SSブログ

下北沢のワルシャワ [c u l t u r e]



2010年5月5日、輸入レコード専門店の「warszawa」が渋谷から下北沢へ移転した。下北沢駅は京王井の頭線で渋谷から4駅目‥‥そのスペースもマーモセットのミッツがロンドンの古道具屋の飾り窓越しに目撃した黒ヒョウ(黒ネコ)みたいに小さくなってしまったが、確かに「warszawa」だった。書籍や雑誌と同じように、レコードやCDが売れなくなったというニュースは良く聞く。街の店頭で購入するよりもネット通販、iTunesストアから買うだけでなく、CDよりも高音質の音楽ファイルを入手することさえ可能になった。アナログ盤の中に同内容のCD盤がオマケに入っているという悪い冗談みたいな特典や、ピーガブ(Peter Gabriel)のカヴァ・アルバム《Scratch My Back》(Real World 2010)のようにCDを購入するとネットからCD以上に高音質の「デジタル・ファイル」(24-bit)を無料でダウンロード出来るという本末転倒の事態も生じている。

                    *

  • ◎ Al Galope(Siesta 2008)Las Escarlatinas
  • スペインの4人娘Las Escarlatinas(猩紅熱)の2ndアルバム。競馬の女騎士となった内藤ルネちっくなカヴァ・イラスト(目を瞑った娘たちが馬に乗っている)が可愛い。競馬場を描いたインナー・スリーヴ、4頭立てロイヤル・レースの勝ち馬予想?‥‥甘く蕩けるインディ・ポップ、舌っ足らずのロリータ・ヴォイス、男性とデュエットするボサノヴァ、New Order風のエレクトロ・ポップなど、Maria、Belen、 Almudena、Luaの4人が交互にメイン・ヴォーカルを務める。スペイン語で歌われているので、歌詞内容までは分からないけれど、彼女たちの愉しげな雰囲気は伝わって来る。Natalia Lafourcadeにも通じるラテン娘の明るさ、弾け飛び、芝生を駆ける若さが眩しい。〈Las Virgenes Shibuyas〉(ヴァージン渋谷)というタイトル曲もあります。渋谷にヴァージン・メガストアは存在しないのですが‥‥ヴァージン違いだったりして?

  • ◎ Part I: John Shade, Your Fortune's Made(Asthmatic Kitty 2008)Fol Chen
  • LAの男女混成6人組のデビュー・アルバム。参加ミュージシャン22名のシルエットや詳細なクレジットをアルバム・カヴァに載せるレイアウト、「Part I: John Shade...」という風変わりのタイトル、Fol Chenというバンド名も奇妙ならば、チープな打ち込みエレクトロ・ビートとカリンバ、トランペット、ペダル・スチール、ピアノ、ギター、サックスなど‥‥生楽器との組み合せもフツーじゃない。ロックよりもファンク色が濃い。バンドの中心人物はSamuel Bingなる人物。得体が知れないという面ではデビュー当時のArcade Fireに近いかもしれない(Prince、Amon Duul II、Hot Chip、Pink Floyd、Gwen Stefani、Pere Ubu、Danielson Famile、Scritti Politti、Boards of Canada、The Blow、Pulpなどの名前をFol Chenは列挙している)。Sufjan Stevensが所属する子猫ちゃんレーベルからのリリースで、2ndアルバム《Part II: The New December》(2010)も控えている。

  • ◎ Hello, Voyager(Constellation 2008)Evangelista
  • NYC生まれのCarla Bozulichを中心とするEvangelistaのデビュー・アルバム。いわゆるエクスペリメンタル系のサウンドだが、彼女はThe Geraldine Fibbersというオルタナ・カントリー〜パンク・バンドを率いていたこともあるからか、オドロオドロ、グシャグシャしていない。コントラバス、チェロ、ヴァイオリンが奏でるインスト曲〈For The Li'l Dudes〉から〈The Blue Room〉への流れは美しい。ヴォイス・パフォーマンス風の〈The Frozen Dress〉から本領(本性?)発揮‥‥アルバム・タイトル曲〈Hello, Voyager!〉では12分に及ぶインプロヴィゼーションを繰り広げる。「気味悪い人面犬」のイラスト・カヴァを描いているNadia Moss(オルガン)とJessica Moss(ヴァイオリン)は姉妹でしょう。〈青い部屋〉にはNels Cline(Wilco)が12弦アコギで参加している。《Hello, Voyager》は英Wire誌2008年ベスト・アルバム(2008 Rewind)の第7位に選出された。

