• ◎ ADENTRO FLORESTA AFORA(Independente)Leonora Weissmann
  • 《Motivo》(Nucleo 2012)で華麗なスキャットを披露していたレオノーラ・ヴェイズマン(Leonora Weissmann)のソロ・デビュー・アルバム。Rafael Martini(ピアノ、アコーディオン、ギター、スティール・ドラム)、Alexandre Andrés(フルート)、Frederico Heliodoro(コントラバス)、Rafael Macedo(ピアノ、ギター)、Edson Fernando (グロッケンシュピール、パーカッション、ヴィブラフォン、スティール・ドラム)など、新ミナス派のバックアップによって、ロックでもジャズでもフォルクローレでもない21世紀の新しい音楽を創出している。変幻自在のスキャット・ヴォイスが白いカンヴァスに美しい色彩を描く。〈Zemba Pro Mestre〉はSérgio Pererêとデュエットした7拍子曲。〈Menino〉はAlexandre Andrésのカヴァ。シークレット・トラックを含めて全12曲・60分。彼女のアートワーク(歌手よりも画家として知られている)に彩られた見開き3面紙ジャケ仕様。歌詞ブックレット(20頁)付き。 

  • ◎ VARMINTS(Moshi Moshi)Anna Meredith
  • BBCスコティッシュ交響楽団のコンポーザーだったという経歴を持つアンナ・メレディスのデビュー・アルバム。Anna Meredith(エレクトロニクス、クラリネット、ヴォーカル)、Gemma Kost(チェロ)、Jack Ross(ギター)、Sam Wilson(ドラムス、シロフォン)という編成。高らかにファンファーレを鳴らすオープニングの〈Nautilus〉、Jack Rossと歌う変則リズムの〈Taken〉、インスト・ポリリズムの〈Scrimshaw〉、ヴォーカル多重唱の〈Something Helpful〉、騒がしいエレクトロ・ロックの〈R-Type〉(横スクロールのシューティング・ゲーム?)、男性メンバーとデュエットした〈Dowager〉、可憐なヴォイスで歌う〈Last Rose〉、プログレ・マスロックの〈Shill〉‥‥次に何が出てくるか分からない女マジシャンの手捌き。音を重ねて変化して行くリズムとサウンド展開がスリリングで愉しい。全12曲・51分(12曲目はシークレット・トラック)。アルバム・カヴァに描かれている謎の動物は「ネコ」だと思いますよ。

  • ◎ PALERMO HOLLYWOOD(Riviera)Benjamin Biolay
  • アルゼンチン・ブエノス・アイレス北東部のパレルモ地区。ボルヘスが幼少期を過したことでも知られるパレルモ・ビエホは1990年代半ばにラジオやTVプロデューサなどが住み着いたことで、「パレルモ・ハリウッド」と呼ばれるようになったという。バンジャマン・ビオレー(Benjamin Biolay)の10thアルバムは「南米の歓楽街」の過去と現在を交錯させて、夢幻のように描き出す。バンドネオンやチャランゴに彩られ、ブエノス・アイレスのオーケストラが奏でられる。フットボールの実況中継をサンプリングした〈Borges Futbol Club〉 、レゲエ調の〈Palermo Queens〉、オペラのテノール歌手(Duilio Smirglia)とコラボした〈La Noche Ya No Existe〉、クンビアの〈La Noche Ya No Existe〉、ボルヘスの朗読詩を引用した〈Pas Sommeil〉、ヨーコ・オノをタイトルに冠した〈Yokoonomatopea〉という曲もある。青い透明スリップ・ケースに入った三面見開き紙ジャケ仕様。裏面に歌詞を記載した特大(12折り)ポスターが封入されています。

  • ◎ HOPELESSNESS*(Rough Trade)Anohni
  • アントニー・ヘガティ(Antony Hegarty)から改名・性転換したアノーニ(Anohni)のソロ・アルバム。男なのか、女なのかという性別の穿鑿は意味がない。Anohniはフロルベリチェリ・フロルのようなトランスジェンダーなのだから。傾聴すべきは女性化したことで、一体どのように彼・彼女の音楽が変化したかであろう。Oneohtrix Point Never(Daniel Lopatin)、Hudson Mohawke(Ross Birchard)の2人と共同プロデュースしたデュー・アルバムはエレクトロ色が濃い。《Vulnicura》(One Little Indian 2015)でBjorkとデュエットした〈Atom Dance〉の延長線上にあるのだ。ナオミ・キャンベルが主演(口パク)するミュージック・ヴィデオも鮮烈だった〈Drone Bomb Me〉。地鳴りのように不穏な情念が込められた〈Obama〉。タイトルに反して希望溢れる逆説的な〈Hopelessness〉‥‥身震いするほど美しくて気味が悪い。

