• IL (Barclay 2012) -M-

  • -M-こと、Matthieu Chedidの5thアルバム(インスト・アルバム《Labo M》(Delabel 2003)を含めると6th)。トレード・マークの髪型だでけでなく、黄色いアイマスクや襟(?)が「M字」になったカヴァ・イラストは鉄腕アトムよりも仮面ヒーローに近いかもしれない。Vanessa ParadisのプロデュースやBrigitte Fontaineとのコラボレーションでも知られる-M-だが、今回はゲストを迎えず、Dorion Fiszel、Brad Thomas Ackley(ベース)の3人共同でプロデュース&レコーデ…#16



  • 11 DE NOVEMBRE (Universal Spain 2012) Silvia Perez Cruz

  • Silvia Perez Cruzはスペイン・パラフルージェル生まれの女性SSW。基本は生ギター弾き語りスタイルだが、このアルバムではピアノやアコーディオン、クラリネットも演奏している。ホルン(trompa)、コントラバス、チェロ、ヴァイオリン、ヴィオラ、バンジョー、マンドリン、ウクレレなどのアク ースティック・サウンドが彼女のヴォイスを優しく包む。変幻自在のスキャットやアカペラ、インスト(ラストで 「Nonnon」 というタイトルだけを歌う!)。カタルーニャのトラッ…#17



  • FOSSILS (Yep Roc 2013) Aoife O'Donovan

  • 米マサチューセッツ・ニュートン生まれの女性SSWイーファ ・オドノヴァン(と発音するらしい)のソロ・デビュー・アルバム。ペダル・スチールが浮游するオルタナ・ブルーグラス〜アメリカーナ風のアクースティック・サウンドですが、7拍子の〈Beekeeper〉などプログレ感も漂う。彼女は作詞・作曲 ・歌だけでなく、ギター、バンジョー、ヴィブラフォン、メロトロンを演奏。《化石》という自虐的なアルバム・タイトルらしく、金髪が風に靡くカヴァは怖いけれど、声は可愛い…#18



  • THE WEIGHING OF THE HEART (Second Language 2013) Colleen

  • パリ生まれスペイン在住の女性アーティストColeen(Cécile Schott)の4thアルバム。歌詞カード(8頁)を中綴じした見開きブックレット・シリーズの1冊としてリリースされた(縦長の紙ジャケ仕様)。ギター、ヴィオラ・ダ・ガンバ、オルガン、ピアノ、クラリネット、トイ・ガムランなどが優しく奏でられる音数の少ないアクースティック ・サウンドだが、最新のエレクトロニカ風に響く。《心の計量》と題されたアルバムの最大の変化は本人自らが歌っていることかもしれない…#19



  • THE SOUL OF ALL NATURAL THINGSLinda Perhacs (Asthmatic Kitty 2014)

  • Linda Perhacsは米カリフォルニア出身のアシッド・フォークSSW。《Parallelograms》(Kapp 1970)以来、実に44年振りの2ndアルバムがSufjan Stevensの主宰するレーベルからリリースされた。Chris Price、Fernando Perdomoとの共同プロデュースで、Julia Holter、Nite Jewelなどがゲスト参加している。BjorkやMilton Nascimento(復帰を後押ししたDevendra Banhartから教えてもらった)にインスパイアされたという2ndアルバムはタイトル曲が途中からタンゴ調…#20



  • RUINS (Kranky 2014) Grouper

  • 法人類学者のテンペランス・ブレナンは「グルーピーよりもグルーパーの方が理に適っている」と発言していたが、諧謔的に自らGrouper(ハタ科の海水魚)と名乗るLiz Harrisのソロ・プロジェクトも良い感じ。2011年、彼女がポルトガル・アルジェズール滞在中にレコーディングしたというアルバムはオープニング曲の〈Made Of Metal〉とラストの〈Made Of Air〉(この曲だけは2014年に米ペタルーナの母の実家で録音されている)が呼応する構成になっている。今までのシュー…#21



