□ 酒呑み、その気、細雪、吹雪、夢?‥‥佐々木希の今朝
Xmasイヴのパーティでワインを飲み過ぎてしまった佐々木希さん。火照った躰を冷まそうとしてワイン・グラスを片手に窓辺に近づき、冬枯れの庭木を眺める。蒼白い夜光灯の周りに何かチラチラと舞うものがあった。目を凝らして身つめると細かな雪片だった。「ホワイト・クリスマス」というロマンチックな響きに心躍らせて中庭に出る。細かな雪のことを何て言うんだっけ?‥‥高校の現国の教師が確か話していたわ。その昔、「細雪」という小説のタイトルを誤読した某局アナウンサーのことを。夜空から降って来た雪の結晶は掌の上で瞬く間に溶けて消えてしまう。不思議な光景だわ、満天の星が煌めいているのに雪が落ちて来るなんて。いつの間にか細雪はピンク色の花吹雪に変わっていた。可笑しいわね、春でもないのに桜の花びらが散っているなんて‥‥気がつくと桜の樹の上に昇って、綺羅星の瞬く天を仰いでいた。なぜかミャオ〜〜〜〜ンと鳴きたい気分だった‥‥。突然背中を小突かれて窓辺から振り返ると、女友達が両手にワイングラスを持って微笑んでいる。桜色のロゼがシャンデリアの光を浴びて淡く発光していた。

□ 頓挫、疲れ気味。食べた三切れカツサンド
短編小説(30枚)の依頼を某文藝誌から承けたものの、全くアイディアが浮かばない。一体どうしたものかと思案しているうちに、〆切り日が逼って来る。時間の流れは容赦なく、年々加速度を増しているようにさえ思える。〆切り日が差し迫って来た作家の行動は、部屋の掃除、読書(それも分厚い本を読み浸る)、TVゲームなど‥‥人によって千差万別である。何か他の熱中出来る対象を見い出して没頭することで、一瞬でも小説のことを忘れたいという願望の顕われだが、草食系作家Vの場合は猛烈に襲ってくる激しい睡魔だった。爆睡中に脳がバックグラウンドで小説のストーリを考えてくれると良いけれど、夢さえ見ない深い眠りから目醒めても未だ眠り足らないほどなのだ。〆切り日の前夜も夕食後の睡魔に抗し切れず、目覚めたのが深夜1時‥‥草食系作家の多くは早寝早起きの朝型で、夜更しは辛い。しかし、今夜だけは徹夜覚悟で原稿を仕上げなければならない。意を決したVは夜食用に買っておいた「まい泉」のヒレかつサンドを冷蔵庫から出してオーブン・レンジで温める。草食系男子から夜行性肉食作家への変身を試みたのだった。

□ 突然変異?‥‥猿飛び盗るサインペン・セット
A霊長類研究所では日本ザルやチンパンジー、ゴリアなどを飼育〜生態観察して、彼らの知能知覚臨床実験を行なっていた。ある日、遊び部屋のモニタ画面に再生されている映画を熱心に見ていた日本ザルのサスケが突然テーブルの上に跳び乗って24色のサインペン・セットを盗ると、落書き用のボードに向かって一心不乱に「絵」を描き出した。それも子供の描く稚拙な「絵」ではなく、アブストラクト風にも表現主義風にも見える芸術的な作品を‥‥。ボードの空白部分は瞬く間にカラフルな色彩で塗りたくられて行く。サスケの創作意欲の旺盛さに驚いた研究員はボードの代わりに画用紙(A3サイズ)を用意した。サスケの描いた数十枚の「絵」はゼナ・ヘンダースンのSF小説に登場する子供たちの「絵」のような、何かストーリらしい繋がりがあるようだった。「絵」を見た研究所の所長は、まるでカンディンスキーのようだと絶句し、壁に架かっているイヴ・タンギーの複製画を眺めた。ちなみにサスケが見ていた映画は『新・猿の惑星』だったという。

□ 意外、幻覚剤飲んで個展の遺作歓迎会
1年前、大量の睡眠薬を服用して自殺した若き画家Sを偲び、都内の画廊で「回顧展」が開かれることになった。その前日には画廊近くのレストランを借り切って、個展開催記念の祝賀パーティが催された。招待客たちの最大の話題は、Sのアトリエを整理していた恋人Lが新たに発見した「遺作」についてだった。美術雑誌編集者Dの許にも招待状が届いていた。会場内には国内だけでなく海外から取材に来たと思われる人たちの姿もある。Sの自画像だとも、恋人Lの肖像画だとも噂される「遺作」はフォアン・ミロのようにカラフルに半抽象化され、フランシス・ベーコンのように不自然に歪んでいる。招待客や関係者たちだけに1日早く公開された「個展」の壁に並んでいる数十点の絵画を見て回っているうちに、何だか気分が悪くなって来た。パーティ会場で飲んだ水色のカクテルに薬物が混入されていたのだろうか?‥‥タブローの中に描かれた人物たちが突然目の前に飛び出して来たのだ。まるで立体3DTVを見ているように。酩酊してソファに凭れたDは夭折したSが仕組んだ悪趣味な演出のように想えて苦笑した。

