資生堂が発行している月刊誌「花椿」は企業PR誌としては草分け的な存在である。学生時代には2つ折りされて無料(第三種郵便物)で送られて来た記憶があるけれど、定期購読するまでもなく資生堂チェインストアへ行けばタダで貰えたし、最近は書店や輸入CDショップでも売られている(1部 ¥100)。最新ファッションやグラビア、映画、洋楽、文学などの情報やエッセイ‥‥現代詩の公募コンテスト(盗作問題で休止)や、読者モデルの表紙シリーズもあった(1980年10月号(no.364)の表紙を飾ったのは当時大学生だった甲田益也子さん!)。判型もB5からA4へワイド化してPR小冊子というイメージを払拭‥‥隔月連載されていた洋楽コラム「Noise Juice」を愛読していたが、2007年7月号から「みる」「よむ」というユニークな月替わり編集の月刊誌に生まれ変わった。

奇数月の「みる」が従来のカラフルでファッショナブルな「花椿」なら、偶数月の「よむ」は文字通り活字主体の読み物が中心で、2008年4月号(no.694)には「回文、寄り道、回り道物語」(小野田隆雄)という特集エッセイが載っていた。「初夢」に始まり、「七福神の宝船」の絵に書き添えてある回文短歌、土屋耕一氏の名著『軽い機敏な仔猫何匹いるか』(誠文堂新光社 1972)に触れ、女性弦楽器奏者が飼っていた黒猫ジュリアード君に跳び、江戸歌舞伎の中の長ゼリフに出て来る「白魚」に跳ね、回文俳句、土屋回文の引用、自作回(怪)文の披露‥‥という風に着地する。あの『鏡の国のアリス』みたいに、ネコだから大好物の魚ネタなのかどうかは兎も角、洋の東西を問わず「回文」と「黒猫」は相性が良いのかもしれない。「Was it a cat I saw?」という英回文があるくらいなのだから‥‥。

                    *

□ 実戦戻す、吐いた飛行余技。舞う、這う真木よう子、肥大バスト悶絶し‥‥
2008年夏に劇場公開される長編アニメ『スカイ・クロラ』に早くも実写版TVドラマ化の噂が流れている。今のところ詳細は不明で憶測の域を出ないが、主演の草薙水素役に真木よう子の起用が決まっているらしい。先日、真木よう子が同乗した訓練機が都内の飛行場から離陸した。ドラマでは彼女が戦闘機に乗って大空を翔るシーンの撮影はないものの、飛行中の重力負荷や浮游感覚だけでも体験してもらおうという配慮だった。しかし、調子に乗ったパイロットが背面飛行や垂直上昇、キリモミ落下というアクロバット飛行の数々を繰り返したために、気持ち悪くなって吐き気を催してしまった。元々乗り物酔いする質で、排気ガスを撒き散らして走っているクルマやバスを見ただけでも気分が悪くなるのだ。顔面は蒼白で目はグルグル回るし、地上に降りても足腰が立たないフラフラ状態‥‥狭い操縦席の中では巨大バストも邪魔なだけだし、酸欠で胸が苦しい。これでは華麗に空を舞うどころか、文字通りの「空を這う人」(Sky Crawlers)ではないか!

□ ネクラ抱いてパパ、為体(ていたらく)ね
まるで吸血鬼カーミラみたいな赤い髪の女だった。ベッドで女ドラキュラを抱いているような夢‥‥エロティックな淫夢というよりもオカルティックな悪夢に近い。〈ムンク展〉で観た「女たち」の印象が強かったのだろうか。男たちを破滅へ導くファム・ファタルのイメージが脳理に残っていたのかもしれない。19世紀末の女たちが暗闇の中で妖しく蠢く。夢だと分かっていても一向に醒める気配がない。ゴツゴツする骨張った躰だなと思ったら、いつの間にか生身の女がガイコツに変わっていた!‥‥直前まで生きていたような骨の生暖かさが気味悪い。ベッドで魘されているパパを発見したママが呟く──〈為体、孫と寝床、マクラ抱いて‥‥〉。パパの傍らでスヤスヤと寝息を立てて眠っている孫は、一体どんな夢を見ているのでしょうか?