  • ◎ London Zoo(Ninja Tune 2008)The Bug
  • ロンドンを拠点に活動するKevin Martinのプロジェクト、The Bugの3rdアルバム。ラガマフィン、ヒップホップ、ブレイクビーツ、テクノ、イルビエント、ジャングル、ドラムンベース、ダブステップ‥‥動物園のように猛獣の咆哮や珍獣の鳴き声が喧しく騒々しいのかと思いきや、サウンドはアブストラクトでクール。体感温度はゾッとするほど低い。生身の獣たちが檻の中に棲む「ロンドン動物園」というよりも、骨格標本や剥製動物が陳列されている国立科学博物館の「大哺乳類展」に近いかもしれない。Tippa Irie、Ricky Ranking、Warrior Queenなど、各曲ごとにゲスト・ヴォーカル(ラッパー)を招くスタイルも決まっている。女性による日本語ナレーションも引用される〈Too Much Pain〉。アルバム・タイトルの「London Zoo」という歌詞が出て来る〈Warning〉‥‥英Wire誌2008年ベスト・アルバム第1位に輝きました。

  • ◎ Broadcast & The Focus Group Investigate Witch Cult Of The Radio Age(Warp 2009)
  • 英バーミンガムのエレクトロ・ミュージック・デュオBroadcast(Trish Keenan & James Cargill)とエクスペリメンタル・プロジェクトThe Focus Group(Julian House)のコラボ・アルバム。1曲目はStereolab風の〈The Be Colony〉で始まるが、それ以降は映画のサウンドトラックやTV番組などからサンプリングしたコラージュ・ミュージックで構成されている。グラフィック・デザイナーでもあるJulian Houseのライブラリー・ミュージックは視覚的で想像性に富む。音楽の半分は探索者のセンス、もう半分はリスナーの想像力に委ねられている。聴き手の感性が試されているのだ(人によっては、このサントラから物語を書けるかもしれない)。アンビエントやミュージック・コンクレート風の趣きもある。日本国内では話題にさえ挙がらなかったが、英Wire誌2009年ベスト・アルバム(2009 Rewind)の第1位になっている。全23曲・48分余りのミニ・アルバム。

  • ◎ The Mammoth Sessions(Fire 2009)Georgias Horse
  • 不機嫌そうな白ウサギの縫いぐるみカヴァ‥‥兎なのにマンモス(Mammoth)君という名前、兎なのに「ジョージアの馬」というバンド名にヒネリがある。米テキサス出身の4人組はフォーク〜カントリー系の男女混成グループ。ピアノ、チェロ、ヴァイオリン、ギターなど‥‥静謐なサウンドの中からTresa Moldonadoのヴォイスが陽炎のように立ち現われて揺らぎ消えて行く。荒涼としたゴースト・タウンのようなモノトーンの風景に気怠い奥行きが加わる。PJ Harveyがフォークやブルーズを歌っているような感じもなくもない。Kate Bushの影が見え隠れする〈Erzulie Dantor〉、ブルース・ハープが南部の土臭さを演出する〈Baron Samedi〉、ドラムスが入ったメランコリックな曲調の〈TZSOTVOFASB〉、ピアノの伴奏で歌われる10分を超える長尺曲〈Bugg Super Love Song〉の後半はエレクトロニカしている。この奇妙な森の中に迷い込むのなら、彼らの前途は面白い。

  • ◎ The Pains Of Being Pure At Heart(Slumberland 2009)The Pains Of Being Pure At Heart
  • シューゲイザーやグランジが湾岸戦争(1991)と無縁ではなかったように、エレクトロニカやフリー・フォークも同時多発テロ(2001)やイラク戦争後(2003)の世界観を反映している。その内省的・自己言及的なアプローチはヴェトナム戦争と70年代SSWの関係と相似形を描く。歴史は繰り返されるが、音楽は変奏される。ネオ・シューゲイザーの流行はパンクのように1つの音楽ジャンル〜スタイルとして確立されたことの証しだろう。NYの4人組(女性1人を含む)からは自己探究的な元祖シューゲイザーの葛藤は感じられない。背後で鳴り続けるノイズ・ギターが装飾的な壁紙やタペストリー、春の嵐や天気雨のように見えて来る。The Pains Of Being Pure At Heartの音楽が屈託のない「青春ギター・ポップス」に聞こえてしまうのは、必ずしも鬱屈した「辺境ロック」ばかり聴いているからというわけでもないだろう。

