• TROPICALIA 2 (Philips 1993) Caetano e Gil

  • Caetano VelosoとGilberto Gilの2人がコラボした「トロピカリア 2」は〈Haiti〉で幕を開ける。Caetanoの感情を抑えたクールなラップとGilbertoのコーラス、Moreno Velosoの不穏なチェロ、Liminhaの無機質なパーカッション‥‥25年前に当時のブラジル軍事政権を批判して投獄された2人がハイチの現状を憂う。Gilbertoのサンバ〈Cinema Novo〉、ジミヘンのカヴァ〈Wait Until Tomorrow〉、「誰?」 (Quem?) という言葉をサンプリング〜コラージュしたミュージック…#01



  • DA LAMA AO CAOS (Chaos 1994) Chico Science & Nacao Zumbi

  • ブラジル北東部レシフェのマングローヴから突如出現した新種の蟹?‥‥Chico Science率いる8人組CSNZのデビュー・アルバムはヒップホップ / ラップの肉体(脳味噌?)とファンクの甲殻とハード・ギターの鋏で出来ている。CSの葡語ラップは泡立ち滑らかで舌鋒鋭く、ファンクは強靭で堅牢、ハード・ギターもヘヴィで切れ味鋭い。ヒップホップ / ラップ、ファンク、ハード・ロック、スラッシュ・メタル、ダブ、マラカトゥなどを自在にミクスチャーしたマンギビートは「未来世…#02



  • SAMBA ESQUEMA NOISE (Banguela 1994) Mundo Livre s/a

  • ツンのめるようなビート、ノイジーなギター、乱れ打つドラム ‥‥それこそが「マンギビート」だと宣言する〈Manguebit〉 (「Manguebeat」は音楽メディアによる通称)。CSNZと共にマンギビートを牽引したMundo Livreのデビュー・アルバムである。Fred 04(Zero Quatro)率いる5人組はヒップホップ〜ファンク寄りのCSNZよりも、ロック〜ワールド・ミュージック色が濃い。たとえば、CSNZのデビュー・アルバムにも収録されていた〈Rios, Pontes & Overdrives〉と同一…#03



  • VERDE ANIL AMARELO COR DE ROSA E CARVAO (EMI 1994) Marisa Monte

  • 薔薇色に彩られたイラスト・カヴァが華やかな3rdアルバム。英語タイトルは《Rose & Charcoal》だが、原題には緑や黄色や青色もある。Carlinhos Brown、Marcos Suzano、Chico Neves、Gilberto Gil、Celso Fonseca、Bernie Worrell、Philip Glass、Laurie Andersonなど‥‥リオとNY、Marisa MonteとArto Lindsay(prod.)の人脈を生かした豪華絢爛たるミュージシャンたち。Carlinhos BrownやNando Reisとの共作曲やLou Reed、Paulinho de Viola、Jorge Benjo…#04



  • NINGUEM (RCA 1995) Arnaldo Antunes

  • Arnaldo Antunesと5人の仲間たちの顔写真をコラージュしたアルバム・カヴァ‥‥目や耳、鼻、口など、顔の部位や皮膚組織を移植パッチワークした不気味なモンスターのようなアート・ワークに怯んだ人も、裏面の「produzio por liminha」というクレジットにホッと胸を撫で下ろしたでしょう。実験的なソロ・アルバム《Nome》(1993)から一転したバンド・スタイルのポップ・ロック路線。Edgard Scandurraを中心とする5人のメンバーに支えられてArnaldoは殆どヴォー…#05



  • ALFAGAMABETIZADO (Delabel 1996) Carlinhos Brown

  • ドレッド・ヘア、網の目状の白いゴーグル、裃のような衣裳を素肌に纏って、組み合わせた掌を見つめる宇宙人? ‥‥アルバム・カヴァの妖しい姿からも、Carlinhos Brownには天衣無縫の自由人というイメージがある。打楽器集団Timbaladaのリーダーだけあって、パーカッシヴで乗りの良いビートがアルバムを躍動感溢れるものにしているが、Lenineみたいにカッコ良い〈Cumplicidade De Armario〉や雨音の調べが優しく愛撫する〈Argila〉など、ファンタスティックな曲に惹かれ…#06



