- ◎ BOA NOITE PRA FALAR COM O MAR(Tratore 2016)Joana Queiroz Sexteto 2ndアルバムはカルテット(Quarteto)名義の《Uma Maneira de Dizer》(2013)から、Joana Queiroz、Beth Dau(ヴォーカル)、Bernardo Ramos(ギター)、Rafael Martini(ピアノ)、Bruno Aguilar(コントラバス)、Felipe Continentino(ドラムス)の6人(Sexteto)編成となった。全8曲中ヴォーカル入りは2曲だけだが、JoanaとBeth Dauの2人が自由奔放にスキャットしているので「インスト・アルバム」という感じはしない。彼女が率いる管楽六重奏団、Inventosのメンバーが客演した〈La Sorpresa〉はCarlos Aguirreに捧げた曲。クラリネットが狂おしく泣き咽ぶ〈Canticos XII〉は詩人セシリア・メイレレス(Cecília Meireles)の歌詞を使用している。変幻自在の高速スキャットや変態ギターなどが疾走する〈Na Guaribada da Noite〉はHermeto Pascoalのカヴァ。ラストの〈Estrada〉ではJoana Queirozが子供たちと一緒に愉しそうに歌っている。怪奇と幻想が渦巻く新世紀のブラジル音楽である。
- ◎ LAMOMALI(Wagram)Lamomali -M-(Matthieu Chedid)のニュー・アルバムはマリのミュージシャンとのコラボレーション。ラモマリ(Lamomali)というタイトルはバンド名でもあるらしい。透明なスリップ・ケースには大きな白文字で「M」とプリントされているけれど、アフロヘアの女性2人(黒人と白人)を合成した黄色いジャケット(デジパック仕様)の裏に小さく「-M-」と記載されているだけなので、-M- の新作とは気づき難い(某タワレコではフランスではなく、ロック・ポップスの「L」棚にあった)。Toumani & Sidiki Diabaté親子のコラとFatoumata Diawaraのヴォーカル(4曲)をフィーチャーし、曲ごとに多彩なゲストを迎えている。コラの軽やかな音色から始まる〈Manitoumani〉、Oxmo Puccinoがラップするファンキーな〈Bal de Bamako〉、Fatoumata Diawaraとデュエットするレゲエ調の〈Cet Air〉‥‥ 〈Solidarité〉にはYoussou N'DourやSeu Jorgeなどもヴォーカルで参加している。仏・英訳歌詞ブックレット(24頁)付き。
- ◎ CUIDADO MADAME*(Ponderosa)Arto Lindsay 《Salt》(Righteous Babe 2004)以来、実に13年振りのソロ・アルバム。長いインターヴァルを感じさせないのはTonoやLourenco Rebetezなどのプロデュースが記憶に鮮明だから。ノン・チューニング・ギター(チューニング出来ないくらい耳が良い?)とブラジル音楽の融合。アヴァンポップを体現・体感出来る音楽で、Simon Fisher Turnerにも通じる甘美で繊細なヴォーカルに魅惑される。ドラムンベース風の〈Grain By Grain〉、9拍子の〈Ilha Dos Prazeres〉、ノイズ・ギターが炸裂する〈Unpair〉、Marisa Monteと共作した〈Pele de Perto〉など全11曲・38分。日本先行発売(P-VINE)から遅れること3カ月 ‥‥米インディーズ(Northern Spy records)からのリリースだったが、入手した紙ジャケ仕様のイタリア盤(Ponderosa)には収録されていないボーナス・トラック名〈Nobody Standing In That Door〉が歌詞カードに記載されている。国内盤をコピーしただけなのでしょうか。
- ◎ SLOWDIVE*(Dead Oceans)Slowdive 1989年10月、英レディングで結成されたSlowdiveは3枚のアルバムをリリースして1995年に解散。Neil Halstead(ヴォーカル、ギター、キーボード)、Rachel Goswell(ヴォーカル)、Ian McCutcheon(ドラムス)の3人は新たにMojave 3を結成。Simon Scott(ドラムス)やChristian Savill(ギター)もバンドやソロなどで活動していたが、2014年1月に再結成した。22年振りの4thアルバムはオリジナル・メンバー5人で録音されている。ノイジーなギターやシンセの驟雨から聴こえて来る囁くような男女のヴォーカルはシュ ーゲイザーの王道。シングル・カットされた美メロのキラー・ソング〈Sugar For The Pill〉、サウンドとヴォーカルが渾然一体となって疾走する〈Everyone Knows〉、目頭が熱くなるほど美しい〈Go Get It〉‥‥豪雨のようなノイズが低周波マッサージのように強ばった躰を解きほぐし、夢見るようなヴォイスが荒んだ心を優しく愛撫する。今日のドリーム・ポップがシューゲイズから派生したことは感慨深い。
