池袋WAVEの閉店(2009.1.12)が象徴しているように、レコード店へ行ってCDを買う時代は終わったのかもしれない。店内には若年層よりも中高年のオヤジ連中が目立つし、若者たちは街中で白いイヤフォンを耳に装着している。今後はネット通販でCDを購入するよりも、iTunesなどの音楽サイトからダウンロードする方が主体となるだろう。デジタル化することによって音楽は「CD」という光学メディアを生み出したが、実体のない音声圧縮ファイルとしてインターネット経由で配信されることになろうとは!‥‥音楽だけに限らず、ゲームも映画も本もデジタル信号として地球上を飛び回る。デジタル音源の利点は iPodなどの携帯音楽プレーヤに数千曲を入れて持ち運べること。アナログ盤に較べればコンパクト化されたとはいえ、所有枚数が増えて室内のスペースを占有するCDの摩天楼が一掃されればスッキリするのに、と思っている音楽リスナーも少なくないでしょう。レコード蒐集家や音楽評論家以外の音楽愛好家にとって、増殖するCDの山は悩みのタネである。地震で落ちて来た千冊のマンガ本で圧死した女性のように、CDで命を落とすことはないにしても‥‥。

日本には国内盤しか買わない「洋楽」ファンという珍種が生存しているが、国内発売される「洋楽」は欧米でリリースされるCDの1割にも満たないのではないか。ロックやポピュラーだけではなくワールド・ミュージックにまで裾野を広げれば、輸入盤と国内洋楽盤の差は比較にならないだろう。国内盤だけを聴いて充足している自称「洋楽」ファンは鎖国状態の島国に暮らしているのと変わらない。もっとも、インターネットが普及して世界中の音楽に自由に触れられる時代なのに、J-POPしか聴かないドメスティックな「土人」よりはマシかもしれないけれど‥‥。たとえば、フレンチ・ミュージック好きの女性ブロガーはフランスの音楽サイトからネット経由で最新アルバムを購入している。もちろんレコード店へ足を運んでパッケージを見て、試聴してからCDを入手したいという旧来の音楽ファンもいるだろう。しかし言うまでもなく、世界でリリースされている音楽CDのすべてが日本に輸入されているわけではない。タワレコやHMVに入荷しないアルバムも無数にある。そんな時に頼りになるのが輸入レコード専門店の存在である。

                    *

JR渋谷駅で降りて宮益坂を上って行く。渋谷郵便局の斜前のビル(2F)にあった「EL SUR RECORDS」は、六本木WAVEのワールド・ミュージック・フロアが独立して出店したような感じだった。東アジア〜中近東〜アフリカ〜カリブ〜南米‥‥などの音楽リスナーで「エル・スール」を知らない人はモグリだと思うが、数年前に同じ宮益坂下の「幽霊マンション」(10F)に移転してからは、スッカリ足が遠のいている。何しろ、黒木瞳主演のホラー映画『仄暗い水の底から』のロケ地になったことでも知られる心霊スポット(?)なのだから。日中でも殆ど住人がいないのではないかと想われるくらいにヒッソリと静まり返っているマンション内にエレヴェータの機械音だけが不気味に響く。高所・閉所恐怖症者でなくても、このエレヴェータに乗るのは怖い。それでも、大手外資系ショップにはないレコードがあるので、コアなマニアには魅力的な輸入レコード店なのでしょう。久々に「EL SUR」へ行った時に、ブラジル盤は「大洋レコード」で買っていると話すと、オーナーは「ブラジルものは手抜きだ」と笑っていました。

                    *

渋谷区宇田川町交番近くのビル(3F)に入っているwarszawaはインディーズ〜ノイズ〜アヴァギャン系ロック、エレクトロニカ、ヒップホップ、ダブ‥‥などを中心に扱うレコード・ショップ。通常のレコード店のようにアーティスト順(ABC)ではなく、レーベル順に並んでいるので、ちょっと敷居が高いかもしれない(探しているアルバムがある場合は事前にレーベル名を要チェック!)。店頭で買う方がオンラインよりも安いし、30%OFFや半額セールなどのバーゲンも魅力的で、「だまし絵展」(Bunkamura)へ行く予定だったのに、改装セール(¥300)に引っ掛かって〈五十三次内猫之怪〉「ネコ・ジャケ」に化けたり?‥‥。店内にカフェが併設されて一服出来るようになったけれど、度重なる店内改装に伴う在庫一掃セールによって旧譜が減って、このままではカフェのある輸入レコード店ではなく、CDも売っているカフェ・バー「ワルシャワ」になってしまうのではないかと危惧している。レコードやCDの販売だけでは経営が苦しいのだろうか。「warszawa」という店名は、Joy Divisionの前身バンドから採ったのではないかしら?

                    *

東京メトロ飯田橋駅の出口(B3)から地上へ出ると、すぐ右に「ペコちゃん焼」で有名な「不二家」、神楽坂を上って行くとデカ肉まんの「五十番」がある。その手前のビル(4F)に「大洋レコード」があった‥‥と過去形で書いたのには理由がある。2009年9月1日に飯田橋から1駅先の神楽坂(東西線神楽坂駅から徒歩1分)へ、4階から1階へグランド移転したのだ(4階まで狭い階段を昇らなくて済む代わりに、飯田橋で降りた場合は1駅分の距離を歩かなければならない)。「大洋レコード」はブラジル、アルゼンチンなどの南米音楽を中心に、フランス〜ヨーロッパの一部もカヴァする輸入CDショップ。いわゆる、アルゼンチン音響派〜エレクトロニカ系にも強い。タワレコなどの大手レコード店にも卸しているので、その分だけ安く買える。オーナーもフレンドリーで話しやすい。店名は「大洋ホエールズ」から採ったそうで、ホエールズが勝った翌日はポイント・スタンプを1つサーヴィスしてくれます。神楽坂へ遊びに行った時は五十番(カレー肉まんが旨い!)やペコちゃんだけではなく、「大洋レコード」にも脚を伸してみてね。

                    *
                    *




EL SUR RECORDS

  • 住所:東京都渋谷区渋谷2-19-15 宮益坂ビル10F
  • 営業時間:around 13:00~22:00
  • 定休日:水曜
  • メディア:レコード / CD


warszawa

  • 住所:東京都世田谷区北沢2-33-11 野崎ビル2F
  • 営業時間:13:00~22:00(日曜・祝日 13:00~21:00)
  • 定休日:水曜
  • メディア:アナログ・レコード / カセット・テープ


大洋レコード

  • 住所:東京都新宿区矢来町139
  • 営業時間:12:00~20:00(土・日曜・祝日 12:00~19:00)
  • 定休日:水曜・第3日曜
  • メディア:CD / DVD

bonjour records

  • 住所:東京都渋谷区猿楽町24-1
  • 営業時間:11:00~20:00
  • 定休日:無休
  • メディア:レコード / CD