  • RAIO X (EMI 1997) Fernanda Abreu

  • アルバム・タイトルの「Raio X」とはX線(X-ray)のことだが、Fernanda嬢にボイオティアの大山猫のような透視能力があるわけではなく、スリーヴ写真(ソラリゼーション)を見れば分かるようにマン・レイへのオマージュになっている。インナー(歌詞カード)にはジャケを含めて7点のポートレート、「X」のレイヨグラフ(?)を印刷したCDを取り出すと透明トレイの下から彼女の胸部レントゲン写真が現われるという趣向である。新録、再録、リミックスから成るアルバムは…#07



  • O DIA EM QUE FAREMOS CONTATO (Ariola 1997) Lenine

  • レニーニの魅力はパーカッシヴなギター(violao)と野性味あるヴォイス。SF小説の挿絵や映画のポスターを想わせるレトロ ・フューチャーなイラスト・カヴァも洒落ている。Chico Neves(プロデュース)、Marcos Suzano(パンディロ)、Liminha(ベース)という贅沢な布陣。ヒップホップ化したフ ァンクが先鋭的でカッコ良い。アルバム・タイトル〈未知との遭遇の日〉の背後で鳴っているノイズ・ギターや〈Dos Olhos Negros〉のサイケデリック・ギターがロックであること…#08



  • UNIVERSO UMBIGO (Velas 1997) Karnak

  • 《Karnak》(1995)のメンバー全員集合記念写真(11人と犬1匹)はアマゾン奥地の秘密結社かアナーキー集団みたいな怪しい雰囲気だった。Andre Abujamra統帥が率いるKarnak (後述の日本語では「カーナック」と発音している)は一体何が飛び出して来るか皆目見当もつかないブラジル製ビックリ箱の中でも最も訳の分からない変態大所帯グループで、アラブ+レゲエ=アラゲエ(荒芸?)ならぬ荒技を決めて聴き手を唖然とさせる。真っ当な純正レゲエ曲よりも、他のジャンル…#09



  • LIVRO (Mercury 1997) Caetano Veloso

  • 音楽アルバムを短篇小説に模した本(livro)があるように、短編集に準えたアルバム。赤・緑・青・紫・黄色‥‥鮮やかなペインティングの外装(3面デジパック)を見開くと、ムンクの〈叫び〉のような不穏な表現主義風の背景の左にCaetanoの肖像画が描かれ、右にプラケースに入ったCD、中央のスリットに1回り小さなブックレット(歌詞カード)が収まっている。汎中南米音楽のカヴァ集《Fina Estampa》(1994)以降、ブラジルという枠内に収まらない、まさに「ワールド・…#10



  • SAMBA PRA BURRO (Trama 1999) Otto

  • 元Mundo Livreのパーカッション奏者によるソロ・デビュー作。ブラジル発のドラムンベース・アルバムとして注目を集めたが、サンバやマンギ・ビート、ヒップホップやレゲエ / ダブを基にしたサウンドは超高速直線的な英国産オリジナルではなく、柔らかい曲線を描く。同じサッカーでも欧州と南米、プレミア・リーグとブラジル国内とではプレイ・スタイルが全く異なるように。意表を衝くパスや独創的なドリブルで相手を翻弄するセレソンのように。Otto自身のヴォーカルに加え、…#11



  • ISOPOR (Plug 1999) Pato Fu

  • デビュー・アルバムの《Rotomusic De Liquidificapum》(Cogumelo 1993)がヨーロッパ経由で紹介されたことからも分かるように、Pato Fuはブラジル発でありながら欧米のギター・ポップ・バンド(渋谷系?)に限りなく近い。ポルトガル語で歌っていなければUSインディーズかスウェーデン産のグループかとも見誤り兼ねない?‥‥などとシタリ顔でいると 、とんだシッペ返しを受けてしまう。1曲目が英語どころか日本語で歌われているのだから。紅一点のFernanda Tak…#12



  • OLIVIA (Trama 2000) Olivia

  • Oliviaと言ってもシドニー五輪(2000)の開会式で復活したOlivia Newton-John(閉会式のKylie Minogue嬢の方が好みだが)のことではないし、「Elephant6」のOlivia Tremor Controlでも、JーPOPのOliviaとやらでもない。同じ南半球でも底抜けのオージーとは違って南米ブラジル産のOlivia嬢は、レオタード+レッグウォーマ姿のエアロビではなく、70年代風のテイストを加味した最新衣裳を纏って淑やかにデビューする。古き良きロックの香りとトリップホップの融合(こ…#13