□ 唾液が居間に‥‥換金した新金貨2枚が消えた
第120代将軍、徳川家偽が江戸幕府建立420年を記念して発行した純金の小判。その新金貨2枚が銭形家の居間の金庫から忽然と消えた。よりによって警視総監の自宅で発生した盗難事件に、刑事や鑑識員など捜査班の目の色が違う。残念ながら住人家族以外の怪しい指紋は1つも検出されなかったが、入念な捜査の甲斐あって有力な証拠が採取された。今のテーブルの上に残されていた微量の体液‥‥これが犯人のものならば、DNA鑑定すれば決定的な物証となる。色めき立つ捜査陣。先ほどまでの殺気立った重苦しい緊張感から解放されて現場も活気づく。その時、拍子抜けするような素っ頓狂な声が広い居間に響いた。身内の1人として捜査に加わっていた銭形刑事の悲鳴だった。

□ 確か飴舐めたの、あのダメな目明かしだ
ケータイ刑事銭形泪ちゃんが食い入るように見つめていたのは、Cyber-shot携帯のモニタ画面だった。そこにはチュッパチャップスを舐めている目明かしGのマヌケな馬面が写っていたのだ。「これ(居間のテーブルの上に残されていた謎の液体)はG刑事の涎じゃないですか?」‥‥G刑事は盗難事件発生後、一早く現場に到着して捜査を仕切っていたし、いつもは飴なのに、今朝に限って何故か棒付きキャンディをペロペロ舐めていた。「オレって、事件現場で緊張すると喉がカラカラに渇くだろ。だから捜査中は飴玉を舐めているわけなのよ」と常日頃から吹聴していたではないか。「飴じゃなくて、ノンシュガー・ガムの方が健康にも頭の回転にも良いよ」と忠告していたのに‥‥。座が白け切って脱力感に苛まれているところに、タイミング良く(悪く?)目明かしGが居間に入って来た。

□ 逃げた羽田、大麻所持。不審火で瀕死腐女子蒔いた種、畑に
郊外に建つ木造の家屋が不審火で全焼した。焼跡から婦女子2名が発見された。この家に住む老姉妹らしいが、全身に大火傷を負って意識不明の重体なので予断を許さない。実は、この姉妹は若い頃、アメリカのヒッピー・コミューンで暮らしていたという。その時の名残りで帰国してからも裏の畑で大麻草を密かに育てていたのだ。そのことと、今回の不審火(放火の噂もある)を関連づけた捜査は未だ行なわれていないけれど。老姉妹の住居は最新流行の「腐女子」とやらも絶句する散らかり様、不潔極まりないゴミ屋敷だった。もし全焼していなければ鑑識員が2人が隠し持っていた大麻樹脂(ハシッシュ)を発見出来たかもしれないのに‥‥。もっとも焼け残っていたとしても放火犯が盗み出した後なのかもしれない。まんまと羽田空港から高飛びした真犯人?‥‥たとえハシッシュを所持していたとしても、頼みの麻薬犬の鼻がバカなのだから、どちらにしても捕まることはなかったのだ。

□ 移籍金高騰、今期規制
英プレミア・リーグのマンUがリーグ連覇とCL優勝の2冠に輝いた2007-2008シーズン。ファーガソン監督の相手チームに合わせた戦術や冷静な試合運び、レギュラー陣を固定しない柔軟な選手起用も光っていたけれど、優勝の立役者は両リーグで得点王となったC・ロナウドでしょう。小刻みなボール・タッチから生まれる高速ドリブル、ナックル・ボールのような無回転で縦に落ちるフリー・キック、空中で静止しているように見える正確なヘディング、トリッキーなフェイントや意表を衝くシュート‥‥サッカー・ファン以外の女性にもアピールしそうな若手男優みたいなルックス。カルロス・テヴェスの加入も大きかった。献身的なディフェンス、捨て身のダイヴィング・ヘッド、豪快なミドル・シュート‥‥しかも同僚のルーニーのようにファウルを受けても逆ギレすることがない(外見は彫りの深い武田鉄矢みたいですが)。アトレティコ・マドリードからリバプールへ60億円で移籍したフェルナンド・トーレス君の甘いマスクに心を奪われた女性も少なくないでしょう。

□ 捨て身、命繋がったら「脱・カナヅチ」の意味です
僕が初めて泳ぎを覚えた日。まだ肌寒い6月の昼下がり。実家の庭にある大きな自家用プール。ここまで泳いでおいでとパパが手招きしているけれど、温水プールから立ち昇る「霧」に紛れて良く見渡せない。幼児期の記憶、幻想的な原風景‥‥これは本当に僕の身に起こったことなのだろうか。孤独と恐怖がパパと僕の間の距離を遠くする。どんよりと曇った空は僕の心象風景。「僕は、僕の形をしたロケットに乗っている」(森博嗣)。僕には出来っこないと諦めて、プールの縁に腰掛けてメソメソ泣いていたら、突然誰かに突き落とされた。ママだった!‥‥「パパが甘やかすから、いつまで経ってもK子は内気で臆病な少女のままなんですよ」。青い空の中に墜ちて行く僕、白い雲の中で溺れる僕‥‥○○ヨット・スクールの生徒みたいに?

