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スニーズ・シンクス 2 0 2 1 [b l o g]



  • 二月六日〔引用者註:1938年〕には、紙ナプキン、何本かの飾りひもと色鮮やかな薔薇がシュルレアリスム風の「優雅な死体」を髣髴とさせる少女の肖像を誕生させた。同日、フランスの列車の切符、玩具の拳銃、幾枚かの生地、そして猫と薔薇を描いたヴィクトリア調の切り抜きが、エッフェル塔と若いパリジェンヌとカフェの看板の揃ったパリの街路の光景へと変貌した。「あなたの幸運と私の幸運は同じものである。あなたと私」 と記されているのが認められる。パリへの脱出と自由と完全な快復を願って、愛する妻を勇気づけようとしているかのようである。数日後、彼女は逝ってしまう。/ これらのコラージュは以前に描かれたドローイングとは大きく異なっているように思われる。当然のことながら、その存在理由はおもに喜びと励ましであった。しかしながら、切り抜きから呼びだされたイメージは決してとるにたらないものではなかった。そこでは、激しいエロティシズムの雰囲気を喚起するために、シュルレアリスムの真正な様式で偶然が想像力を煽りたてている。
    ピーター・ウェブ 「人形遊び」


  • 16年目のスニンクス(sknynx)は72本の記事をアップした(2020・12〜2021・11)。月6本の内訳はメイン記事3本(1日・11日・21日)と別館ミニ・ブログの1カ月分を纏めた 「スニーズ・ラブ」(26日)、一覧リストや企画ものなど2本(6日・16日)である。回文シリーズは新年恒例の「回文かるた」を含めて5本。「ネコ・ログ」 は4本。ミュージックは恒例の年間ベスト(rewind)や新譜紹介など7本、石ノ森シリーズは4本。猫ゆりシリーズは〈黒猫のポム〉〈猫のタマしい〉の2本、「折々のねことば」 は5本。コミックは1本‥‥秋になってコロナ感染者数は激減したが、美術館や展示会へは依然として遠のいている。コロナ禍の置き土産は予約制とセルフ・レジだろうか。予約せずに早目に出かけた 「ゴッホ展」(東京都美術館)の当日券は3時間待ち、『秘密の花園 2』(小学館)は書店のセルフ・レジで購入した。お気に入り記事(ベスト10)と人気記事(トップ10)で重複したのは〈戸惑うトマト〉〈内なるソング(2020)〉〈黒猫のポム〉〈山尾悠子と移ろう日々〉〈モーさまとケーコタン〉の5本。2021年も昨年に引き続き、皆川博子の小説を読み耽った。

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  • ● 猫のゆりかご
  • 「猫ゆり」は猫ジャケ・アルバムとネコをテーマにした猫本10点ずつを紹介するシリーズ。第13集の〈黒猫のポム〉は《Les Failles Cachees》(Polydor 2020)、《Apocalypso》(Siesta 2002)など、猫ジャケ10枚をレヴューした。前者は仏SSWポム(Pomme)ちゃんの2ndアルバム(ハロウィン・エディション)で、左上に黒猫のイラストが描かれている。後者はスペインのSSWアナ・ラーン(Ana Laan)の変名カヴァー・アルバムで、ダークシアン(青緑色)の背景にピンクのネコちゃんが浮かび上がる。スウェーデンのSSWトーヴ・ロー(Tove Lo)のアルバム《Sunshine Kitty》(Polydor 2019)に登場した黄色いネコ(サンシャイン・キティ)は縫いぐるみではなく、ヴァーチャル・ペット(GIFアニメ)。米SSWデュア・リパ(Dua Lipa)の足許に白猫のいるクラブ・ミックス・アルバム《Club Future Nostalgia》(Warner 2020)はアナログ(LP)限定盤です。

    猫本第13集の〈猫のタマしい〉は村上春樹のノン・フィクション『猫を棄てる』(文藝春秋 2020)、ハルノ宵子の入院闘病記『猫だましい』(幻冬舎 2020)、東京大学の広報誌 「淡青」 vol.37(2018年9月 猫号)をヴァージョン・アップしたムック『猫と東大』(ミネルヴァ書房 2020)など、10冊を紹介した。記事タイトルは河合隼雄の元祖猫エッセイ『猫だましい』(新潮社 2000)とハルノ宵子の「猫騙しい」(猫本じゃない?)、横尾忠則の愛猫日記『タマ、帰っておいで』(講談社 2020)から採った。英政治哲学者ジョン・グレイの新刊『猫に学ぶ』(みすず書房 2021)の「訳者あとがき」で触れているように、最近ネコの姿を見かけなくなったが、《猫について書かれた本、いわゆる「猫本」は「犬本」よりもはるかに多い》。動物愛護団体やヴォランティアなどによる不妊手術によって外で見かける野良ネコの個体数は減少しているのに、皮肉なことに空前のネコ・ブームで「猫本」は増加している。猫5匹、犬1頭と暮らす石田ゆり子のインスタ投稿を全3巻に纏めた『ハニオ日記』(扶桑社 2021)の人気も昨今のネコ・ブームを反映している。