□ 落日舞う雪、気球まっしぐら!
学生時代の有り余る余暇を利用して日本全国を気儘に1人旅していた青年が、地方都市のある駅で下車した。見知らぬ街を彷徨っている時に、球形の奇妙な建物に遭遇する。「Z気球研究所」‥‥財団法人なのか民間の研究施設なのか、それにしても「気球」の一体何を研究しているのだろうかと、不思議に感じたことを昨日のように想い出す。その時は自分が後に気球冒険家となって世界各地を旅することになろうとは夢にも思っていなかった。もちろん「Z気球研究所」の研究員たちとは懇意になって情報交換している。彼らの研究テーマは無人気球による気象観測実験装置の開発なのだが‥‥。気球に乗って1週間で北海道を遊覧する今回のプロジェクトはドキュメンタリー映画として撮られることになっている。しかし、すべてが風まかせの気紛れ気球旅行はヨットで世界一周する海洋冒険家のように予め決めた計画通りのコースを帆走するというわけには行かない。北海道の大地に沈む夕陽が綺麗で泣きたくなるほどだ。吹く風が冷たいなぁと思ったら、空から真っ白い雪が舞い落ちて来た。

□ キティがスパ入浴。薬用ユニ・バス快適
キティちゃんは風呂が大好きな子ネコ。電車に跳び乗って全国の温泉地を巡るのが趣味なのだ。先週末も鬼怒川温泉へ行って来たの。ちょっと温水(洋一さん)だったけど、キティ的には程良い湯加減だったわ。熱い湯は苦手なのよ、猫舌なだけに‥‥アクション芸人が入る「熱湯風呂」も、TVで見ているだけで体中が火傷しそうになっちゃう。でも、本当は「ぬるま湯」なんだってね。出川何とかという暑苦しい顔の芸人が告ってたよ。熱い湯に入るようなオーヴァな演技をしているだけなんだって‥‥何だか興醒めよね。湯上がりに食べる旅館の料理も温泉旅行の愉しみの1つだわ。キティの好物は軽く焙った赤マグロとカツオのたたきと甘エビかしら。特に茹でたばかりの海老は大好物で、まさに「エビにネコ舌なし」っていう感じ。今住んでいるマンションはユニット・バスなので浴槽は狭いけれど、壁も床も天井もピンク色でコーディネイト。お気に入りの入浴剤(薬用ハーブの香り)を湯舟の中に入れて、プチ温泉気分を味わうの。ちなみに入浴中のキティは左耳のリボンを外しています。

□ 耐え切れず苦杯、僻地行く。一騎兵は崩れ消えた
徴兵されて従軍した元兵士の聴き取り調査をしている大学生に老人が静かに語り出す‥‥。儂らの部隊はな、密林の奥の局地戦で現地ゲリラ軍と遭遇して激しい銃撃戦になったのよ。地の利は敵側にあったし、兵隊数も銃火器の装備も乏しかった。今、冷静に考えれば無謀な戦闘だった。小隊は敵の攻勢に耐え切れず、名誉ある後退を余儀なくされた。まぁ、有り体に言えば命からがら戦地から逃げ出したわけだわな。鬱蒼としたジャングルの中を一体どのように敗走したのか分からないが、気がつくと草木の1本も生えていない曠野のような僻地へ辿り着いて、兵隊の数も半数近くに減っておった。疲労困憊して地面に倒れ伏す者、負傷した仲間を介抱する者、残り少ない食糧や水を奪い合う者たちなど‥‥この世の地獄を垣間見たような気分じゃったが、目の前にいた騎兵が泥人形が風化するかのように突然崩れ去って消えた時ほど驚いたことはなかった。西洋では「ゴーレム」とか言うそうだな。儂の躰もゴーレムのように崩れて去って跡形もなくなってしまうのかと思うと怖しくて、目の前に翳した両手がブルブルと震えたもんじゃった‥‥。