  • VOZVOIXVOICE (MCD 2001) Tete Espindola

  • 女性ヴォイス・パフォーマーのアカペラ・アルバム。何回も重ね録りしたTete Espindolaのヴォイスをベースがサポートする。歌唱、声色、効果音、スキャット等の7変化ヴォイスが驚異的!‥‥ブルガリアン・ヴォイスに挑戦した〈Indiu〉、英国議事堂時計塔(Big Ben)鐘の音を模した〈Pelicong〉、熱帯の野鳥や動物たちの鳴き声を交えた〈Trompe L'Oeil〉、幻想的なサウンド構成が素晴しい〈Ararinha Azul〉、ケイト・ブ ッシュがアカペラでタンゴを歌ったような〈Arabian Ta…#14



  • OI (Sorte 2003) Laura Finocchiaro

  • 「タイムトンネル」みたいな渦巻き状の赤黒い孔の前に佇む全身黒ずくめの男装の麗人ラウラ・フィノッシアーロはハードコア・パンクでもSF懐古趣味の宝塚歌劇団宙組でもなかった。一風変わった彼女の音楽を言い表わすのに一番手っ取り早い方法はFernanda Abreuとの比較だろう。F・Aがヒップホップ寄りのファンクだとすると、ラウラ嬢の方はクラブ / エレクトロ系、声質も(男勝りで硬質なF・Aに対し)フェミニンで、意外と可愛い。もちろん羊頭(パンク頭?)な意匠を施…#15


                        *

    「ミュージック・マガジン」(2019年5月号)の創刊50周年記念ランキング「ブラジル音楽 オールタイム・アルバム・ベスト100」に便乗・相乗りしてみた。音楽評論家など41人が1位から30位まで順位づけした「ベスト・アルバム30」を編集部が集計して「ベスト100」をリストアップ(票数は非表示)したというけれど、創刊当時(1969)からリアルタイムでブラジル音楽を熱心に聴いていたわけではないし、過去に遡って網羅的に聴いたこともないので「オールタイム」という文言は外した。「年間ベスト・アルバム10」(1988~2018)に入れたアルバム24枚に、年末・年始のリリースや入荷・入手時の遅れなどから選出のタイミングを逸してしまったアルバム6枚を補って「ブラジル・アルバム・ベスト30」を選んでみた。「オールタイム」ではないが、過去30年間の音楽嗜好が反映されたリストになったと思う。1アーティスト(バンド)・1アルバムという縛りで、順位はつけずに年代順とした。

                        *

    • 記事が長くなってしまったので、15枚ずつ2分割(Part 1、Part 2)しました^^;

                        *


    ミュージック・マガジン 2019年 5月号

    • 特集:ユニコーン / ブラジル音楽 オールタイム・アルバム・ベスト100
    • 出版社:ミュージック・マガジン
    • 発売日:2019/04/20
    • メディア:雑誌
    • 執筆者:荒井めぐみ / 石川真男 / 石田昌隆 / 伊藤亮介 / ウィリー・ヲゥーパー / 江利川侑介 / 大石始 / 岡村詩野 / 荻原和也 / 河津継人 / 栗本斉 / ケペル木村 / 駒形四郎 / 佐藤英輔 / 宿口豪 / 染谷大陽 / 髙木慶太 / 高橋健太郎 / 塚原立志 / 寺下光彦 / 柳樂光隆 / 中原仁 / 成田佳洋 / 祢屋康 / noriji / 原田尊志 / 深沢美樹 / 藤本一馬 / 堀内隆志 / 松林弘樹、松山晋也、宮子和眞、宮沢和史、村田匠、山田光、山本幸洋、吉本秀純、若杉実...


    21世紀ブラジル音楽ガイド

    • 監修:中原 仁
    • 出版社:Pヴァイン
    • 発売日:2018/07/25
    • メディア:単行本(ele-king books)
    • 目次:+2とリオのインディー・ポップ / ノヴォス・コンポジトーレスとサンパウロ・シーン / ミナス新世代 / MPB / Samba Soul / Funky Groove/Urban / Hip Hop / Funk / Drum'n Bass / Electro / Reggae / Street Beat / Bahia(バイーア)/ Nordeste & Norte / Rock / Folk & Country / Samba / Instrumental / 90's 世代 / Maestro, Legend / International