• ボクの幸せな記憶は / いつも青い色の中 ──
    ボクはボクを見失い / 全ては闇の中
    青い海 青い空 / 全ては闇の中
    飛行機のチケットさえ / 持っていたら / 東へ向かい /
    真夜中にでも / 日の出にあえるのだよと / 誰かが言った

    待っていては / 遅すぎる
    待つ時間は / あまりに長く
    ボクは / ボクをすっかり / 使い果たして / しまうような気がしたので‥‥

    ボクはボクを探しに行く
    どこへ? どこまで?                  
    三原 順 「ブルーカラー」

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♪ Wailin' and skankin' to Bob Marley, Reggae's expandin' with Sly & Robbie ── Tom Tom ClubのTina Weymouthが〈Genius Of Love〉の中で上のフレーズを歌う時、〈スニーズ・シンクス〉の読者は泣かずにいられません。次々と挙げて行く彼女のボーイ・フレンズの中にBootsy Collinsの名前を発見出来た貴方は運が良い。何故なら、PーFUNK軍団のベーシスト、《Ultra Wave》(Warner Bros.1980)のブーツィなのだから。1年前まではBernie Worrellの存在しか知らなかったのに、今ではPーFUNK系の人脈図で頭の中がグシャグシャになってしまった。複雑なリズムの畝りの背後でMichael Hamptonのサイケデリック・ギターが鳴っているFunkadelicや、黒いファンク魂が漲るParliament、変態的なヴォイス・モジュレータが心地良いRoger / Zapp‥‥そして、注目のニュー・ウェイヴ・ファンク義兄弟、Was (Not Was) にもPーFUNK系の臭いが立ち籠めている。

デビュー・アルバム《Was (Not Was)》(Ze 1981)は黒くアナーキーな悪意に満ちている。ヴェトナム戦争から「帰還」したフリークスのことを歌ったらしい〈Out Come The Freaks〉、ベタなラヴ・ソングを插んで、アルバム中の白眉ともいえるロナルド・レーガン大統領の演説をテープ・コラージュ化した(一体誰が考えつくだろう?)〈Tell Me That I'm Dreaming〉、最期に「I'm coming with DYNAMITE」と絶叫して自爆(テロ?)する〈Oh, Mr. Friction !〉‥‥と続くサイドA(アナログ盤)だけを聴くだけでも明らかなように、ウォズ兄弟のファンクはラップとダンスを基調として、その奥に執念深い不気味さを隠匿する。女声コーラスのループで始まった一連の「悪夢」は終わらない。サイドBのラスト‥‥エンドレスの呪縛の中で、永遠に空転し続ける眩暈の中で、宙吊りにされたまま縊死するのである。

実は、この衝撃的なデビュー・アルバムに続き、「レーガン」&「フリークス」をダブ化した12"シングル盤(リマスターCDにボーナス・トラックとして追加収録)がリリースされたのだから堪らない。ニュー・ウェイヴ・ファンク・ダブ・ディスコ(しかもロング・ヴァージョン!)で踊れば、ウス気味悪さが累乗することを保証しよう。元C旧男優は何とかの1つ憶えみたいに「アウト・オヴ・コントロール」という呪文を唱えるだけだし、女性の怨念じみた発狂ダミ声もダブ化されて入っているし、R・Lチャンネルは交互に「断線」するし‥‥これは、もう鳥肌立つくらい異常な世界です。聞くところによると、PーFUNK軍団の総帥George Clintonは「とんでもない分量のコカイン」を吸飲するらしい。凄まじい話だが、「狂気」のファンクを1度体験してしまえば中毒〜禁断症状を起こすことは間違いない。もし拒絶反応を起こすリスナーがいたとしても驚かないし、自閉症ごっこの面倒までは看ていられない。

