• ◎ FOR THE FIRST TIME*(Ninja Tune)Black Country, New Road
  • Black Country, New Road(BCNR)は英ロンドンを拠点に活動する男女7人組。2018年、Conner Browne(ヴォーカル)の性的暴行で活動停止に陥った前身バンド(Nervous Conditions)の元メンバーを中心に再結成された。デビュー・アルバムはギター、ベース、ドラムス、キーボードにヴァイオリンとサックスという編成で、ポスト・パンク、フリー・ジャズ、プログレ、クレズマーなどのインプロヴィゼーションを繰り広げる。Tyler Hyde (ベース)はKarl Hyde(Underworld)の実娘、Lewis Evans(サックス)とGeorgia Ellery(ヴァイオリン)はクレズマー奏者でもある。トマス・ピンチョンやカート・ヴォネガットを読んでいるというIzaac Wood(ギター)のスポークン・ワードのようなヴォーカルと相俟って衝撃を放つ。ノイズ・ギターとサックスが炸裂する〈Science Fair〉、10分近い〈Sunglasses〉を含む全6曲・41分。紙ジャケ仕様、歌詞ブックレット(16頁)付き。

  • ◎ NEW LONG LEG*(4AD)Dry Cleaning
  • ドライ・クリーニング(Dry Cleaning)は2018年、南ロンドンで結成されたポスト・パンク・バンド。Florence Shaw(ヴォーカル、メロディカ)、Lewis Maynard(ベース)、Tom Dowse(ギター、ピアノ、キーボード)、Nick Buxton(ドラムス)の4人組で、デビュー・アルバムはJohn Parishのプロデュース。最大の特徴は紅一点のヴォーカル・スタイルにある。BCNR(Black Country, New Road)と同じく、詩や小説を朗読するようなスポークン・ワードなのだ。〈New Long Leg〉や〈John Wick〉など、Gang Of Fourを想わせる硬質なギター・リフと冷静なヴォイスとのアンサンブルにはゾクゾクさせられる。彼女が歌わないのは〈More Big Birds〉のように歌うと、可愛い声になってしまうからかもしれない。全10曲・42分。見開き紙ジャケ仕様、歌詞ブックレット(12頁)、7インチ・シングル〈Scratchcard Lanyard / Bug Eggs〉付き。

  • ◎ PRIVATE REASONS(Pataca)Bruno Pernadas
  • 「ポルトガルのスフィアン・スティーブンス」 と称されるブルーノ・ペルナーダスの4thアルバムはリゾート世界音楽紀行の趣き。コロナ禍でリモート・ワークを余儀なくされたリスナ ーの胸に沁み込むヴァーチャル・ワールド・ミュージックである。Momusっぽいエレクトロニカの〈Family Vows〉、創作言語で歌うアフロ・ビートの〈Lafeta Uti〉、Stereolab風エレクトロ・ポップの〈Theme Vision〉、長い幕間インストの〈Little Season I & II〉と〈Recife〉、韓国語で女性(Minji Kim)が歌う〈Jory I & II〉、9分超えの〈Step Out Of The Light〉など‥‥全13曲・75分。気怠く優柔なBruno Pernadasのヴォーカル(ギタ ー、ベース、シンセ、ピアノ、ウーリッツアー)と人懐っこい女声コーラスに、ヴィブラフ ォン、トランペット、フリューゲルホルン、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロなどが優雅に奏でられるレトロ・フィーチャーなサイケ・ポップ。2021年夏のトロピカル・カクテルに酔いしれる。デジパック仕様。輸入盤に歌詞ブックレットは付いていない。

  • ◎ BRIGHT GREEN FIELD*(Warp)Squid
  • コロナ対策の交付金で造った石川県能登町の「巨大イカ」のモニュメントが物議を醸しているが、英ブライトンに出現したイカ野郎(Squid)は正真正銘の大物だ。2017年、英ブライトンで結成された5人組のポスト・パンク・バンド。Ollie Judge(ヴォーカル、ドラムス)はデビュー・アルバムについて、《架空の都市景観を創り出した。ダグラス・クープランド(Douglas Coupland)の 「極限の現在」、マーク・フィッシャー(Mark Fisher)とマーリン・カヴァリー(Merlin Coverley)の「憑在論」や未来の漸進的な抹消を読んで、長い間ディストピアと未来派の風景の中で生きていることに気づいた》と語っている。中国映画 「ロングデイズ・ジャーニー」(A Long Day’s Journey Into Night 2019)に触発されたという〈Narrator〉にはMartha Skye Murphyがヴォーカルで、〈Boy Racers〉など3曲にはLewis Evans(BCNR)がサックスで参加している。全11曲・55分。デジパック仕様、歌詞ブックレット(12頁)付き。先着購入者に大型ブックレット(20頁)の特典があった。