  • ◎ I, GEMINI(Transgressive)Let's Eat Grandma
  • 英イーストアングリア・ノリッジ出身の2人の少女、Rosa WaltonとJenny Hollingworthは4歳の時に小学校のレセプション・クラス(Reception Class)で知り合い、13歳から一緒に音楽を作り始めたという。まだ十代(16と17歳)なのでヴォーカルは子供っぽいけれど、Rosa(キーボード、シンセ、グロッケンシュピール、ドラムス、ベース、ハーモニカ、リコーダー、マンドリン、チャイム、ピアノ、パーカッション、ウクレレ)、Jenny(サックス、キーボード、マンドリン、リコーダー、ドラムス、シンセ、チェロ、トライアングル、パーカッション)の2人はデビュー・アルバムにして、マルチ奏者ぶりを遺憾なく発揮。しかも彼女たちの音楽はオーソドックスなロックやフォークではなく、最新のエクスペリメンタル・サイケ・ポップなのだ。美しくもキモ可愛い、恐るべき女の子たち‥‥「お婆ちゃんを食べよう」という食人鬼風のバンド名はカンマ( , )の位置の重要性を教える英文法の例文から採られている(正しい構文は「Let's Eat, Grandma!」)。

  • ◎ HIT RESET(Hardly Art)The Julie Ruin
  • キャサリン・ハンナ嬢(Kathleen Hanna)の率いるポスト・パンク・バンドの2ndアルバム。Kathleen Hanna(ヴォーカル)、Sara Landeau(ギター)、Kenny Mellman(キーボード、ヴォーカル)、Kathi Wilcox(ベース)、Carmine Covelli(ドラムス)という男女混成(女3+男2)の5人組だが、Bikini KillやLe Tigreで継承されて来た元祖ライオット・ガルー(Riot grrrl)の精神は約四半世紀を経ても健在。アルバム・タイトル曲の〈Hit Reset〉は「Deer hooves hanginng on the wall」という意味深な歌詞(Deerhoof?)から始まる。〈I Decide〉のPVでは「YOKO ONO」という名前がプリントされたTシャツを着たKatie Crutchfield(Waxhatchee)が主演するなど、フェミニスト・アーティストたちの横の繋がりも感じられて嬉しくなる。全13曲・39分。歌詞は見開き紙ジャケのインナーに記載されている。

  • ◎ GOLDEN SINGS THAT HAVE BEEN SUNG(Dead Oceans)Ryley Walker
  • 米イリノイ・ロックフォード生まれのSSW、ライリー・ウォーカー(Ryley Walker)の3rdアルバム。本来はアクースティック・ギター弾き語りスタイルだが、バンド編成になったことでエクスペリメンタルなサウンドへ深化した。ヴィオラが不穏な空気を醸し出す〈Funny Thing She Said〉、ギター・ノイズが不機嫌な感情を暗喩する〈Sullen Mind〉、カントリー調の〈The Roundabout〉、オートハープが暗鬱なトーンを修飾する〈Age Old Tale〉 ‥‥。初回限定盤「Deep Cuts Edition」にはライヴCDが同梱されている。全1曲しか収録されていないが、〈Sullen Mind〉の拡張ヴァージョンには驚いた。〈Age Old Tale〉の長いイントロから始まり、激しいインプロヴィゼーションを繰り広げる41分間に圧倒される。某タワレコでは2枚組が通常盤と同じ価格で売られていた。これでは敢えて通常盤を買う理由が見つかりませんね。

  • ◎ MUDAR*(Independiente)Melina Moguilevsky
  • アルゼンチン・ブエノス・アイレス生まれの女性SSW、メリーナ・モギレフスキー(Melina Moguilevsky)が2ndアルバムをリリースした。Tomás Fares(ピアノ)、Lucio Balduini (ギター)、Ezequiel Dutil(コントラバス)、Martín Rur(クラロン(clarón)、クラリネット、サックス、口笛)、Mario Gusso(ドラムス&パーカッション)の5人編成に、トランペットとトロンボーン、フルート、チェロとグロッケンシュピールのゲスト・ミュージシャン加わって、彼女の可愛らしいソプラノ・ヴォイスをサポートする。5拍子+6拍子の〈Tanto〉、ドラムンベース風の〈Hasta〉、打楽器だけの伴奏で歌う〈El miedo〉、アカペラ多重唱の〈Mil Voces〉など、全14曲・58分。三面デジパック仕様、歌詞ブックレット(16頁)付き。年間ベストに選出するほど気に入っていたデビュー・アルバム《Arbola》(Epsa 2012)と同じく、本作も愛聴盤になりそう。妖艶なカヴァ・ポートレイトからして、元祖美魔女のKate Bushみたい。