- ◎ HALO*(Crammed Discs)Juana Molina 1人だけで録音した《Wed 21》(2013)から3年半。フアナ・モリーナの7thアルバムは宅録から、スタジオ・レコーディングへ1歩踏み出した。テキサス郊外のスタジオで録音したアルバムにはライヴ・サポート・メンバーのOdin Schwartz(ベース、シンセ、ギター)とDiego Lopez de Arcaute(ドラムス)が参加している。John Dieterich(Deerhoof)がギターを弾いた〈In The Lassa〉、6拍子の〈Paraguaya〉と〈Estalacticas〉、7拍子の〈Cosoco〉など。アルバム・タイトルの 「ヘイロー」(halo)は白く蓄電する光のこと。浮游する光が不吉な出来事の予兆(オラクル)と信じられていたアルゼンチンの民間伝承に由来する。その正体は動物の死骸の骨が放つ光だったというから、日本の鬼火や狐火のような自然現象なのかもしれない。カヴァとブックレット(3つ折り歌詞カード4枚)に載っている下肢骨を擬人化した「骨娘キャラ」もブライスみたいにキモ可愛い。
- ◎ PARTY(4AD)Aldous Harding オルダス・ハーディング(Aldous Harding)はニュージーランド・リトルトン生まれの女性SSW。彼女のヴォーカルとピアノ、ギター、John Parish(プロデュース)のピアノ、シンセ、ギター、ドラムス、マルチ奏者Enrico Gabrielliのバス・クラリネット、サクソフォン、ローズ・ピアノという3人編成で、「ゴシック・フォーク」と自称するサウンドを奏でる。フレンチ・ポップスみたいに可愛い〈Blend〉、エキセントリックな少女のようなヴォイスの〈Party〉、挿入される少女たちの叫び声が強烈な〈Imagining My Man〉、ピアノの伴奏で強靭なヴォイスを披露する〈Horizon〉、Mike Hadreas(Perfume Genius)とデュエットした〈Swell Does The Skull〉‥‥怖そうな顔からは想像し難い変幻ヴォイスは狂気も内に秘めている。2丁拳銃のセクシーなカウガールに扮したAldous Hardingが仏頂面で踊る〈Blend〉のPVも必見です。
- ◎ VESTIDA DE NIT(Universal)Silvia Perez Cruz スペイン・パラフルージェル生まれの女性SSWシルヴィア・ペレス・クルース(Silvia Perez Cruz)の4thアルバムは彼女の「愛唱歌」を弦楽五重奏(ヴァイオリン×2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)でリメイク。Caetano Velosoのスペイン語圏のラテン・カヴ ァ集《粋な男》(Fina Estampa 1994)に収録されていたSmon Diazの〈Tonada De Luna Llena〉、カタルーニャのトラッド・ソング〈Vestida De Nit〉、日本でも大ヒットした〈La Lambada (Chorando Se Foi) 〉、チェロの伴奏でエクスペリメンタルする〈Corrandes D'Exili〉、2016年に亡くなったLeonard Cohenの〈Hallelujah〉。彼女の自作曲〈Ai, Ai, Ai〉〈Loca〉〈Nao Sei〉も収録されている。2014年のアンプラグド・コンサートから進展させた企画らしいが、安直な片手間仕事ではない。うねる弦楽五重奏と狂おしいまでに濃密な情念の籠ったヴォーカルから、彼女の本気度が伝わって来るからだ。三面デジパック仕様、解説ブックレット(32頁)付き。
- ◎ HARU(Independente)Alexandre Andres / Rafael Martini Alexandre Andres(ギター、フルート)とRafael Martini (ピアノ、シンセ)によるデュオ名義のアルバム。Alexandre Andresの《Macieiras》(2017)はカルテットによるインスト・アルバムだったが、《Haru》は2人だけでレコーディングされている。Alexandre Andres4曲、Rafael Martini3曲、共作2曲という構成で、嬉しいことに全9曲中6曲はヴォーカル曲。インストにもスキャットが入っている。カルテットのアンサンブルやインプロヴィゼーションよりも、秋の夜長(ブラジルは春の宵?)に2人の歌を聴きたいというリスナーには日本語タイトルの「春」の方が胸に沁みるかもしれない。2人の力強いヴォーカル・ハーモニーに圧倒される。アルバム・タイトルの〈Haru〉は2人のスキャット・ヴァージョン(カルテットではAndre Mehmariがピアノでゲスト参加していた)。《Macaxeira Fields》(2012)に収録されていた名曲〈Menino〉をリメイクしているのも泣けて来る。