  • ◎ AFRIQUE VICTIME*(Matador)Mdou Moctar
  • 西アフリカ・ニジュール生まれのエムドゥ・モクター(Mdou Moctar)は左利きだが、ジミヘンのように右利き用のストラトを逆手に持って弾いているわけではない。6thアルバムはMdou Moctar(リード・ギター、ヴォーカル)、Ahmoudou Madassane(リズム・ギタ ー)、Michael Coltun(ベース、ドラム・マシン)、Souleymane Ibrahim(ドラムス、パーカッション)という4人編成。タマシェク語で歌われるメロウなヴォーカルと絡みつくような粘着質のトゥアレグ・ギター、催眠的な6拍子はサイケデリックで中毒性がある。最新の英米ロックと遜色ないサウンドになったのはプロデュースしたMichael Coltunの手腕によるところが大きいと思われる。6・4拍子ポリリズムの〈Chismiten〉、アンプラグド風の〈Ya Habibti〉、緩やかにレイドバックした〈Tala Tannam〉、魔術的なリズムに幻惑される〈Layla〉、エモーショナルでノイジーな早弾きギターが爆風を吹き荒らす〈Afrique Victime〉など、全9曲・41分。見開き紙ジャケ仕様、英訳詞ブックレット(12頁)付き。

  • ◎ SINNER GET READY(Sergent House)Lingua Ignota
  • クリスティン・ヘイター(Kristin Hayter)は南カリフォルニア・デル・マー生まれのマルチ奏者である。リングア・イグノタ(Lingua Ignota)というステージ・ネームは「中世ドイツのベネディクト会系女子修道院長ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(1098-1179)によって作られた言語」に由来する。家庭内暴力、性的虐待、拒食症、ミソジニーなどから生き長らえた「サヴァイヴァー・アンセム」。ブルガリアン・ヴォイス、アパラチアン・フォ ーク、ピアノやバンジョーの弾き語りは呪詛のようにも祈祷のようにも聴こえる。3rdアルバム《Caligula》(‎Profound Lore 2019)の絶叫+インダストリアル・ノイズと胸元の刺青(CALIGULA)に怯んだが、アシュリー・ローズ・コーチャー(Ashley Rose Couture)の真珠マスクで顔を覆ったアルバム・カヴァも凄かった。コロナ・ウイルス感染対策最強のマスクではないか?‥‥全9曲・56分。デジパック仕様、歌詞ブックレット(16頁)付き。

  • ◎ NINE(Forever Living Originals)SAULT
  • 英匿名バンドSAULTの5thアルバムは99日間限定でストリーミング&ダウンロードが可能だ った。既に期間が過ぎてサイトからは消えてしまったが、それと入れ替わるようにフィジカル盤(LP・CD)がリリースされた。「assault」(暴行)という言葉を連想させるバンドから届けられた癒し(remedy)の音楽。キティ・エンパイア(The Observer)は《彼らの名前は常に 「暴行」 という言葉の冷たい震えを伴っていたが、ここでは治療として彼らの音楽を提供している。「SAULTは傷を癒します」 とSolは甘く囁くように歌う》と評している。黒一色のカヴァ表に燐寸棒の文字で 「NINE」 、裏面には曲目と 「PRODUCED BY INFLO」 としか記載されていない。SAULTはCleo Sol(ヴォーカル)、Kid Sister(ラップ)、Inflo(プロデュース)の3人組で、〈Mike's Story〉にMichael Ofo、〈You From London〉にはLittle Simzがゲスト参加している。全10曲・34分。デジパック仕様で、歌詞カードやブックレットなども一切付いていない。

  • ◎ SOMETIMES I MIGHT BE INTROVERT*(Age 101 2021)Little Simz
  • SAULTのアルバムにもゲスト参加していた英女性ラッパーLittle Simzの4thアルバム。「私は時々内向きになるの」 というタイトルはフルネーム(Simbiatu)のバクロニムになっている(SIMBIは 「Sometimes I Might Be Introvert」 の頭文字)。《Grey Area》(2019)に引き続き、Inflo(SAULT)のプロデュース。TVドラマ(Netflix 2020)でダイアナ妃役を演じた女優エマ・コリン(Emma Corrin)がカメオ出演(ヴォイス)したオープニングの〈Introvert〉、Smokey Robinsonの〈The Agony And The Ecstasy〉(1975)をサンプリングした〈Two Worlds Apart〉、アフロビートの〈Point And Kill〉、ミニマル・グライムの〈Rollin Stone〉‥‥持ち前の高速ラップだけではなく、可愛らしいヴォーカルも披露する。UKブラックの内面と外部、光輝と陰翳を映し出す全19曲・65分の大作。デジパック仕様、輸入盤に歌詞は記載されていない。

