• ◎ NINE TIMES THAT SAME SONG(What's Your Rupture?)Love Is All
  • Josephine Olausson嬢のパンキッシュ&コケティッシュなヴォイスが強烈なエナジーを放つスウェーデンの男女混成5人組のデビュー作。サックス奏者の存在も見逃せない。パンク、ロック、スカ、ダブ、ポップス‥‥が混然一体となって弾け、奥行きのないローファイなサウンドを凌駕する。The Slits〜Chicks On Speedにも連なるニューウェイヴ娘たちの遺伝子を清く正しく受け継ぐ。 The Clashネタの〈Talk Talk Talk Talk〉、Devo風リフの〈Ageing Had Never Been His Friend〉、〈朝日の昇る家〉のアルペジオな〈Turn The Radio Off〉、アルバム・タイトルの歌詞を含む〈Busy Doing Nothing〉‥‥いずれの曲もポップ&キュートで騒がしい。「愛こそがすべて?」‥‥限定盤に付いているオマケCD(4曲入り)ではオノ・ヨーコの曲をカヴァーしているのだから、付け焼き刃どころか筋金入りと言うべきでしょうか。

  • ◎ SONGS & OTHER THINGS(Thrill Jockey)Tom Verlaine
  • 歌入りアルバムとしては《The Wonder》(Fontana 1990)以来、実に16年振りの新作である(しかもインスト・アルバム《Around》と2枚同時リリース!)。自己陶酔と自己嫌悪が入り混じった鼻持ちならない歪みヴォイスは健在、痙攣するギターも色褪せない。オープニング曲のベース奏者はFred Smith‥‥そもそもTelevisionというバンド名自体がTom Verlaineの頭文字(TV)だったように、Richard Lloydとのツイン・ギターが売りだったとはいえ、TelevisionはTVのバンドだった(2003年に高音質リマスターされたオリジナル・アルバム2枚も記憶に新しい)。最初と最後にインスト曲を配した全14曲‥‥唯一無比のTVワールドを堪能出来る。一転してインスト作ではサステインの効いたクリアでメロディアスなギター・サウンドを聴ける。TVファンは2枚買いも辞さないから、2枚組の新作として出す手もあった。合わせ技で1本という感じですね。

  • ◎ SON(Domino)Juana Molina
  • 仔馬に乗った少年少女と前景の女性‥‥メルヘンチックな紙ジャケ、エンボス加工されたデジパック仕様(スリットの内側にもデザインが!)、銀色のドットがアーティスト名とタイトルを刻む。JM本人と想われる女性の顔はダリ風に半匿名化されている。倉多江美の自画像みたいにデフォルメされたギャグ顔のデビュー作、金髪が横顔を覆っているミステリアスな「セグンド」、鼻高高慢女のシルエット‥‥と、素顔を露出しない恥ずかしがり屋さんですが、数年前のインストア・ライヴ──彼女のヴォイスとギター、Kabusackiのシンセ・ギターだけで異次元の「音響空間」を創り出してしまう!──で観た印象は、小柄な気さくな人という感じでした。4作目にして初のセルフ・プロデュース、Alejandro Franovのプログラミングや打楽器(ドラム・キックやゴング)を除いて、殆どの楽器を彼女1人で弾き熟す。変則リズム、変幻自在のヴォイス・パフォーマンス、鳥の鳴き声や子供の声のサンプリング、インスト音響、白昼夢のような儚さと揺らぎ、生ギターの優しい調べ‥‥。シュルレアリスティックな絵画や絵本を読み解く愉しさに満ちている。

  • ◎ SCALE(Accidental)Herbert
  • Doctor Rockit、Wishmountain、Radio Boyなど‥‥6つの顔を持つ男、Matthew Herbert。Herbert名義では《Bodily Functions》(2001)以来、5年振りのソロ作だが、前作との相違点は自ら歌っていること。と言ってもメイン・ヴォーカルにDani Scilianoを起用しているので、彼女のソロ・アルバムとの違いを見い出し難い。地と風と火の〈9月〉を引用した〈Something Isn't Right〉、シック風に洒落た〈Moving Like A Train〉、アブストラクト版Tom Tom Clubの〈Harmonise〉‥‥残響のないダンス音楽、多幸的なループ感、高揚するグルーヴの眩い光の輪の中で「ソウル・トレイン」のダンサーが小技を繰り出す。しかし、フル・オーケストラを駆使した豪華絢爛な〈We're In Love〉以降、パーティ気分は影を潜め、次第に実験的な色彩を深めて行く。単なる「ダンス天国」に終わらず、秘密の隠し部屋や抜け穴、地下研究室のある「からくりディスコ館」といった趣向でしょうか。ハイテク巧緻な宴はRobert Wyatt風のピアノ弾き語り(1分足らずの小品)で内省的に幕を引く。

