• GOO (DGC 1990) Sonic Youth

  • 米インディーズの象徴的存在だったSonic Youthのメジャー移籍後初アルバム。今日ではArcade FireやVampire Weekendのようにインディ・レーベルに留まることで大成功を収めるバンドが出現するようになったものの、90年代当時はメジャー進出という幻想が罷り通っていた。NirvanaやBeckもメジャ ーと契約してアルバムをリリースするようになる。2008年にインディーズに戻るまでの18年間のメジャー時代はセールス面でも成功したとは言い難いけれど、レイモンド・ペテ...#21



  • PILLS'N' THRILLS AND BELLYACHES (Factory 1990) Happy Mondays

  • 英マンチェスター出身の6人組はBezという演奏しないで踊るだけのメンバーがいることでも話題になったように、ダンス・ミュージックを標榜する。 Shaun(ヴォイス)& Paul(ベース)Ryder兄弟を中心としたバンドだが、何よりもMark Dayのグルーヴ感溢れるサイケデリックなギターがカッコ良い。Labelleのヒット曲〈Lady Marmalade〉のコーラス部分を大胆に引用した〈Kinky Afro〉(この1曲で殺られちゃう)など、茶目っ気もたっぷり。スライド・ギターが畝り捲る...#22



  • BLUE LINES (Wild Bunch 1991) Massive Attack

  • Massive Attackのデビュー・アルバムと「湾岸戦争」は分ち難く結び着いている。なぜならばリリース時が戦争勃発時と重なったために「ATTACK」(攻撃)という言葉がアルバム・カヴァから消し去られてしまったのだから。検閲とも自粛とも抗議の表明とも取れるエピソードは逆に彼らの知名度を上げることになった(手許にあるUK盤は「massive attack」と表記されているが、CD盤面には「MASSIVE」としか記されていない)。英ブリストルはパンク〜ニュー・ウェイヴの80年...#23



  • NEVERMIND (DGC 1991) Nirvana

  • 1991年はロックにとって特別な年だった。グランジとシューゲイザー‥‥共に長く語り合い、聴き続けることになる2枚のアルバムがリリースされた年だったのだから。水中で泳ぐ男児の目前に釣り針の餌として1ドル紙幣が垂らされているアルバム・カヴァ、「Teen Spirit」というデオドランド(制汗)の商品名だった〈Smells Like Teen Spirit〉、「俺は銃を持っていない」と繰り返し歌われる〈Come As You Are〉‥‥全世界で1千万枚を売り上げた《Nevermind》は、グラン...#24



  • LOVELESS (Creation 1991) My Bloody Valentine

  • Kurt Cobainの「猟銃自殺」(1994. 4. 5)と共にグランジ・ブームは終焉してしまったが、シューゲイザーは都市の暗渠や地下水脈の中を深く潜行して、後に「ネオ・シューゲイザー」という新名称と共に復活する。「Shoegazer」とは文字通り「靴を見つめる人」という意味で、ステージ上のギタリストが直立不動で俯いて演奏するスタイルから由来する。その特徴は終始鳴り続けるノイズ・ギターの豪雨の彼方から囁くような弱弱しい男女ヴォイスが聴こえて来るという内省的なサウ...#25



  • WELD (Reprise 1991) Neil Young & Crazy Horse

  • 《Live Rust》がパンクに触発されたのと同じように、CD2枚組ライヴ・アルバム《Weld》はグランジに影響されている。「グランジのゴッド・ファーザー」と歓迎された《Ragged Glory》から〈Love To Burn〉〈Mansion On The Hill〉〈F*!#in' Up〉〈Love And Only Love〉〈Farmer John〉の5曲が演奏されていることもグランジ色を強く印象づける。〈Cinnanon Girl〉〈Like A Hurricane〉〈Cortez The Killer〉など、ライヴの定番曲をも含めた全16曲122分...#26



  • DRY + DEMO (Too Pure 1992) PJ Harvey

  • 「22 79 34」‥‥CDプレーヤに表示されたデジタル数字(収録曲数と収録時間)に驚いたことを昨日のように憶えている。一瞬、CDを入れ間違えたのか、それともCDプレーヤが壊れたのかと思っちゃった。初回CD盤(PURE CDD010)には全11曲のデモが入っていたのだ(アナログ盤は2枚組のはずだが、CDは1枚なので見分けがつかない!)。4トラック・レコーダに録音された強靭なデモ・ヴァージョンを聴けば、PJHの音楽が既に完成されていることに気づくだろう。ギター、...#27