  • ◎ SHADE(Kranky)Grouper
  • Grouper(Liz Harris)の12thアルバムは《Grid Of Points》(2018)のピアノ弾き語りから従来のギターの伴奏に戻って、過去15年間に録音された曲を収録したという。いわゆるアクースティック・ギター弾き語りSSWのフォーク・ソング集だが、霧深い森の彼方から聞こえて来る精霊のような儚いヴォイスはアンビエント、フォーク、シューゲイス、ドローンなどのジャンルに留まらない 「グルーパー」 という唯一無二の音楽を創出している。ノイズ混じりの〈Followed The Ocean〉、ギター弾き語りの〈Unclean Mind〉、アルペジオ・フォ ークの〈Ode To The Blue〉、幽玄と棚引く多重唱の〈Basement Mix〉、バックグラウンドで梟が鳴く〈Kelso (Blue Sky)〉など、全9曲・35分。見開き紙ジャケ仕様。LPは白い余白の中央に小さな写真(左手)がレイアウトされているが、CDのカヴァ・アートは左手の全面アップになっている。

  • ◎ PORTAS*(Sony Music)Marisa Monte
  • ブラジルを代表するSSWマリーザ・モンチの10年振りの9thアルバムはDadi(ベース、ギター、ウクレレ、ピアノ)、Seu Jorge(フルート、ギター、ヴォーカル)、Carlinhos Brown(パーカッション、ドラムス)、Chico Brown(ギター、ベース、ピアノ、ヴォーカル、作曲)、Davi Moraes(ギター、ベース、ヴォコーダー)、Silva (ピアノ、作曲)、Arnaldo Antunes(作曲)、Arthur Verocai(編曲)など、新旧ミュージシャンが多数参加している。オープニングの〈Portas〉と〈Calma〉はArto Lindsayとの共同プロデュース、Marcelo Camelo(ギター、ベース、ドラムス、ピアノ)プロデュースの〈Espaçonaves〉 、Seu Jorgeとデュエットした〈Pra Melhorar〉、CDに追加されたJorge Drexlerとのコラボ・シングル〈Vento Sardo〉を含む全17曲、53分。三面デジパック仕様、歌詞ブックレ ット(20頁)付き。カラフルなカヴァ・アートは画家マルセラ・カントゥアリア(Marcela Cantuaria)が描いている。

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    〈スニーズ・シンクス 2021〉でも言及したように、2021年のエポックはBlack Country, New Road、Dry Cleaning、Squid、black midi、Shame、Goat Girlなど、英ポスト・パンク・バンドの隆盛で、海外音楽メディアの 「年間ベスト・アルバム」(AOTY 2021)でも軒並み上位に選ばれた。次点はCeleste、Claud、Cassandra Jenkins、Indigo Sparke、Julien Baker、Mogwai、Lana Del Rey、Olivia Rodrigo、Natalia Lafourcade、Lucy Dacus、Japanese Breakfast、Wolf Alice、Faye Webster、Rodrigo Amarante、Billie Eilish、Clairo、Low、Snail Mail、Idles、Deerhoofなど‥‥2020年に《Untitled (Black Is)》《Untitled (Rise)》をリリースして注目された英匿名バンドSAULTは 「99日間でネットから消える」 5thアルバム《NINE》で話題になった(LP・CDは通常販売されている)。メンバーのInfloがプロデュースしたLittle Simzの《Sometimes I Might Be Introvert》は数多くのメディアで、「年間ベスト・アルバム」 の第1位に輝いた。

  • Kitty Empire’s best pop and rock of 2021

    • The Weather Station – Ignorance

    • Self Esteem – Prioritise Pleasure

    • Floating Points, Pharoah Sanders & The London – Promises

    • Nala Sinephro – Space 1.8

    • Sault – Nine

    • Little Simz – Sometimes I Might Be Introvert

    • Bicep – Isles

    • Black Country, New Road – For the first time

    • Sleaford Mods – Spare Ribs

    • Margo Cilker – Pohorylle


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    • 個人的な年間ベスト・アルバム10枚を1年ずつ遡って行く〔rewind〕シリーズ


    • BCNR、Dry Cleaning、Squid、Lingua Ignotaは再録(一部加筆・改稿)です^^



    • 輸入盤のリリース順(国内・流通盤が出ているアルバムには *マークを付けました)



    • 選出した 「年間ベスト・アルバム 2021」(輸入CD)は全て自腹で購入しました^^;


    • Caetano Velosoの《Meu Coco》は年内(2021年)にCDを入手出来ませんでした

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    Sometimes I Might Be Introvert

    • Artist: Little Simz
    • Label: AGE 101
    • Date: 2021/09/03
    • Media: Audio CD
    • Songs: Introvert / Woman / Two Worlds Apart / I Love You, I Hate You / Little Q, Pt. 1 / Gems / Speed / Standing Ovation / I See You / The Rapper That Came To Tea / Rollin Stone / Protect My Energy / Never Make Promises / Point And Kill / Fear No Ma / The Garden / How Did ...