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1981年に完結した『はみだしっ子』は、それぞれの家庭の事情で「家出」した4人の子供たち──グレアム、アンジー、サーニン、マックスが現実世界に翻弄されながら放浪する物語である。「クリスマスローズの咲く頃」(Part 17)で、クレーマー家の「養子」になった4人組は最終章「つれて行って」(Part 19)に至って、過去の「事件」に決着をつけようとする。競馬協会から登録を抹消されたエルバージェ(Part 12「裏切者」)や、失語症の少女クークーことマーシャ・ベル(Part 15「カッコーの鳴く森」)‥‥という縦糸を解しながら、現在進行形で展開するマックス&グレアムvsS・リッチー&フランクファーター弁護士との事件→裁判→報復は、一方でマックスを「家庭」に溶け込ますことになる反面、グレアムを意識的に孤立化させずにおかない。ある目的を秘めて、グレアムは失踪する。

一般的に「難解」と評される三原順氏の作品のについて、幾つかの特徴を指摘出来るかもしれない。「性格が歪んでしまった」アンジー君ではないけれど、〔1〕デリケートな心理の襞が2重3重どころか4重5重に屈折していること。〔2〕ナレーション(内的独白)の主体が目まぐるしく変化すること。〔3〕現在の時間の流れに回想・想像シーンが偏執狂的なまでに交錯するすること(ただし、それを明示するためにコマ枠の4角をカット・丸くしてしまうのは読者のリテラシーを退行させる過剰サーヴィス、「劇画」からの悪影響ではないか)。〔4〕「子供」たちにインプットされた形而上学的思考回路?(グレアムの独白文だけで、絵の描かれていない頁がある)〔5〕時間・空間の極端な省略と、カットバックの多用‥‥まぁ、そんなところだろう。

例えばリチャード・ヒューズの海洋冒険小説『ジャマイカの烈風』(晶文社 1977)の中に登場する、「事故」と「殺人」という2種類の「死」に対して全く無自覚な「子供」たち──途中で仲間の1人が「墜落死」してしまっても誰1人として最後まで、その不在に気づかないし、少女は無意識的に「殺人」を犯す!──と対照することで、「子供」であって「子供」でない4人(少なくともマックスを除く3人)の特異性が浮かび上がるだろう。偶然に少女クークー(マーシア・ベル)の「死」を知ってしまったサーニンと、グレアムとの約束を頑に守ろうとするマックスとの葛藤シーンを想い出して欲しい。彼らは罅割れた鏡の中の倒立した少年像、倒錯した子供たち(ファンカデリック・チルドレン)なのだ。

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全19パートで構成される「はみだしっ子シリーズ」の本編に対して、番外編が29篇もあるのは、幾ら何でも大過ぎではないだろうか。6〜8頁、長くても16頁のギャグ&ショート・ストーリだとしても。本編の続きを早く読みたいと望む「花とゆめ」読者ヘの場つなぎ的な苦肉の策?‥‥作者にとっての息抜き・骨休め的な意味合いもあるだろう。シリアスな本編を楽屋裏から相対化するギャグ視点が作品にパースペクティヴな奥行きを与える。ギャグ化したことで際立つ4人の性格、特技、嗜好‥‥。テクスト横断的な混線(駄犬ソロモン君の客演!)、楽屋オチ(作者自身も出演)、極端なデフォルメと三頭身キャラ‥‥グレアムペンギン、アンジーガッパ、サーニンあんこう、クマ(の着ぐるみ)マックスを生む。

しかし「番外編」の最大のナゾは『はみだしっ子 全コレクション』(白泉社 1982)に描き下ろされた「オクトパス・ガーデン」でしょう(「タコさんのお庭」は番外編「ボクと友達」に既出している)。The Beatlesの同名曲をタイトルにして『はみだしっ子』をセルフ・パロディ化〜要約・解釈する試み。南極で「ペンギン漁」を営むグレ(グレアム)は、アザラシの犠牲になるペンギンたちに同情して廃業‥‥仲間3人を引き連れてジャック(クレーマー)に雇われる。「お腹の中の磁石」「タコ足配線」「大きな落とし穴」「S・S・S(スウィート・サニー・サウス)」‥‥というメタファで読者を撹乱。『はみだしっ子』は、疎外・迫害された子供たちが「大人」になる、現実社会の一員としてコミットするまでの過酷な試練の物語なのだろうか。

