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♯55│メイ│ノラ猫 ── お食事中でしたか?
I袋P' PARCO裏の駅前公園、沿線沿いの細長いミニ公園は何年か前に全面改装されて地下駐輪場が造られた。そもそも昔からあったのか、その際に新設されたのかは定かではないが、駅に近い方にある祠と共に「I袋水天宮」というミニ神社も建った。皮肉なことに、そこが公園に棲息するネコたちの絶好の溜り場になっている。彼らにも神聖な場所が分かるのか。神社の境内に屯するネコは神秘的な佇まい。恐らく毎朝夕、ネコたちの食事を世話する人がいるのだろう、石段の上の目立たない所や公園の植え込みの奥に水の入った白い容器が置かれている。それにしてはメイは痩せっぽちだ。普段は寄り付かないのに、この時に限って逃げなかったのは食事中だったから?‥‥ちょっとピンボケなのは悔やまれますが。

♯56│ミレー│ノラ猫 ── ちょっとハニカミ屋さんですか?
数年前、JRI橋駅近くで見かけた子猫。人間への警戒心と好奇心が相半ばして、内気な印象を残す。写真には映っていないけれど、被写体とカメラの間には民家の格子状の門がある。この距離と障害物が猫と人の関係を暗に象徴しているのかもしれない。夜間のフラッシュ撮影なので青い睛になってしまった。両前脚を揃えた斜め上目遣いの表情に微妙な心が宿る。今も生きていれば立派な成猫に生長しているだろう。勤め帰りの婦人が「いつも、この辺にいるのよね」と嬉しそうに喋っていた言葉が記憶に残る。老猫ラッキーとは至近距離の場所ですが、人間の祖父と孫くらい歳が離れているので、2匹の親密な交流はなかったみたい。

♯57│ミーナ│ノラ猫 ── 帰って来たミーナさん
純白の真綿のように柔らかくフカフカした触り心地。カッパー色の目が神秘的に光る。S公園の美猫ミーナが帰って来た!‥‥と言っても、写真の中での話です。人に触れるのを快く思っていないのに強く抵抗しない従順な性格。そんな彼女の美点が却って災いして、拉致・誘拐されてしまったのだろうか。優しい飼主の庇護の許で元気に暮らしていると良いのですが。今まで撮ったミケの中では1、2を争う美貌の持ち主でしょう。三毛猫のオスは染色体異常で個体数も少なく(1万匹に1体?)、長生きも出来ないらしい。日本から美しい三毛猫が少なくなったような気がすると、ネコ写真の第一人者、岩合光昭氏も嘆いていました。

♯58│サマ│飼い猫 ── ミステリが好きなのよ
K塚商店会の白灰ネコ。鼻先を擦り付けて来るので、本来なら白いマズルが薄らと汚れている。たまたま携帯していたミステリ本『怪盗グリフィン、絶体絶命』(講談社 2006)を地面に置くと気に入ったのか、その上に腹這いになった。撮影者もローアングルで臨む(決して怪しいの者ではありません)。接写し過ぎてピントが甘くなったけれど、ヌイグルミのような人工的な感じに撮れた。〈ネコ・ログ #4〉で紹介したキョンも、この商店の仲間である。往来で写真を撮っていると、無言で他のネコたちを店の外へ出してくれた御主人‥‥最近はシャッターが閉まった「休業」状態なのが寂しい。

♯59│ゲン│地域猫 ── 写真映りが良いネコですね
H幡神社商店会の地域猫。ゲンが住民に大切に飼われているかと言われると心許ない。猫好きと同じ割合でネコ嫌いの店主もいたりして、モーリーあざみ野の描く理想共和国「ネコ町ナーゴ」のような猫と人の共存社会の実現は難しい。「何も水を撒いて追い払うことはないんじゃないの!」と中年婦人は腹立ち混じりに小声で訴えるのだが‥‥。ゲンも過去に余程酷い目に遭ったのか、餌は欲しいのに人間を過剰に警戒。商店と商店の路地から顔を見せて物欲しげに鳴くものの、近寄ると奥へ退却する。夜間のフラッシュ撮影は殆どが失敗写真だ(シット!)。これは奇蹟的に可愛く撮れた1枚。誰もH商店会の臆病ネコだとは思わないだろう。過度に人間を怖れるネコも不憫だが、物陰に隠れてキャットフードを与え、見つからない間に早く食べちゃいなさいとネコを急かす人間も物悲しい。

♯60│ラム│飼い猫 ── 引っ掻かれちゃいました
ラムちゃんは気紛れなネコ。近寄ってスリスリするかと思うと、直ぐに興味を失って知らんぷり。一時も静止しないで周囲を徘徊するかと思えば、階段の上に横たわって独りで寛ぐ。毛繕いをしたり、微睡んだり、辺りを睥倪してみたり‥‥。塀の上やアパートの外階段など高い所が好きらしい。気を惹こうとして不用意に手を出したら引っ掻かれちゃいました。まさに写真に映っている姿勢。肉球を見せている右前脚で(爪を出さずにジャレつく飼いネコもいるけれど)。つい先ほどまでは親しげに纏わり付いて来たのに、余りにも「君子猫変」の手痛い仕打ちじゃありませんか!‥‥好意を抱いているのか敵意を持っているのか、ラムさんの真意が推し量れません。「マタタビ・ダイエット法」に失敗して苛立っていたんですか‥‥えっ、人間の女と同じだって?