  • SOMETIMES I SIT AND THINK, AND SOMETIMES ... (Milk! 2015) Courtney Barnett

  • 白地に青と緑のチェック柄の絨毯と肘掛け椅子が描かれた安西水丸風のカヴァ。「時には椅子に座って考えたり、座っているだけだったり」という長いタイトル‥‥豪タスマニア生まれの女性SSW、Courtney Barnettのデビュー・アルバムは少女っぽい意匠だが音楽は筋金入り。フェンダー・ジャガーを左指で弾く。2ギター、ベース、ドラムスというオーソドックスな編成(ライヴではトリオ)で、ライオット・ガルーなインディ・ロックやNirvana風のグランジを演奏する。〈Elevator …#22



  • PLATFORM (4AD 2015) Holly Herndon

  • Julia Holter、Laurel Halo、Jenny Hvalなど、Bjorkが切り拓いた前人未踏の荒野を女性たちが探検に出かける。米テネシ ー生まれの作曲家、ミュージシャン、音楽アーティストHolly Herndon(灰色の瞳と赤毛の三つ編みヘアがトレードマーク !)も女性探検隊の1人である。2ndアルバムのエレクトロ 〜エクスペリメンタル系のサウンドには気味悪さと心地良さが奇妙に混在している。耳触りが良くて、脳内もゾワゾワしちゃう?‥‥谷口暁彦(Akihiko Taniguchi)のPVで注目され…#23



  • SIMPLE SONGS (Drag City 2015) Jim O'Rourke

  • Sonic Youthから離脱したJim O'Rourkeは2006年、活動の拠点をNYから東京(新宿界隈)へ移した。《Insignificance》(2001)以来、実に13年半振りの歌入り(SSW)アルバムである。石橋英子(ピアノ、オルガン)、須藤俊明(ベース)、山本達久(ドラムス)、波多野敦子(ストリングス)という日本人のバンドで完璧な欧米ロックを創出する。親日派の外国人が陥るジャパネスクや変な東洋趣味は微塵もない。6拍子で始まり、7拍子〜6拍子となる〈That Weekend〉、ギタ…#24



  • PALERMO HOLLYWOOD (Riviera 2016) Benjamin Biolay

  • アルゼンチン・ブエノス・アイレス北東部のパレルモ地区。ボルヘスが幼少期を過したことでも知られるパレルモ・ビエホは1990年代半ばにラジオやTVプロデューサなどが住み着いたことで、「パレルモ・ハリウッド」と呼ばれるようになったという。バンジャマン・ビオレー(Benjamin Biolay)の10thアルバムは「南米の歓楽街」の過去と現在を交錯させて、夢幻のように描き出す。バンドネオンやチャランゴに彩られ、ブエノス・アイレスのオーケストラが奏でられる。フットボー…#25



  • GOLDEN SINGS THAT HAVE BEEN SUNG (Dead Oceans 2016) Ryley Walker

  • 米イリノイ・ロックフォード生まれのSSW、ライリー・ウォ ーカー(Ryley Walker)の3rdアルバム。本来はアクースティ ック・ギター弾き語りスタイルだが、バンド編成になったことでエクスペリメンタルなサウンドへ深化した。ヴィオラが不穏な空気を醸し出す〈Funny Thing She Said〉、ギター・ノイズが不機嫌な感情を暗喩する〈Sullen Mind〉、カントリー調の〈The Roundabout〉、オートハープが暗鬱なトーンを修飾する〈Age Old Tale〉‥‥。初回限定盤「Deep Cuts Ed…#26



  • THOSE WHO THROW OBJECTS AT THE CRO... (Pataca 2016) Bruno Pernadas

  • 「ポルトガルのスフィアン・スティーヴンス」(容姿はアントニオ・ロウレイロ似?)という触れ込みのSSW、ブルーノ・ペルナーダス(Bruno Pernadas)が2枚のアルバムを同時にリリースした。《Worst Summer Ever》はインスト・アルバムだったが、長いタイトルのアルバムはヴォーカル入り。女性が朗読する短い〈Poem〉、管楽器やアナログシンセがステレオラブ風に浮游して5拍子と6拍子を行き来する〈Spaceway 70〉、ポリリズムの〈Problem Number 6〉、ロマン…#27