アンジーの出番を待たずに幕が下りてしまっては、本人に殴られるかもしれない。しかし、境界上で高速旋回しているアンジーの遠心力があってこそ、サーニンとマックスの「保護者」たるキャプテン・グレアムが核として自己分裂しない(しているけれど)でいられたのだった‥‥。フェル・ブラウンへ宛てた手紙の下書きを破り捨てたグレアムの「逆説」を見破ったのはアンジーだけだった。可憐なワンワンが残虐な子供たちに苛め抜かれるサド・マゾ・ギャグ『ルーとソロモン』(白泉社 1981)も既に完結してしまったことを考えると、恐らく作者は「完全休業」を気め込むつもりなのかもしれない。でも、そう上手くは行きませんよ、JUNさま。作者と読者の共犯・相姦関係は、それが倒錯的であればあるほど、簡単に「清算」出来ないのですから、なぁんて書いたりして‥‥「震えるな、ボクの手!」。

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「オクトパス・ガーデン」に準ずれば、『はみだしっ子』はグレアム1人の物語だったことになります。アンジー、サーニン、マックスの3人は、グレアムの分身(引き裂かれた内面の投影)だった?‥‥皮肉屋のアンジー、純情猪突猛進型のサーニン、純真無垢の泣き虫マックスを内省・懐疑的なグレアムが内包する。最終章「つれて行って」のエンディングに、唐突に終わっちゃったと感じた読者もいるようですが、あのラストしかなかった。街角に捨てられていた4匹の仔猫〜円形に象られた森の樹々‥‥雪に始まって雪で終わる4人の物語。グレアムの告白も「1人説」なら辻褄が合うわけです(マックスの「身代わり」ではない!)。三原さんは「タコの庭」で、「グレアム1人の物語」だと種明かしをしたかったのではないでしょうか。

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過去に書いた手書き原稿を加筆・改稿してUPするアーカイヴス・シリーズの第4弾です。今回も所定の枚数に足りなかったので2〜3枚を加筆。オリジナル・タイトルの〈ファンカデリック、あるいは倒錯的に〉を改題しました。その後、Was (Not Was) は傑作アルバムを連発しましたが、Orquestra Was名義の《Forever's A Long Long Time》(1997)を最後に活動休止?‥‥今やDon Wasの名はプロデューサとしての方が有名かもしれません。三原順氏は12年前の1995年3月20日に急逝(享年42歳)。この日、東京の地下鉄で起こった未曾有の大事件の余波で、朝日新聞に死亡記事が載らなかったため、彼女の訃報を後日知ったファンも少なくなかったという。死因は「病死」ということになっていますが、一部では「自殺説」も囁かれています。

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Was (Not Was)

  • Artist: Was (Not Was)
  • Label: Island / Ze
  • Date: 2004/02/23
  • Media: Audio CD
  • Songs: Wheel Me Out (Long Version) / Out Come The Freaks / Where Did Your Heart Go? / Tell Me That I'm Dreaming / Oh, Mr. Friction / Carry Me Back To Old Morocco / It's An Attack! / The Sky's Ablaze / Go… Now! / Hello Operator (Short Version) / Out Come The Freaks ...


はみだしっ子 1

  • 著者:三原 順
  • 出版社:白泉社
  • 発売日:1996/03/20
  • メディア:文庫
  • 収録作品:われらはみだしっ子 / 動物園のオリの中 / だから旗ふるの / 雪だるまに雪はふる / ボクの友達 / 階段のむこうには‥ / 眠れぬ夜 / ボクは友達 / レッツ・ダンス・オン!/ ボクと友達 / 夢をごらん / ボクが友達 / ボクも友達 / 残骸踏む音 / 解説・川原 泉


はみだしっ子 全コレクション(1982)

  • 著者:三原 順
  • 出版社:白泉社
  • 発売日:1982/05/13
  • メディア:大型本(ムック)
  • 目次:はみだしっ子オールカラーコレクション / はみだしっ子プレゼント全カタログ / 三原順秘アルバム / 特別対談・三原順v.s.くらもちふさこ / 特別描き下ろし・オクトパス・ガーデン / はみだしっ子詩集 / はみだしっ子語録補遺 / 三原順先生へ100のQ&A


ジャマイカの烈風

  • 著者:リチャード・ヒューズ(Richard Hughes)/ 小野寺 健(訳)
  • 出版社:晶文社
  • 発売日:2003/09/26
  • メディア:単行本