□ 軍医撃たれた地下壕燃え、猛虎が血垂れたウインク?
地下壕で発生した火災は連合軍の空爆によるものではなかった。必死の消火活動によって全焼は間逃れたものの、鎮火した地下壕は黒く焼け爛れ、焦げ臭い煙が充満していた。消防団員が安全確認をした後に鑑識班が中へ入り火災現場を調査、1名の遺体と一体の動物の死骸を発見した。誰もが焼死と考えたが、遺体の額には黒い孔が空いていた。さらに奇妙なのは遺体の傍らのネコ科と思われる動物の片目から赤い血が流れ垂れて、まるでウインクしているように見えたことだった。地元警察の地下にある遺体安置所で2つの死体(人間と動物)と対面した迷宮探偵・綾取猫人と黒ネコのコロネは主任警部が差し出した現場写真と較べながら熟考に沈む。身元確認の結果、2体の亡骸は軍医Kとペットの仔虎であることが判明していた。探偵は真正面の至近距離から射殺された軍医ではなく、ペットのティガー(仔虎のニックネーム)の方を注視していた。このウインクしているような片目は、もしかしてダイイング・メッセージではないかしら?‥‥飼主の心中を察したコロネが同意を示すかのように、ニャンと鳴く。「迷宮探偵・綾取猫人と黒猫コロネの事件簿 6」

□ 2人仲良し親しく5km。帰国した子女かなりタフ
海外赴任した父親と共にNYで暮らしている親友のY子が冬休みに一時帰国するというので、羽田まで迎えに行った。昨年の年末〜年始は彼女のところへ遊びに行ったから、丸1年振りの再会となるけれど、何年も逢わなかった恋人同士のような感情が溢れて来る。空港内の到着ロビーに現われたY子は赤いショート・パンツにピンクのタンクトップという、まるでマラソン・ランナーのような派手な格好だった。手荷物は宅急便で自宅へ送ることにした、これから5kmのジョギングよ!‥‥と屈託なく笑う。日焼けした健康そうな笑顔が眩しい。毎朝走らないと体の切れが悪くて気持ち悪いのよ、東京も空気が汚れているから、やっぱり早朝でないとね、「東京マラソン2011」に参加出来ことになったのよ‥‥と嬉しそうに話す。走りながら喋りまくる彼女に無理矢理付き合わされた私は、全身汗みどろで息はゼイゼイ、脚はガクガク、心臓もバクバク、下着もグッショリ、片手に抱えたダウンジャケットは掌の汗でベタベタに濡れていた。

□ 素敵な萩尾望都さま、佐渡も沖は凪です
萩尾望都(モーさま)、佐藤史生(ド・サト)、伊東愛子(オラブ氏)、花郁悠紀子、城章子(ジョークン)‥‥5人の少女マンガ家たちが年末の忙しいスケジュールを何とか調整して慰安旅行の予定を立てた。3泊4日の新潟〜佐渡〜北陸の旅。しかし、出発日を明日に控えて生憎の悪天候。運の悪いとこに、北陸日本海方面に季節外れの大型台風が接近していたのだ。TVの台風情報では最大風速30mの暴風雨圏内に入った佐渡島から女性レポータが悲鳴のような声で実況(絶叫?)中継している。仕事場の窓から黒墨を一面に掃いたような不穏な夜空を見上げて溜め息をつくモーさま。明日の天気を慮ると心配の余りなかなか寝着けなかった‥‥。一夜明けてみると杞憂だった。東京の空は快晴、それも1年に何度あるかどうかというほどに澄み切った青空。朝食を摂って旅仕度をしている時に電話のベルが鳴った。「モーさま、おはようございます。佐渡は沖も凪です」──1日早く花郁悠紀子と一緒に新潟へ向かったド・サトからの連絡だった。

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  • 回文と本文はフィクションです。一部で実名も登場しますが、該当者を故意に誹謗・中傷するものではありません。純粋な「言葉遊び」として愉しんで下さい



  • モーさま回文は「スニンクスなぞなぞ回文 #21」の解答です


 スニンクスなぞなぞ回文 #22


 湯も湧かぬき△▢◇☆◯☆◇▢△鬼怒川燃ゆ


 回文作成:sknys


 ヒント:ぬるま湯温泉旅館?


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ジン ジン ジングルベル feat.Pentaphonic

  • Artist: 佐々木 希
  • Label: SME
  • Date: 2010/11/24
  • メディア: CDS+DVD
  • Songs: ジン ジン ジングルベル / ジン ジン ジングルベル~VIVID Neon* - CELEB PARTY REMIX~ / ジン ジン ジングルベル(ガールズカラオケ)/ ジン ジン ジングルベル(メンズカラオケ)// ジン ジン ジングルベル(Video)