  • THE GUILT TRIP (Shimmy Disc 1993) Kramer

  • 《The Guilt Trip》はインスト・ナンバーの〈Overtune〉に始まり〈Coda〉で終わる36曲、2時間(128分)を超える超大作。Kramerの2人の友人、Randolph A. Hudson III(ギター)とDavid Licht(ドラムス)のサポートで、1年余りの期間(1991/8-92/10)に渡り、彼のスタジオ「Noise New Jersey」で録音された(インナーに「with a lot of help from two friends.」とあるのは〈With A Little Help ...〉のモジリ)。女性の喘ぎ声と工事現場のドリル音や破壊音...#28



  • DEBUT (One Little Indian 1993) Bjork

  • 《デビュー》は「女性冒険家の旅行記」に譬えることも出来る。ブラスが響き、野鳥たちの囀る奥深い森の中を独り彷徨う〈Aeroplane〉、ダブ+グラウンド・ビートの蠢動がBjorkの妖しげなヴォイスを増幅する〈One Day〉、70歳の老ハープ奏者、Corki Haleと共演したファンタスティックなカヴァ曲〈Like Someone In Love〉(挿入される具体音が「現実」へ送還する)、全体がメタファの船で構築されている〈The Anchor Song〉‥‥。恋人を失った傷心の旅、飛行機は...#29



  • THE RED SHOES (EMI 1993) Kate Bush

  • 《赤い靴》はケルト風の内向性や東欧的な孤立感の残る《The Sensual World》(1989)に較べて、より華やいだワールド・ミュージック的な広がり、トロピカルな解放感を体感出来る。妖精ケイトの体温も心持ち上昇して南ヘ下降して来たといったところか。多彩なゲスト陣、錚々たるメンバーの中で一番驚いたのは、Eric ClaptonでもJef BeckでもPrince殿下でも、前作に続いて2度目の登場のThe Trio Bulgarkaでもない。マダガスカルのヴァリハ(valiha)奏者、Justin V...#30



  • AND THE WEATHERMEN... (Rec Rec 1993) The Ex + Tom Cora

  • 戦艦の「大砲」をクローズアップしたロシア・アヴァンギャルド風のアルバム・カヴァ画、「広告記事」のコラージュと、それを模した曲名・歌詞から成るブックレット(20頁)、裏ジ ャケや透明CDトレイ下にあるメンバーたちのレコーディング風景‥‥しかし、何と言っても目を瞠るのは「天気図」をプリントした CD盤、『そして天気予報士たちは肩を竦める』というアルバム・タイトルをモジった「ヨーロッパの天気図」である。しかもタイトルの理由が騙し絵(トロンプ・ルイユ...#31



  • DA LAMA AO CAOS (Chaos 1994) Chico Science & Nacao Zumbi

  • ブラジル北東部レシフェのマングローヴから突如出現した新種の蟹?‥‥Chico Science率いる8人組CSNZのデビュー・アルバムはヒップホップ / ラップの肉体(脳味噌?)とファンクの甲殻とハード・ギターの鋏で出来ている。CSの葡語ラップは泡立ち滑らかで舌鋒鋭く、ファンクは強靭で堅牢、ハード・ギターもヘヴィで切れ味鋭い。ヒップホップ / ラップ、ファンク、ハード・ロック、スラッシュ・メタル、ダブ、マラカトゥなどを自在にミクスチャーしたマンギビートは「未来世...#32



  • STRANGERS FROM THE UNIVERSE (Matador 1994) TFUL 282

  • 汚いものを洗い流す、躰を洗って浄める、シャワーを浴びるといった清冽なイメージの奔流が、この上もなく美しく心地良い〈Cup Of Dreams〉‥‥短い電子音、長い反復から成るギタ ー・イントロ〜メロディ〜マッチョな男声コーラス〜ヴォーカル(その背後で繰り返される「ビックリ箱」から飛び出したみたいなホッピング音、何かがコロコロ転がるような音、驚く男の声、アブク音などのサンプリング・コラージュ・ループは少年時代のセピア色に褪色した遠い記憶のカレイドスコー...#33



  • MAXINQUAYE (Fourth & Broadway 1995) Tricky

  • 1995年はトリップホップ・イヤーとして記憶されているかもしれない。しかし、Trickyのデビュー・アルバムはダークな空間で女性ヴォイスが妖しく浮游するトリップホップよりは内面へ深く沈み込むダウン・ビートに近い。Trickyの内省的な呟きとMartina Topley-Birdの耽美系ヴォイスは、解体されて鉄骨が剥き出しになった建造物や、半壊して骨組みだけが残った廃墟の中で流れる幽霊たちの歌声のように気味が悪い。陰鬱だが閉ざされた暗黒空間ではない。瓦礫の中の読経のような...#34