□「美しい獲物」── その死に西之園萌絵、医師苦痛!
那古野市内で発生している連続女子殺人事件。無惨な姿に変わり果てた若い女性の変死体。その遺体には同一犯の仕業だと確信出来る特徴的な痕跡が認められた。死因は絞殺による窒息死。検死医の司法解剖の場に立ち合うことを許された西之園萌絵は被害者の口腔の中、喉の奥に詰め込まれていた丸めた紙片を広げて文字を読む──「美しい獲物」。シリアル・キラーは森の獲物を狩るハンター気分なのだろうか。これで4人目か‥‥と、検死医が顔を歪める。とてもクルマを運転する気分にはなれなかったので、覆面パトカーで自宅マンションの地下駐車場まで送ってもらう。エレヴェータで最上階へ昇る。重い足どりでチャイムを鳴らしたけれど、諏訪野が応対しない。留守なのかと思ってドアの鍵を開けて入ると、愛犬のトーマが玄関で出迎えてくれた。美しい小鳥の死骸を口に咥えて‥‥。

□ 腹立つ従妹「姉さんさえ、猫と行ったらば?」
あたしは女子大生。4月から都内の大学に通うため、姉のマンションに同居することになった。本当は「姉」ではなく「従姉」なのだが、年齢が近いこともあって少女時代から「姉」と慕って仲良く一緒に遊んでいた。短大を卒業後、弱小出版社に就職した「姉」の唯一の趣味は国内外の旅行。でも1年前、近くの公園でミャーミャー鳴いていた仔猫(ダンボールの中に捨てられていた)を拾ってからは、仕事とネコの世話で忙しく滅多に外泊出来なくなってしまった。ところが、あたしが同居することになって事情は一変したみたい。旅行中のネコの世話を、あたしに頼む算段なのだ。道理で2つ返事で同居話を快諾したはずだわ。こんな腹積りがあったのね!‥‥ネコ嫌いというわけじゃないけれど、ペットの世話なんて真っ平ゴメン。その夜は姉妹ならぬ従姉妹同士の口論になってしまった。口汚い言葉で罵り合う2人‥‥ペタちゃんも肩身が狭い。ボクのことで喧嘩しないでねと言わんばかりに両耳を閉じてしまった。スコティッシュ・フォールド(Scottish Fold)なだけに、産まれた時から耳は折り畳まれているんですが。ゴロニャン。

□ ルドン、焼き鳥とキャンドル
オディロン・ルドンといえば孤高の画家、世紀末の幻視者‥‥謎に包まれた生涯や幻想的なモノクロ版画、花を描いたパステル画で、今も鑑賞者を魅了して止みません。昨年、南仏の片田舎でルドンの作品と思われる珍しい絵画が発見されました。〈鳥と蝋燭〉は油彩の静物画。多くの日本人は串に刺さった「ヤキトリ」をイメージしてしまいますが、ルドンの「焼き鳥」はXmasの食卓を飾る丸焼き。テーブルの上の皿に盛られた照り焼きチキンとロウソクがあるだけのシンプルな小品ながら、キャンドルの淡い光が幻想的な空間を現前させています。青い背景に白い食卓が浮游するような独特の構図と、花瓶に生けられたカラフルな花々を描いてもボッテリと重い質感はルドンの筆ならではのもの。ヨーロッパの美術鑑定家やルドン研究者も99.9%ルドンの作品に間違いないと認めています。

                    *
  • 回文と本文はフィクションです。一部で実名も登場しますが、該当者を故意に誹謗・中傷するものではありません。純粋な「言葉遊び」として愉しんで下さい



  • 「奇抜な花椿」と「奇妙な花嫁」の字面は似ているかも?



  • 「週刊真木よう子」(TX)の「おんな仁侠筋子肌」に大爆笑しちゃいました^^




 スニンクスなぞなぞ回文 #12


 妊娠経過に◯△▢◇☆◎ゆ◎☆▢◇△◯2回健診に‥‥


 回文作成:sknys


 ヒント:高齢出産、未婚の母?



                    *




花 椿 APR.08(No.694)

  • 特集:回文、寄り道、回り道物語
  • 出版社:資生堂
  • 発売日:2008/03/05
  • メディア:雑誌