• わたしは女の子。それも特別な。だって未来が見えちゃうし、宇宙の果てまでメッセージを送ることだってできる。運がよければ、直接あなたの心にも。わたしのふるさとは "バブアブバブ" 星。この星の子はみんな、びっくりするくらいわたしにそっくり。自由気ままの毎日よ。宇宙船の操縦だってお手のもの。まあ、たまには失敗もするけど。ほら、ね。あの星には、お魚がいるといいな。あらら、不時着。何だか変なところ。そうだ、おうちに連絡しなきゃ。「みんな、バブよ。墜落しちゃったの」「あーあ。遊んでないで、ちゃんとお仕事するのよ」どうしたらいいんだろ? とりあえず、お魚探してみようかな。わあ、大きなお魚がいた! あれ、ちょっと待って。違う、男のひとだ。うん、この人となら、楽しくやれそう。いっしょに、お魚見つけてくれるかな? ねえ、お魚は? どこにもいないんだけど。ああ、あれも違う。お魚じゃなくて人間だわ。
    リル・バブ 「永遠の子猫リルバブの不思議な冒険」


  • Science & Magic(Joyful Noise Recordings 2015)Lil BUB
  • 某タワレコで愛くるしい子ネコを見つけた。宇宙空間を思わせる濃紺を背景に、ピラミッドみたいな正三角形の中で大きな黒い瞳のネコたちがピンク色の舌を出している。〈ルイス・ウェインの猫〉にも似ているリル・バブ(Lil BUB)はマイク・ブライデイヴスキー(Mike Bridavsky)の飼っている雌ネコだった。彼女の舌が常に出ているのは遺伝的な疾患(骨障害・骨粗鬆症)のためだという。生まれつき躰は小さくて手足も短い(四肢に親指が2本ずつある)。下顎も小さくて歯も生えていない。世界は障害を持って生まれて来た永遠の子ネコへの愛で溢れている。リル・バブのデビュー・アルバムは「猫ジャケ」で、しかも正真正銘の「ネコード」なのだ。全10曲・30分のエレクトロ・ミュージック。もちろんヴォーカルはマジカル・スペース・キャットのリル・バブちゃん(猫語で鳴いているだけですが)。ライナー・ノーツを書いているのはアンドリュー W.K.(Andrew W.K.)。CD盤面に描かれている「イラスト」も素敵です。

                        *

  • こんにちは、バブです。この星で1番かわいい子猫です。わたしみたいな猫は、世界中どこを探してもいません。他の星からきたんだろうって言われることもあります。わたしのかわいい顔や小さい体を写真や動画で見てもらって、世界中の人に笑顔と希望と元気を届けています。あのね、わたしは生まれたあとからこんなふうになったんじゃありません。自然に起こる、最高に素敵な事故にあっただけ。だから、生まれつき体が大きくなりません。おまけに手足も短いの。体重は2キロくらいです。下あごは小さいし、歯も生えていません。それで、ほとんどいつも、舌がペロンて出たままです。だけどね、不思議がいっぱいつまったこのおっきな緑の目で、宇宙のメッセージを送ったり、あなたの心の奥底までしっかりのぞくことができます。あと、4本の手足全部に、1本ずつ余分に親指がついてます。でもご覧の通り、とってもかわいくておりこうなの。
    リル・バブ 「プロフィール」


  • LIL BUB’S LIL BOOK(学研パブリッシング 2014)マイク・ブライデイヴスキー
  • 「永遠の子猫リルバブの不思議な冒険」はストーリ仕立ての可愛い写真集。バブアブバブ星で自由気儘な毎日を送っていたマジカル・スペース・キャットのリルバブちゃんは宇宙船を操縦して地球に不時着。お魚を探しているところを男の人(マイク)に保護される。ウェブに登場するや否や、彼女は一躍人気者(世界一有名なネコ)になる。テレパシーで本にサインして、あなたの夢の中にお邪魔する。公園デビューして、スケボーに乗る。お魚を食べて入浴し、寝室のベッドに入って夢の国へ‥‥。気球に乗ってピラミッドやストーンヘンジに行く。巨大アリ、レコーディング、ミルクバーのバーテンダーにも挑戦した。今日はグランピー・キャットのスムーシュとピクニックに出かける。スムーシュと逸れて迷子になってしまったリルバブは飼主にテレパシーでメッセージを送り、宇宙船に乗って故郷の星に帰るのだった。写真やイラストが詰まった「リルバブからのプレゼント」、飼主マイク・ブライデイヴスキーの「あとがき」も泣かせる。

  • リルバブは2011年の夏、ぼくの友だちのママ、ローリに助けられた。そのときのバブは野良の子猫で、一緒にいた兄弟の中で一番のチビ。そして実はバブには、生まれながらにいくつもの遺伝子異常があり、五体満足な他の兄弟とはまるで違っていたんだ。だから、ことのほか目をかけてやり、この先ずっと安心して住める場所を確保してやらなきゃならなかった。で、友だちの頭にすぐさま浮かんだのが、すでに4匹の猫を保護していたぼくだったというわけ。友だちからは写真が送られてきたけど、あんなにびっくりしたのははじめてだ。そこに写っていたのは、映画『グレムリン』のギズモそっくりな子猫。しかも、ギズモよりすっとかわいくて、"本物" なんだ。当然ぼくは、この子猫に会いに飛んでいった。子猫は、ぼくが抱きあげると、じっとぼくの目を見て、なんとも言えないかわいい声で鳴いた。対するぼくの返事は、「やあ、バブ(チビちゃん)」。そんなわけで、この子猫の名前はバブになったんだ。
    マイク・ブライデイヴスキー 「あとがき」


