆきの『蒲生邸事件』は「トムまよ」を下敷きにしていますね。「トムまよ」 の湖上アイス・スケートの場面は素晴しくて目頭が熱くなる。ちなみにフィリパ・ピアスの『まぼろしの小さい犬』、石井桃子の『山のトムさん』、スターリング・ノースの『ラスカル』が我が遥かなる三大感涙動物本 #8
〈THE・少女マンガ木原敏江の世界〉(NHK BS2 2006・1・25)。「摩利と新吾」 が立原道造的世界ならば、「夢の碑」 シリーズはダークサイドな世界(デカダン&耽美)を描いたと、自ら作品分析している。ポオの詩集やハリー・クラーク、ビアズレーの絵画に傾倒していた木原敏江はヨーロッパ旅行中に、ギュスターヴ・モローの〈サロメ〉を観た。二の宮(映宮忠義王)の首の元ネタが「聖ヨハネの首」だったとは‥‥世紀末象徴派の耽美世界を室町時代へワープさせるアイディアに脱首です #7
ある春の雨の日、ポリバケツの横に捨てられていたエプロン姿の少女(仔猫)は、傍を通りかかった予備校生の須和野時夫に拾われる。人間には2つのルート──人間の幼児から大人の人間に成長するルートと「猫がある時点で変身して人間になるルート」があると固く信じて疑わないチビ猫(だから少女の姿で描かれる)は大人になってホワイトフィールドへ行くことを夢見る。須和野チビ猫の物語は猫になりたい女子高生・新田美柑の見ている夢だったのかもしれません(Part 11 「毛糸玉」)#6
『ページをめくる指』(河出書房新社 2000)にも紹介されているタンゲくんは、片目の黒トラ猫。それにしても何故、ジューベエ(柳生十兵衛)でもイシマツ(森の石松)でもマサムネ(独眼流伊達政宗)でもなく、タンゲ(丹下左膳)くんなのか。一種のフリークス、気味悪さを狙っての命名ではないのか。凶悪そうな橙色の大きな眼、兇暴そうなキバやツメ、狂ったような野性に子供たちは大喜びしそうですが、保護者は顔を顰めるかもしれません。またの名は野獣十兵衛?#5
オネイロポンプ(Oneiropompe)という名前の雄猫に水先案内された「私」が体験する不思議な夢物語。R通りのホテルに滞在する 「私」、ロビーで膝の上に跳び乗って来た褐色と黒色の斑猫、部屋の窓から見える中庭の黒い女彫顔像、劇場で上演される奇妙な見世物、古今東西の「ネコ名画」を蒐集した美術館‥‥ホテルの部屋に戻った「私」はベッドの上に「褐色と黒色の縞模様の大きな猫」を発見する。飛行機が大嫌いで1度も来日することがなかったレオノール、ネコが大好きだったフィニが書いた中編小説。旧版(工作舎 1980)の表紙カヴァを貼りました #4
盟友のJ・L・ボルヘスをして「完璧な小説」と言わしめた〈1人称叙述トリック〉の傑作中篇。絶海の孤島に辿り着いた「私」が体験する未曾有のSF幻想譚。「私」 とモレルとフォスティーヌの奇妙な3角関係。「私」 の記述する内容を真に受けて驚く前に、まず「語り手」の信憑性の方を疑ってみるべきである。コートームケーな話であればあるほど、「頭のオカシイ男」 のホラ話ではないかと疑ってみること。1人称単数で書かれた小説は眉に唾つけて読まないと、とんでもない誤読に陥る #3
科学者マルシャル・カントレルの別荘「ロクス・ソルス邸」に招かれた人々が観賞する「驚異の発明品」の数々。毛を刈られて泳ぐ猫、浮かぶ頭蓋骨、「アカ・ミカンス」」という液体の入った水槽の中で踊る人魚、死者たちが生涯で一番記憶に残ったシーンを反復再現する部屋(決定的瞬間のヴィデオ・ループ再生やヴァーチャル・リアリティを先取りしたかのようなヴィジュアル・アートではないか)など、マッド・サイエンティスト自らが案内する博覧会見学ツアーに参加してみませんか? #2
チャーリー・ジョンズは、気がついたら両性具有のレダム人の支配する異世界にワープしていた。脈絡なく挿入される50年代アメリカの日常生活。アンドロギュヌスのセクシュアリティは理想的か、それとも「腐りきった変態」行為か。ユートピア、それともディストピア。主人公は元の世界へ還れるのか。故郷に戻りたがるチャーリーにレダム人が提案した交換条件は自分の目で彼らの文明を評価することだった。最後にミステリィ仕立ての大ドンデン返しが待っている。ジェンダーSFの傑作 #1
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