  • ● 折々のねことば
  • 「折々のことば」(朝日新聞朝刊の連載コラム)のパロディ版「ねことば」は5本(50篇)をアップした。ネコ関連の本に限らず、読書をしていて「猫・ネコ・ねこ」に言及した文章を見つけるのは愉しい。「評伝ハンス・ベルメール」 の中に《猫と薔薇を描いたヴィクトリア調の切り抜きが、エッフェル塔と若いパリジェンヌとカフェの看板の揃ったパリの街路の光景へと変貌した》という文章があった。1938年1月と2月、結核で入院していた妻マルガレーテを慰めようと思ったベルメールは小さなコラージュ作品を数点制作した。〈あなたの幸運と私の幸運は同じものである。あなたと私(マルガレーテのために)〉(コラージュ・ドローイング 1983)には電車の切符、玩具の拳銃、端切れ、猫、薔薇、エッフェル塔、若いパリジェンヌがコラージュされている。年内に100篇をアップしようと思っていたが、残念ながら叶わなかった。「ねことば」 のインデックス〈OCCASIONAL CATWORDS〉を作成したので、興味を惹かれた人は利用して下さい。

  • ● ブックス
  • 今までバラバラに散逸していた山尾悠子作品のレヴューを〈山尾悠子と移ろう日々〉で1本に纏めてみた。記事タイトルは『山の人魚と虚ろの王』(国書刊行会 2021)の捩りだが、「山尾悠子と移ろう王子」 の方が良かったかもしれない。「皆川図書館シリーズ」の第4集〈皆川少女館〉で長編『伯林蠟人形館』(文藝春秋 2006)、『双頭のバビロン』(東京創元社 2012)、『U』(文藝春秋 2017)、短篇集『愛と髑髏と』(光風社出版 1985)、『たまご猫』(早川書房 1991)、『ゆめこ縮緬』 (集英社 1998)、『少女外道』(文藝春秋 2010)、第5集〈皆川幻想館〉で児童書『海と十字架』(偕成社 1972)、最新長編『インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー』(早川書房 2021)、短篇集『鳥少年』(徳間書店 1999)、『トマト・ゲーム』(講談社 1974)、絵本『マイマイとナイナイ 』(岩崎書店 2011)、エッセイ集『皆川博子随筆精華 II 』(河出書房新社 2021)を紹介した。人形作家の中川多理は皆川・山尾作品に触発されて登場人物の球体関節人形を制作している。

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  • ● 回文シリーズ
  • 〈戸惑うトマト〉〈牛に時雨(回文かるた 2021)〉〈また蹴る毛玉〉〈キティ愛溺〉〈孤独‥‥僕どこ?〉の5本をアップした。コロナ禍、ワクチン、変異株、東京五輪、衆院選挙など‥‥「地球防衛家のヒトビト」(朝日新聞夕刊)ほどではないけれど、スニーズ回文も時事ネタというか良くも悪くも世相を反映してしまう。〈たたき上げは俎板の鯛?‥‥ナマハゲ、秋田だ!〉〈威張り、嘘が過ぎ、スキー現場にパンケーキ好き「菅総理杯」〉〈宥め鮨で、怒る身をラクサで‥‥「桜を見る会」で沈めたな〉〈養豚地区湧く、ワクチン投与〉〈「悲しき五輪」 惨禍。罹患、3里漕ぎし仲〉〈苦痛、骨折、小池百合子。残り湯、脛骨、石膏着く〉〈海外変異株、差大きい地域。大阪府が隠蔽絵画?〉〈オリンピック疎い、端折りました。多分ブタ出し、マリオ氏這い盗掘品リオ〉など‥‥意地悪いブラック回文が増加した。〈ぶっかけうどん、お魚は生、出汁あご。芦田愛菜、花笠音頭、受けカップ〉〈田舎探した山葵トマトピザ‥‥わたし傘がない〉のようなユーモア回文を作りたいのだが難しい。

  • ● 石ノ森シリーズ
  • 〈2級天使ピント〉でデビュー作品 「二級天使」(1955)、〈ゴースト・ガール〉で少女マンガ 「幽霊少女」(1956-7)、〈石ノ森マンガ家入門〉で 「石ノ森章太郎のマンガ家入門」(1988)、〈石ノ森読切劇場〉で読み切り短篇集 「石森章太郎読切劇場」(1969-70)を紹介した。ファンタジー、SF、少女マンガ、ギャグ、劇画など、幅広いジャンルに渡る石ノ森ワールドに今更ながら圧倒された。TV放送された番組(Eテレ 2018)を再構成したムック『別冊NHK100分de名著 果てしなき 石ノ森章太郎』(NHK出版 2021)に収録されたヤマザキマリの「さるとびエッちゃん」は出色だった。少女マンガやSF、ギャグなど同時代のマンガや安部公房やスナフキン、ノッポさんなどを引いて、「虫の目」 と 「鳥の目」 を合わせ持つエッちゃんの魅力を読み解く。『石ノ森章太郎コレクション』(筑摩書房 2021)の 「初期少女マンガ傑作選」 「ファンタジー傑作選」 「SF傑作選」 もジャンルの境界を自在に横断する著者の多彩・多様性を際立たせた。