  • ◎ MY WOMAN*(Jagjaguwar)Angel Olsen
  • エンジェル・オルセン(Angel Olsen)は米ミズーリ・セントルイス出身の女性SSW。3rdアルバムは意表を衝くシンセポップの〈Intern〉で幕を開ける。彼女の基本的スタイルはギターやピアノの弾き語りだが、鼻にかかったヴォーカルは力強かったり、可愛かったり、気怠かったり‥‥多面体の彫像のように変化する。Stewart Bronaugh、Seth Kaffman(ギター)、Joshua Jaeger(ドラムス)、Emily Elhaj(ベース)、Justin Raisen(マルチ・インストルメント)というバンド編成でレコーディング。嗚咽系シャウトが炸裂する〈Shut Up Kiss Me〉、グランジ風のギター・リフの〈Give It Up〉。Stevie Nicksのように小悪魔的な〈Sister〉、Angel Olsen & Crazy Horseみたいな〈Woman〉の2曲は7分超え。ピアノ・バラード〈Pops〉で幕を下ろす全10曲・47分。アマンダ・マルサリス(Amanda Marsalis)の撮ったパッツン前髪の「ブス顔」を敢えてアルバム・カヴァにするところに彼女の気概が感じられる。

  • ◎ THOSE WHO THROW OBJECTS AT THE CROCODIL...(Pataca)Bruno Pernadas
  • 「ポルトガルのスフィアン・スティーヴンス」(容姿はアントニオ・ロウレイロ似?)という触れ込みのSSW、ブルーノ・ペルナーダス(Bruno Pernadas)が2枚のアルバムを同時にリリースした。《Worst Summer Ever》はインスト・アルバムだったが、長いタイトルのアルバムはヴォーカル入り。女性が朗読する短い〈Poem〉、管楽器やアナログ・シンセがステレオラブ風に浮游して5拍子と6拍子を行き来する〈Spaceway 70〉、ポリリズムの〈Problem Number 6〉、ロマンティックな午後の微睡から一転して、終盤のノイジー・ギターが平穏を掻き乱す13分越えの〈Ya Ya Breathe〉など、全10曲・53分。女性ヴォーカルやコーラスを伴って優しく歌うところはSufjan Stevensに似ていなくもない。気怠いリゾート感というか、ヨーロッパの郷愁が、そこはかとなく漂っている。デビュー・アルバム《How Can We Be Joyful In A World Full Of Knowledge》(2014)も要チェック!

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    Bowie、Prince、Bernie Worrell、Leon Russell、Leonard Cohen、Pierre Barouh‥‥ 2016年も多くの大物アーティストたちが鬼籍に入った。哀しいことだが、人間にも寿命がある。この傾向は今後も増えることはあっても減ることはないだろう。60年代に綺羅星のごとく現われたロック・レジェンドたちが70代に達しようとしているのだから。新譜や旧譜も含めて世界は膨大な質・量の音楽(CD、LP、ダウンロード、ストリーミング)で溢れ返っている。たとえ24時間不眠不休で聴き続けても、一個人には聴き切れないレヴェルである。今年は奇を衒わずに、上半期(2016 So Far)から3枚、下半期から7枚を選出した。選外はHiNDS、Daughter、Savages、Deux Filles、Cavern Of Anti-Matter、Kaitlyn Aurelia Smith、PJ Harvey、Beyonce、Julianna Barwick、White Lung、Car Seat Headrest、Amber Arcades、Mitski、Juliana Cortes、Deerhoof、Nick Cave & The Bad Seeds、Noura Mint Seymali、Flor Otero、Jenny Hval、Bon Iver、Klo Pelgag、GOAT‥‥未聴や未入手のアルバムも少なくない。

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    • 個人的な年間ベスト・アルバム10枚を1年ずつ遡って行く〔rewind〕シリーズです



    • 輸入盤のリリース順(国内・流通盤が出ているアルバムには *マークを付けました)



    • 《Black Prince Fury / Jet Black Raider》(Moshi Moshi 2013)のアルバム・カヴァやエレノア・メレディス(Eleanor Meredith)のネコ・イラストを参照してね



    • Leonora Weissmann、Benjamin Biolay、Let's Eat Grandma、Angel Olsen、The Julie Ruin、Melina Moguilevskyは再録(一部改稿・加筆)です

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    Varmints

    • Artist: Anna Meredith
    • Label: Moshi Moshi
    • Date: 2016/03/11
    • Media: Audio CD
    • Songs: Nautilus / Taken / Scrimshaw / Something Helpful / R-Type / Dowager / The Vapours / Honeyed Words / Last Rose / Shill / Blackfriars