♯61│バン│飼い猫 ── 上半身だけ日焼けネコ?
M治通りと平行に走る住宅地の小道、赤茶色のレンガ模様の段差に保護色のようなネコが寝そべっている。お気に入りの場所らしく猛暑の夏に微睡んでいた。顔は黒焦茶、上半身は茶斑、下半身は白の混じった明るい茶色‥‥と、綺麗に茶系3色に分かれている。近づいて目線を合せると徐に伸びをして躰を伸ばし、纏わり付く。侍っている時は殆ど動かないので、被写体としては理想的。棲息場所も容易に特定出来る。クルマや自転車が目の前を通過しても驚かない。物事に動じない性格なのか、それとも老齢のせいなのか(ネコと女の歳は分かりませんね)。町内会の祭り神輿の気配、尋常ならぬ喧噪が聞こえて来るや否や、野蛮な行事には関わりたくないと言わんばかりに路地の奥へ避難してしまいました。

♯62│ピンキー│飼い猫 ── あたしは菜食主義猫よ
民家の連なる細い道、普段は通らないルートを歩いていて「小さな貴婦人」に出逢った。道端の雑草を一心不乱にムシャムシャ食べている。ピンク色の鈴の付いた首輪と口に銜えた緑の葉っぱのコントラストが色鮮やか。濃いベージュ色の毛並みに気品が溢れる。お食事中の彼女が撮影者に気づいて目が合った瞬間の1枚(もし美少女だったら赤面していたかもしれない)。葉っぱを銜えた顔は強張っていましたが、次第に柔和な表情へ変化して行く‥‥猫でも初体面だと緊張するんですね。また逢えないかなと淡い期待を抱いて週末の散歩コースに指定しているのですが、未だに再会が叶わない。たまたま外へ出て来ちゃった家猫(室内で飼われている座敷ネコ)でしょうか。

♯63│クロ│飼い猫 ── リッキ・ティッキ・ビッキー?
『夏への扉』のピートはジンジャー・エールが大好きな牡ネコ。主人公のダン・デイヴィスは「姪」のフレドリカ・ヴァージニア・ジェントリイのことを「親愛なるリッキイ・ティッキイ・テイヴィー」と呼ぶ。「Rikki-Tikki-Tavi」は「ジャングル・ブック」の中に出て来る勇敢なマングースの名前(Donovanに〈Riki Tiki Tavi〉というヒット曲がある)。作者ロバート・A・ハインラインの妻ヴァージニアは少女時代に父親からティッキーという愛称で呼ばれていた。後に彼女は夫ハインラインの飼い猫に同じくティッキーという名前を与える。《知り合いだった猫に似ていて、しみじみ見入ってしま》ったびっけさんを想って、クロをビッキーと呼ぶことにした。流線形のフォルムが美しく精悍そうに見えますが、全く愛想のない黒猫なんですよ。猛暑の今夏はグッタリと溶けていました。

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各記事のトップを飾ってくれた猫ちゃん(9匹)のプロフィールを紹介する「ネコ・カタログ」の第7弾です。サムネイルをクリックすると掲載したネコ写真に、右下にあるナンバー表の数字をクリックすると該当紹介文にジャンプ、各ネコ・タイトルをクリックするとトップに戻ります。ノラ猫と飼い猫を差別しない方針で、これまでに60匹以上のネコたちを紹介しましたが、これからはミーナクロラムたちのように同じネコちゃんが再登場する機会も増えるかもしれません。岩合光昭さんの『ネコを撮る』(朝日新聞社 2007)を読んでいたら、最初は逃げられないように遠くから望遠で撮る、と書いてありました。用心深い猫は一定の距離以内に入ると必ず逃げ去る。Cyber-shot(光学3倍ズーム)の限界かもしれません。逆に近寄って撮れたネコたち(スリスリして来る!)の表情は概ね柔和ですが。

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  • 『大好き! ネコ町ナーゴ』(NHK出版 2007)で「ネコ町ナーゴ・シリーズ」は完結なのか?

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ネコを撮る (朝日新書 33)

  • 著者:岩合 光昭
  • 出版社:朝日新聞社
  • 発売日:2007/03/30
  • メディア:新書
  • 目次:ネコにアプローチ / 撮影編 / 世界のネコ / 野生のネコ