- ◎ MOUNTAIN MOVES*(Joyful Noise)Deerhoof Deerhoofの14thアルバムはJuana Molina、Jenn Wasner(Wye Oak)、Lætitia Sadier (Stereolab)、Matana Robertsなど多彩なゲストを迎えている。The Staple Singersの〈Freedom Highway〉、Bob Marleyの〈Small Axe〉などもカヴァしている。一見纏まりがなく散漫に感じられるかもしれないが、Juana Molinaが悲鳴を上げる〈Slow Motion Detonation〉、「ミュートで」というイタリア語タイトルの〈Con Sordino〉、聴衆に罵倒されたBob Dylanが放った言葉をタイトルにした〈Come Down Here & Say That〉、松崎里美がスペイン語で歌うチリの女性フォルクローレ音楽家ヴィオレータ・パラ(Violeta Parra)の〈Gracias A La Vida〉、アジア系女性ラッパーAwkwafinaがラップする〈Your Dystopic Creation Doesn't Fear You〉、John Dieterich(ギター)とデュエットする〈Ay That's Me〉、トランプ大統領を揶揄した〈Palace Of The Governors〉など‥‥鹿蹄の揺るぎない立ち位置が鮮明に見えて来る。
- ◎ UTOPIA*(One Little Indian)Bjork 《Vulnicura》(2015)に引き続いて、Arcaが全面参加した9thアルバム。痛ましい胸の疵(裂け目)が額に転移して花開いたジェシー・カンダ(Jesse Kanda)のカヴァ・アートが強烈無比(中島らも「DECO-CHIN」の女性版?)。アルバムを入手した人は彼女の音楽を聴く前に、、このアートワークに直面することになる。顔を顰めるか、微笑むか、バカバカしいと思うか‥‥リスナーの人間性(性意識)も問われている。ダウン・ロードやストリーミングで聴いている人は衝撃度が少ないかもしれない。野鳥の鳴き声や羽撃きなどの自然音をバックグラウンドに、フルートやハープ、チェロ、コントラバスが優雅に奏でられ、不穏なエレクトロ・ビートに揺蕩うヴォイスとコーラスのハーモニーに包まれた桃源郷など、全14曲・72分に渡ってユートピアを旅する。「夢の国」 に招かれたアルフレート・クビーンの主人公のように。歌詞ブックレット(12頁)付き。スペシャル・エディション(三面紙ジャケ仕様)には9つ折り特大ポスターを封入。
- 個人的な年間ベスト・アルバム10枚を1年ずつ遡って行く〔rewind〕シリーズです
- 輸入盤のリリース順(国内・流通盤が出ているアルバムには *マークを付けました)
- Joana Queiroz Sexteto、Arto Lindsay、Slowdive、Silvia Perez Cruz、Aldous Harding、Alexandre Andres / Rafael Martini、Deerhoofは再録(一部改稿)です
- 「フアナ・モリーナ、インタヴュー」(ele-king)、「Deerhoof Shares the Story Behind Every Song on Their Protest-Heavy New Album, ‘Mountain Moves’」(Newsweek)を参照しました
- Artist: Juana Molina
- Label: Coast To Coast
- Date: 2017/05/05
- Media: Audio CD
- Songs: Paraguaya / Sin dones / Lentísimo halo / In the lassa / Cosoco / Cálculos y oráculos / Los pies helados / A00 B01 / Cara de espejo / Andó / Estalacticas / Al oeste
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〈モノクロ・セット〉で紹介したアルバムが4枚も年間ベスト10に入ってしまった。Arto Lindsay、Aldous Harding、Waxahatchee、Slowdive、Silvia Perez Cruz、Laurel Halo、Zola Jesusの7枚にJlin、Nina Becker、Charlotte Gainsbourgなどを加えれば、白黒カヴァ・アルバムだけで10枚を選べるかもしれない。Priests、Jesca Hoop、Dirty Projectors、Arca、Lisa Knapp、Jane Weaver、Alvvays、Wolf Alice‥‥なども印象に残った。Adam Ant、Chuck Bery、J. Geils、Gregg Allman、Chester Bennington (Linkin Park)、Glen Campbell、Holger Czukay、Malcolm Young(AC/DC)、Tom Petty、Leon Russell‥‥2017年も多くのミュージシャンが他界した。琴線に触れた音楽にモノクロ・カヴァが多かったというだけのことなのかもしれないが、年末に白黒アルバムを矯めつ眇めつしていると、喪に服しているような気分になって来る。「年間ベスト・アルバム10」は1988年まで遡っているので、30年間で300枚のアルバムを選出したことになる。
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