  • ● コミック
  • 〈モーさまとケーコタン〉で2人の少女マンガ家の繊細で複雑な関係、大泉サロンで同居していた蜜月時代から突然の別離までを記事にした。竹宮惠子の半自伝的エッセイ『少年の名はジルベール』(小学館 2016)と新聞に連載されたインタヴュー記事を大幅に加筆・再構成した『扉はひらく いくたびも』(中央公論新社 2021)。『少年の名‥‥』の出版以降、メディアの取材攻勢を封じる対策として書き下ろされた萩尾望都の『一度きりの大泉の話』(河出書房新社 2021)を興味深く読み解いた。ケーコタンには「モーさまに何もかも見透かされてしまう」という焦りや怖れがあったのではないか。「少年愛」 への思いも異なっていた。萩尾望都が竹宮作品を全く読んでいないというのもどうかと思う。未読ならば影響されることも、無意識に 「盗む」 こともないけれど、『私の少女マンガ講義』(新潮社 2018)は竹宮作品を正当に評価出来ないのではないか。『秘密の花園 2』(小学館 2021)のアーサーとパトリシアが2人に重なったりして?

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  • Rough Trade UK's Albums of the Year 2021
    • Dry Cleaning – New Long Leg
    • Arlo Parks – Collapsed In Sunbeams
    • Little Simz – Sometimes I Might Be Introvert
    • Black Country, New Road – For the first time
    • Idles – CRAWLER
    • Squid – Bright Green Field
    • Jane Weaver – Flock
    • Wolf Alice – Blue Weekend
    • Cassandra Jenkins – An Overview On Phenomenal Nature
    • Madlib – Sound Ancestors

  • ● ミュージック
  • 〈内なるソング(2020)〉は年間ベスト・アルバム、〈立体音響実験室 2〉はStereolabのリマスター・アルバム、〈ポスト・パンク・ジェネレーション 2〉は英新世代パンク・バンド、〈狼アリス〉はWolf Alice、〈私たちみたいな大泥棒〉はBig Thief、〈USインディ・アルバム 40(1985ー2004 / 2005ー2021)〉はベスト・アルバム40選。今年(2021)のエポックはDry Cleaning、Black Country, New Road、Squid、black midi、Shame、Goat Girlなど、英ポスト・パンク・バンドの隆盛で、海外音楽メディアの「BEST ALBUMS 2021」でも軒並み上位に選出された。2020年、2枚のアルバム《Untitled (Black Is)》と《Untitled (Rse)》(Forever Living Originals)をリリースして注目された英匿名バンドSAULTは99日間でネットから消えるという5thアルバム《NINE》でも話題になった(LP・CDは販売されている)。メンバーのInfloがプロデュースしたLittle Simzの《Sometimes I Might Be Introvert》(Age 101)も「年間ベスト・アルバム」で高い評価を得ている。
  • Pitchfork's Best Albums of 2021
    • Jazmine Sullivan – Heaux Tales
    • L'Rain – Fatigue
    • Tyler, the Creator – CALL ME IF YOU GET LOST
    • Floating Points, Pharoah Sanders & The London Symphony Orchestra – Promises
    • Low – Hey What
    • Turnstile – GLOW ON
    • The Weather Station – Ignorance
    • Mdou Moctar – Afrique Victime
    • Playboi Carti – Whole Lotta Red
    • Dry Cleaning – New Long Leg


  • The Guardian's Best Albums of 2021
    • Self Esteem – Prioritise Pleasure
    • Wolf Alice – Blue Weekend
    • Little Simz – Sometimes I Might Be Introvert
    • The Weather Station – Ignorance
    • Tyler, the Creator – Call Me If You Get Lost
    • Sault – Nine
    • Dry Cleaning – New Long Leg
    • Olivia Rodrigo – Sour
    • Arlo Parks – Collapsed in Sunbeams
    • Mdou Moctar – Afrique Victime

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    s k n y s - s y n k s

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    • Author: sknys
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    • Date: 2021/12/11
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    死、欲望、人形 評伝ハンス・ベルメール

    死、欲望、人形 評伝ハンス・ベルメール

    • 著者:ピーター・ウェブ(Peter Webb)/ ロバート・ショート(Robert Short)/ 相馬 俊樹(訳)
    • 出版社:国書刊行会
    • 発売日:2021/08/22
    • メディア:単行本
    • 目次:ドイツ 1902-1933 / 人形 1933-1934 / ベルメールとシュルレアリスム 1933- 1938 / 人形の遊び 1934-1938 / パリ 1938-1939 / 南仏 1939-1945 / イマージュの解剖学 1939-1949 / 南仏 1945-1949 / パリ 1949-1955 / パリ 1955-1975

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