  • ◎ Return To Cookie Mountain(4AD)TV On The Radio
  • 「ラジオの上のTV」(TVOTR)という黒人白人混成5人組の2ndアルバム。ノイジーなギター、浮游するサンプル・ノイズ、強靭なデジタル・ビート、清冽なピアノ、ファルセット・ヴォイス‥‥Kyp Malone & Tunde Adebimpeのツイン・ヴォーカルがソウルフルに響く。ポスト・ロックの雄というよりも新しいソウル・ミュージックのように聴こえる。かつてのYAZやFYCが、そうだったように。リスナーの全身に衝撃が走る〈I Was A Lover〉、日本人女性(Kazu Makino)のヴォイスを加えた〈Hours〉、David Bowieさまがゲスト歌唱参加した〈Province〉‥‥「鳥の巣の暗黒」 やインナー・スリーヴに往年の4ADらしい耽美的な美意識が感じられる。Mogwaiなどの轟音ギターやインスト・スローコア派の音像にソウルフルなヴォイスを加えることで生じた化学反応?‥‥英米の音楽各誌が年間ベスト・アルバム(2006)の上位に選出するなど、TVOTRの音楽的な評価も高い。米Interscopeからオリジナル11曲に3曲をプラスしたスペシャル盤がリリースされているそうです。

  • ◎ I AM NOT AFRAID OF YOU & I WILL BEAT YOUR ASS(Matador)Yo La Tengo
  • アナログ(LP)時代の収録時間は音質面との兼ね合いからA+B面=40分前後だった。デジタル化によってスクラッチ・ノイズや傷や埃、盤面やピックアップの磨耗、A→B面のチェンジ、曲の頭出し‥‥等のストレスや煩わしさから解放されたが、ヴィニール時代の悪しき因習の残滓なのか、集中力の限界なのか、70分以上は長すぎると感じ、40分以下では逆に損したと思ってしまう(CDには最長で80分弱の音楽が入る)。CDのフォーマットでは60分15曲(アナログだと1枚半)がリスニングに最適な時間と曲数ではないかと思って来たけれど‥‥。《Summer Sun》から3年、女性1人を含む3人組YLTの新作は77分15曲の大作になった。1曲目と15曲目に10分を超える長尺曲を配した構成は、紛れもないロック・バンドとしての存在証明を額装する。Ira Kaplanの極太ノイズ・ギターが畝り捲る〈Pass The Hatchet, I Think I'm Goodkind〉、曲名が体を表わす〈The Story Of Yo La Tengo〉。ハード・トーストにサンドイッチされた中身の方もバラエティに富み、中盤にインスト曲の〈Daphnia〉を挿むなど考え抜かれている。

  • ◎ ADVENTURA ANATOMICA(Semishigure)Maja Ratkje
  • Laurie Anderson、Meret Becker、Marianne Nowttony、Tete Espindola‥‥ヴォイス・パフォーマーと称されるアーティスト / ミュージシャンは圧倒的に女性の方が多い。音楽プロデューサに代表される男性のように構築的なサウンドを目指さない分だけ「肉声」の多様性に向かうのかもしれない。タルコフスキーのSF映画のヒロイン(異星人)みたいな容貌のMaja Ratkjeはノルウェーの女性アーティスト。バレエ / ダンスのための音楽らしく、ライヴ音源をアルバム用に多少編集して収録している。最初こそ静かな空間(無音時間もあり)だが、次第に木々のざわめきに変わり、〈The Wolf〉で最高潮に達する。ダンスより鴻池朋子の描く「千のナイフ」や「6本脚の狼」のサウンドトラックに相応しい。狼の獣性・暴力性はWolf Eyesのノイズの嵐に匹敵する。「オオカミなんか怖くない?」‥‥この種のヴォイス・パフォーマンスが日本で受容されのは100年後の未来かもしれない。オノ・ヨーコでさえ、まともに評価されないのだから。