                        *

    電子ブック用端末iPadの上陸によって、新聞や雑誌など紙媒体の旧メディアは近い将来に消え去るだろう。1ヵ月分の新聞や折り込みチラシを纏めて資源ゴミとして回収するのも大変な労力だし、カラー広告ばかりのファッション・グラビア誌も重いだけである。ペーパーレス社会になれば地球資源的にもエコロジカルだし、狭い居住空間が本や雑誌の山で埋まることもない。公立図書館の蔵書がデジタル化されれば(デューイのような「図書館ねこ」に逢いに行く場合を除き)、わざわざ図書館へ出向いて本や雑誌を閲覧したり借り出したりしなくても、自宅のパソコンやiPadで手軽に読めるようになるでしょう。最後に残る紙メディアは携帯性に優れた「文庫本」だろうか。音楽CDが消えるのも時間の問題かもしれない。CDに代わるメディアがBD(Blu-ray Disc)になるのか、パッケージレスの高音質デジタル・ファイルだけになるのかは分からないけれど。

                        *
    • warszawa 渋谷で購入した半額以下のセール品(輸入CD)です^^

    • お馬さん、人面犬、昆虫、ウサちゃん‥‥動物ジャケ・シリーズになってしまった

    • Carla Bozulichの公式サイトに「cats」というページがあります

    • 「Sights & Sounds」にある〈Runnin' Dry〉はNeil Youngのカヴァですね^^
                        *




    Al Galope

    Al Galope

    • Artist: Las Escarlatinas
    • Label: Siesta
    • Date: 2008/11/18
    • Media: Audio CD
    • Songs: La Sonrisa Del Chico De Deportes / El Fin / Tiempo / La Heroína / Mi Buhardilla Six / Seguiré / Dormir O Morir / Vivo / Las Virgenes Shibuyas / Una Pequeña Inundación / Sádica Heráldica / Cielo Rojo En Mi Habitación


    Part 1: John Shade, Your Fortune's Made

    Part 1: John Shade, Your Fortune's Made

    • Artist: Fol Chen
    • Label: Asthmatic Kitty
    • Date: 2009/02/17
    • Media: Audio CD
    • Songs: The Believers / No Wedding Cake / You and Your Sister in Jericho / The Idiot / Red Skies Over Garden City (The Ballad of Donna Donna) / Winter, That's All / Cable TV / Please, John, You're Killing Me / The Longer U Wait (Version) / If Tuesday Comes


    Hello, Voyager

    Hello, Voyager

    • Artist: Evangelista
    • Label: Constellation
    • Date: 2008/03/11
    • Media: Audio CD
    • Songs: Winds Of St. Anne / Smooth Jazz / Lucky Lucky Luck / For The L'il Dudes / The Blue Room / Truth Is Dark Like Outer Space / The Frozen Dress / Paper Kitten Claw / Hello, Voyager!


    London Zoo

    London Zoo

    • Artist: The Bug
    • Label: Ninja Tune
    • Date: 2008/08/12
    • Media: Audio CD
    • Songs: Angry / Murder Me / Skene / Too Much Pain / Insane / Jah War / Fuckaz / You & Me / Freak Freak / Warning / Poison Dart / Judgement


    The Mammoth Sessions

    The Mammoth Sessions

    • Artist: georgias Horse
    • Label: Fire
    • Date: 2009/06/09
    • Media: Audio CD
    • Songs: Shepherd / Bloom / As It Stops Raining / Summer's Ending Evenings / Snake & Sparrow / Mammoth / Alakazam! / Erzulie Dantor / Exit Earth / Baron Samedi / Man / Tzsotvofasb / Bugg Super Love Song

    コメント(0)  トラックバック(0) 

    コメント 0

    コメントを書く

    お名前:
    URL:
    コメント:
    画像認証:
    下の画像に表示されている文字を入力してください。

    トラックバック 0