  • PARTY (4AD 2017) Aldous Harding

  • オルダス・ハーディング(Aldous Harding)はニュージーランド・リトルトン生まれの女性SSW。彼女のヴォーカルとピアノ、ギター、John Parish(プロデュース)のピアノ、シンセ、ギター、ドラムス、マルチ奏者Enrico Gabrielliのバス・クラリネット、サクソフォン、ローズ・ピアノという3人編成で、「ゴシック・フォーク」と自称するサウンドを奏でる。フレンチ・ポップスみたいに可愛い〈Blend〉、エキセントリックな少女のようなヴォイスの〈Party〉、挿入される少…#28



  • HISTORIAN (Matador 2018) Lucy Dacus

  • ルーシー・ダカス(Lucy Dacus)は米ヴァージニア・リッチモンド出身の女性SSW。2ndアルバムは彼女のギターと共同プロデュースしたJacob Blizardのギター、ベース、オルガン 、ウーリッツァ、パーカッションに、ドラムスという編成でドラマチックに展開する。ギター弾き語りからオルタナ・ロックへ徐々に盛り上がって行くリード・シングル〈Night Shift〉やヴァイオリン、ヴィオラ、チェロなどを配した〈Body To Flame〉。憂いを帯びた強靭なヴォーカルがハードなギ…#29



  • SUIS UNE ILE (Heavenly 2018) Halo Maud

  • アロー・モード(Maud Nadal)はフランス・オーヴェルニュ出身の女性SSW。デビュー・アルバムはGwenno、Melody's Echo Chamber、Jane Weaverなどに通じる最新流行型のサイケデリック・ドリーム・ポップだが、「Francoise HardyからBjorkにひとっ飛びする弾力性のあるヴォーカル」に魅了される。共同プロデュースしたRobin LeducやBenjamin Gilber (Aquaserge)、Pablo Padovani(Moodoïd)が彼女を好サポート。英・仏語混じりで歌うBjorkっぽい〈Tu Sais C…#30


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    「ミュージック・マガジン」(2019年6月号)の「21世紀のシンガー・ソングライター・アルバム・ベスト100」は「37人の選者が1位から30位まで順位づけしたものを編集部で集計」したそうだが、「ブラジル音楽 オールタイム・アルバム・ベスト100」と同じく、一律1票1点なのか、順位による点数制(AOYやMetacriticの集計した「年間ベスト・アルバム」は上位ほど高ポイントが付加される)なのか明示されていない。同数票(同点)の場合の順位づけも不明である。更に不可解なのはBjorkのアルバムが1枚も「ベスト100」に入っていないこと。延べ1110(37×30)枚のアルバムがリスト・アップされているのに、選者の誰1人としてBjorkのアルバムを1枚も挙げていないのだ。《Vespertine》(2001)は9年前の「ゼロ年代アルバム・ベスト100」(2010年6月号)の12位に入っていたけれど、彼女はSSWではないのでしょうか?‥‥英WIRE誌の「年間ベスト・アルバム」(2001 Rewind)では第1位に選ばれています。

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    • 記事が長くなってしまったので、15枚ずつ2分割(Part 1、Part 2)しました^^;



    • 9年前の記事〈ゼロ年代アルバム・ベスト20〉(2000-09)と5枚重複しています



    • Aoife O'Donovan《Fossils》のレヴューはショート・ヴァージョンです



    • 本記事のレイアウトとの兼ね合いから、元記事の文章にも若干の修整を加えました

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    ミュージック・マガジン 2019年 6月号

    • 特集:追悼・内田裕也 / 21世紀のシンガー・ソングライター・アルバム・ベスト100
    • 出版社:ミュージック・マガジン
    • 発売日:2019/05/20
    • メディア:雑誌
    • 執筆者:赤尾美香 / 天井潤之介 / 天辰保文 / 五十嵐正 / 宇田和弘 / 大鷹俊一 / 岡田拓郎 / 岡村詩野 / 小熊俊哉 / 金子厚武 / 木津毅 / 栗本斉 / 坂本哲哉 / 佐藤英輔 / 柴崎祐二 / 清水祐也 / 高橋健太郎 / 中川五郎 / 柳樂光隆 / 名小路浩志郎 / 能地祐子 / 萩原健太 / 早坂英貴 / 原雅明 / 廣川裕 / 方便凌 / 松永良平 / 松山晋也 / 宮子和眞 / 村尾泰郎、安田謙...