  •                     *

  • Lil BUB's Big SHOW(Episode 3 2013)Steve Albini
  • ウェブTV番組「Lil BUB's Big SHOW」はネコ版「徹子の部屋」みたいなトーク・ショー。毎回ゲストを迎えて、リル・バブちゃんとTV越しに愉しい会話を交わす(彼女は鳴いたり喉を鳴らしているだけなのに、猫語から英語に翻訳された字幕が出るので、ゲストとの会話が成立する)。ウーピー・ゴールドバーグ、アンドリュー W.K.、ミシェル・オバマ、ライアン・アダムスなど、多彩なスペシャル・ゲストたちが登場する。「Episode 3」 に出演したゲストはインディ・ロック界の必殺録音請負人・スティーヴ・アルビニ(Steve Albini)だった。「どんな有名なバンドをレコーディングしたことがあるの?」というリル・バブの質問に、「The Pixies、The Breeders、Nirvana、Bush、Jimmy Page & Robert Plant、PJ Harvey」の名前を挙げている。あの気難しげなアルビニが愉しげに笑顔でリル・バブちゃんと会話を交わしているだけではなく、彼女を自分のスタジオに招待しているではないか。リル・バブちゃんはアルビニとマブダチだったのね。

  • Lil Bub & Friendz(Vice Media 2013)
  • 映画「リル・バブと仲間たち」はバブアブバブ星から飛び立って宇宙船を操縦するリル・バブが地球に不時着するという『LIL BUB’S LIL BOOK』(Avery 2013)と同じ設定になっているが、「E.T.」(1982)みたいなSFファンタジーを期待すると裏切られる。ネコたちの日常や飼主たちのインタヴューなどを交えたドキュメンタリー映画なのだから。リル・バブだけでなく、ネット上で一躍有名になったネコたち‥‥ヴァーチャル空間を軽快に走り続けるニャン・キャット(Nyan Cat)、鍵盤を前肢で押さえてメロディを奏でるキーボード・キャット(Keyboard Cat)、不機嫌顔のグランピー・キャット(Grumpy Cat)、二重面相三毛ネコのパッジ(Pudge the Cat)なども登場する。リル・バブとマイク・ブライデイヴスキーはインディアナ州センター・ポイントのネコ科動物救援センター(Exotic Feline Rescue Center)を訪れて寄付をしたり、ミネソタ州ミネアポリスで開催されたキャット・ヴィデオ・フェス(Cat Video Festival)にゲスト参加するのだ。

                        *

    某タワレコ・クリアランスで見つけた愛くるしい子ネコ。猫ジャケ・アルバムは目にしていたが、リル・バブが実在する子猫で、ネット上で人気者になっていたことは寡聞にして知らなかった(今でも日本での知名度は低い)。彼女はネット動画やアルバムだけでなく、写真集を出版して映画にも主演していた。一番驚いたのはTV番組「Lil BUB's Big SHOW」にスティーヴ・アルビニがゲスト出演していること。Shellacのアルバム《Dude Incredible》(Touch & Go 2014)の購入特典として無料配布されるはずだった「Shellac Fanzine」の発行が1年も遅れてしまった原因はアルビニがインタヴューの依頼を黙殺したからだった。プロモーション活動は一切行なわないという信念に基づくものとはいえ、良くも悪くも「気難しい偏屈者」というイメージに染まってしまったアルビニが笑顔でリル・バブと会話を交わしていたのだ。「スティーヴ・アルビニと妻のヘザー・ウインナーがシカゴの貧しい家族にクリスマス・プレゼントを20年近く送り続ける活動をしている」(NME JAPAN 2015)ことも、彼のイメージを一新するエピソードである。

                        *

    • リル・バブちゃんの活動(アルバム・写真集・TV・映画)を1本に纏めてみました



    • 「Lil BUB's Big SHOW」では「Magical Space Feline」と紹介しています^^



    • アルバム《Science & Magic》(Joyful Noise 2015)は転載(一部加筆・改稿)


    • 映画「Lil Bub & Friendz」(Vice Media 2013)はYouTubeで視聴出来ます^^



    • 2019年12月1日、リル・バブ(Lil BUB)ちゃんは亡くなりました(2020-03-27)

                        *





    Lil BUB

    • Species: Felis catus
    • Sex: Female
    • Born: 2011/06/21 Bloomington, Indiana, U.S.
    • Owner: Mike Bridavsky
    • Weight: 3.9 lb (1.8 kg)


    Science & Magic: A Soundtrack To Universe

    • Artist: Lil Bub
    • Label: Joyful Noise Records
    • Date: 2015/12/04
    • Media: Audio CD
    • Songs: Hello Earth / New Gravity / Assimilation / A Friend / Good Job / Another Voyage / Science And Magic / Space Sister / Earth Sister / Rebirth


    LIL BUB’S LIL BOOK

    • 著者:マイク・ブライデイヴスキー(Mike Bridavsky)/ 岩田 佳代子(訳)
    • 出版社:学研パブリッシング
    • 発売日:2014/06/26
    • メディア:単行本
    • 目次:永遠の子猫リルバブの不思議な冒険 / リルバブからのプレゼント / あとがき


    Lil BUB's Big SHOW Episode 3: STEVE ALBINI

    • Starring: Lil Bub
    • Guest: Steve Albini
    • Date: 2013/10/02
    • Media: YouTube


    Lil Bub & Friendz

    • Cast: Lil Bub / Mike Bridavsky / Grumpy Cat / Nyan Cat / Keyboard Cat
    • Production: Vice Media
    • Date: 2019/09/10
    • Media: YouTube