  • ◎ EL EVANGELIO SEGUN MI JARDINERO(Love Monk)Martin Buscaglia
  • Arnaldo AntunesやJuana Molinaがゲスト参加と聞いて食指が動いたリスナーは耳が良い。1曲目の〈Cerebro Orgasmo Envidia & Sofia〉から、Marisa Monteの元・旦那の低音ヴォイスとの掛け合いでエロ路線全開かと思うと、〈Trivial Polonio〉ではアルゼンチン音響派の歌姫と仲睦まじくデュエットする。ウルグアイ出身のマルチ楽器奏者、Martin Buscagliaの《エル・エヴァンゲリオ‥‥》は素晴しい。PーFunk〜Prince直系のファンク・ミュージックはFred 04率いるMundo Livreの音楽性に近い。Ezequiel BorraやSebasian Escofetを想わせる中性的なヴォイス。極めつけはMinnie Riperton〈Lovin' You〉のバンジョー・カヴァーかな?‥‥アルバム・タイトル曲は7拍子のヘヴィー・ファンク。具体音サンプリングやエレクトロ・ノイズ、TVゲーム効果音を鏤める一方で、生ギター弾き語りの正攻法で歌う‥‥。15曲目のシークレット・トラックまで愉しめます。

  • ◎ DIWAN 2(Wrasse)Rachid Taha
  • 帰って来たターバン男?‥‥アルバム・タイトルに「2」と謳ってあるように、アラブ音楽圏のヒット曲をカヴァーした《Diwan》(Barclay 1998)の続篇だが、「1」に顕著だった打ち込み主体のテクノ装飾は排除されて、恐らくは原曲に忠実な作品集(自作2曲を含む)になっている。《Sha-riff Don't Like It, Rock the Casbah ! Rock the Casbah ! 》と、Brian Enoも合唱していたアラブ・ロック大爆発の前作《Tekitoi》(2004)に比べれば派手さに欠けるものの、濃厚なアラブ歌謡にドップリと浸れる。トランペットと女性ヴォイスのイントロが哀愁を誘う〈Ecoute Moi Camarade〉、ギター・リフとパーカッションに始まり、Tahaのヴォイスに招き入れられたストリングスが渦巻く〈Rani〉、マンドリュートの調べがエクゾティックな〈Agatha〉、女性コーラスが圧倒的な迫力で逼る〈Gana El Hawa〉‥‥他全10曲。自作の2曲も遜色ない出来で、カヴァー曲と異和感なく収まっている。紙ジャケ仕様のDVD(NTSC)付き限定盤も出ているので、映像も視てみたいという人は要チェック!

  • ◎ YS(Drag City)Joanna Newsom
  • 木製の肘掛け椅子に腰掛けている金髪女性が、左手に三日月型の鎌、右手に珍奇な蛾の標本を持ち、窓辺でカラスが嘴に赤い実を咥えている‥‥中世寓意画風のスリーヴ(ジェルケースを包む紙ケース)。Van Dyke Parks(共同プロデュース&オーケストラ・アレンジ)、Steve Albini(レコーディング)、Jim O'Rourke(ミックス)というVIP3人衆の起用に驚くばかりか、全5曲55分(!)というのだから、女性ハープ奏者(SSW)の2ndはポピュラー・アルバムの基準から明らかに逸脱している。素っ頓狂な高音と澄んだハープの音色のデビュー作《The Milk-Eyed Mender》(2003)でさえミスマッチだったのに。彼女の紡ぎ出す「5つのタペストリー」を読み解くには時間が掛かりそう。Kate Bushの「魔物語」に迷い込んだハープを抱えたBjork?‥‥その端緒はラストの〈Cosmia〉にあると思うのですが。

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  • ◎ 輸入盤リリース→入手順 ● Compact Disc規格外のCCCDは除外しました

  • 個人的な年間ベスト・アルバム10枚を1年ずつ遡って行くシリーズの最新2006年版です。サイド欄の「FAVORITE」三兄弟(ALBUM / BOOKS / VIDEOS)と紛らわしいので、カテゴリーを「r e w i n d」に改めました

  • 〈Kiss Kiss Kiss〉が聴きたくて、Love Is Allの2CDを買っちゃいました。素晴しい!‥‥アヴァギャン&クレイジーに弾けています^^

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Diwan 2

  • Artist: Rachid Taha
  • Label: Wrasse
  • Date: 2006/10/22
  • Media: Audio CD
  • Songs: Ecoute-Moi Camarade / Rani / Agatha / Kifache Rah / Joséphine / Gana El Hawa / Ah Mon Amour / Mataouel Dellil / Maydoum / Ghanni Li Shwaya