  • TIMELESS (Metalheads 1995) Goldie

  • 19世紀末芸術が20世紀に衰退したように、ドラムンベースは20世紀末に咲いた徒花だったのだろうか?‥‥人力では決して叩けない超絶ドラミング、シンコペーションする高速ビート。ドラムマシンによる超人的なプレイはサイボーグやアンドロイドたちが闊歩する近未来世界を想わせるものだった。新世紀は未だドラムンベースが描いた未来に追い尾いていないけれど、最先端音楽としてのドラムンベースは失速して前世紀の遺物となった。しかし、色褪せて古色蒼然となってしまったRo...#35



  • LAMB (Fontana 1996) Lamb

  • 90年代後半に出現したトリップホップ系のユニットの多くはデビュー・アルバムが最高で、2作目以降は何故か急激に色褪せて輝きを失ってしまう。Andy BarlowとLouise Rhodesの男女デュオLambも、その例外に漏れず同名タイトルのデビュ ー作が素晴しい。トリップホップ〜ドラムンベースの見本のようなアブストラクト・サウンド。人工的にシンコペートするリズム。ダークな空間に浮游する内省的な女性ヴォイス。7拍子の〈Lusty〉、6拍子の〈Gold〉、Bjorkっぽいヴォイ...#36



  • RAIO X (EMI 1997) Fernanda Abreu

  • アルバム・タイトルの「Raio X」とはX線(X-ray)のことだが、Fernanda嬢にボイオティアの大山猫のような透視能力があるわけではなく、スリーヴ写真(ソラリゼーション)を見れば分かるようにマン・レイへのオマージュになっている。インナー(歌詞カード)にはジャケを含めて7点のポートレート、「X」のレイヨグラフ(?)を印刷したCDを取り出すと透明トレイの下から彼女の胸部レントゲン写真が現われるという趣向である。新録、再録、リミックスから成るアルバムは...#37



  • NACHTMAHR (Philips Classics 1998) Meret Becker

  • Meret Beckerはドイツの耽美派歌姫。映画女優としてのキャリアもある。2ndアルバムの《夢魔》は清純無垢な聖少女と海千山千の魔女が交錯する異世界。シンギング・ソーが幻妖な響きを奏でるワルツ〈Viva La Trance〉、ロリ声で囁く6拍子の〈Lolita〉、3曲目の〈Prise De Tete〉では、一転したアルト声で肉体女優風に倦怠感を体現する。ヴォイス・パフォーマンス、シアトリカルな台詞劇、場末のキャバレー音楽、カーニヴァルの雑踏‥‥ロリータから熟女への豹変ぶりは幼...#38



  • BEETHOVEN CHOPIN KITCHEN FRAUD (Siesta 1999) Loveletter

  • デレク・ジャーマン監督作品の音楽を担当していたことで知られるSimon Fisher Turnerにはルクセンブルグ王(The King Of Luxembourg)というコスプレ・キャラが存在した。ドリーミィでメランコリックでビター・スウィートな、でも少し狂っている美少年‥‥デビュー・アルバム《Royal Bastard》(el 1987)に収録されたThe Monkeesの〈Valleri〉(途中からマカロニ・ウエスタン調になっちゃうのだ!)や、P.I.L.〈Poptones〉の白昼夢のようなカヴァ曲は秀逸だった...#39



  • COBRA AND PHASES GROUP PLAY VOLTAGE ... (Duophonic 1999) Stereolab

  • Stereolabが存在しなかったら、The Bird & The BeeもSoy Un Caballoもデビューしなかったかもしれない。《トマト・ケチャップ皇帝》(1996)に引き続いて、John McEntireとJim O'Rourkeの2人が楽曲のほぼ半分ずつをメンバーと共同プロデュースしている。Stereolabの面白さは変幻自在のリズムにある。6拍子の〈The Free Design〉、5拍子(サビ部分は7拍子)の〈Blips Drips And Strips〉‥‥。「この曲で踊れる?」と悪戯っぽく微笑む実験好きの少年の姿が思い...#40


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    MUSIC MAGAZINE 2009年 4月号

    • 特集:アルバム・ランキング・ベスト100(1990~2008年編)
    • 執筆者:相倉久人 / 赤尾美香 / 五十嵐正 / 石田昌隆 / 今井智子 / 今村健一 / 大鷹俊一 / 岡村詩野 / 小倉エージ / 小野島大 / 河地依子 / 北中正和 / 小出斉 / 小山守 / 志田歩 / 真保みゆき / 鈴木孝弥 / 鈴木啓志 / 高橋健太郎 / 名小路浩志郎 / 萩原健太 / 萩原祐子
    • 出版社:ミュージックマガジン
    • 発売日:2009/03/19
    • メディア:雑誌