• 取締役は服をぬぎ、シャワーを浴び、背広を外の物干にかけて乾かそうとした。すると妙なことに気がついた。背広のポケットに入れておいた例の手紙の何通かの切手の色が落ちて、ほとんど白くなっているのだ。ガソリンで印刷インクが溶けてしまったにちがいないと思った。何の気なしに1枚の切手をはがしたところ、とつぜん消音器つき郵便喇叭の形が見えた。喇叭の透かしを通して自分の掌の肌がはっきり出ているのだ。「何かの符号だ」と彼はささやいた ──「符号としか言いようがない」。宗教的な人間だったらひざまずいたところだ。彼の場合は、大まじめに、こう宣言しただけだった ──「ぼくの大きな過ちは愛というものだった。きょうこの日からぼくは愛に近づかないことを誓う ── 異性愛、同性愛、両性愛、愛犬、愛猫、愛車、あらゆる種類の愛に近づかない。孤立する者の協会を設立してこの目的に奉仕する。そしてこの印、ぼくの命を奪うところだったガソリンの力で示現した印を協会の記章としよう」。そして彼はそれを実行した。
    トマス・ピンチョン 「競売ナンバー49の叫び」


  • 10年目のスニンクス(sknynx)は63本の記事をアップした(2014.12~2015.11)。回文シリーズは新年恒例の「回文かるた」を含めて5本。ネコ・ログは4本。音楽記事は年間ベスト、タワレコ・クリアランス、ファブ・フォーやゼップのリマスター・アルバムなど計12本。石ノ森シリーズは「イナズマン」や「仮面ライダー」など4本。アート記事はマグリットとネコ写真展「世界ネコ歩き」「ふるさとのねこ」。猫ゆりシリーズは〈猫のマジー〉(猫盤)、〈猫のミツ〉(猫本)の2本をアップ。10年越しの懸案だった〈スーパースターの悲劇〉が書けたのは感慨深い。ブログ記事などを書いているノートブック(MacBook Pro)を「Time Machine」でバックアップした〈タイムマシンにお願い〉もデータ保護という面では大きかった。ストレージを丸ごと、1時間ごとに差異分をバックアップしているので、いつトラブルに見舞われても元の環境に復元することが出来るようになったのだ。

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  •   Sknynx 2015 Top 10 Articles